◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2011/04/06 http://dndi.jp/

3・11東日本大地震、1ケ月の検証

 ・不安が増幅された初動時の"魔の3日間"
 ・爆発前より爆発後に激減した放射線量のなぜ?
 ・東電副社長版「人間だもの」
 ・「安全なのよ、といっても海が汚れるでしょう」
 ・≪私の3・11、ドキュメントその1≫
 ・福島第1原発、主な事故及び対応状況一覧(随時更新) 
  http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm110406-s.html
〜連載&コラム〜
 ・黒川清氏:「TED- 3: Virtual Choirと詩人のことば」
 ・石黒憲彦氏:第163回「震災で改めてわかったこと」
 ・橋本正洋氏:第41回「夜警国家その3 −夜警達の復興計画:緊急編」
 ・渡部俊也氏:第7回「新興国の知財戦略(東日本大震災後の番外編)」
 ・比嘉照夫氏:第40回 「EM技術による放射能被曝対策」
 ・北澤仁氏より長編小説「つなみ」のサマリー紹介

DNDメディア局の出口です。あれから1ケ月近くになります。それが、怖くて辛い、そしてとても長い時間のように感じられます。ジャーナリストとして今回の忌まわしい3・11東日本大地震の検証に手をつけるのは、時期尚早でしょうか。NHKのラジオを聴いていたら、被災した方々へのアンケートでいま一番不安に感じているのが、事やお金のことじゃなく5割を超える方々が放射能汚染を上げていた。それなら、まずその不安を取り除くために専心せねばならない。それが政治の仕事です。


 政府筋から出される見解の「安心情報」とは裏腹に、事態は悪化し被害が拡大の一途をたどって不安が広がっていったように思えます。なぜ、なのだろうか。ひと言、その結論からいえば、初動段階での決定的な失態、その予見の甘さを指摘したい。安心です、といって事態が急変する。それでもまだ心配ない冷静に受け止めていただけたら、と言った数時間後に再び爆発するといった混乱が続いたら、もはや政府の「安心情報」は誰も信じません。不安を取り除くどころか、逆に、政府は、東電は、何か事実を隠しているのではないか、という不信感が次第に増幅されていった、と見る。ダメージコントロールの観点からすれば、最悪の事態を招いてしまったことになります。


 例えば、福島第1原発で12日午後3時36分、1号機で水素爆発が発生した。憶えていますか。菅首相がこの朝、福島原発に視察に向かった。そして原発から半径10キロ以内の住民の圏外への避難を指示、緊急対策本部などがあわただしく開催されていました。


 この爆発で枝野官房長官は、「原子炉の安全を保つ格納容器は損傷していない」と言い切った。あたかもその爆発を予見していたかのような口ぶりでした。つまり想定内だと。別表に示した「福島第一原子力発電所の事故及び対応状況」の詳細なデータを読み取ると、その前日深夜から格納容器内での圧力が異常な状態になっていた。原子炉内の水位が下がり、冷却が不十分で燃料の温度が急上昇していた可能性がある。そのため、午前10時17分、ベントと呼ばれる格納容器内の圧力を抜く作業に着手する。それによって圧力は下がるが、燃料棒を覆う高い温度の被覆管の合金が酸化し、水素が発生して爆発するということはあらかじめ想定されていた。ベントから5時間後、冷却水の注入時間は確認していないが、爆発は人為的なオペレーションの下で実行された可能性が見て取れます。この官邸の時系列の表には記述されていないが、ベントは爆発直前の午後2時にも実施された形跡がある。


 原子炉という巨大なエネルギーの怪物の恐ろしさを知らずに制御という名の下で爆発を誘発したりさせたりと、そのちょっとした研究者の不遜な態度が、きっと怪物の逆鱗に触れたのではないか、と時々思う。科学者、研究者の驕りは自らが戒めないとなりませんね。


 そこであらかじめ、爆発の時間が予測されていれば、そんなに驚くことはない。枝野官房長官は「仮に爆発が生じた場合でも原子炉本体、圧力容器については問題が生じない。新たな対応をする必要はない。冷静に受け止めていただけたらと思う」と説明したのは、そういう背景が見て取れる。


