第30回 EM技術による自前でできる危機管理



 これまで2回にわたってEM技術による気象災害対策について述べたが、危機管理という観点から考えると、システムとして社会に組み込み、日常的に機能する仕組を作る必要がある。


 我が国もサーズや強毒性のトリインフルエンザ騒動で平成19年国民保護法による危機管理対策が義務付けされたが、その殆んどが、昨年の新型インフルエンザ対策のように、お粗末なものであった。今回の宮崎県で発生した口蹄疫も初動の危機管理の失敗例ともいえるが、見るに見かねて、EMボランティア出動を実施した。


 すでに述べたようにEMによる口蹄疫対策は、法的に畜産で使用が認められているEMを上手に活用し、農家の自己責任で対応できる方法を示し、それなりの成果が得られるようになったが、問題は殺処分された大量の家畜の埋却処分場で発生する悪臭と二次汚染であった。


 この件に関しても、公的に了解してもらい、新富町を中心にEM活性液の散布を実施した。5月30日のことである。散布後、72時間経過した6月の2日に、私は町の担当者と一緒に現場検証を行ったが、近隣から苦情のあった悪臭は完全に消失し、噴火の如く吹き出ていたガスや血液の発生も止まり、重機のオペレーターもマスクを外して埋却作業を続けていた。


2トンプールと500リッタータンク(新富町)
写真1:2トンプールと500リッタータンク(新富町)

 EM研究機構と町の協力で1日10トン以上のEM活性液を作る増殖タンクを設置し、EM研究所の協力を得て、6月4日から本格的な対応ができるように準備した。同時に感染の拡大を防ぐために宮崎県のEMボランティアの積極的な協力を得て、すでに述べたような「えびの方式」を実施した。


 EMの影響範囲は半径500m〜1000m程度である。したがって、全畜産農家がEMを使わなくても500m〜1000mの間に1軒の農家が使用すれば感染拡大のバリヤーを構築することが可能である。これらの活動はすべて公開され、各々の自治体はもとより、対策本部にも報告されたが、要はこの経験を今後の危機管理にどのように活用すべきかという課題が残されている。


 本シリーズでは、これまでに新型インフルエンザ対策や災害に強い都市づくりや、気象災害対策など、EM技術による様々な危機管理対策について述べてきたが、今回の宮崎の経験を踏まえると、ボランティア出動では限界があり、各自治体が自前できる危機管理法として、組み込む必要性を痛感している次第である。


7月3日付け 読売新聞のコラムの一節
写真2:7月3日付け 読売新聞のコラムの一節


 危機管理には、国家が行なうものと自治体や団体や個人と様々であるが、危機は常にあるものでなく、そのために重装備的な対策を行なえないのが実態である。このような観点から、自治体で行なえる危機管理は、消防と救急と災害出動に限られているが、今後、口蹄疫の再発やトリインフルエンザ、サーズ、魚のヘルペスはもとより、極端な場合はバイオテロ、化学物質テロ、放射能テロ等々を想定すると、従来の技術や常識での対応は不可能である。


宮崎県綾町でのEM活性液タンク
写真3:宮崎県綾町でのEM活性液タンク

 読者は、本シリーズの「EM処理の立脚点」を軸に全体をシミュレーションすると、この一連の緊急提言は、すべての危機管理と直結していることに気付くはずである。そして、何故、このようないいことを政府はやらないのか不思議に思い、公的機関がかたくなにEMを拒否する背景を理解しあぐねている。


 旧聞になるが、EMはある宗教団体の内紛に巻き込まれ、EMに反対するグループが日本土壌肥料学会や農水省に様々な工作を行い、週刊誌や新聞やテレビ等のマスコミを使い徹底的にEM潰しを図ったのである。その結果、EMは学会で否定され、農水省も、それを認めたことになり、国が否定したことを地方自治体が積極的に進めることは不可能という構造になってしまったのである。


 EMは、農業のみの技術ではなく、環境や衛生問題等々、応用範囲の極めて広い技術である。そのため、環境浄化技術としては、農業分野以上に著名であったことが幸いして、生き残ることが可能となったが、他省が否定したものを、例え応用面が異なっているとはいえ、役所の錠は厳然と存在し、そのカルマを延々と引きずっているだけのことである。


宮崎市高岡町でのEM活性液タンク
写真4:宮崎市高岡町でのEM活性液タンク

 時間の経過とともに、EMのボランティア活動は強大となり、生ごみリサイクルや水質浄化、畜産公害対策に多大な成果を上げ、今では、EMを活用してない市町村を見つけるのは困難といえる程となった。また、農水省の中にも、日本土壌肥料学会にも、EM親派は増大の一途をたどっているが、過去に否定したものを、今さら、というジレンマに陥っていた。


 平成18年の有機農業推進法の成立を機に、EMも有機農業推進資材として認められ、助成金の対象から外されることがなくなり、昨年の政権交代を機に、役所側の抵抗が一挙に消滅した感がある。その後の役所との関係もかなり修復されており、国との協力関係も時間の問題となりつつある。


 本シリーズの冒頭でも述べたように、EM運動の目的は、「幸福度の高い社会作り」にある。そのため、EM活動は、すべて自己責任で行なうことを原則とし、その結果が社会に役に立っているという社会貢献認識の上に成り立っている。すなわち、自分の存在が社会の役に立っているライフスタイルの確立である。これまでの常識で考えると、この命題は自己犠牲を伴う窮屈なものと思われがちであるが、EMを米のトギ汁等で増やし、トイレ、洗濯、掃除、風呂、野菜や食器洗い等々に、空気や水の如く使う「EM生活」を実行するだけで、その目的は達成されるのである。


