第9回 片瀬さん、これはちょっとやりすぎじゃない?
・投稿の『Synodos』に「重大な虚偽」浮かぶ
・「大沼のEM投入、効果頭打ち」は事実無根
・函館新聞の報道部長らが証言
自称、ライター、片瀬久美子(ペンネーム)について、彼女はフリーライターを名乗るのだけれど、基本的な取材の訓練を受けていないせいか、詭弁を多用する癖があるようだ、と前回、具体的に指摘したら、DNDメルマガの読者から、「彼女は、詭弁どころか、問題のすり替えの達人で、例えば、北海道の函館の大沼で、『大沼@函館EM菌投入中』というデマをネットで拡散しています。お調べください」との情報が寄せられた。
その情報を裏付けるいくつかの事実が判明した。
DND編集長、ジャーナリスト、出口俊一
◇偏見に満ちた”作文“
彼女の記事は、Webマガジン「Synodos」(シノドス)の10月5日付に掲載されていた。「自然水系へのEM投入から『環境教育』を考える」というもので、水質浄化に「EMは効果がない」という実例として北海道函館市近郊の大沼でのEM菌の投入を指摘しているのだ。さて、片瀬の書いた「EM菌の投入」が、まったくの事実無根だったとしたら、どうだろうか。確かに、詭弁どころか、「でっち上げ」、「ねつ造」となる。その疑いが出てきたのだ。
(参考、シノドスの記事、http://synodos.jp/science/15275)
記事は、おおよそ推測と偏見にみちた一方的な“作文”で、そりゃ汚れた川を戻すのはそう簡単でもないのに、「新たな微生物(EM)を入れてもその状況が“簡単に変わる”とは思えない」とか、汚れてもいいなんて誰も考えていないのに、「EMさえあれば、自然環境が“汚れても挽回できる”という短絡思考」などと詭弁を弄する。
それに青森の中学元校長が、年度いっぱいでEMの活用を切り替えた理由は、朝日青森版の記事で「EM菌の効果疑問」、「科学的効果疑問のEM菌」と否定的に報道されたためだ。それを彼女は「効果の検証が不確かであるということがポイントになった」とすり替えていた。彼女が取材した、とあるのは、朝日の青森支局員、長野剛氏に付き添って行ったことを言うのだろうけれど、その席で長野氏は、校長が取材の仕方にやんわりクレームをつけたら、「(記事を)読んだのか、頭、悪いのじゃないか」と、端末を突き出して罵倒した。
シノドスに話を戻そう。また、片瀬は「EMについて肯定的な見解を出しているものは私が調べた範囲ではみつかりません」と否定している。公的機関でEMを評価する試験データや見解は山ほどある。彼女は、その事実を無視するのだ。この手の専門的な記事を書くのなら、EM研究機構に問い合わせるか、もっと確かな取材をしないといけない。「私が調べた範囲では、肯定的な見解は見つかりません」と断じるのは、ご自身の技量の稚拙さを暴露しているようなものだ。
結論は、取材しないで琉球大学名誉教授、比嘉照夫氏の「談話」を載せた朝日新聞青森版の記事を引き合いに出して、EMは「効果がないばかりか逆に害を及ぼしてしまう可能性がある」と批判する。朝日新聞が、この記事に対して長野氏の取材姿勢が間違っていた、と文書で謝罪するのなら、潔く紙面で訂正をすべきだ。そうしないから、片瀬がやるようにいたずらに何度も引用され、風評被害の拡散をもたらすのだ。
◇唯一のFactが根底からゆらぐ
さて、片瀬がシノドスに投稿した記事のなかで、いわゆるFactに関する部分は1ケ所、本文2枚目の、彼女が「実例として」と指摘しているところだ。その信ぴょう性がぐらついている。
「実例として、北海道の函館近郊にある大沼の水質改善に取り組んでいる市民団体が試験沼でEM投入の効果を試しましたが、EMを投入し続けても水質の指標は途中から頭打ちとなり期待したほどの効果は出ませんでした。取材に応じていた頂いた代表者によると、この団体はEMを直接大沼に投入するのは断念し、2011年からは別の対策方法の検討に切り替えています。(函館新聞による関係記事)(注2)函館新聞:大沼の水質浄化『小さな泡有効』」
