第51回 デ・ブ戦略分科会?


「何のこと?」

 デ・ブ、といっても筆者のことではありません。この10月21日、日本知財学会に正式にデザイン・ブランド戦略分科会が設立されました。略してデ・ブ戦略分科会?


 日本知財学会の年次総会に参加すると、知財といってもほとんどが特許に関する研究発表で、商標、意匠に関する発表が少ないのが筆者としてはもの足りませんでした。そこで、たまたま研究室OBの懇親会で再会した立命館大学MOT准教授の小田哲明弁理士と、知財学会にこの分野の分科会を設立することで意気投合し、旧知の先生方にも幹事をお願いして、設立を学会理事会に申請し、晴れて承認されたものです。


 代表幹事を引き受けていただいた小田先生による趣意書は以下のような檄文です。曰く、
 『我が国の技術力は世界トップクラスである。これは我が国が研究開発及び技術マネジメントに力を入れてきた成果であり、これらの成果に関する知的財産は、主に特許という形で保護されている。一方、モジュール化や標準化に伴いオープンイノベーションが進展し、またグローバル化により国際競争が激化し、さらにライフサイクルが短くなっていく中、技術力のみによって競争優位を確保することが困難となっており、技術以外の戦略により付加価値を付与しようとする動きになりつつある。それが、デザイン及びブランド戦略である。我が国のデザイン力は国際的にも高く評価され、技術に裏打ちされたブランド力も確立されてきた。しかしながら、高いデザイン・ブランド力が、競争優位を確保するために戦略的に十分に活用されているかどうかば疑問であり、中小企業のみならず大企業においても、欧米や韓国企業に比べてデザイン・ブランド戦略が不十分であるとの指摘もある。また、デザイン及びブランドに関する知的財産は、主として意匠権及び商標権として保護されているが、企業におけるデザイン・ブランド戦略の多様化や市場のグローバル化に対応するため、これらの保護制度のあり方についても本格的な見直しが必要との指摘がある。
 そこで、本分科会を設立し、知的財産としてのデザイン・ブランドの活用・保護に向けた戦略を研究する。すなわち、本分科会では、デザイン・ブランド戦略において、これらの知的財産を競争的資源として、市場における競争優位を確保し、または新たな市場を確立するためのデザイン・ブランド戦略を分析、解析、提案する。また、デザイン・ブランドの知的財産保護標制度について分析し、そのあり方について提案する。』



「デ・ブ戦略の重要性」

 余分なことですが、筆者が意匠権と商標権の担当部長だからというだけで、こうしたことを主張するのではありません。


 DNDの「イノベーション戦略と知財」第45回で、デザインの有用性について、企業のブランド価値を高めることをお話し、それだけではなくデザインそのものがコストダウンに資することをはじめとした経営への様々な価値があることをご紹介しました。企業戦略として、すでに重要性が指摘されている(*i)のが、MOTの次の新しい方向性である、MOD・B(Management of Design and Brand)なのです。おりしも、直近の日本知財学会誌は「デザイン知財マネジメントとは ―デザインマネジメントとデザイン知財マネジメント」の特集です。筆者も一文寄せていますのでご一読ください。


 分科会の幹事の一人、妹尾堅一郎氏は、その近著、「技術力で勝る日本が、なぜ事業で負けるのか」(ダイヤモンド社)にあるように、経営戦略としての知財戦略においては、特許だけでなく意匠で技術やブランドを保護すべきとの指摘をされています。特に、妹尾先生は、ブランド保護とともに、技術とデザインの関係を捉えて、製品の付加価値向上のため、デザイン開発を戦略的に活用すべき、と熱く話してくださいます。妹尾先生の注目するケースは例えば米アップル社の戦略ですが、今般のサムソン社との訴訟案件を見ると、特許紛争との報道が当初ありましたが、実際の中味は、トレードドレスやデザインパテントにかかるものが多く含まれており、アップル社の競争上のデザイン・ブランド戦略を垣間見ることができます。


 このように、多くのグローバル企業が、極めて強いデ・ブ戦略を持って闘っています。



「日本企業にデ・ブ戦略はあるか」

 もちろん、日本企業にも、強い戦略はありました。しかし、かつてその清新なデザインに裏打ちされて高いブランド力を誇った電子企業の凋落や安全性の問題でブランドを大きく毀損した食品企業などの例を見るにつけ、「どうした、日本企業!」と嘆息が出てしまいことが多くなりました。また、筆者が業務上関わってきた海外での冒認(悪意ある)商標登録事案を見ると、日本企業の知財戦略の不十分さも原因のひとつと思えることがあります。


 一方、第44回で紹介した、これも分科会幹事の平野哲之(株)平野デザイン設計社長のお仕事の、最近のANAの際だったデザイン・ブランド戦略のクールさなどは、日本企業の行くべき道を示したものの一例だと思います。このようなデ・ブ戦略を巡る好例を発掘し、また悪例を探り出して、分析し、理論を抽出する、これが分科会の目指すものです。ご期待ください。



「第一回研究会のお知らせ」

 この野心的な分科会のキックオフをかねて、第一回研究会を下記の通り11月18日夕方に開催する予定です。日本知財学会会員の皆様だけでなく、広くご興味のある方のご参加を期待しております。なお、参加お申し込みについては、知財学会HPをご覧ください。


 『日本知財学会 デザイン・ブランド戦略分科会 第一回研究会』
@ 分科会活動方針のご紹介
 代表幹事:小田哲明(日翔特許事務所副所長、立命館大学准教授)
A 基調講演
 「日本企業のデザイン・ブランド戦略」(仮題)
 幹事:平野哲行(株式会社平野デザイン設計代表取締役社長)
B 幹事によるパネルディスカッション(出演者は予定、順不同、敬称略)
<パネリスト>
 渡部俊也(東京大学教授、日本知財学会理事〔本分科会担当〕)
 水谷直樹(水谷法律特許事務所代表・弁護士、日本知財学会理事) ※調整中
 玄場公規(立命館大学教授)
 小田哲明(再掲)
 妹尾堅一郎(NPO法人産学連携推進機構理事長)
 生越由美(東京理科大学教授) ※調整中
 杉光一成(金沢工業大学教授)
 上條由紀子(金沢工業大学准教授)
 鈴木公明(東京理科大学准教授) ※調整中
 平野哲行(再掲)
<モレデーター>
 橋本正洋(経済産業省特許庁審査業務部長)
C 特許庁より、地域団体商標2011、デザイン戦略活用事例集のご紹介


 幹事はお忙しい方ばかりで、全員そろうかどうか自信はありませんが、デ・ブ戦略を議論して行くには、なかなかの顔ぶれでしょう?今後、幹事及びゲストに有識者をお呼びして、デザイン・ブランド戦略の研究を深めていきたいと思います。ご期待ください。



(@) 一橋ビジネスレビュー 2007年AUT.55巻2号は、「デザインと競争力」特集でした。




記事一覧へ