高岡地区のEM活性液
写真5:高岡地区のEM活性液

 すでに、明らかなように、家庭から出る生活雑排水は、排水口の詰まりや悪臭問題やそれに伴う衛生問題をすべて解決し、下水や河川や湖沼を浄化し、きれいで豊な海を育むようになる。当然の事ながら、家族は健康になり、家屋の耐用年数は倍以上となり、室内の抗酸化レベルの向上とともに、30%内外の節電効果が現れ、静電気や電磁波の弊害も完全に除去することも可能となる。


 実行すれば、誰でも、体験的に理解できるものであるが、効果が十分でない場合は、使う量が足りないか、使い続けた期間が短いという、単純な理由である。したがって、EMは効果が出るまで使い続けることが大前提となっており、生態学的な多勢に無勢の原則に従っているだけである。


 「自己責任原則」と「社会貢献認識」の外に、EM活用の重点チェックポイントを別に定めている。そのチェックポイントとは、「安全で快適」、「低コストで高品質」、「持続的に活用すると累積的な効果が得られる」ということである。この現象は、物の本質や進化の真理そのものであり、シントロピー(蘇生)の原則とも言えるものである。


 EMを生活化することは、ある意味で家庭の危機管理の最上のものであると同時に、地域の危機管理でもあり、国家の危機管理にも直結するものである。このような原点に立脚し、各自治体は、その地域の住民がEMを空気や水の如く使える仕組を作り、住民にEM生活を楽しんでもらうことである。すなわち、役所とEMボランティアが協力し、良質のEM活性液を作り、無料または、1L200円程度で配布する。住民は、その活性液を米のトギ汁や糖蜜や果物のジュース等を加えて、20〜100倍に増やして使用する。EMの原液の価格は1本2000円であるが、1000倍の良質な活性液を作ることが可能である。その1000倍の活性液を更に200〜1000倍に増やして使うため、最終的に1Lから20トン〜100トンの活性液を作ることが可能となる。


 EM活性液は、2週間以内に活用すればEMの原液と同じレベルの効果を発揮する。この仕組みのポイントは、住民が役所から配られたEMを、他の商品のようにそのまま使うのではなく、米のトギ汁などで増やして使うという、自己責任と創造的なチャンスを与えることにある。


 EMを自分で増やせるようになった住民は、次第に自信を深め、様々なEMの活用法を考えるとともに、EMのボランティア活動にも積極的に協力するようになる。生ごみリサイクルを基に、EM有機農業による自給野菜の栽培、フリーマーケットへの参加、各人の独創的なEM自慢話は、楽しく延々と続き、人と人との交流を深め、地域全体がファミリーのように一体化する。


 地域全体がファミリーのようになることは、防犯や防災を含め、様々な問題の発生を未然に防ぐ力となるばかりでなく、日常的に発生する種々の問題の大半を自力で解決するようになる。10年以上も前からEMを組織的に楽しく活用している地域は、このような望ましい姿になりつつあり、高齢者は元気で、これまでの多くの経験を生かし、社会貢献しつつ、自分の人生が社会の役に立ったことを自覚し、人生を納得する機会となる。このような社会は、結果的に自己責任と社会貢献認識が習慣化し、生活化する構造となるため、行政コストを半減することも可能となる。


 具体的にいえば、先ずEMを活性化する自動培養装置を設置し、二次、または三次培養のタンクを準備する程度で十分である。農村地帯であれば閉校した校舎や活用されなくなった畜舎や倉庫やハウスなどを活用し、高齢のボランティアに協力してもらえば、役所は原料や資材の実費を負担するだけである。


 タンクは密封できるなら中古でもよく、酒屋や農家で使用しなくなったタンクがいくらでも入手できる時代である。すでにあるものを上手に使えば、100万円もあれば1万人内外の村や町に対応でき、増産したい場合は中古のタンクを増やせば、週に10トン程度の活性液を作ることも可能である。


散水車(新富町)
写真6:散水車(新富町)

 このようにして作った大量の活性液を、気象災害対策や農業や環境に、日常的に活用し、これまで述べた様々な事例を参考に、災害に強く生産性が高く質の高い環境が必然的に出来るようなプログラムとシステムを充実させれば、自前の危機管理も完成することになる。


 このような仕組みを消防と連動し、消防タンクでEMを培養し、訓練を兼ねて、地域のダムや河川の浄化、地域の衛生対策に常時活用できるようになれば、バイオテロや化学物質テロはもとより、広域のインフルエンザ対策も可能となる。


 EM研究機構では、私の勤務する名桜大学やEM研究所や、多数のEMのNPOの協力を得て、これまで述べたようなシステム作りを希望する市町村に無償で指導しており、EMインストラクター養成講座も積極的に行なっている。EMの先進県といわれる地域は、1つの県でEMインストラクターが1000人も越える例があり、このような県では鳥インフルエンザや口蹄疫等々は、今後は発生しないものとの確信が見え始めている。


 残念なことに、今回、口蹄疫の感染が拡大した宮崎県は、全国でも1〜2位を争うEM後進県である。今回の経験を基に、これまで述べたようなシステムを作れば、大逆転のチャンスもあり、より徹底した危機管理と災害に強い県づくりが可能となる。今後の宮崎県の積極的なチャレンジを期待したい。



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