◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/01/28 http://dndi.jp/

TiE創設者から学ぶ起業家精神の実践

 〜Mr.Kanwal Rekhiが31日、九州大学、福岡に!〜
 〜TiE東京支部設立が29日、東京21cクラブ主催で〜
 〜VECがVCの投資動向調査の報告書発表〜

DNDメディア局の出口です。新しい人の夢、まずそこから始まって、それが 人から人へ伝わって多くの人を動かし、そしてまた新しい人へ…物事の道理は、 いつもこの繰り返しかも知れません。人がやっていることばかりを追いかけて 横取りしてみたり、傍観的な立場から批判ばかりしていては、どんな肩書きを ちらつかせて気取っても所詮、貧困なる精神は、すぐに見破られてしまいます。 やっぱり、その最初のひとり、その存在、その一歩なのですね。


伝説の起業家、カンワル・レキさん(Mr.Kanwal Rekhi)が、福岡にやって くる〜。


知人からのそんなイベントの案内で、レキさんのことを調べてみると、この 物語は、「フラット化する世界」の著者、トーマス・フリードマン流に言えば、 黒人初の大統領に就任したオバマさんのアメリカン・ドリームに少しも違わぬ、 苦難の末に成功を掴んだThe Great Indian Dream かも知れません。


この案内は、今度、アメリカ、インド、そして多くの国や都市をめぐって、 この1月、やっと日本に上陸し、その世界最大規模の起業家ネットワークとの 接点が結ばれることを伝えていました。その点と線の結び目に三菱地所の田中 克徳さんや九州大学の五十嵐伸吾さんら、人と人との絆があって、それがこの 29日から31日と続く、東京、福岡での一連のイベントにつながったようです。 その歴史的な一歩、そこから立体へと組み上がっていく壮大なドラマの続きが また見られそうです。


が、ぼやっと金勘定しながら、よそ見していると、世界の頭脳、印僑、その 新しい時代の潮流を見失ってしまいますぞォ〜。


少し触れましょう。
 レキさんは、米国シリコンバレーで成功したインド人で1992年に組織した起 業家ネットワーク、TiE(The Indus Entrepreneur、インダス起業家協会)の 創設者で、現在、爆発的にインドに起業ブームを起こしているのです。経営ノ ウハウを無償でアドバイスし、すでに一万件を超える起業を手助けしてきた、 という


TiEは、その案内の資料によると、アメリカ21支部、インド13支部、カナ ダ・パキスタンにそれぞれ3支部など世界11ケ国に49支部を数える拠点を持ち、 1800人のコアメンバーと12000人以上の参加者で構成され、起業家、ベンチ ャー・キャピタリスト、法律事務所、テクノロジーベンチャーが参加。毎年、 シリコンバレーで開催のTiEの総会には5000人を超える起業家らが各国から集 まり、数多くのゲストスピーカーのメッセージにも注目が集まっているようで す。


さて、その起業家ネットワークの中心的存在で立役者のレキさん。どんな人 物なのでしょうか。昨年夏に放映のNHKスペシャル「インドの衝撃」第3回「" 世界の頭脳"印僑を呼び戻せ」に登場し、その生い立ちが詳しく紹介されてい ました。


それによると、インターネットの技術を初めて民間で実用化し500億円の富 を築いた伝説の印僑。ニューヨーク市場にインド人として初めて上場を果たし のもレキさんでした。それを支えたのはインドで受けた独特の教育でした。学 生も教員も全寮制、その教育は深く考え、議論を戦わせることに重点を置く議 論する生活で、そこで論理的思考と人を説得する能力を磨くのだ、という。


インド北部に生まれ、インド工科大学で電気工学を専攻、国家建設を担うイ ンドの知的エリートを育てる大学というのは、よく知られています。そして、 1967年、所持金わずか8ドルで渡米、大手通信会社でエンジニアになりました。 インドは停滞し、インド人の8割が卒業後、海外に活路を求めるという時でし た。35歳、シリコンバレーの外れで事務所を構え起業。インド人は舞台裏で、 設計図を書き、裏方の仕事ばかりでした。それに満足できなかったため、独立 しようと思った、と語っていました。


当時、インド人の起業家はいません。そこで自分が最初のひとりになってや ろうと思いました。23年前、当時、研究者しか使えなかったインターネット技 術を民間でも使える装置を造った。インドでの理工系教育が役にたった…と述 懐していました。


