◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2010/07/07 http://dndi.jp/

どう話すかより何を話すか!スピーチの要諦

 ・「機械工学コミュニティからの発信」報告
 ・吉川弘之氏の提言「社会的期待に応える」
 ・丸の内発「インド・エコノミック・ゾーン」
 ・英語speech第30回J.U.E.L. CUPの舞台
 ・DNDコラム「Rapidly:人の噂も7.5日」
 ・菅政権支持急落の土壇場と参院選の正念場
 ・東大・坂田教授『やさしい経済学』の凄味
〜コラム&連載〜
 ・黒川清氏の「タフな東大生を育てる」
 ・石黒憲彦氏の「医療・介護関連産業は成長産業になるか?」
 ・橋本正洋氏「科学と技術とイノベーション」
 ・山城宗久氏「市ヶ谷にて」

DNDメディア局の出口です。ご紹介するのは、わが国の底力を感じさせた最近のイベントの報告です。それぞれが、その日の舞台に向けて準備に余念がなかったことでしょう。日本学術会議機械工学委員会のアカデミアらは、研究者の社会的責任をどの分野でどう貢献していくか、というところにコミットしていたし、東京・丸の内に開設の「丸の内 インド・エコノミック・ゾーン」は起業支援の"信頼"のネットワークが背景にあります。また私がJudgeを務めた学生英語弁論大会のfinalでは、スピーチ原稿を練って準備をし、何度も練習を繰り返した涙ぐましい成果が随所に見られました。


そこで気付いた大切な事は、人に伝える力、発信力の重要性と、その要諦は、どう話すかではなく何を話すか−にある、ということ。それらのメッセージは次に、誰に向けられたものか、というターゲットを鮮明にすべきという教訓でした。


先月25日開催した日本学術会議機械工学委員会主催の「科学・技術駆動型イノベーションに向けて〜機械工学コミュニティからの発信〜」と題したシンポジウムは、副題に"発信"のキーワードが示すように、この日の発表に向けてほぼ一年近く議論を重ね、同会の今後の活動の指針となる報告書「機械工学の展望2010」を取りまとめ、さらに関係が深い自動車技術会や精密工学会、日本航空宇宙学会、日本機械学会など30余りの学協会との擦り合わせを行いながら実施したもので、東大教授で同委員会の笠木伸英委員長肝いりのプログラムで、今回が初めての試みでした。



:「機械工学コミュニティーからの発信」東京.日本学術会議で


その趣旨は、笠木氏が開会のあいさつや、「機械工学の展望2010」の報告で繰り返し述べられた「社会のための科学・技術」への貢献であり、20世紀の産業革命以来の長い歴史の中で大きな成果を収めてきた「人と社会を支える機械工学」のミッションをもう一度顧みながら、今日の人類が抱える環境や資源、イノベーションの促進といった課題解決型のアプローチを実践していく、という意味の主張が相次ぎました。



:挨拶に立つ笠木委員長

そしていかに「安心安全で豊かさの感じられる持続的社会の構築に具体的な方策を提示する」と言い切り、政府が新成長戦略で示すグリーンイノベーション、ライフイノベーションへコミットし、新たな産業の発展を促進するため、科学・技術受動型のイノベーションを創出していこうという大胆で野心的な意図を盛り込んでいるのです。



パネラーの一人として私に課せられた役割は、「機械工学の展望2010」をどう読み解くか。幹事で、パネルディスカッションのモデレータを務める東京工業大学教授の岸本喜久雄氏や副委員長の古川勇二氏から、「どうぞ、ジャーナリトの視点から忌憚のない意見をズバリご指摘ください。いささかの遠慮もいりません」と言われていました。そこで、前回も書きましたが、ご批判ならおまかせください、とばかりにそれこそ、ねじり鉢巻きで資料を読み込み、頼りの工学博士陣に議論をふっかけたりしながら煮詰めた発表原稿は、土壇場までページの入れ替えやデザインに凝ってみたものの、いざ本番では敢て、それらの大半を引っ込めてしまいました。


どうしてか。なんでもご自由に発言してください、遠慮はいりません‐って言われてその気になって相手の気分を害し気まずくなったトラウマが甦ってきたわけではなく、あんまり調子づくとろくなことにならないと自戒したわけでもないのです。


