英知の結集−動け!日本復興 講演討論会
「日本復興に向けた講演討論会を開催」
(写真は会場風景(出口俊一氏撮影))
4月15日夜、霞ヶ関ナレッジスペースエキスパート倶楽部において、「動け!日本復興、地域再生への緊急提言」講演討論会を、定例の月例懇話会の一環として行いました。
講演者は以下のお三方です。
・松見 芳男氏 伊藤忠商事(株)理事 (写真左)
日本工学アカデミー会員有志緊急提言
「日本の再建に向けて」
・梶川 裕矢氏 東京大学 イノベーション政策研究センター特任講師 (写真中央)
化学工学会「震災に伴う東日本エネルギー危機に関する緊急提言」
・杉光 一成氏 金沢工業大学教授 知的財産科学研究所 所長 (写真右)
「知的財産を復興の原動力に」
また、私からは小宮山宏先生をはじめとする先生方の「日本の地域「新生」ビジョン」をご紹介しました。詳しくは前稿をご覧ください。
「リスクマネジメントを米国から学ぶ」
松見芳男氏は、伊藤忠商事社員として、長く米国に滞在され、米国の政界や経済界に強力なネットワークをお持ちです。そのご経験から、提言として、米国の有識者を交えた危機管理のためのアドバイザリー会議の設置、非常事態における情報発信と国際連携、原子力発電所の事故に関する経験のある米国との思い切った協力、及び社会システムの再設計を力説されました。 提言の全文は、こちらをごらんください。
「電力需要の時空間シフトー中長期的なコスト増にならない対応が必要」
続いて、化学工学会の有志を代表して、東京大学梶川裕矢氏より「大震災による東日本の電力不足に関する緊急提言」の講演がありました。東京電力管内の夏のピーク時への電力不足を詳細なデータによりシミュレーションし、特に、短期的には電力需要の時空間シフトが必要不可欠と力説されました。また、質疑の中で、この日まで東京電力が夏までに数百万kwの代替電源を確保したとの報道に関し、効率のあまり高くない小型ガスタービン発電や旧式の火力発電所の整備でまかなう場合、燃料費の上昇に加え、設備投資等の回収に長期間必要であり、結果的に日本においてこの夏だけでなく、中期的にエネルギーコストを上昇させ、日本の競争力に大きな影響を与え続けるおそれがあるとの指摘がありました。提言はこちらをご覧ください。なお、化学工学会からは、東京大学菊池康紀氏、九州大学古山通久氏、早稲田大学松方正彦氏にご参加いただきました。先生方、ありがとうございました。
「知財を復興の原動力の一つに」
金沢工業大学の杉光一成氏からは、震災で何もかもなくしたわけではない、日本には技術力があり、知財を原動力の一つとして復興を進めることが出来る、とのメッセージをいただきました。
杉光氏は、知財は地震でも津波でも「壊れない財産」であること、知的財産を活用して、サプライチェーンからの日本外しへの防御などを進めることも出来ること、知的財産担保融資や知的財産の証券化が可能であること、日本の優れた耐震関連技術は大震災で図らずも証明され、高い評価を受けたため、これらの輸出に追い風が吹いていることをご指摘されました。ちょうどこの日、杉光先生の提言が、読売新聞のwebに載ったばかりであり、タイムリーな講演となりました。
「歓迎すべきアカデミアからの活発な提言」
この講演会では、短い時間の中で、様々な課題が提起され、その解決策の方向性が示されました。アカデミアの世界から、こうした具体的な議論が出されることは、国の有り様として極めて健全であり、学界の先生方も、日頃政府を通じて国民から学術振興の支援を受けていることを認識して自発的に提言を行っていただいていることは、正しいことであり、かつ勇気づけられます。「国民の叡智を結集して」といわれますが、まさにこうした知見豊かな方々からの提言、提案の集約が、それにつながっていくのでしょう。
筆者も庁内で、来るべき夏の大停電対策として、特許庁として何が短期、中期に出来るか、うちうちの議論を始めています。特許庁は霞ヶ関の誇る大技術屋集団である審査官たちを抱えています。審査官は日夜、迅速かつ質の高い審査を、身を削って進めていますが、この未曾有の国難に際して、彼ら の高い見識を少なくとも庁内の電力需給対策に活用しない手はない、と思っています。審査官の皆さん、オフタイムには是非復興対策について自由に発想し、日頃の審査で疲れた頭をリフレッシュしつつ、日本に貢献しませんか。
i. 松見芳男氏
大阪外国語大学英語科卒、ハーバード大学経営大学院(TGMP)留学。1969年伊藤忠商事(株)入社、1977年から20年間ニューヨーク駐在。宇宙情報部門長、執行役員を経て2008年伊藤忠先端技術戦略研究所長。総合科学技術会議知的財産戦略専門調査会専門委員等を歴任。
ii. 杉光一成氏
東大大学院(法学)修士課程修了、東北大学大学院(工学)博士後期課程修了。博士(工学)。経済産業省より「知財功労賞」(特許庁長官表彰)受賞(2009年4月)。経済産業省「産業競争力と知的財産を考える研究会」委員等を経て、現職。主な著書(編著・共著含)として「知的財産管理&戦略ハンドブック」など。
iii. 梶川裕矢氏
日本学術振興会特別研究員を経て、2005年より東京大学大学院工学系研究科総合研究機構助手。2007年同助教を経て、2009年より現職。専門は技術経営学、イノベーション政策学、情報学、化学工学。
iv. 読者の皆さんは既にご承知かと思いますが、筆者は審査官の資格がありません。