◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2010/08/04 http://dndi.jp/

大学発ベンチャーの秘訣

〜「圧倒的な技術」と「経営チーム力」〜
 ・北海道経産局21年度大学発VB調査
 ・総計74社、創業と廃業の数が初の逆転
 ・環境・エネルギー・教育分野が拡大傾向
 ・指南役の「イーベック」土井尚人氏に学べ
〜北海道の大学発VB名を一挙68社公開〜

DNDメディア局の出口です。この一年、北海道内で誕生した大学発ベンチャーの創業数が廃業数に追いつかず、平成14年度の調査開始以来、初めて減少に転じたことが北海道経済産業局の調査で明らかになりました。ここでの創業数と廃業数の逆転の傾向は、北海道内に限らず全国的な傾向というのはもう数年前から指摘されていました。が、これは「多産多死」というベンチャー受難の始まりなのか。グローバル化という現実に地方のベンチャーはどう活路を拓くか、悩ましい難題を突き付けられた格好です。それには、海を超える「圧倒的な技術」と「経営チーム力」にある、とベンチャーの専門家は、そう説いています。


この難しい局面は何が原因なのか。一般的に言えば、主にジャスダックなど新興市場の低迷などで投資マネーが先細ってベンチャーに資金がまわらない、とか、多額の研究開発の資金を必要とするバイオ系を中心に資金難で経営が行き詰まった、というような「IPO限界説」はある。厳格な会計監査が求められる「内部統制報告制度」(日本版SOX法)と、国際会計基準の導入もネックとなっている、とも聞く。が、どうもそれ以前の、創業時からの技術的な問題や不確かなビジネスモデルという課題に行きつくケースも少なくない。


参考までにおさらいをすれば、国内株式市場への新規公開(IPO)数は、2006年188社、翌07年107社、08年42社と激減し、そして昨年は19社と低迷した。リーマン・ショックの影響とはいえ、実に大変な落ち込みです。未公開株をめぐる詐欺事件や、上場を狙った粉飾事件の数々、どうもベンチャーに胡散臭さがついて回る。そんな怪しげな"拝金"と、先端技術ベースの大学発ベンチャーを同列に扱うのは、そもそもおかしいと思いませんか。


さて、今年の上半期(1〜6月)は、やはり12社と昨年より3社多いといっても低空飛行からは抜け出る見込みはないのです。しかし、あんまりよく知られていないが、その中で大学発ベンチャーは大健闘でその上場数は、年間3−4社という数をたたき出しているのです。全体の上場数が減った分、大学発ベンチャーの比率が飛躍的に増した、といえます。いまは爆裂の中国マネーがベンチャー周辺を嗅ぎまわっているそうです。まあ、こんな現状を念頭に入れながら、北海道の調査を見てみましょう。


調査は、平成21年度の北海道内の「大学発ベンチャーに関する基礎調査」で、先月23日に公表した。大学発ベンチャーに関しての全国規模の調査は、経済産業省が一昨年の調査を最後に中止したため、今回の北海道の調査結果が、おおよそ全国レベルの直近の動向を浮き彫りにしているのではないか、とみられています。


それによると、道内の大学発ベンチャーは、前年より3社少ない74社どまりで、内訳は新規の創業が6社なのに対して廃業や活動停止したベンチャーが9社を数えた。調査を開始した平成14年度から20年度までの推移をみると、36社→46社→56社→63社→68社→75社→77社と微増ながら増えていた。また、廃業に至らなくても活動を見合わせている"開店休業"のベンチャーも散見される、という。


また道内大学発ベンチャーの事業分野の構成を見ると、北海道の特色であるバイオ関連が37社(前年36社)ともっとも多く全体の50%を占め、北海道のベンチャーはバイオ系が牽引していることを裏付けた。際立った変化は他の事業分野に見られた。


例えば、環境が7社→15社、エネルギーが4社→7社とそれぞれ倍増し、教育分野は1社→8社と急増した。素材・材料が10社→17社、機械・装置が12社→15社、IT(ハードウエア)が6社→7社、IT(ソフトウエア)が17社→21社とこの分野も増えた。これまでこの分類にあてはまらない、その他が27社から19社に減った。この8社相当の減少分を割り引いても、ベンチャーの総数が減っているのに事業分野が急増しているのはなぜなのか、いくら複数回答であるとはいえ、その理由を北海道経済産業局の産学官連携室に聞いた。