 ただここで不自然なのが、放射線量のモニタリングの数値に関する変化です。1号機が水素爆発する7分前の午後3時29分、放射線量は1015マイクロシーベルト、つまり1.015ミリシーベルトでした。この時、マイクロシーベルトなんて初めて耳にした方も多いのではないか。だから、この数値がどの程度のものか判断がつきかねるのです。1.015ミリシーベルトと聞いて驚きますか。つい先日、4号機建屋で基準値の1000万倍と10万倍を間違えた発表がありましたが、その時の説明によると、作業員が携帯した計測器の針が振り切れました。振り切れた数値は1000ミリシーベルト以上でした。それが2000か3000かはわからない。が、ともかく高濃度の危険な数値だったことは間違いない。今から考えると、1.015ミリシーベルトの数値は、少しも驚くように思えないでしょう。


 不自然と言ったのは、1号機の建屋を吹っ飛ばす爆発直後の午後3時40分、放射線量の数値は0.860ミリシーベルト、そして午後6時58分には0.0705ミリシーベルト、マイクロ値で70.50マイクロシーベルトに減少した。ふ〜む、この数値は確かなのだろうか。爆発前より爆発後の方が、放射線量が激減するとは、いったい何を意味しているのだろう。


 その夜、記者会見に臨んだ枝野官房長官は、その放射線量の1015マイクロシーベルトの数値は、胃のX線検査3回分程度のものと語り、現在は70.5マイクロシーベルト下がった。モニタリングポストにも変化がみられない、と平静でした。きっと、水素爆発があってもそれは無事に制御されているから、心配いらないのだ、と枝野さんは誰かに刷り込まれてしまったかもしれない。故意に爆発させてそれで数値が激減するのだから、これはコントロールの妙手、危機管理の王道と勘違いしてもおかしくない。


 新聞報道によると、そのちょうど爆発が起きた当時、菅首相は官邸で野党7党の党首らとの会談中で、首相は原子炉内の状況について、「大丈夫だ。(冷却水の)水位は上がっている」と説明し、爆発には触れなかった。


 知人の大学関係者は、政府や東電の会見内容について「ウソではないけれど、十分間違って解釈され得る」表現をしている、と指摘する。例えば「1015マイクロシーベルトは胃のX線検査3回分」、これは毎時ですから、この線量を1日あびると72回胃の検査をする。確信犯なのか無知なのか分かりませんが、こういう表現は「私はこれは犯罪に近い」と愕然とした、と訴えています。


 ここの誤謬というか、この初動の認識の甘さが、あとあと大きな混乱を招いてしまう。東電寄りの専門家らにテレビなどで「安全」を吹聴させてしまった。「安心情報」を伝える側とそれを「不安情報」ととらえる側を隔てる溝が日増しに大きくなっていった。すると、3号機が水素爆発し、2号機では圧力制御室が吹っ飛んだ。それでもまだモニタリングポストの数値がそれほどでもないことを会見で繰り返し口にし、原子炉への海水の注入で燃料棒を冷却する水位は上昇するもの、と伝えていた。専門家といわれる多くの学者の見通しが狂ったのか、狂わされたのか、いずれにしても葉物野菜の汚染に始まって、豚、水道水、海水汚染、その間、プルトニウムが土壌から検出されて不安が一気に増幅されていった。


 あの時の消防庁や自衛隊らによる大量の海水の注入は、その後、高濃度の放射能を含んだ汚染水となって建屋内や地下に溜まり、じわじわ漏れ出るという危険性を予見できなかった。格納容器付近に大量の海水を放水しても燃料棒の冷却水の水位が上昇しない。が、今考えると、圧力制御室周辺の配管にひびが入り、一部損傷しているからそこからどんどん敷地内へ、地下へと汚染水が漏れ続けていたことになる。だれでも変だなあ、と思うでしょう。


 この呑気な危機管理の甘さが、12日、13日、14日と続き、15日の2号機の圧力抑制室の爆発で騒然となってしまう。


 14日午前11時の3号機の爆発はその前に3回のベントを実施していた。だから爆発は想定内のことだろうと、思う。しかし、2号機に関してはちょっと様子が違う。15日午前3時、格納容器圧力が設計圧力を超えたことから、減圧操作及び注水操作を試みるが、減圧しきれずに3時間後、午前6時10分に圧力制御室が吹っ飛んだ。その後は、4号機が火災で煙を上げ3号機も白煙、と爆発の連鎖が心配された。テレビの前で固唾をのんで見守る多くの国民が、どうせこんなことだろうと自分たちの直感が、専門家の科学的予見より正しかったことに複雑な思いを巡らせていたのではないか、と思う。


