DNDメディア局の出口です。今年、巳年の年男、おまけに還暦なのだという。その自覚が少しもないところへ年末年始に郵便局や銀行から年金相談の案内が舞い込んだ。そら、あんたも年金生活の仲間入りだす、その準備をしなはれ、と催促されているようで少し不快だった。ぼくの還暦情報をどう割り出すのやら。そっちは年金の振り込み契約が狙いだろうということを薄々察しながら、新年早々、埼玉りそな銀行の窓口に向かった。
これが、年金生活の第一歩なのかもしれぬ、と思ったら急にお年寄りになったような気分だった。窓口の対応は、親切だった。自称、年金生活者という67歳の社会保険労務士とのやりとりで、月額40万を超える収入ならば、公的年金はお預けとなる、会社勤めしていれば年金保険料の支払いは70歳まで続けなければならない、という悪夢のような事実を突きつけられた。
公的年金をもらうために、もし一切仕事をやめたのならどのくらいの年金額になるのだろうか。答えは、毎年送られてくる「ねんきん定期便」に細かく記載されているというから、家に帰ってよく見てみると、年金受給額は60歳で月11万円程度、65歳からは老齢基礎年金が加わって月額17万円と少しアップする計算だ。年額にすれは200万円を少し超えるが、この受給額をどうとらえればいいのか。つまり、仕事を捨てて月額11万円に甘んじるか、年金をあてにせず働くか、どうか。答えは、働くことがいいに決まっている。元気に働けるなら、公的年金はあてにしない方がよろしい。
勤続39年、保険料納付額の累計は1200万円に及ぶ。現在も支払が続いているのよね。年金は要らないから、いますぐそっくり返してほしい、なんていう悪態のひとつもついてみたくなる。まあ、掛けた保険料の金利分は差し引いても、保険料の納付額は、年金受給額の6年で"回収"してしまうから、ここは冷静に頭を冷やした方が無難かもしれない。
この先の超高齢化時代、心もとないのは国の台所事情だ。だって、老害と陰口をたたかれながらもひょっとして百歳まで生きたとしたら、どうなか。それは悪夢だろうなあ。65歳から年金の受給、年額200万円余りを延々と35年間続けられたら、その累計はざっと7000万円になる。いまなら3500万円におまけします、なんて冗談は通じないどころか、もう一方で少子化の波がひたひたと寄せる現実に、果たしてこれらの負担を子供や孫の世代に押し付けられるのだろうか。
◆本気で100歳を!
さて、普段慣れ親しんでいるfacebookに年金相談に出かけて行ったことを伝えて、「なんとも複雑な気持ち、半分本気で百歳まで生きてやるから!」と苛立ち紛れに書いた。すると、大学の後輩の佐藤恭裕喜君が、「半分ではなく全部本気で100歳まで全うしてください!」とコメントしてきた。
「佐藤さん、そんなこと言っちゃ、本気にやっちゃうよ。でも、一緒に百歳目指さないと、百歳になって周辺に知り合いがだれもいないと、さびしいよね」と返した。軽いノリのつもりが、百歳を目指すことに違和感はない。まだ40年はある。人生に余裕がでてきたかもしれない(笑い)。百歳、その可能性と処方を真剣に考えてもいいのではないか。
◆『100歳を可能にする時間医学』−大塚邦明教授
『100歳を可能にする時間医学‐老化と寿命の謎を解く』(NTT出版)を手にして大いなるヒントを得た。目から鱗とは、このことを言うのだろう。健康長寿への処方を体内時計の働きとメラトニンの効用によって適える。簡単にいえば、生体リズムを整える、それだけなのである。副作用や後遺症も、そして苦痛もない、しかも高額な医療費もかからないという魔法のホルモン、メラトニンが新たに見直され始めていることを知った。
この本の著者、東京女子医大東医療センター病院長、内科教授で、時間医学をご専門とする大塚邦明氏の生体リズムを整えるとは、どういうことなのだろうか。
「生体リズムとは、ヒトをはじめとする生命が共通にもつリズム性である。生物は、数十億年という長年をかけて宇宙のリズムを生命の中にコピーした。生体リズムを上手に維持することこそ、健康寿命を伸ばし余命を長くするコツがある」と解き、これまで長い年月をかけて実施してきたインドや高知県土佐町、北海道浦臼町でのフィールド医学の実証的研究や、細胞生物学者らの研究成果などを織り込みながら、「健康な百寿者を可能にする医学こそ、時間医学である」と断じ、確信に満ちた免疫力向上のための健康長寿のシナリオを提供しているのだ。
「はじめに」で、高齢社会に風刺をきかせた『ガリバー旅行記』の寓話を引用しているところも面白い。「不死」、そのために老いさらばえたその醜さを思い知らされるのだが、「不死」と「不老」の違いを際立たせるという意味でこのプロローグは出色だった。
100歳以上の老人のことを、医学用語では百寿者(centenarian、センタネリアン)と呼ぶのだそうだ。これまた知らなかったことだが、その百寿者の数は、2050年に日本で何人になっていると思いますか。37年後、うまくいけば97歳だ。
この本によると、1963年には153人しかいなかった。1997年に8491人、2003年2万561人、2009年に4万人を超えている。そして2050年には、どうか?