個々のベンチャーが、従来の経営モデルを環境やエネルギー、教育といった分野に新規に事業を広げ始めている、と推測し、今後個別の訪問を通じてその実態を捉える必要があるという。なにより業績不振による資金難が、廃業の主な原因であることから、産学官に+金融を交えた取り組みで資金調達が得やすい環境づくりを急ぐ。北海道の地域活性化や景気浮揚、そして雇用確保にはベンチャー支援の充実が不可欠とし、その存在感をアピールするためホームページなどで積極的にPRし、個別に企業訪問を行いながらきめ細かなサポートを実施していきます、と、同局地域経済部新規事業課の産学官連携推進係長、楠本啓二さんは、話していました。がんばってくださいにね。さて、文末に、その企業を掲載します。


さしずめ、道内のベンチャー設立大学の順位は、北海道大学が37社のトップで半数を占めた。主な上位大学は以下の通り。千歳科学技術大学6社、小樽商科大学5社、東海大学(北海道キャンパス)5社、室蘭工業大学4社、帯広畜産大学4社、北見工業大学4社、はこだて未来大学3社の順でした。


海外のメガファーマと互角に渡り合って大きな成約をものにした経験がある北海道大学発ベンチャーの「イーベック」(札幌市)の社長、土井尚人さんは、同じ道内でインキュベーション事業を展開するHCM(ヒューマン・キャピタル・マネジメント)の社長を兼務、大学発ベンチャーのフィールドで注目される一人といえます。いま道内外で10社余りの大学発ベンチャーの経営に携わっています。その土井さんに最近の大学発ベンチャーの秘策を聞いた。


「やはり、ベンチャーは、なんのために起業したか、そのミッションを片時も忘れてはいけません。いつも言うのですが、イーベックのように強みを特定し、"圧倒的な技術"を持ってお客様のニーズに応えていく。それを実現する"経営チームが"できているか、どうか、が重要だと思う。ベンチャーが本来のコアビジネスから脇道にそれて、時流に乗った新規の公募案件に心を奪われていくというのは悲しいし、危ない。単なる利益創造に走ってはいないか、その辺をチェックしなければならない。当たり前のことを当たり前にやることです。流行に流されず、お客様のニーズに特化していくことです。北海道の場合、道外といえば、そこはおのずと海外になり、アメリカ、ヨーロッパ、シンガポールなどが主戦場です。ローカルに身を置きながらグローバル市場を見通していく、という姿勢は、いまや当然のことでしょう」と話す。