実例として、片瀬が、指摘している内容について、確認のため裏取材を行った。それほど、難しい取材ではなかった。
「EM菌を大沼に投入したが効果がなく頭打ち」と決めつけられた市民団体とは、「大沼水質浄化研究会」で、榊さんは、片瀬が書いた記事のことをまったく知らなかった。取材された記憶すらなかった。これはいったいどういうことなのだろうか。
事実を確かめるために、函館に飛んだ。榊さんのオフィスで面談した。片瀬の記事をお見せしながら、記事を読み上げた。榊さんは、表情を曇らせながら、その都度、コメントした。
・片瀬の記事
「実例として北海道の函館にある大沼の水質改善に取り組んでいる市民団体が試験沼でEM投入の効果を試しましたが…」
・榊さん
「そんなこと、まったく、ないのにねえ」
・片瀬の記事
「EMを投入し続けても水質の指標は途中から頭打ちとなり、期待したほどの効果は出ませんでした。」
・榊さん
「嘘だねえ。重大な虚偽ですよ。(EM投入は大沼にも試験沼にも)やってないのにねえ。」
・片瀬の記事
「取材に応じていただいた代表者によると…」
・榊さん
「これが、私のことだね、」
・片瀬の記事
「取材に応じていた頂いた代表者によると、この団体はEMを直接大沼に投入するのは断念し、2011年からは別の対策方法の検討に切り替えています。(函館新聞による関係記事)
・榊さん
「言ってないしやってないからね。まったくやってないのに、よくこういうこと書けるね。私が、答えているようだけれど、やっていないのだから、断念した、だなんてデタラメですよ。」
・出口
「これは嘘ですか?」
・榊さん
「いやあ、とんでもない嘘です。でっち上げというのでしょう。数年前に、突然、電話がかかってきてね、確か大学教授とか、言っていた。EMは興味もあるし好きだから、いろいろ取り組んでいる人達に話を聞きたいと。こうやって近づいてきたのはいいんだけど、まあ初めてだから片瀬さんという人のことは、私はわからないけど、そんな詳しい話はしていない。ただやっぱりあれでしょうね。大沼で、ナノバブル水のテストもしたので、それをうまくそこに結びつけたのかねえ」
「とんでもないねぇ、やってないことをあたかもやって、それがうまく行かなかったから取りやめたみたいなね。まあ、これからやろうとしているのに。EMのこといついては私より、副代表の沖田さんが詳しいので、車で沖田さんのところに連れていった」
◇高齢者を貶めるネットの罠
こういうEM批判の情報やツイッターなどをつぶさに検証していくと、EM潰しというか、黒い罠の一端が透けてみえてくる。榊さんは75歳、高齢者がネットに疎いというのをいいことに、どうせわからないだろう、とネットの裏で、こんな人を貶めるような謀略に走るのだ。ネットならなんでも許されるというこの風潮は厳しく糺さなければならない。あまりに狡猾というか、やることがえげつない。
片瀬は、朝日の元支局員、長野氏とはEM批判グループの“仲間“の一人だが、そのやり方は長野氏の取材姿勢とよく似ている。責任メディアの朝日がちゃんとやらないから、取材の心得のないにわかライターが、こんなふうに朝日のまねをする。
◇函館新聞、山崎報道部長の証言
片瀬は、2011年10月18日付の「函館新聞」を記事の根拠として引用している。函館新聞には、「水質改善に効果があるとされているEM菌の活用」とあるが「大沼に投入した」とは1行も書かれていないのである。つまり、榊さんの研究会が、大沼での水質浄化の実験に酸素の微少気泡、マイクロナノバブルを投入して微生物の活性化をはかる実験に成功した-という報道を曲解して、「この団体はEMを大沼に投入するのは断念、別の対策に切り替えた」と、でっち上げたことが明らかになった。こんな世の中を惑わすようなお粗末な記事を書き飛ばす彼女は、もはやサイエンスライターを名乗る理由どころか、ペンを握る資格すらない。