この質問を年金相談の窓口の社会保険労務士にぶっつけたら、う〜む、と少し考えあぐねて「100万人」と答えた。正解なのである。毎日、1時間散歩しているから、感も冴えるのかもしれない。彼に魔法のメラトニンの処方を伝授したから、きっと百寿者の仲間入りをするだろう。
健康長寿の秘訣として、大塚教授は、生体リズムが乱れるとガンになることを示す多くの医学論文を紹介している。あくまで体内リズムが乱れることだけが発がんの原因であるというわけではない、と抑えて、体内時計は「一日に一度の頻度で、細胞分裂のタイミングを計りつつ、DNA傷害の有無をチェックし修復する役割を担っている」とその役割を説明している。そのため、体内時計が乱れると、このチェック機能がうまく働かず、その結果として「がんが発症する」、とそのメカニズムを解説する。
例えば、古来、夜勤勤務歴の長い看護師に乳がんや大腸がんが多いこと、シフトワークの男性に前立腺がんや肝臓がんが多いことなどが報告されており、「生体リズムの乱れがその原因であったことになる」と論じる。
またこの本では、ビタミンAが豊富な緑黄色野菜を十分にとる、とか、筋力の強化と歩行のバランスを改善する習慣を説きながら、日光浴の大切さにも言及し、日光を浴びることによって、ビタミンDが体内で合成され、骨密度の増加や骨折予防に役立つという。
やがて誰もが若々しい健康を取り戻して「不老」を実感するはずだ。ぼくは、免疫力がアップできるとすぐに確信した。いま、その処方を実践し始めている。これで健康長寿、百歳も夢ではないのだ。
まあ、そんなことを口にすると、団塊の世代のお兄さん連中から、間違いなく、何言っているのよ、やるだけやってポックリ逝けば、それでいいじゃない。百歳なんてくだらない、というお叱りをうけよう。確かに一理ある。が、ぽっくり逝けるだろうか。そううまくいくかどうかはわからない。閉じこもり、寝たきりにならないという保障はどこにもないのである。百歳を目指す、という気構えは、それがたとえ挫折したとしても日常の生活スタイルを見直す意味で重要だ。深夜に及ぶ深酒で疲労感漂う不快な日常の連鎖を断ち切ってくれるきっかけになれば、それ以上のことはない。
もう還暦、いや百歳まで40年という、これはぼくにとっての「百歳のいのち」の宣言なのかもしれない。百歳の山頂を目指すというより、気負いを捨てて老いへの坂道を40年かけてゆっくり下山していこうかと、ぼくには珍しくやや控えめな覚悟なのである。
◆ガンを予防するメラトニン
「時間医学」。そもそもこの言葉を知るきっかけは、昨年暮れにNHKラジオの早朝5時37分から始まる「健康ライフ」だった。「時間医学の新たな可能性」と題した5回のシリーズに大塚邦明さんがゲストで出演していた。
http://www.nhk.or.jp/r-asa/life1212.html
タイトルだけでも興味がそそられる。放送時間が短いのでどうぞ、聴いてみてください。第1回が「体内時計とメラトニン」で、それ以降、「血圧のリズムと時計遺伝子」、「食のリズムと時計時間栄養学」、「宇宙とつながる生体リズム」、そして「体内時計とテーラーメイド医療」という具合。さて、それでは、初回の要点をかいつまんでみましょうか。聞き手は、NHKアナウンサー。
Q.眠りを誘う、あるいは体温を下げるメラトニンは、どんな物質なのか?
