第33回 EM技術による文化財環境の保護



 前回は建造文化財に対するEM技術の応用例を示したが、文化財に指定されると様々な委員会の議を経る必要があり、いかにEM技術が優れていても、おいそれと受け入れられるものではない。建造物を洗ったり、その周辺にEM活性液を散布するだけで、劣化防止に顕著な効果が認められることは前回に述べた通りであるが、文化財とセットになっている池や樹木の管理は各々の判断にまかされている。


 奈良の東大寺と言えば大仏様、と誰でも知っているが10万坪余の広い範囲に、お水取りで有名な二月堂をはじめ法華堂、湯屋等々の多数の文化財がひしめいている。そのため、排水用のパイプを埋め込むにしても、文化庁や県や市に現状変更願を出すことになるが、掘削法や掘削場所の文化財調査、その調査にかかわる費用等を含め、様々な難問が待ち受けている。


 東大寺の境内は、120Mもの高低差がある傾斜地に位置するため、大雨の毎に土砂の流亡が激しく、場所によっては、樹木の根がむき出しになっている。関係者の話によると、酸性雨の被害が注目され始めた30年くらい前、金銅製の八角灯籠の劣化とともに樹木の勢いが衰え、中門の前にある鏡池の汚染がひどくなり始めたとのことである。


図1:EMの培養と施用
図1:EMの培養と施用


 その後、樹木の枯死が目立つようになり、南大門から中門の間の松も著しく衰弱し、松喰い虫対策を含め、様々な対策を行なってきたが、年々劣化の一途をたどってきたとのことである。同時に境内の池の汚染も深刻となり、ヘドロの除去やエアレーション(通気法)等々の効果も上がらず、鏡池とは名ばかりで、薄茶色で悪臭を発し、鹿の糞尿による悪臭や池の汚染も頭痛の種となっていた。


 4年程前に、東大寺の担当執事であった狭川氏が奈良市河川課がEM技術によって市内の河川の浄化に取り組んでいることを知り、EMのボランティアの協力を得て長池などでEMの活用を試みたところ、確かな手ごたえがあり、平成19年の12月から、東大寺として本格的に取り組むことになったのである。


図2:水質改善後の東大寺鏡池
図2:水質改善後の東大寺鏡池


 結果は、写真に示す通りであるが、本シリーズの30回目のEM技術による自前でできる危機管理で述べたように、EMの培養のシステムが図1に示されるように着実に機能していることである。現在では、三次活性液も活用しており、3名の専従で境内の環境管理を徹底して行なっている。同時に、生ごみのリサイクルはもとより、附属幼稚園の子供達の環境活動を含め、関係者が気軽にEMを活用できる仕組みも作り上げている。


図3:東大寺EM活用(画像クリックでPDF参照)


 本資料は昨年(H21)行なわれた「第9回EMサミット近畿in奈良」で東大寺から公開されたものであるが、今年は更に成果を上げ、土砂の流失は完全に止まり、緑が復活し、生態系がかなり豊かになり始めている。


 東大寺のこの成功のシステムは、東大寺を通し、多くの社仏関係者にも情報が広がり始めている。奈良市も鹿苑の衛生管理や環境管理にEMの総合的な活用に期待しているが、今のところ、予算の関係でボランティアだのみである。願わくば、県も協力して、遷都1300年を記念し、奈良市はもとより、奈良県全体の神社仏閣および文化財環境の保護にEMを活用して欲しいものである。


 本シリーズの第30回でも述べたように、地域における総合的な危機管理という視点からEMを活用すれば、生ごみのリサイクル、地域の河川の浄化、農業や環境問題の解決にも大きな力となり、住民と行政の協力関係を着実に構築するメリットもある。したがって、単に文化財の保護のために新たな予算という考えではなく、地域全体の環境問題の解決と地域の活性化、更には、文化財に付加価値をつけるということを念頭に置けば、予算は自然に生まれてくるものである。



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