函館新聞の山崎純一報道部長に、この記事の真意について聞いた。
「確かに、記事では水質改善に効果があるとされるEM菌、という記述がみられますが、よく読むと、大沼に、あるいは大沼の実験沼にEMを投入したということは何も触れていません。実際、研究会の会長、榊さんとも面識がありますが、大沼にEMを投入して浄化活動をすれば必ず取材をすることになります。これまでそういう事実はないです。EMを大沼に投入したというのは、何かの間違いではないでしょうか」と証言する。
山崎部長は、水質浄化に関わるEM投入の取材について、「それはいまから7-8年前、函館市の了承の下で五稜郭のお堀の水質の浄化をEMで試したことがありました。私自身、EMの効果は確認済みです」と語った。
◇もうひとりの証言、“取材”は3年前、「EM菌が好きで…」。
片瀬は、「EMの効果が頭打ちで断念した」という根拠について、「取材に応じていただいた」と自ら会長の榊さんに取材した結果だと書いている。が、榊さんは、ひとこともそんなことは話していない。この「談話」も朝日記事と同じで、ねつ造された疑いが濃厚だ。
片瀬氏がいう“取材”当時ことをよく憶えている人がいる。同研究会の副代表の沖田豊さんだ。沖田さんによると、それは2012年9月4日の午後のことだった。手帳のメモをみながら回想した。
「会長の榊さんから、EMの説明をして欲しいという女性の大学教授がいるので、これから事務所にお連れします、と電話があった。午後3時ごろにお二人が見えて、名刺交換した時、私は、すぐに『あの時の女だ』と気付き、やや警戒しながら対応しました。EMについて1時間半ぐらい話したと思います。大沼でのEM投入は話題になっていません、そもそも投入していないのですから」と。
片瀬は、大学教授を名乗っていた。榊さん、沖田さんもそう聞いていた。この時は、たまたま夫の出張の関係では函館に立ち寄ったと説明し、「EM菌が好きで興味があるので…」と話していたという。
◇会場からつまみ出された女性
それっきり音沙汰なしだが、沖田さんが、ピーンときたというのは、その半年前の4月下旬、函館市の地域交流センターの会議室で夕方からある講演会が開かれた。参加者は30人程度で、講演が始まると、後ろの方から「それは違うでしょう」、「間違っているよ」、「本当はこうではないか」というように盛んにヤジを飛ばす女性がいた。それが片瀬だというのだ。女性は講演の妨害となるようなヤジを3-4回繰り返していたら、最前列に座っていた男性がいたたまれず立ち上がって、「おまえの話を聞きにきたのではない。うるさいから出ていけ!」と怒鳴った。女性は、係員に会場からつまみ出されたが、休憩後に舞い戻って席についていた、という。
榊さんらは、やってもいないことをやっているように書かれ、言ってもいないことを言っているかのように嘘を書かれてしまったけれど、これを削除とか訂正とか、謝罪とかを求めるのにどこに連絡したらいいものか、と対応に苦慮している。名刺には、電話番号や住所の記載はなく、「函館在住」の事実も明らかにしていなかった。
片瀬の寄稿は、ウェブ論座、シノドスなど一部に偏った媒体にシフトしている。片瀬の記事は、片瀬自身に問題があるが、それを掲載したウェブマガジンにも責任は及ぶだろう。
もう一方で、片瀬による”大沼騒動“はこれだけに止まらないことが浮かんでいる。
≪続く≫
「検証 朝日新聞とツイッター」-そこまでやるか、EM叩き-
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