 が、初動の12日、13日、14日の失態、これを仮に"魔の3日間"と呼ぶとすれば、菅さんもやっと事の異常に気付いたのか、15日午前5時半、東電本社に乗り込んで東電幹部に罵声を浴びせました。東電の「隠ぺい体質」は今始まったことではない。それを見抜けなかった。残念ながらピエロにさせられた格好の枝野官房長官に、現場の情報がどう伝わったのか、起こる事象についてアドバイスした専門家がなぜ、見誤ったか、と"犯人探し"しても意味がないが、その誤謬の検証はきちっとされるべきです。枝野さんにこの危機の先を見通す眼力がなかったのではなく、側近の人間力の問題だろう思うし、やはり最前線の現場の声を直に聞く、見る、知る、その現場感覚の欠如に尽きるのです。


 NHKを見ていれば、東電の会見の裏に見え隠れする、怪しさやごまかしが透けて見えていました。


 例えば、27日午後、2号機のタービン建屋の水たまりから運転中の原子炉の水の1000万倍のという極めて高い濃度の放射線物質が検出された、というニュースが流れました。これは、2号機の爆発にも関係するのだが、格納容器につながる圧力抑制室(サプレッションプール)が吹っ飛び、その圧力抑制室の下部が損壊したために高濃度の汚染水が漏れ出た。その後の地下に漏れて海に流れ出た可能性が濃厚だ。


 さて、ご記憶にあるに違いありません、この1000万倍が実は10万倍ということで訂正されました。発表から9時間たっていました。1立方センチ当たり29億ベクレルという通常運転中の原子炉内の水の1000万倍って、イメージできますか。1000万倍と聞いて、えっ!声を上げる人がいなかったのだろうか。知らないのに知ったかぶりするから、知らないことを聞くと恥ずかしいと思うのだろうか。素人の私は、即座にfacebookに書き込んで騒いでいた。1000万倍の数値を計測するという場面を想像しても仮にデジタルだったら、ちゃんと表示可能なのだろうかと思ってしまう。さて、ここで話を最初に戻すと、1015マイクロシーベルト、70.50マイクロシーベルトの単位に間違いはなかったのだろうか。爆発の後、数値が異常に低下した理由は、説明できるのだろうか、と思うのです。


 翌28日の深夜、東電の武藤栄副社長が記者会見で、なぜ数値を間違えたかの釈明に臨んでいました。足を大股開きにした仏頂面が週刊誌に載っていた。それは別として、彼はなんと言ったか。会見を録画して何度聞いても意味が分からないのです。こういうのをはぐらかし、といいます。言葉がきついが数字を間違うことの反省の弁として受け入れられないとんでもない内容だからあえて糾弾するのです。多くの国民は、いまその数字が信じられないのです。それが不安の大きな原因とは、武藤さんらは考えられないのです。


「どうしても同じようなガンマ線を出す核種が混ざりますと、それをどう分別するかというところは、人間が判断していかなければならないわけで、で、そこで今回のような誤りを生じたというわけでございます」


 これが1000万倍を間違えた理由というのです。つまり、人間が判断するところは誤りが生じる、という説明です。人間がやるのだから間違いはある、という開き直りに聞こえます。


 近所の居酒屋のおやじさんの方が、よっぽど「こりゃ、あぶねぇぞー」なんて直感でものを言うのだが、それがズバリ当たる。あの自衛隊のヘリで空中から散水した時なんか、「おいおい山火事じゃないんだから。そんなんじゃ水は、入らねぇぞ」と、テレビに向かって文句をたれていた。こっちの方がよっぽどまともにみえてくるのです。


◆           ◆         ◆


▽「安全なのよ、といっても海が汚れるでしょう」


 戸外は、冬から春へ。被災地への温かい援助の輪が国内外で大きく広がっています。前回の「東日本大地震:東北の人、憂いの中の優しさ」のメルマガには、かつてない多くの反響がありユーザーからのアクセスが通常の8倍強に上りました。が、生活は、慣れた日常から不都合な非日常へ。夜は暗い。花見も観劇も、お祭りも、どこも自粛ムード一色です。で街は、行楽地は、沈痛なムードが漂っています。どうか、自粛を解いてくださいなあ。


