第40回 温かいスープで新年を迎えよう



 今年の最終回は何について書こうかと、先月からあれこれ考えていた。去る11月29日午後、滋賀バイオ産業推進機構主催のバイオビジネスセミナーで話をさせて頂いた際、経産省大臣官房企画官の八山幸司氏の講演を拝聴し、長浜バイオ大学という日本唯一のバイオを対象とする単科大学を知り、非常に勉強になった。12月8日、出口氏からのお知らせで「400号達成!ご記憶にあるメルマガ募集」とあり、もう400号かこれは凄いなぁと思い応募しようと思ったら、頭に残るメルマガがありすぎてどれにしようかに迷ってしまった。色々考えていたが、その後、12月13日、時事通信より配信された下記のニュースを読み、最終回に書きたいことが決まってしまった。


 時事通信は「中国で2400年前のスープ発見」というタイトルで以下のように紹介している。


 13日付の中国英字紙チャイナ・デーリーなどによると、中国陝西省の西安市郊外でこのほど、2400年以上前のスープとみられる液体が入った青銅製の鼎(かなえ)が見つかった。保存状態はほぼ完全だったという。鼎は高さが約20センチで、戦国時代(紀元前403〜前221年)の墓から発見。ふたを開けると濁った緑色の液体が半分程度まで入っており、鶏のような鳥類の骨も10本以上漬かっていた。発掘関係者は、鼎で肉を煮て、死者とともに葬られたとみている。専門家は、スープが気化せず発見されたのは、鼎や墓が十分に密閉され乾燥を防いだためだと分析。スープの成分などをさらに調べ、戦国時代の食習慣研究に役立てる考えだ。


 この季節は特に温かいスープに目がないと自称する筆者は、このニュースを読んで思わず連想してしまう。20数年も日本に住んできた中で、やはり違うなぁと思っている日中食文化の一つはスープに関してのことである。


 何か統計的なデータはないかと思って検索してみたら、日本では「日本スープ協会(http://www.soup-japan.org/)」が存在し、ちょっと確認したらなんと12月22日はレタスクラブネットの「スープの日」だという。クノール、朝のスープシリーズ、クリームスープ、わかめスープなど、寒い冬の季節に熱々スープの湯気は人の心を温めてくれそうな気がする。


 ちなみに、同協会サイトによると、日本ではスープの分類は3種類になるという。まずは「ブイヨン」(フランス語/英語ではスープストック)を使用するかどうかで大きく2種類に分かれる。ブイヨンは日本料理の「だし」に相当するもので、牛のすね肉または鶏肉、あるいは魚肉と野菜と香辛料を長時間煮出してとったものである。これを使って調理するスープなのか否かが、多彩なスープを分類するまず一つのポイントになるという。フランス料理ではスープ全体のことを「ポタージュ」と呼ぶが、そのポタージュも、日本では一般的に2種類に分けている。澄んだスープを「コンソメ」、濃厚なスープを「ポタージュ」と呼ぶ。だから、日本におけるスープの分類は@コンソメ、Aポタージュ、及びBその他のスープという3種類になるわけである。


 続いて同サイトにある「世界のスープ」をクリックした。世界地図の上に国の名称があり、そこにはスープが例示されている。中国では「玉米湯」「ふかひれスープ」という2つの事例があり、それにクリックするとスープの写真や説明が表示される。なかなかわかりやすいなぁとも思うが、スープ好きな筆者から見れば、二つだけ説明されるのはあまりにも寂しい感じがする。2000年に出版された『中国名湯500種』によれば、中国では有名なスープだけでも500種類は存在するからである。


 そう、そこでいう「名湯」は中国語であり、「有名な温泉地」という意味ではなく、「有名なスープ」という意味。だとすれば推測される通り、日本語でいうスープに対応する中国語は「湯」(タン)である。前述した「玉米湯」や「ふかひれスープ」以外にも、たとえばトマト卵スープや酸辣湯、佛跳牆(フォーティャオチァン)、それに多彩な薬膳スープも取り上げられよう。


 ちなみに、佛跳牆というスープは乾物を主体とする様々な高級食材を数日かけて調理する福建料理の伝統的な高級スープであり、名前の由来は「あまりの美味しそうな香りに修行僧ですらお寺の塀を飛び越えて来る」という説にあるとされる。とくにこの冬の季節では、ニワトリや漢方薬剤、豚肉のエキスを長時間煮出し、クコ(枸杞)の実も入れて栄養たっぷりのスープを飲めたら最高であろう。1人30元から70元前後で中高級スープを飲んだ後ゆっくりした食事になれれば、健康にも非常に有益となろう。思わずその美味しいスープの裏にある数々の「中薬現代化」(漢方薬の現代化)の物語を知りたいね。


 この「クコの実」とは、中国原産の赤い色の木の実のことである。中国では3〜4千年前から、実だけでなく、木の葉や根の皮が薬用として利用されてきたことをご存知の方も多く居られるかと思うが、クコの実にはベータカロチンが豊富に含まれていて老化を予防し免疫力を高めてくれる。また、赤い色素に含まれているベタインという成分は、疲労回復の効果がある。その他、肝臓病や高血圧、コレステロール値の低下、動脈硬化の予防抗ガン作用や、糖尿病の治療効果、目や肌の健康にもよいと言われている。


 今年6月、週間ダイヤモンドは「今、中国の24兆円の外食市場では空前の火鍋ブームである」と言う。季節限定の菊入り白いスープと唐辛子スープの2色鍋は真夏でも人の食欲を誘うので、抵抗するのにビールが不可欠となろう。


 ところで、12月16日午後、前々回で紹介した中国技術取引所初の知財オークションは予定通りに行われた。会場は購買参加者、特に内外から見学に着た方々で満席になり、購買関係者区域と見学関係者区域が設けられており、その場にいたみんなは一点方向を見つめ、集中していた。速報的に結果を申しあげると、特許群関連は一つも成約していなかったが、単独特許は最初の「安全監視システム等」が120万元で成約してから、単独特許の全案件62件の中で28件も成約したという高い成約率で円満に閉幕した。


 本件については別途紹介したいと思っているが、実はあのオークション当日は、昼の最高気温でも零下3℃、夜は零下10℃にもなった・・・。さすがに北京の冬はいうまでもなく実に厳しい寒さであったが、知財オークション会場の溢れる熱気、そして夕方の暖かい高級スープはその寒さを一気に追い出すようなパーワーを持つと、筆者も改めて実感した。


 北京に限らず、この季節で中国のどこかへ出張となった方には、またはお正月の中国観光を予定している方には、あるいは中国に行かなくても年末の食卓では、ぜひ暖かく美味しいスープのご登場を考えたらいかがであろうか。


 出口様、読者の皆さん、一年間のご愛読を真に有難うございます!



<了>



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