「最近、そういった二つの働き以外に、夢のような作用があることがわかり注目されています。例えば、老化を防ぐとか、寿命を長くするとか、ガンになるのを予防するとか、その背景には免疫機能を高める作用があるようです。」
「心筋梗塞になった方が、なってしまってしかたがないということじゃなくて、生活のリズムをきちんとして十分なメラトニンがでるような生活をすれば、その結果として心筋梗塞や脳梗塞に再び陥るというようなことを防ぐことが可能だ。また死に至るような心臓や脳の低酸素状態を防ぐということまで言われています。」
Q.例えば、老化を防ぐというメラトニンの働きですが、どのような形で作用しているのか?
「メラトニンは体の中の有害物質を消去してくれます。その結果、細胞を生き生きと保つという働きを持っている。それが老化を防ぐということにつながる。」
Q.いわゆる抗酸化作用ということですか?
「そうですね。抗酸化作用に強く働きかけているということです。疾患を防ぐ、悪い酸素を除去する、という働きは、10数年前から注目されてきたのだが、それにはたくさんのメラトニンがないと効かない、実際は効果がない、と無視されてきた。それが最近になって次々と臨床や実験の結果、わたしたちの体の中にある量で十分に作用を出せることが分かった。」
メラトニンの効用は、大塚教授がおっしゃるように魔法のようなものだと思いませんか。アナウンサーが質問を続ける。
Q.日常の生活で生かせるということになりますね?
「その通りです。メラトニンを出せるような生活スタイルを見直すことが重要だ、ということです。例えば、昼間は、明るくしすぎるくらい明るいところで十分運動をするとよくメラトニンがでます。夜は、真っ暗にして寝るという事が重要です。とくに少しでも暗くして光が入らないように工夫する、といいです。」
Q.いままで睡眠というものを介して私たちの体に役立つとされたメラトニンが、もっと直接的に健康を維持することに力を貸してくれる、ということでしょうか?
「そうです、高齢になると、メラトニンの量が10分の1にまで減少してきます。70歳を過ぎた頃には、生活スタイルをもう一度見直す。メラトニンを意識した生活を組み立てることが大切です。それが病気の予防につながっていく、生活の質も上げるのだと思います。」
分かりやすいと思いませんか。
この健康ライフのシリーズの最終回では、1回の採血した成分で、心臓の時計が何時をさしているのか、肝臓の時計が何時をさしているのか、体の細胞のそれぞれの時刻が読める、画期的な検査法を開発した理化学研究所システムバイオロジー研究プロジェクトの上田泰己教授の取り組みが紹介されていた。
◆百寿者100万人時代
さて、本年最初のメルマガは、健康長寿がテーマでした。80歳の冒険家、三浦雄一郎さんは今年5月に3度目のエベレスト登頂を目指すという。山登りには特別の酵素が作用するらしい。石原慎太郎さんだって80歳で新党を立ち上げるのですから。やがて百寿者100万人時代が到来します、すでにエイジレスが日常的に語られ始めてきました。
ぼくも、日光の森づくりに専念し、太陽のもとでEM農法に汗を流すなどもう一度、生活スタイルを見直して百歳まで生きる処方を実践してみようと、思います。「健康病」なんて陰口をきかずにご一緒にどうでしょうか。勿論、ただ長生きすればよいというものでもありません。生きがいや、社会のために何をするにも自分の体は自分で守っていかなくてはならない、と肝に銘じているところです。
本年もどうぞ、DNDメルマガをよろしくお願いいたします。