 さて、ほんの低レベルというから、それでも遠慮気味に「安全なのよ、と言っても海が汚れるでしょう」と、facebookでつぶやいたら、ひと晩のうちに多くの人から賛同する声が相次いだ。尊敬する北澤仁さんからやんわり、あんまり熱くならないでとご忠告を受けた。が、いまだにカッカし血圧が上がりっぱなし。


 4日夜のNHKニュースでした。これをラジオで知りなんとも嫌な感じがして、すぐに腹が立っていた。


≪東電は、福島第1原発の事故で、敷地内にたまった高濃度の放射性物質に汚染された水の貯蔵先を確保するため、低いレベルの放射性物質に汚染された水、あわせて1万5000トンを海に放出する。東電によると、放出される水に含まれる放射性物質の濃度は、法律で定める限度の約100倍に当たるが、付近の魚などを毎日食べ続けた場合、1年間に受ける放射線量は0.6ミリシーベルトで、一般の人が1年間に浴びても差し支えないとされる1ミリシーベルトを下回るとしています≫。


 法律で定める暫定基準値の100倍でも大丈夫だよと。じゃ、法律で定める意味ないじゃん。一般企業なら、事件で即刻立ち入り調査を受けるでしょう。もっと慎重であるべきです。地下水、畑、土壌、水道水、そして今度は、海かね。それぞれが基準値を越えたら、どうなる? facebook(以下:fa)に書き込みながら、頭を抱えてしまった。どうしてこんなことをやるんだろうと。


 NHKは再び、夜9時から汚染水の海への放出を始めた、とニュースで伝えていた。「ほんとうに、やるんだ」、と知ってため息がでた。


 重大な危機回避のためのやむを得ぬ措置らしいが、誰が判断しその結果責任は誰が取るのだろうか。東電が判断し、原子力安全保安院が了承した、と。会見の席で、東電の職員が悔し涙を流していた。 1万トン以上の汚染水の海への流出は、今夜限りなのだろうか。やがて太平洋の遠くへ沈んで薄まって消える、と学者が口にしていた。なんて無責任な発想ではないか。いろんな疑問がわいて複雑な気分にさせられていた。


 我が国の原発は、海を敵にしちゃいました。海洋国家ニッポンは、世界で初めて、否、人類史上初めて青い惑星に放射性物質を流し込んだ。それも大量にしかも継続的に、そして意図的に。


 これは、たいへんですぞ。すると、faの知人が、「広島、長崎は被害者だった。が、今回は加害者だ」と、問題の本質を鋭く突いていた。


 この指摘は、私の胸にズンときた。被爆国として戦後、平和の旗印とした反核の矜恃に泥をぬった格好と思った。今回の東日本大地震で、私たちは何を学んだのでしょうか。海に、放射性物質で汚れた水を大量に流したら、その海に津波で流された多くの命の形見が眠るという想像ができないのだろうか。私たちは何を優先させるべきか、この大地震で学んだはずではなかったか。海外から懸念が広がってきました。


 先月の31日には、どこから流れ込んだか判然としないが、原子炉周辺の建屋や地下、それに坑道付近に溜まった汚染水が溢れ、海に流出する危険性があるためそれを阻止するよう土嚢を積んだと。土嚢ですよ、土嚢。その後、どっかで新聞紙やおがくず、それにバスクリンというのも投入された。なんだか原子炉を封じ込めるというのに、生活感がにじむ。


 今月2日、今度は2号機の取水口付近のピットと呼ぶ作業用の穴の亀裂から高濃度の汚染水が海に流れていることが判明した。内部では1000ミリシーベルト以上の高濃度、いつから流れ込んだか、その言及がない。ここの汚染水の海水への流出が、なかなか止まらない。そして、今日4日は便宜的に汚染水を海水に流し込むという判断をした。低レベルだといってね。本日やっと応急措置で止まった。が、ほかに流れている可能性は否定されない。


 これも安心を担保するために東電が釈明に懸命になる。この放出の影響の試算として、1キロ以遠の魚や海藻を毎日食べても年間に自然界から受ける放射線量(2.4ミリシーベルト)の4分の1程度という。こんな数字をもっともらしく説明すればするほどまた、不信感が増幅するのです。


