第52回 地球温暖化対策について、最近、思うこと


 最近、2020年におけるCO2排出削減目標として、日本はどのような目標を掲げるべきかという選択についての新聞記事やTVの報道をよく目にするようになりました。ご承知のとおり、これは2020年におけるCO2排出削減目標(いわゆる「中期目標」)を決定し、「京都議定書」の義務期間が終了する2013年以降のCO2排出削減の取り組みのあり方を国際間で合意するために、日本としての提案をまとめ、国際的な検討の場に提案する期限(6月末)が近づいているためです。


 政府は昨年の3月から首相官邸に「地球温暖化問題に関する検討会」を設け、11月にはその下部組織として「中期目標検討委員会」を設けて、各界の有識者の参加を得て「中期目標」のあり方についての議論を行っています。そういえば、黒川清先生もこの検討会のメンバーでいらっしゃいますね。私は、公表された資料から推し量るだけですが、「中期目標検討委員会」は、これまでに7回の会合を開き、精緻な分析と密度の濃い議論を行って、日本が国際社会に提案すべき「中期目標」の案を6つの選択肢としてまとめました。そして、その選択のあり方について5月16日までの期限で、パブリック・コメントを募集して幅広い国民の意見を求めました。これに関して日本経団連がつい2週間ほど前に、選択肢@の「2005年比−4%、1990年比+4%」を選択したことに対して、斉藤環境大臣が「そのような目標では世界の笑いものになる」と発言したことが、結構、大きな波紋を生んだことは、皆さんの記憶に新しいところだろうと思います。


 一人の国民として、この日本の将来にとって重要な問題についての選択のあり方については、私には私なりの意見がありますし、実際に意見も提出しましたが、ここでは個人の意見は措いて、この選択の問題に関して、最近、いくつか気になったことを書いてみたいと思います。


 そのひとつは、やや瑣末なことかもしれませんが、マスコミによる6つの選択肢の「呼び方」です。6つの選択肢については、皆さんは既にご存知と思いますし、首相官邸のHPをみていただくと個々の選択肢の記述ぶりについてご覧いただくことができるので、ここに、再度、書くことはしませんが、最近、新聞やTVは、日本経団連が選択した選択肢@を指す際に、何故か、この案を「4%増」案と呼んでいます。実は、削減目標の基準年を2005年とするのか1990年とするのかについても国際間で意見の相違があり、日本は2005年を基準年とすべきと主張しているはずです。また、選択肢の書きぶりは、「2005年比−4%、1990年比+4%」なのですが、これを何故「4%減」でなく、「4%増」案と呼ぶのでしょうか。


 このパブリック・コメントの集計状況については、先週の週末ごろ新聞で報道され始めました。大体、大勢が見えてきたのでしょう。新聞報道では、意見は「4%増」案と「25%減」案に国民の意見は二分しているというものでした。実際の集計結果の速報は5月24日に内閣官房から公表されています。10,671通の意見があったそうです。この生の集計結果を見て、やや意外に感じたのは、新聞報道では上述のとおり、6つの選択肢のうち、選択肢@の「2005年比−4%、1990年比+4%」と選択肢Eの「2005年比−30%、1990年比−25%」(いわゆる"最も緩い案"と"最も厳しい案":こういう呼び方は価値観が入って危険ですが・・・。)に意見が二分したと書かれていたのですが、実際に集計された数字を見ると@は74.4%、Eは13.0%なのです。残りのA~Dの選択肢の中で一番多かったものでもAの4.8%で、後は1%以下ですから、そういう意味では@とEの意見が多かったことは事実ですが、これを「二分した」というのでしょうか?(ちなみに、実際のパブリック・コメントを募集する際の内閣官房の文書では、例えば選択肢@については、「2005年比−4%、1990年比+4%」と書かれており、「呼び方」の問題はありません。)


