第45回 デジタル時代のブランド・デザイン戦略その2


 私たちの生活に大きな変化をもたらしている最近のデジタル時代の到来は、知財分野にどう影響しているのでしょうか。


「デジタル時代と知財の課題」
 特許の分野ではデジタル関連の出願が増えていますが、意匠、商標の知財保護の在り方も変化が生じつつあります。特許庁では、昨年から産業構造審議会知的財産政策部会商標小委員会に於いて、新商標の導入について検討を行っています。新商標というのは、これまでの伝統的な商標、つまり商品の名前や図形との組み合わせからなるものではなく、音の商標、動く商標などを指します。例えばTVコマーシャルで良く聞く、企業名をメロディをつけて発声するものや、特定の音で企業や商品を現すもの、これは「音の商標」です。そして動く商標とは、コマーシャルや映画、インターネットなどで使われている企業ロゴがアニメーションになっているものなどを言います。他に、ホログラムなども検討対象です。特に音の商標や動く商標は、商品につけるものではありませんでしたが、デジタル時代になって、身近に携帯機器などが増えてくると、それ自体が商品や企業をイメージさせる「識別性」を有しており、さらに機器の操作画面上に商標として表示されることも行われるようになってきました。現行商標法の商標の定義においては「文字、図形、記号若しくは立体的形状若しくはこれの結合またはこれらと色彩との結合」とされていますが、非伝統的な音などの商標は、この法律の定める範囲に収まっていないとの考えから新商標の導入に向けた検討をはじめています。


「操作画面:Graphical User Interfaceのデザイン」

 一方、意匠の世界でも、テレビや携帯電話などの操作画面上のいろいろなデザインは、既に意匠権で保護されています。操作に用いられる画面デザインは、2006年に意匠法を改正し、家電や情報機器等の表示部に表示される操作画像について、物品の部分の意匠として保護の対象としました(図はメニュー画面や入力画面の意匠登録の例です)。しかしながら、画面上で動くアニメーションのデザインについては現行基準では対象になっていません。最近では、3DTVの普及開始により3Dの画像表現が注目を浴びていますが、新たな技術による多様な画像表現の出現が今後も予想されます。


 このような動く商標や、動く意匠などは、デジタル化の急激な進展により、従来の商標法、意匠法では保護しきれない新しいブランド、デザインの出現ととらえることができ、特許庁としても早急に対応する必要があります。


「意匠審査基準の改訂」
 新商標については、産業構造審議会の検討を速やかに行って法案の作成に取り組むこととしております。


 新しい意匠の保護についても検討を進めており(i)、特に、基準等の改正で達成できる以下の点については速やかに対応していきます。


 現在意匠小委員会意匠基準WGで検討中の見直し案は、(1)部分意匠の図面提出要件の見直しと(2)画面デザインの登録要件の明確化です。特に、これまで一の静止画像を一つの意匠と認定していた考え方から、アニメーション的に変化の態様を示す複数の画像の総体を、変化を伴う一つの意匠と認定すること等とし、所要の基準改正を行う予定です。5月10日の第6回WGで改訂意匠審査基準(案)が了承されましたので、5月中旬〜6月中旬にかけてパブリックコメントを実施し、早ければ7月にも改訂意匠審査基準の決定、周知、運用開始を考えています(ii)。


 以上、駆け足でブランド・デザイン戦略を概説しました。課題山積、といったところですが、知財の新たな活用分野として今後、一層脚光をあびていくことでしょう。



i.平成23年2月4日第13回意匠制度小委員会資料に概要を説明しています。
A. 本件に関するお問い合わせ先は、下記宛どうぞ。
特許庁審査業務部意匠課意匠審査基準室   担当者:内藤、前畑
TEL:03-3581-1101(内線:2910) E-mail:PA1D00@jpo.go.jp



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