 5日夜のニュースは、なんと昨日の続報でした。東電は2号機の取水口付近の海に流れ続けている水から、国の基準の1億倍の高濃度のヨウ素131が検出されたと発表した。残念ながら、その見出しに「1億倍の放射性物質」という桁違いの数字が躍りだすのです。これって、海に垂れ流すしか方法がないと意図した"悪のシナリオ"に見えてしまう自分が情けない。


 「どんどん海への汚染がひどくなる。低レベルだったのに、1億倍というのをどうとらえればよいのか。やっぱり海に垂れ流すのは、即刻やめるべきです」と、この驚きをfacebookに書き込むと、facebookなどソーシャルメディアの伝道師と敬われる坂田誠さんが、「これ風説流布の法則から言うと、『日本は1億倍に汚染された水を、自ら大量に流して、生き物の住めない死の海になっている』とかになって、海外で風評被害が拡大の悪寒…」とフォローした。


 それに笹倉由貴さんが「一億倍は出所不明の漏れ水の方で、故意のではないと思います。いずれにしてもダメですが」と続くと、坂田さんが再び「笹倉さん、低レベルの汚染水の放出と、高濃度の漏れ水がごっちゃになって、センセーショナルな噂で海外に流布される事になるのではないか、という心配です。海外でこういったデマが広がると、国内以上に止める手立てがなく、深刻…」と懸念を口にされていました。実際、その通りになっていった。


 ◆        ◆      ◆


≪私の3・11、東日本大地震ドキュメントその1≫


 これはfacebookに書き込んだ私のドキュメントです。その時、何を考え、書き、どう動いたか―を綴ります。まず、その瞬間から。


 3・11:14時47分 『緊急地震速報あり、』。
 DNDの秘密基地で参院の国会中継をラジオで聴いていた。すると、緊急地震速報の警報音が、不気味に響いた。その時、手元のfaに書き込んだのが、『緊急地震速報あり、』でした。サーバーのゲージを右手で抑え、左手で書棚を抑えて足を踏ん張っていた。激しい横揺れで机の上の本や置物が吹っ飛んだ。CDラジカセを支えた清志君が、もう外へでよう、危ないよ、と叫ぶ声ではっとし、清志君がラジカセの手を放した瞬間、ラジカセが床に落ちた。揺れがはんぱじゃない。ビルは最上階の7階、途中、ビルに入る会社の女性従業員が悲鳴を上げて階下を急いでいた。外に出たら、多くの人が路上で青ざめていた。電線がまだ揺れている。


 30分前後、外にいたら揺れがおさまったかのように見えたので、ビルに戻り、いつものように1階のエレベーターボタンを押したら、ドアが開いた。迷うことなく7階のボタンを押した。エレベーターは、途中、ガタガタ揺れた。6階に差し掛かったあたりで、エレベータがキューという圧力が抜けるような音の後にガーン、ガン、ガーンと鈍い金属音が響いた途端、ゴーンゴーンと左右に短く揺れながら50センチぐらい落ちた。ガン、また落ちた。ガンガン、あっ!また落ちながら5階と4階の真ん中で止まった。が、余震が襲う。


 落ち着いて手前のドアを二人で左右に引いたら開いた。が、足を入れて閉まらないように踏ん張らないといけない。その先の鉄の扉は、わずか7〜8センチしか開かない。が、5階の社員さんがオフィスに戻ってくるのが見えたので、声をかけて助けを呼んだ。


 管理人さんが飛んできた。また戻り、走ってまたドアの前にきた。手にバールを持って鉄のドアに挟んで開こうとした。が、びくともしない。非常用のボタンを押したがウンともスンともいわない。エレベーターの管理会社か、119番に電話をしてもらった。が、電話が通じないことが判った。これは長くなるぞ、と覚悟を決めた。が余震で揺れる。このまま1階までまっさかさまに落下しないだろうか、という恐怖が襲う。わずかな鉄のドアの隙間から、女性の従業員が毛布や、マフラー、ひざ掛け、それに栄養剤や水、ビスケットなどを差しいれてくれた。7階のオフィスからラジオを持ってきてもらった。携帯は通じない。ラジオは東北の被害状況を断片的に伝えていた。