 また、新聞や内閣官房の公表資料によってそんなことが行われたのを後から知ったのですが、パブリック・コメントと並行して面談による世論調査も実施されたようです。この2つの世論調査をどのように取り扱うのか、2つの世論調査で何を補完し、どんな追加的な知見を得ようとしたのか、その科学的背景や意図は良く分かりません。が、とにかく面談による世論調査では、選択肢@とEに相当する案を選んだのはそれぞれ15.3%と4.9%、他方、選択肢Bの「2005年比−14%、1990年比−7%」に相当する案を選んだのは45.4%となっていて、パブリック・コメントの結果とは大きく異なります。これらの大きく異なる2つの「世論調査」から、国民からどのようなメッセージを受けたと解するのでしょうか。以前、米国の大学で社会学を勉強したときに世論調査の仕方、設問の立て方、選択肢の並べ方によって世論調査の結果は大きく異なる可能性があるために、その設計には細心の注意を払う必要があると教えられ、世論調査の一問の作成を例にとりつつ、注意を払わなければいけないことを説明するだけで1冊の本にまとめた教科書があったことを思い出すと、今後、20年、30年の日本の将来に大きな影響を与えるかもしれないような重要な選択に関する2つの世論調査を行なうに当たって、どんな専門的な配慮と検討結果があったのか知りたいところです。


 麻生総理の地球環境問題に対する姿勢は、「低炭素革命で世界をリードできる国」を目指すと大変に意欲的です。「新たな成長に向けて」と題して、一ヶ月以上前の4月9日に日本記者クラブで行ったスピーチでは、「低炭素革命」の実現のために「2020年には、エネルギー消費に占める再生可能エネルギーの比率を今より倍増して、世界最高水準の20%まで引き上げたい」とするとともに、その具体的な対策として「太陽光発電の規模を2020年までに今より20倍」、「2020年には新車の2台に1台をエコカー」にしたいなどと考えを述べられています。先のパブリック・コメント募集の際に、6つの選択肢毎に付された「各選択肢の裏づけとなっている対策」の具体的イメージは、「太陽光発電」、「次世代自動車」、「省エネ住宅」についてのものですから、これだけ見ると麻生総理のスピーチの内容は上記の6つの選択肢のうち、選択肢Bの「2005年比−14%、1990年比−7%」の裏づけとなっている対策の「太陽光、現状の10倍」、「エコカー、新車販売の50%」を上回っていることが分かります。5月25日付の日経新聞によると「温暖化ガス中期目標 『(90年比)7%減』案軸に詰め 首相、来月半ばまでに判断」と報じられていますが、大体、これまでのお考えのとおりに判断されるということでしょうか。


 ところで、これはもう2ヶ月ほど前のことになるのですが、我が家にも太陽光発電パネルを設置しないかと住宅リフォーム会社から話がありました。それも格段に良い条件での話です。何でも、平成20年度補正予算(現在、国会で審議されている平成21年度補正予算よりも一つ前の補正予算)による国土交通省のモデル事業とやらで、太陽光発電パネルの設置と同時に(どういうわけか)部屋の窓3枚を普通のアルミサッシからペアガラスに代えることが条件になっているのですが、国や市町村からのパネルの設置に対する補助金に加えて、発電パネルとペアガラス本体の設置費用の1/2を補助するという手厚いものです。我が家は、陸屋根構造ということもあり、70〜80m2程の比較的広い屋上があります。太陽発電光パネルを設置すると、今まであまり利用していなかった屋上の活用もうまくできることになるし、電気代も節約できるではないですか。そして何よりも、この格段に良い補助条件にひかれて、早速、設置に向けた具体的な検討をしてもらうことにしました。


 しかし、検討結果を見て、結局、今回、設置することはやめることにしました。設置工事費用が補助金で補填される分を差し引いても約170万円と結構高い(これは、陸屋根への設置の際には、発電パネルに角度をつけるための台の設置が必要ということも影響しています)ということもあったのですが、何よりも発電パネルを設置すると屋上のほとんどがつぶれてしまうのです。現在、有効な活用ができていないとは思っているものの、屋上がまともに利用できなくなるというのは残念です。日進月歩で技術が進歩している太陽光発電パネルの技術進歩をできるだけ待って、(でも、いろいろな政策的インセンティブのあるうちに)太陽光発電パネルのエネルギー効率と寿命が高まり、できるだけ少ない面積に収まるようになるまで待ちたいと考えたのです。


 そして、その時、同時に思ったことは、我が家には陸屋根の問題という余計な問題があることは確かだが、日本の戸建て住宅で、実際、どれほどの住宅が一定の発電量を確保できるほどの広い屋根を持っているのだろうかということでした。田舎や郊外はともかくとして、電車の窓から都会の住宅を見る限り、そんなに広い屋根を持っている家はなさそうです。結局、日本の住宅に太陽光発電が普及するためには、価格ももちろんのこと、発電パネルの発電効率がもっと高くなって、パネル面積が小さくてすむようになる必要があるのではないかと思います。


 技術革新のスピードに期待するところ大です。



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