>>関連メルマガ
アライアンス戦略のEXIT考
〜「大企業と争わない」:HCMの土井社長に学ぶ〜


※北海道の大学発ベンチャー74社のうち、北海道経済産業局のHPにアップされた68社は以下の通り。会社名、代表者名、設立年、所在地、関連大学の順、敬称略。


No. 会社名 代表者名 設立年 所在地 関連大学
1 (株)ウェザーコック 山本真裕 1977 札幌市 北海道教育大学
2 (株)岩根研究所 岩根和郎 1979 札幌市 北海道大学
3 (株)ビー・ユー・ジー 川島昭彦 1980 札幌市 北海道大学
4 (株)シーワーク 岸本英一 1985 札幌市 北海道大学
5 クリプトン・フューチャー・メディア(株) 伊藤博之 1995 札幌市 北海道大学
6 (株)ソフトフロント 阪口克彦 1997 札幌市 北海道大学
7 (有)緒方材料科学研究所 緒方直哉 1997 千歳市 千歳科学技術大学・上智大学
8 (株)北海道バイオインダストリー 佐渡宏樹 1997 札幌市 東海大学
9 (株)ヒューエンス 設樂守良 1999 帯広市 北海道大学
10 (株)NERC 大友詔雄 1999 札幌市 北海道大学
11 フォトニックサイエンステクノロジ(株) 小林壮一 2000 千歳市 千歳科学技術大学
12 ネイチャーテクノロジー(株) 刈田貴久 2000 岩見沢市 東海大学
13 (株)ジェネティックラボ 岡本浩之 2000 札幌市 北海道大学・小樽商科大学・札幌医科大学
14 (株)ジーンテクノサイエンス 河南雅成 2001 札幌市 北海道大学
15 (株)フレイン・エナジー 小池田章 2001 札幌市 北海道大学・北里大学
16 (有)グーテック 堀之内英 2001 札幌市 千歳科学技術大学
17 北見情報技術(株) 安部彰人 2001 北見市 北見工業大学
18 (株)テクノフェイス 石田崇 2002 札幌市 北海道大学
19 (株)メディカルイメージラボ 平澤之規 2002 札幌市 北海道大学
20 カムイ・エンジニアリング(株) 大越武彦 2002 標茶町 釧路公立大学
21 (株)はるにれバイオ研究所 金澤勉 2002 北見市 北見工業大学
22 (株)ヒューマン・キャピタル・マネジメント 土井尚人 2002 札幌市 小樽商科大学・北海道大学
23 (株)インジェネックス・バイオテクノロジーズ 千田一貴 2002 札幌市 北海道大学
24 (株)イーベック 土井尚人 2003 札幌市 北海道大学
25 (有)A-HITBio 冨田房男 2003 札幌市 北海道大学
26 (有)植物育種研究所 岡本大作 2003 栗山町 北海道大学
27 (有)バイオトリート 加地鐵夫 2003 室蘭市 室蘭工業大学・山口大学
28 (株)オーピス 濱田克哉 2003 北見市 北見工業大学
29 (株)バイオイミュランス 兼平耕世 2003 札幌市 北海道大学
30 (株)ロム 高谷範子 2003 札幌市 北海道大学
31 (有)大地の香 奥山壽雄 2003 遠軽町白滝 東海大学
32 (株)WillーE 根本英希 2003 札幌市 北海道大学
33 (株)オンコレックス 杉本惠昭 2003 札幌市 北海道大学
34 (株)デンタルアロー 小城賢一 2003 札幌市 北海道大学
35 (有)クロモソーム・サイエンス・ラボ 辻雅久 2004 札幌市 北海道大学
36 ニュテックス(株) 岡本明治 2004 帯広市 帯広畜産大学
37 (株)レーザーシステム 土内彰 2004 札幌市 北海道大学
38 (株)東京農大バイオインダストリー 渡部俊弘 2004 網走市 東京農業大学
39 (有)バイオクリエイト 高野元宏 2004 函館市 北海道大学
40 (株)ハイドロデバイス 菅原浩 2004 室蘭市 室蘭工業大学
41 函館ベンチャー企画企業組合 大久保彰之 2004 函館市 はこだて未来大学
42 (株)GEL-Design 西田克彦 2004 札幌市 北海道大学
43 (株)プライマリーセル 牧与志幸 2004 石狩市 北海道大学
44 LINACK(株) 中添眞 2004 札幌市 北海道大学
45 (株)バイオ・フローラ 市川裕章 2004 帯広市 帯広畜産大学
46 北海道衛星(株) 佐鳥新 2004 大樹町 北海道工業大学
47 (有)マスコシステムズ 増子洋行 2005 千歳市 千歳科学技術大学
48 ハコレコドットコム企業組合 山田圭飛 2005 函館市 はこだて未来大学
49 (株)CoMO 瀬川恭司 2006 中標津町 釧路公立大学
50 (株)アグリバイオインダストリ 松島得雄 2006 小樽市 北海道大学・小樽商科大学
51 有限責任事業組合スペース・フィッシュ 齊藤誠一 2006 函館市 北海道大学
52 (株)十勝生ハム製造研究所 三上正幸 2006 帯広市 帯広畜産大学
53 シーズテック(株) 大橋美久 2006 札幌市 北海道大学
54 (株)カムイスペースワークス 植松努 2006 赤平市 北海道大学
55 北海道バイオマスリサーチ(株) 菊地貞雄 2007 帯広市 帯広畜産大学
56 (株)北海道MDブランド研究協会 馬渕悟 2007 札幌市 東海大学
57 企業組合北見産学医協働センター 有田敏彦 2007 北見市 北見工業大学
58 (株)植物エネルギー 堀田清 2007 当別町 北海道医療大学
59 北海道コンテンツソリューション(株) 丸田和弘 2007 千歳市 千歳科学技術大学
60 合同会社札幌NBT 高橋平七郎 2008 札幌市 北海道大学
61 Unihand企業組合 横山昂平 2008 函館市 はこだて未来大学
62 (株)ハイドロクラフト 菅原浩 2008 登別市 室蘭工業大学
63 (株)SEA−NA 志賀千鶴、窪地由恵 2008 小樽市 小樽商科大学
64 (株)スマートサポート 鈴木善人 2008 札幌市 北海道大学
65 北海道アグリーン(株) 安田雅人 2009 札幌市 東海大学
66 (株)シーイー・フォックス 杉山康彦 2009 千歳市 千歳科学技術大学
67 水素技術応用開発(株) 水野忠彦 2009 札幌市 北海道大学
68 デンタルプラント(株) 植原治 2009 当別町 北海道医療大学


平成21年度の北海道における大学発ベンチャー基礎調査の詳細はこちら
http://www.hkd.meti.go.jp/hokid/d_venture2010/index.htm


記憶を記録に!DNDメディア塾
http://dndi.jp/media/index.html
このコラムへのご意見や、感想は以下のメールアドレスまでご連絡をお願いします。
DND(デジタル ニューディール事務局)メルマガ担当 dndmail@dndi.jp