それは…。21世紀の機械工学のミッションはなにか、環境や資源など地球的規模の課題にどうこたえていくか。また他の学術分野との協働や具体的成果の創出、そして活力ある知識基盤社会の実現に向けて、問題提起や提言を応用研究のために幅広く発信していく‐という笠木委員長の開会の姿勢は、素晴らしいことと感銘を受けたこともその要因のひとつでした。


その決定的な理由は、 大御所の吉川弘之氏(科学技術振興機構研究開発戦略センター長)が「社会的期待に応える科学技術研究に向けて」と題して行った基調講演に感銘したからでした。「科学技術」に関した私の蒙昧を見事にぬぐい去ってくださいました。



:研究者に「社会的期待に…」と説く、吉川先生

吉川先生の40分にわたるご講演は、目が覚めるような新しい視点に満ちていました。社会の期待に応える課題解決型のアプローチは、ある意味科学の側面を引っ張り、機械工学の専門領域を飛び出していくという側面を指摘し、課題解決はいまある課題を解決するだけでなく「見えない課題が存在する。その課題の発見という視点も大事である」という洞察を加え、科学者の立場ばかりではなく、あらゆる領域を動員しないと解決しない問題が立ちはだかっている、との危機意識を強調し、「現代の科学や学術の体系が(現実の)分類に合わなくなっていないか」と問題提起されていました。あらゆるセクターで新しい知識を生み出す新しいタイプの研究者の必要性、変化に置いて自己が他者と入れ変わるというその存在の容認と、全体観にたって持続性を実現する利他的社会の到来を印象づけた「変化の経済学」の概念をも披瀝されていました。


幅広い分野を網羅し、一つの社会を捉えるのに従来の枠を超えた新しい概念を示していたのです。私は、大げさにいえば感動に震えていました。いやはや、「深化する学術の知の統合」をズシンと感じてしまったのです。


私の機械工学への理解は乏しく、機械工学がこれほど多くの分野をフォローしているものとは知りませんでした。「機械工学の展望2010」の報告を読んで自分なりに考えた機械工学とは、科学と産業の技術戦略をグローバルに拓く機械工学という風に仮説を立ててみました。が、それはとんでもない誤解だったようです。


また、それらを読んで浮かんだ疑問が、「機械工学がすでに機械工学ではなく近年著しく変容しているのではないか」という学際領域の問題、さらに機械工学が包含する現実の世界を機械工学という言葉ですでに捉えきれなくなってはいないか、というシステムや制御といった異分野との融合の問題、加えて「機械工学の展望2010」の報告を他の学術から見た場合は、どのように映るだろうか。産業界から、あるいはグローバルな視点からのアプローチも不可欠ではないか、という視点を変えてみることの必要性や、この報告で一押しの"ニュースなる価値"はどこにあるのか、などをあれこれ思いついたりしました。


が、それ以上に吉川先生のご講演は奥深く迫力がありました。私の拙いにわか仕立ての愚問は、たちまち吹っ飛んでしまったのです。


続いて、笠木委員長は「機械工学の展望2010」の報告に続いて、吉川先生の問題提起に呼応する形で、「社会的期待に応える知の実践」を具体的に提示し、わが国の知の連携の現状を探りながら、課題解決に向けた産官学連携のための提言を行いました。なかでも、研究開発のファンディングスキームの現状の一覧と、イノベーションを生むファンディングスキームの一覧を対比させたナレッジマップは圧巻でした。また本日のシンポジウムの期待として、機械工学コミュニティがいかにして社会的期待に応えていくか、政府が掲げる環境・エネルギー、健康・医療のイノベーションにいかに貢献していくか、そして最後にイノベーションの担い手である若手研究者、技術者をいかに育てていくか、との3点に言及し、参加者らの意識をひきつけていました。


これも簡単に紹介していますが長い講演の一部です。引用の仕方や解説に誤解があるかもしれませんので、その辺をお含みください。


さて、続いて機械系関連学協会から代表者による講演が行われました。どれも珠玉の提言でした。これらをひとつひとつ紹介すべきですが、このメルマガのボリュームを考えて早足で紹介します。日本伝熱学会から東北大学教授の圓山重直氏が「環境・エネルギー問題への提言」で、伝熱学会がいま現実にどんな課題を越えようとしているのか、と自問し産業革命、機械文明の歴史を辿りながらグリーンイノベーションに言及しました。