番組では、インドで携帯電話に関する起業の相談に若い起業家が訪れていま した。レキさんは、こんなアドバイスをしていました。


「アイディアばかりにこだわっては危険、アイディアはすぐに時代遅れにな るものです。今日、魅力的でも明日になれば色褪せて見える。いい起業家は、 すぐに頭を切り替えられる人のことです。大切なのは人間性が90%なのです。 アイディアが10%」と。


次に、デジタル写真を使ったビジネス、インドとアメリカの両方で事業を狙 う若者の相談に身を乗り出していました。そして、こう指摘するのです。


「一度にふたつの市場を狙うのは難しい。私自身が学んだことですが、起業 家というのは時間をかけて市場を学ばなければなりません。どうすれば、競争 に勝てるか、ということです。ターゲットを広げ過ぎると、ターゲットをひと つに絞り込んだところに負けてしまう」と。


今度は、シリコンバレーとインドを行き来して、起業を始めやすくする活動 に専心していました。それが資金調達でした。国家の銀行の独占が長年続いた ため、銀行の自由化の後も、起業家への融資がなかなか行われていない実情か ら、TiEメンバーで起業家に投資する活動を進めているのです。


 レキさんがその考えを披瀝していました。素晴らしい考えです。


「インドが変わるためには、富への扉をたくさん開かなければなりません。 一部の人に富が集中するのではなく、お金が広く行きわたらないといけません。 それには厳しい審査をパスしなければなりません」。


「起業家が成功を収めれば多くの人が豊かになれます。たくさん雇用を生み、 富をもたらし、誰でも勝者となるのです。成功が生まれれば、インディアン・ ドリームを起こすことができます」。


 成功や失敗、その経営ノウハウや哲学を惜しみなく伝授し、そして現実に投 資してお互いにリスクを共有しながら、成功体験を積み重ねていく、このよう な世界最大規模の起業家ネットワークが、日本にみあたらないのは、なぜなの でしょうか、と考え込んでしまいます。また、派遣切りで雇用環境が著しく悪 化しているご時世ですが、最初の、自立の一歩がどれほど大切なことか、身に しみてくるようです。インドといえば、11億の人口を抱え21世紀の主役に躍り 出る、と指摘されています。が、まだまだ貧困があるものの、起業への意欲や 夢がある限り、その未来の可能性は無限なのです。


さて、そのTiE、その東京支部がこの1月に新たに設立される運びとなったこ とは、大変な朗報です。東京支部の代表には、インド工科大学(IIT)の同窓 会東京支部長で、(株)サンアンドサンズアドバイザーズの社長、サンシー ヴ・スィンハさん(Mr.Sanjeev Sinha)が就任し、五十嵐さんもその栄誉ある コアメンバーに推挙され、活動の一端を担う、という。


その五十嵐さんからの案内は、このDNDメルマガで何回か紹介しています、 彼が主宰するVB情報交換のネットワーク広場「WINWIN」に投稿されたものでし た。それが、なんとTiEと九州大学VBLとの国際シンポジウムに関するもので、 伝説の起業家、レキさんがゲストスピーカーとして、インドの起業家仲間を伴 って米国シリコンバレーから福岡にやってくる、というものでした。あわてた のはこの私、ともかく後先のスケジュールはさておいて、急ぎ飛行機の安いチ ケットを押さえたほどでした。なんか、つい興奮して…。


その国際シンポは、『T.i.Eの活動から学ぶグローバル・アントレプレナー シップ〜地域と世界を繋ぐコミュニティの役割』で、31日(土)午後13時から、 福岡市中央区の西日本新聞会館「福岡国際ホール大ホールB」で開催されます。 申し込みの締め切りは、本日28日です。詳細は以下のURLから。
http://imaq.kyushu-u.ac.jp/seminar/detail.php?SRN=191


ほんとうにレキさんが福岡に来て、基調講演をされるのですね。いやいや… 凄いことです。東京支部の代表のスィンハさんも、レキさんの後に続いて講演 されます。日本からは、「日本におけるアントレプレナーシップ」と題して、 経済同友会副代表幹事で、フューチャーアーキテクト(株)の会長兼CEOの金 丸恭文さんが登壇します。冒頭の歓迎の挨拶には、九州大学の副学長、安浦寛 人さん、福岡市長の吉田宏さんらがかけつける予定で、司会は五十嵐さん。


主催者の九州大学VBLラボラトリー長で教授の谷川徹さんは、その開催趣旨 に触れて、欧米の起業家精神は、「起業だけを示す概念ではなく、変化の中に 機会を見出し、この機会の実現を目指す行動を含む広い概念である」と説明し、 Entrepreneurshipを持った人材の活躍こそが、今日の危機対処の重要な要素で ある、と指摘していました。


