第32回 間もなく日本上陸!中国から42の大学が東京に結集
1月11日午前8時過ぎ、東京よりずいぶん寒いと感じる上海市内、まず地下鉄2号線に乗って終点の「張江高科」という駅で降りた。続いてタクシーに乗り換えようとしたら、雨が降り続けているせいか、タクシー乗り場で待つ人が多く、傘をさしながら20分ほど待ってやっと乗れた。
この朝早くにどこへ向かうのか。実は上海浦東に設けられている張江国家ハイテク産業開発区の近く、張江龍東商務ホテルの2階ホールで、中国科学院上海高等研究院(中国の科学アカデミーと呼ばれる「中国科学院」と上海市政府が共同で設立準備中。)と、中国科学院「科学時報社」や「科学新聞雑誌社」との共同企画による「崛起のパワー〜自主イノベーション戦略が企業の国際化を牽引する」というハイレベルフォーラムが開催されるのであり、これは中国科学院、中国科学技術省、上海市政府関係機関、及び産業界の代表など、まさに産官学のキーマンが一堂する貴重な集会である。
基調講演を努められたのは中国科学院前副院長楊柏齢氏であり、「中国における産官学連携の政策と実践についての思考〜ハイテクを発展し、産業化を実現する」を題とした講演は予定時間の倍となった。今日、日本でも中国でも、「中国のGDPはもうすぐ日本を超えて世界で2位になるよ」という論調が高まりつつあるが、同氏による現状分析や問題提起そして将来展望はその豊富なデータや長年の見識に基づいたものであり、実に冷静であった。
楊氏を始めとする産官学の方々の講演や最後のディスカッションについては別の機会があれば紹介したいと思うが、拙稿では会場で入手した雑誌「科学新聞」新年第一期の社説に触れたい。
社説は「2010年、中国の決心」というタイトルがふられ、まずは中国にとって2009年がどのような一年だったかと問題提起し、一般に言われている「不動産復調の年」、「新型インフルエンザの年」、「気候変動の年」などを例示した後、「学術圏に限っていえば間違いなく『大学学長問題の年』であると述べた。何だこれは?と思いつつ、即読んだ。
同社説によれば、昨年の3月、4月、6月、7月、8月、9月、10月、11月に、上海大学、安徽農業大学、西南交通大学、武漢理工大学、復旦大学など10余りの大学の学長または副学長クラスの要人が、何らかの不正や違法問題で指摘されたり、免職されたり、逮捕されたりしたのである。
とはいえ、中国の大学は量的にも質的にも大きな変革の最中にあり、2000年から2005年の5年間に中国の大学・高等専科学校(中国ではよく「大専」と略称し、日本の短大に相当という説も。)の数は1041校から1792校へ7割以上も増えた。「21世紀に入ってから中国でもっとも成長している産業はおそらく大学である」と東大の丸川知雄氏は指摘する(同氏「膨れあがる中国の大学」東京大学社会科学研究所)。広東省広州市や上海市松江区には「大学城」という名の学園都市が建設されており、色々な大学のキャンパスが入っている。これらの様子が目の前に現れて、筆者も少々驚いた。
ところで、来る1月29日、30日、東京国際フォーラムにて、過去最大規模となる「日中大学フェア&フォーラム」が開催される。
これは独立行政法人科学技術振興機構中国総合研究センター、独立行政法人日本学術振興会、中国留学服務中心の共同主催により、過去最大規模となる同類のイベントであり、同公式サイトに掲載されている「開催趣旨」の一部を以下の通り引用する。
すなわち、「21世紀に入り、日中の大学が大きな変貌を遂げようとしている。日本では、2004年の国立大学法人化、高等教育・研究活動における国際競争の激化などに伴い、優秀な学生の確保や大学院教育の重点化、世界的研究教育拠点の整備、産学連携・地域振興の推進などに大きな期待が寄せられている。この中で、各大学がダイナミックな改革に取り組んでいるところである。
他方、中国では大学入学者数の急増、政府による各種重点化施策等に対応し、財務、人事、教育研究のシステム全般に関し、先進的な制度を取り入れようとする動きが顕著となっている。このような中、日中の大学が一堂に会して、各々の大学の取り組みを学ぶことは、日中両国にとってその意義は計り知れない。」
中国からも42大学が日本に上陸し、各大学の最新研究成果や技術シーズを出展すると同時に、日本の50の大学とさまざまな交流を行うという。また、同フォーラムの主題の一つはこの連載とも関係が深い「大学とサイエンスパーク・ハイテクパーク」というものであり、中国では一流大学と認められるために必要な要件の一つとなっている大学サイエンスパークも年々増え続け、2010年1月現在、その数は76箇所に上る。日本の大学発ベンチャーや産業界の方々にとっても、「日中大学フェア&フォーラム」は有益な「俯瞰や布石の場」になるのではないかと期待したいところである。
来日する42の大学の中で、北京大学、清華大学、上海交通大学、上海大学といった大学についてはご存知の方が多いと思われるが、ハルピン工業大学や西北工業大学といった工学系大学以外にも、チチハル医学院や北京大学医学部といった医学関係の大学、農業系で中国一の中国農業大学や中国唯一の農業国家ハイテク産業開発区にある西北農林科技大学、また中国のハワイと称される海南島にある海南大学や、日系企業も多く集まっている地域の一つにある蘇州大学、さらには中国美術学院や北京語言大学も参加する。この多彩な集まりから、どのような変革の種が生み出されるのだろうか。
ご関心をお持ちの方はぜひ「日中大学フェア&フォーラム」サイトへ
http://www2.convention.co.jp/jst-jcuf/
参考として、中国国家レベルの大学サイエンスパークに関する最新一覧
http://www.jctbf.org/jp/CHBW/link.0.03.sciencepark.htm
<了>
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