精密工学会から東大教授の帯川利之氏が「ものづくり技術への提言」で示した設計・製造・加工分野のロードマップは圧巻でした。その導入シナリオも面白い。日本の中小、ものづくり企業はどういう運命をたどるのか、時代のトレンドに乗るために何が必要か、課題の技術者不足、枯渇の危機は切実と訴えていました。


ざっと4万人の会員を誇りまだ年間1000人規模の入会が相次ぐ自動車技術会からは、東京農工大学教授の永井正夫氏が「モビリティー社会への提言」で、農工大専売の安心・安全の技術というリスク管理の手法を披露し、とても参考になりました。「学会の垣根を越えた活動」としてカーロボティクスの動向や車が人を守るヒューマルニクスなど新鮮で注目されました。機械工学のメーンストリートの自動車が、ハイブリッドを主軸におきながら電子制御、電動技術、デジタル設計という新しいステージに入っていることを浮き彫りにしました。


日本機械学会から新潟大学教授の原利昭氏は、「豊かな生活への提言」で、人工股関節置換術(THA)が年間5万例以上及び、若年も含めて年々増加傾向にあり、その国内市場が550億規模と概略を説明した後、実際に使われる先頭のソケット、それに骨頭球を覆うインサート、そしてステムからなる構造に触れて初期から今日に至るさまざまな折損や緩み、骨折、脱臼、沈み込み、骨吸収などの対処すべき問題点を挙げ、耐用年数が15年から25年になるなど、その人工股関節置換術の全容をあますところなく解説を加え、「日本のこうした技術は海外よりはるかに優れている」と材料力学が安心安全にいかに貢献しているかを述べていました。


これは確かに凄い、と思いました。それに、医者の手術がどうだったか、が一発で判定可能とも付け加えていました。人の命を救う機械工学の真骨頂ともいうべき内容でした。豊かな生活に及ぼす機械工学の意味が、原さんの講演で初めて知りました。私の父が股関節変形症で痛み苦しんでいる実際を目のあたりにしているので、原さんのご研究は一層切実なものとして感じ入りました。それぞれに先端の取り組みをタイムリーなテーマとして扱ったところを評価したいと思います。


まだまだ続きます。こういう報告はウェブのじゃないと紹介しきれませんね。新聞は、上10段に記事を入れてもせいぜい原稿用紙4〜5枚程度です。すでにそのスペースを軽く越えています。



:熱心な意見が交わされたパネルディスカッション

さて、時間が押して16時半過ぎから岸本喜久雄氏をモデレータにパネルディスカッションに入り、上記の提言の方々に加えてパネラーに日本材料学会から立命館大学教授の上野明氏が、材料系統合化データベースの構築と有効利用について、日本航空宇宙学会から東大教授の鈴木真二氏が先端技術集約としての産業、科学技術、教育研究などの波及効果が計り知れないことに言及し、新技術分析シートや技術ポートフォリオの詳細なデータを紹介していました。


そして、最後に私の出番、岸本先生からディスカッションにふさわしいコメントとご質問をしてください、との要請があって急きょ、用意した発表の原稿を閉じて、インプロンプトでその場での仕切りをさせていただきました。吉川先生や笠木委員長に失礼がなかったか、どうか、その辺が少し気掛かりではありました。


笠木委員長は、機械工学と社会の接点がますます強まってきています。国の政策でも科学技術への期待が高い。ここは私たちにとって大事なチャンスです。学協会と一緒に自主的に主体的に(こういったシンポジウムの開催で)第一歩を踏み出し、今後も学協会の壁を越えて社会的期待に応えていきたい、と謝辞を述べました。


吉川先生は、締めのコメントで機械工学の機能や存在が目に見える点に触れながら、人間の生活に密接に関係した広範の機器やシステムの開発を目指している、とその役割の優位性を語り、「学問的には認識の科学と設計の科学の双方を牽引する」と述べ、今後の機械工学委員会や関連の研究者、技術者の奮闘に期待を寄せていました。



◇新規開設の「丸の内 インド・エコノミック・ゾーン」の将来性
 アジアの新興国をどう取り込むか、このグローバル化の波がしらを捉まえるには、何をどうすればいいのか―と思案していると、三菱地所の知人からのメールで、勢いのあるインドと日本の相互の企業進出や連携などを包括的に支援する「丸の内 インド・エコノミック・ゾーン」開設に伴う、お披露目パーティの案内があり、7月1日さっそく東京駅前の新丸ビル10階の会場へ足を運んできました。