その通りですね。その主題のEntrepreneurshipの意味が少し明確になってく るようです。目から鱗です。なんでも誰かの責任にするのではない。この難局 に、どういうマインドで挑むか、危機をチャンスに変える、自立的で確かなEn trepreneurshipの処方が求められるのかもしれません。


TiEの東京支部設立のセレモニーは、実はそれに伴って、東京駅のまん前の 丸ビルホールで29日午後14時から、「Entrepreneurship &Globalization」と 題してざっと4部構成で開催されることが決まっていました。協力団体に三菱 地所が加わっていました。そこが運営する、日本創生をテーマに知識創造の場 づくりを目指す、東京21cクラブ、いわばここが民間ベースで数少ない確かな 起業家ネットワークといえるかもしれません。ここもWINWINに活動の場を提供 してくださることが多いところですね。


聞くと、そもそもの始まりは、スィンハさんが会員制の東京21cクラブに入 会する際、そのケアをしていた東京21cクラブの責任者の田中克徳さんと懇意 になったことからでした。TiEの東京支部の晴れやかなオープニングを記念す るイベントが、そこから持ち上がり、九州大学の五十嵐さんのルートは、スィ ンハさんを30日の五十嵐さんの授業の一環で行っている起業家セミナーに、講 師として招いたところ、シリコンバレーからのご一行とレキさんも福岡にお連 れしてもかまわない、という具合に発展していくのですね。


個人的には田中さんとは、五十嵐さんのご紹介で、もうかれこれ6年ぐらい になるでしょうか。肩書は変わってもその部署に責任をもって長くいてくれる、 というのは"顔が命"のネットワークには欠かせない要件かもしれません。


さて、東京のステージは、これは凄いことになっていました。


1部の「Globalizing Entrepreneurship」では、レキさんを囲んで、数々の 起業で成功をおさめるイー・モバイルの会長兼CEOの千本倖生さん、ビジネス のプロを養成する丸の内「西岡塾」で熱が入るモバイル・インターネットキャ ピタル(株)の代表取締役、西岡郁夫さん、それにインドIT産業のパイオニア のアルジュン・マルホトラ氏、モデレータはIT業界やベンチャーに詳しい日本 経済新聞の論説委員、関口和一さん。まあ、そのほか、ゲストに元ソニー会長 兼グループCEOで、TiEのシリコンバレーのカンファレンスでスピーチに招かれ たことがある出井伸之さん、締めのスピーチに三菱地所の取締役の伊藤裕慶さ んまで数えてざっと24人、豪華ではなやかな舞台になることでしょう。


2部から4部のパネラーやモデレータには、監査法人トーマツの北地達明さん、 慶応の教授でエコカーEllicaの開発者の清水浩さん、北海道ベンチャーキャピ タル社長の松田一敬さん、起業家教育に熱心で企業の研修なども手掛ける (株)セルフウイング社長の平井由紀子さんら、WINWINなじみの顔ぶれが登壇 するのですね。東京のイベントのアナウンスは、北海道の松田さんからで、さ っそく東京21cクラブの窓口の田中克徳さんからご招待のお誘いがありました。 感謝です。
詳細は、以下のURLでご覧になれます。
http://www.tiejapan.org/0129/


さて、21世紀はインドの時代、その世界の頭脳のひらめきは、私たちにどの ようなメッセージを伝えてくれるのか、東京、福岡の両会場のご盛会を期待す ると同時に、これが次のステップにつながる新たなスタートとなることを期待 したいものです。これが縁で、わが国から多くの新しい産業の担い手となる起 業家の誕生を心から願ってやみません。


五十嵐さん、福岡へ行きますから、ね。近隣の皆さん、どうぞ、会場で見か けましたら、お声かけください。



◇      ◇       ◇
■(財)ベンチャーエンタープライズセンターが本日、VCの投資動向や大学発 バイオベンチャーのEXIT戦略の見通しなどを調査、分析した調査報告書をまと め、ウェブ上にアップしました。
http://www.vec.or.jp/


この詳細は、後日、DNDメルマガでもお伝えします。主な内容は、以下の通 りです。


・第1章 2008年ベンチャービジネスの回顧と展望
・第2章 バイオベンチャー
     <別添>ベンチャー企業一般に対する緊急調査の結果概要
・第3章 日本のVC投資を取巻く環境と課題
・アンケートに基づくデータ編(データ編表紙、1〜6)



記憶を記録に!DNDメディア塾
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