第41回 再開し、再会へ
この連載は、2010年12月の第40回「暖かいスープで新年を迎えよう」以来、気がつけばちょうど一年間も休んでしまった。また新年が訪れ、「何か美味しいスープを飲んでいる方もいるかもしれないよ〜」と、出口氏や読者の皆さんからそのような冗談を交えた意見が聞こえて来るような気がして、今年の年初めからこそと思いを新たに、本日から、出口氏に与えて頂いたこの素晴らしいDNDの一席に戻り、この連載を再開させて頂きたい。
「中国のイノベーション」がお休みしていたこの一年の間にも、DNDでは中国のイノベーションに関連する内容が全くなくなったわけではないという事実に、筆者は非常に嬉しいというか、感心するばかりである。例えば、読者の皆さんの中で、出口氏による「中国・四川大地震の研究視察」という4回連載と、「知られざる海南島、戦略に動く海南島、愛しき海南島、魅惑の海南島」という4回連載を読まれた方は非常に多いのではなかろうか。
文筆業の素人の筆者から言うのは失礼かもしれないが、出口氏の連載を読むと、訪問先の独特な様子、登場する人間模様、実に鮮明な写真など、現地の雰囲気が溢れ出すようで、臨場感溢れる表現力にはいつも頭が下がる。特に、海南島への有難い旅は筆者も一緒だったという立場から連載を読ませていただくと、「再生可能なビデオを見ているような感じ」と出口氏に感想を伝えている。それだけではなく、その連載の行間には氏の知見やビジネスのヒントも秘められているように感じられる方も多いだろう。
さらに、これらの連載で描かれている中国的な復興へのアプローチや進め方、またグリーン産業等に戦略的に動く海南島の独特なアクションは、氏の目ではなく心で得た鮮明な「記憶」から実に生き生きした「記録」へと変わり、そこに我々は「中国のイノベーション」に関する多彩なシーンを見出したと、筆者はそのように感じて仕方がない。
ところで筆者は、昨年4月より、立教大学大学院ビジネスデザイン研究科の教授を兼任しているが、それまで7年間に渡って担当してきた「知的財産論」と「イノベーション・マネジメント」を続けると同時に、「ビジネスモデル論入門」と「比較産業クラスター論」も新設し、担当することになった。日々の実務で経験しなから、日頃から様々なことを考える習慣を若干持っていることもあり、講義で多彩な社会人院生の方々とのディスカッションはいつも時間を忘れるほど刺激的である。
また、その中の「比較産業クラスター論」という科目は、他の三つの科目とは違って、日本などとの比較を意識しつつ、「空間経済学」や「異文化経営」の視点を交え、高成長を続ける「中国の産業クラスター」に重点を置き、その背景や現状、成功要因や課題等を俯瞰的に紹介している。日本では、欧米の産業クラスターについての調査研究は以前から行われており成果も多いが、中国の産業クラスターについて体系的な調査研究は非常に少ないため、興味を持っておられる方からはいつも色々な質問をいただいている。
この講義では、時々DNDサイト、とりわけ「中国のイノベーション」連載の関連内容(時々ページそのもの)も講義の参考資料の一つとして、履修者の方々に紹介しながら解説やディスカッションを展開している。また、出口氏の週刊メルマガはもちろん、「中国のイノベーション」以外の連載もしばしば履修者の皆さんに紹介し、関心を呼んでいる。「真のグローバル化が到来」と言われている今日では、期待される産業クラスターの国際的な連携のあり方も問われており、今後も引き続き進めて行きたい。
今回は「再開のご挨拶」を兼ねて思うままに書いてみたが、次回からは、激動が続く中国の一角について、比較的なアプローチも念頭に置きながら、いままでとは違う何かの新しさを提供したいと考えている。
最後一つであるが、来る3月31日、ビジネスモデル学会春季大会が開催される予定となっており、テーマは「生活産業のアジア展開」である。大会趣旨は、以下の通りとなっている。
「2011年は、東日本大震災、超円高、欧州債務危機など、大規模な災害や変化に見舞われた年であった。また、目覚ましい技術の進歩によって企業は前例のないほど多彩な製品を生み出す一方、製品のコモディティー化が進み、価格戦争は熾烈を極めている。こうした状況の中で、製品の優位性だけではなく、製品とサービスの一体化や複合化、とりわけサービスに軸足を置いた事業展開の重要性やビジネスモデルの変革と、熱を帯びるアジアが益々注目される。
そこで、飲料、化粧品、住宅、医療、コンテンツ、消費財などといった生活産業は新たな活路をアジアに求め、日本発のサービス・イノベーションによる価値創造に力強く取り組んでいる。中国、インド、ベトナムなどの成長パワーを日本の成長戦略に取り入れるため、またアジア全体の成長に求められる日本企業の可能性やビジネスモデルのあり方を見出すため、政府、リーダー企業、学識者など産学官からの関係者が一堂に会し最新動向を共有する。」
たまたま筆者は同大会の実行委員長を拝命しているので、読者の皆さん、こちらについてはぜひ、皆さんからのご意見を下さい。
本年もぜひ、よろしくお願い致します。
<了>
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