:開設の記念パーティ会場の風景


会場は、関係者でぎっしり、すっかり国際交流の場と化していてあちらこちらで英語が飛び交っていました。いやあ、グローバル化の波がすぐ足元にきていることを感じさせていました。メディアやカメラクルーも取り囲んで、しきりとフラッシュがたかれていました。


配布資料には、世界第2位の人口を持つインドとのビジネスの連携や交流、それに進出には、互いの文化、ビジネス慣習の違いや人脈が薄いことなどがネックになってきたのではないか、と問題提起し、その深い溝を埋めるために、新たにエコノミック・ゾーンを開設した、とその意義を述べていました。


三菱地所と監査法人のトーマツグループが支援を行い、インド側から(株)サンアンドサンズアドバイザーズが加わっていました。開設したゾーンは、新丸ビル周辺の富士ビルで、その4階と7階の二つのゾーンを貸しオフィスとして提供し、すでに学術、研究論文の専門の翻訳事業を手掛ける「カクタス・コミュニケーション」(代表、・アビシェック・ゴエル氏)、日印のビジネスコンサルの「サンリンク」(会長、アフターズ・セット氏)、セット氏は元駐日インド特命全権大使です。資産運用事業の「タタ・アセットマネージメント日本駐在事務所」(代表・スィンハ・サンジーヴ氏)らが入居し活動を開始しています。


スィンハ氏は、このメルマガで取り上げた伝説の起業家、カンワル・レキさん(Mr.Kanwal Rekhi)の項にもご登場いただいたインド・日本のかけ橋となるキーマンでインド工科大学の同窓会東京支部長、(株)サンアンドサンズアドバイザーズの代表を兼ね、さらに世界的な起業家ネットワーク、TiE(The Indus Entrepreneur、インダス起業家協会)の東京支部の理事長という肩書を持って八面六臂の活躍です。30代半ばと若いが物腰が柔らかなで、すっかり日本社会に溶け込んでいるようです。当日の忙しくクライアントらの対応に追われていました。
[DNDメルマガ]シリコンバレー旋風、TiE日本上陸
[DNDメルマガ]TiE創設者から学ぶ起業家精神の実践


その他、8月から9月にかけて順次、入居する主な企業は以下の通りです。


モバイル端末の広告配信事業の「InMobi Japan」(社長、天畠秀隆氏)、省エネシステムの提案や開発の「中央電力」(社長、中村誠司氏)、ごみを原料とするバイオマス燃料の製造・開発の「クリエイティブ」(社長、木山通宏氏)などです。


近年、都市の再生事業や貸しオフィスに加え、マルチなネットワークを生かした先端の技術ベースのベンチャー支援に力を入れている三菱地所が、それらのネットワークの延長線で新たな社会貢献に動き出したことの意義は大きいと思います。いままだ入居は9社前後と少ないように見えるが、これから加速的に爆発する可能性を秘めていることは確かだと思います。その理由は、そのネットワークの背景に連携する人々の「確かな信頼」に裏打ちされているからです。「丸の内インド・エコノミック・ゾーン」の将来像を貴方ならどのように描きますか。



:木村社長(左端)とスィンハ氏(右から2番目)

開設のパーティには、三菱地所の木村惠司社長、トーマツグループ代表の佐藤良二氏らが挨拶に立ち、外務省、経済産業省から祝辞が相次ぎました。木村社長は、インド経済が著しく発展しやがて世界経済のエンジンになっていく、との見通しとは裏腹に相互の進出の立ち遅れについて具体的な数字をあげて説明をし、「しかしインドは大きすぎて誰とどのようにコンタクトをとっていいかわからない。その辺に着目しました」とその動機を明かしていました。そして、三菱地所として街づくりを通じて情報発信をしていきたい、インドと日本の企業相互の進出を可能にし、加えてインドの経済社会の発展に貢献していきた、と抱負を語っていました。



:ジャーナリストのアニータさん

インドから国際ジャーナリストでノルウェー大使夫人のアニータ・プラタップさんが講演し、インドと日本の歴史的経緯からその共通点と違いに言及し、「恐れることも不安になる必要もない。違いを認識し、その違いを尊重し感謝していけば相互にチャンスが生まれ、その可能性は計り知れない」と話していました。違いがあるからこそ、そこに可能性を秘める、という違いを肯定する発想はすばらしい。この模様は、NHK夜9時のニュースで放映され、一瞬、ちらっと頭部の薄い大きな笑顔が映し出されました。