 1時間半たったころ、管理人さんが119番とエレベーターの管理会社に連絡がついたと朗報を伝えてくれた。その30分後、エレベーターの管理会社の従業員2人が狭い隙間から、大丈夫ですか、と聞く。まもなく7階のドアを開けたらしく頭の上からエレベーターを手動で引き上げる雰囲気だ。井戸から水を汲みようにグイグイグイって引き上げられて7階で無事、脱出できた。5階のお嬢さんらに御礼に行ったら、個室の休憩所で10数人がテーブルを囲んでざわめいていた。お礼を述べると、同情された。


 部屋に戻って、あぜんとした。部屋は散乱していた。僕のパソコンが倒れて心配だ。まず、サーバーを止め、必要なものだけを手にもって外にでた。


浅草へ清志君と歩いて急ぐ。
 18時13分:≪帰宅難民ですね。とりあえず、歩いて帰る方向です。ビル、地下鉄はどうなっているのか、岩手、宮城、福島、青森の海岸線、大津波が甚大らしい。街に人があふれています。交通機関の情報がない。docomoや電話が脆弱です≫


18時28分:≪街は花火大会みたいな人の波です。道は大渋滞、これが都会のパニック状況ですか。≫


18時59分:≪臨時バスを。都営バス、京急バス、はとバスなどを臨時に出して欲しい。都心に人があふれています。バスの臨時便を。関東近県から毎日400万人近い人が通ってる。浅草から南千住車庫までバスに乗る。ぎゅうぎゅうです。JRのシャッターは閉じたままだ。≫


19時59分: ≪秘密基地から浅草まて歩いて30分、浅草から5分待ちのバスで南千住車庫へ。そこからJR南千住駅の前のデニーズに避難した。いま客におにぎりの無料配給、女の子らがうれしい、涙でそう、と喜んでいます≫。


21時14分:≪JR南千住駅前のタクシー乗り場に200人待ち。先頭の客は、5時間も待ってます。寒さでふるえてます。聞くと、1時間に1台しかこないという。客は、どんどん増えてます。助けてください≫。


21時50分:≪あったかい缶コーヒーを配るDNDの清志くんら。若いのに偉いなあ。あったかいの?おーと、ありがとうの声、声、声≫。


 清志君が、外のタクシー待ちの人たちにコンビニからあったかい缶コーヒーを自腹で買って配ろうとした。すると、コンビニの若い青年が、お金を取らなかった。そして一緒にタクシー待ちの寒さで震える方々に配ってくれていた。


 ≪デニーズに入ったのが救い。24時間営業、お代わり自由のコーヒー、店の人は懸命です。iphoneの電源コードを持参していたのが、奏功しました≫


01時30分:≪やっと家内が到着、6時間も。同じ方向の人を乗せて帰路に。ふうっと、とりあえずひと安心です。≫


03時30分:≪ご心配おかけしました。無事、帰宅しました。東日本橋のDNDオフィスをでてから10時間の帰還でした。家の周辺を点検した。庭の鉢、メダカの水槽…まあ、明日にしましょう。それにしても東北地方の被害状況には、言葉を失ってしまいました。これまで数々の励ましや情報をくださり誠に感謝にたえません。facebookのネットワーク力を強く感じました。被害に遭われた方々のご無事をいのらざるを得ません。きっと今日は眠れないかもしれません≫。


04時02分:≪異常事態です。緊張地震速報が頻発、服を着たまま布団に。何度も外に避難し、疲れました。地震は、南下して西に動いているみたい≫


12日10時:≪M8.8の脅威、東日本大地震一夜明けて巨大地震の被害状況が明らかになってきました。観測史上、わが国最大の地震という。新聞が、遅れて届く。大波、濁流、爆発、炎上、崩壊、混乱の悲痛な活字ばかり。そして恐れていた原発の異常事態…あゝ、言葉を失う。南相馬の知人の屋敷、会社事務所が津波に流された、と。あっ、また余震が。皆様、気をつけてくださいませ。≫


11時22分:≪今回はfacebookでつながっていることの有難さをしみじみと。いやあ、しかし、ですね≫


14時:≪朝日、原発想定外の事態と。福島原発が緊急事態とニュースに緊迫感がにじみはじめてきました。燃料棒溶解か、メルトダウンの恐怖は、最初小さな事故からポツポツ起きたかと思うと、それが一気に拡散していく。爆発の危険はあるのだろうか。あちこちから風評がたつのもこの手の不気味なこと。不安を煽るわけじゃないが…。≫


続く:



〜連載〜
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