◇天晴れ!第30回J.U.E.L. CUPとJudge
 さて、7月3日は、東京・白金台にある、瀟洒な佇まいの明治学院大学のキャンパスで終日、英語とのお付き合いでした。関東学生英語会連盟が主催する英語のスピーチコンテスト、伝統の第30回J.U.E.L. CUPのJudgeとして参加しました。大学の予選やテープ審査、それに地区予選を勝ち抜いたファイナリスト10人の競演は、英語も見事でどれも素晴らしい内容でした。また運営に携わる実行委員会の多くの縁の下の働きもご立派、実行委員長の津田塾大、森嶋絵葉さん、judge担当で早稲田大の中山恵理子さん、アシスタントで津田塾大の大類由佳里さんら、お疲れ様でした。


朝10時半から夜8時すぎまでのhard workでしたが、なんだか涙がでるくらい感激したのはなぜ?懸命に明日を拓こうとする若者の姿に、ほぼ40年余りになる遠い日の自分を重ね合わせていたからかもしれません。あの日、19歳、私も英語コンテストのファイナルのステージに立っていました。


スピーチコンテストの模様とスピーカーの練られた原稿の解説、それに私の思いを加えれば、大変長い原稿になるのでこれは次回以降に譲ります。どうぞ、お楽しみに。


上智、立命館、早稲田、同志社、慶応、京都、青山学院、関西、一橋、関西学院などのSpeakerのみんな、Good Job!


優勝はMr.Tatsuki Fujii KwanseiGakuin
準優勝は、Mr.Takahiko Ueno Hitotsubashi Univ.
3位はMr. Tomohiko Sano Kyoto Univ.でした。


今時の若者は、大した度胸です。先生方は、このことを知っていますか?ぜひ、講義やゼミで彼らの名前を見つけたら激励してあげてくださいね。



◇もうひとつのDNDコラム
「Rapidly」:人の噂も7.5日
 Globalizationのインパクトを持ちださずとも、世界が勢い狭くフラット化し、それにつれて情報量が空恐ろしいほど加速していきます。その膨大な情報が錯綜しながら溢れるのだが、人の記憶に長らくとどまってはくれない。その状況はまさにRapidly、あまりにも急激な感じがしてきませんか。少しでも事の深層に迫ろうと構えてみると、その対象がぎゅむっと歪んだと思ったら、たちまち残像となって遠くに霞んでしまう。


飛ぶように過ぎさる車窓からの景色のようです。瞬時に、しかも次々と現れては消えるその社会事象の本質を捉えることが、いよいよ難しい状況になってきたのではないか。


歴史を刻む世界の街角なら歩き回ればいいものを気がついたら専用ジェットで飛び回っている感覚です。その表層をさらっとなでておしまいだから、偶然の発見や驚きの感動も薄れ、大切なものを品定めする余裕すらない。これでは少しも追憶の糧にならないし、ひょいと口に入れたら呑みこむしか手がない。噛んで味わって、ゆっくりそしゃくする時間がないのです。


日本代表のW杯が終わり、主軸の本田圭介の無回転シュートのメカニズムを解き明かす間もなく、ベンチできつい表情の中村俊輔の思いにも触れずじまいで、あれよという間に場面が変わってタイミングを逸した。ベンチで何を思ったか、影の薄い俊輔、チームメートから孤立してはいないか、帰国後の空港でひとり厳しい表情の俊輔、彼は耐え続けていたのだろうか…私には、その明暗を分けた人間ストーリーとしての興味が尽きない。


俊輔を捨てた岡田監督にどんな葛藤があったか。が、エースの飼い殺しはやっぱり罪深いことと思うし、もう少し選手起用に工夫があってもよかった。いやいや勝負のために最善の起用に容赦はない、という意見もある。その扱いは、たったひとりの監督にまかされている。俊輔にしてみれば、2度にわたる屈辱のW杯となってしまった。そんな吹き荒れた思いも、しかしいつしか次第に霞んでいくのです。


同じ時期の小惑星探査機「はやぶさ」帰還の快挙、回収したカプセルに「イトカワ」の微粒子が入っているらしいことが明らかになって、俄然、宇宙誕生の謎に迫る、という興味を引いています。その確かな分析結果は8月下旬ごろを待たねばなりません。しかし、私の関心は、大気圏再突入で実証した3000度超えの高耐熱の優れたカプセルの製造までの足取りでした。


1999年の秋、3工場を閉鎖、2万1000人のリストラ。日産の大リストラで、日産の宇宙航空事業部は、IHIが事業部ごと買い取り、社員全員が新会社に移った。それが、IHIエアロスペースでした。群馬県富岡にあるその研究所が、今回の高耐熱のカプセルを開発、製造したとある。それらを見聞きすると、その10年前の日産からIHIへの事業部の移籍という、もうひとつのドラマチックな物語が潜んでいることに気づきます。もっと詳しく、より深く取材を進めるのにどれだけの時間と手間が必要か、私の気持ちがそれ以来、前のめりになったままで、そのタイミングがやはり少しずつ確実に世間の空気とにズレが生じていくのを禁じ得ません。車窓からまた大切は景色が消えていくのです。


さらに宮崎県内の深刻な口蹄疫問題、これも宮崎の知人に連絡を取り、肝心の埋却処分が一向にすすまない理由に不審を持ちました。牛や豚への感染で眠られぬショックを抱えながら、埋却処分地の確保の責任まで押し付けられた農家が右往左往しているという状況を知った。その土地の確保は、東京で眺めていては分からないが、実際は容易じゃない。近隣の同意をも農家がとって歩かねばならず、それらがしばらくこの問題の最大のネックになっていたし、そして埋却を阻む連日の雨が重なって災いが拡散した、という状況をメルマガで詰め切りたかった。が、これもそのまま時間切れとなってしまった。


人の噂も75日という。今は、7.5日ぐらいでしょうか。これら世間の注視をあびた大きなニュースが、わずか10余りしかたっていないのに、でも遥か遠い日の事のように忘れ去られていくのです。特許庁の汚職って、もうとっくにお蔵入り。その伝でいくと、野球賭博の相撲協会とて、本来ならとっくに警視庁の強制捜査で幕となるのだが、協会のゴタゴタがダメージを拡散し、名古屋場所の扱いをめぐる混乱、NHKの放映中止などがいっそう世間の耳目をかき立てたかのようです。これも真夏には忘れさられていくでしょう。


そして…毎度の混迷極まる政局。11日投開票の参院選挙を目前に与野党入り乱れての舌戦がヒートアップしています。が、なんだか無党派に秋風が吹いて、この国はどうなっちゃうのでしょうかね。


メディアは坂道を転がり始めた菅政権と煽るが、考えればその政権発足からまだ1ケ月足らずです。もうしばらく長い目で見てあげればよい、という意見もあるが、消費税導入発言で墓穴を掘ったのは菅さんご自身で、やっちゃいけないことをわかっていながら、その言動が大きく揺れる。消費税10%の導入は避けられない財政事情にある、というのは誰もが認識をしている事実です。


菅さんのその最初の英断はよかったが、支持率がにわかに急落すると素知らぬ顔で言い方を変え、他党からの口撃に対しては「言っていない」と微妙に言葉を濁して逃げる。このブレが、一番印象が悪い。鳩山政権の躓きを学習していないのでしょうか。


「10%をめどにやる。数字や使い道は各党との調整の範囲」として、あのまま筋を通せば歴史に残る名宰相、そこであたふたと揺れて逃げれば三流の迷宰相に落ちていくわけです。菅さんは、選挙の結果次第ではこの発言の責任を取らねばならないでしょう。


各党の党首討論で、『1対8』のつるし上げを恐れて逆質問を連発する嘘に出ましたね。攻撃が最大の防御というのかしら。無党派層の票を競う、みんなの党の渡辺喜美氏にはとくに集中的に攻め立てていました。いやあ、政権政党の党首で総裁という立場における"品格"の危うさが見事に透けて見えた気がしました。すると、そんな風当たりがあったのか、やや神妙に言葉を選んで行儀よくしている風です。


まあ、これまでの菅さんお得意の先制攻撃はアンフェアに映るし、人の過去の言質を引っ張り出して叩くという小手先の対応では、やや質が落ちます。なんとなくこういう団塊世代の癖が正直表にでちゃうのですね。横綱相撲で、どーんと胸を貸してあげるぐらいの度量がほしい、とみんな期待していると思います。


「それにしても、鳩山首相と小沢一郎幹事長がダブルで辞任して世論調査の支持率が跳ね上がったのは、わずか1ケ月前だったのに、遠い昔のことのようだ」―とは、今週のアエラの『「民53、自39、み10」の予測』の記事でした。同じような思いを抱いているのですね。その末尾には、「歴史的大勝をおさめてから1年もたっていないのに、民主党政権は泥船と化してしまうのか」と疑問視していました。いったい、この変幻著しい民意をどうとらえればよいのか、戸惑ってしまいます。


メディアからの一次的な情報で、ぐわーっとまず動き、その振動が片側に強く振られると、今度は振り子のように逆に力が加わるのでしょうか。安易に、簡単に、それほどの動機も理由もなく右に左に動いてします。まるで、表層雪崩のように、ちょっとした亀裂が連鎖して一瞬にして大きな破壊力を持ってしまうのです。


投票日まで残すところ4日、管政権発足直後の高い支持率から一転して毎週10ポイントずつ支持率が下落しています。そのスピードが11日までどういう勢いで加速するか、その本番当日の投票を予測するのは難しいが、菅さん逃げ切れるか、どうか。


参院選はいつも事前のメディアの予測を裏切って、思いもよらぬ劇的な結果をもたらすことがしばしばです。民主党の支持率が下げ止まるか、急落といっても鳩山政権よりはるかに良いのは確かですからね。それにみんなの党の初陣の実力は?さて、本当にどこまで票を伸ばせるのでしょうか。みんなの党の支持率が10ポイントを超えるメディアもあれば、NHKのように3.7ポイントという数字もあり、その幅が大きい。選挙後の再編と絡んで、これからまだ熱い夏が続きそうです。


さて、11日当時の天候は、全国的に曇り、降水確率は関東が40%、関西が50%と出ています。選挙には、あんまり好天もよくないし、豪雨はさらに悪い。どんよりした曇り空の方が投票率は上がる傾向にある、というが、どうなりますことやら。10日、11日の両日は、北海道小樽で、「地域活性化学会」が開かれます。こちらも選挙以上の熱い語らいがあることでしょう。今回は辞退して次回はぜひ、倉敷市役所の出水さんのお誘いにお応えしないといけません。


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◇【コラム】黒川清氏の『学術の風』は、「タフな東大生を育てる」:東京大学の講義シリーズ」
◇【連載】経済産業省の石黒憲彦氏の『志本主義のススメ』の第144回「医療・介護関連産業は成長産業になるか?(その1)」
◇【連載】特許庁の橋本正洋氏の『イノベーション戦略と知財』の第25回「科学と技術とイノベーション−(その1)侍ジャパンと日本の強さ」
◇【連載】東京大学産学連携本部の山城宗久氏の『一隅を照らすの記』の第25回「市ケ谷にて」の巻
※【コラム&連載】のコメントは、メルマガのボリュームの関係で次回に譲ります。連載企画のコーナーやトップページにはアップいたします。



【一押し情報】坂田一郎東大教授の『やさしい経済学』
 東京大学教授の坂田一郎氏の執筆による日経新聞『やさしい経済学』の連載が本日から始りました。坂田氏によると、日本ではあまり注目されてこなかったイノベーション・技術マネイジメントの技法(ネットワーク理論の周辺に限られますが)や今後の可能性について、紹介できればと考えています、とコメントしています。坂田氏、または橋本正洋氏らのご研究になるこのネットワーク理論を敷衍していくと、「サイエンスと産業技術の関係」が浮かびあがるし、「技術ロードマップの策定や企業の技術戦略検討の知的なインフラになる」との期待が寄せられています。


ただ、この分野の論文数では、東大でも世界の40位以下にすぎず、国際競争力の観点からも坂田氏らによる、「ネットワーク理論のイノベーション政策への応用」へのアプローチは、ますます重要さを増してきそうです。


『やさしい経済学』は、そのタイトルを鵜呑みにすると大変で、そんなにやさしくはないので、心してください。が、坂田氏は、それを噛んで含めるように記述していきたいと、話しております。ご期待下さい。私としてもこれもまたじっくり構えて、しっかり書き込んでみたいテーマのひとつです。


記憶を記録に!DNDメディア塾
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