◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2011/07/07 http://dndi.jp/

福島原発事故による国家的破局のシナリオ

「今夜も眠れない5つの問題提起」
原発事故は、いつ終わりますか
 コストは、いくらかかりますか
 そのシナリオはありますか
 住民はもとの土地に戻れますか
 ほかの老朽原発は、大丈夫ですか

〜コラム&連載〜
 ・黒川 清氏「野中郁次郎さんとの対話: UCB-UCLA同窓会」
       「沖縄の新しい研究大学院の芽、OIST」
 ・橋本正洋氏「特許庁事務職員と商標審査官の職業」
 ・滝本 徹氏「盛況!キーパーソン集会プレミア(1)」
 ・「facebookで綴る震災・原発事故関連ドキュメント」
  ≪その4は、3月19日から4月1日までのリアルタイムの記録です。≫
  http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm110311d.html
一押し情報  ・7月7日、(株)桧家住宅は持ち株会社(株)桧家ホールディングスとして 新スタートしました。http://www.hinokiya-holdings.jp/

DNDメディア局の出口です。東京から、埼玉へ拠点を移し、はや1ケ月が過ぎました。どうも都心への電車通勤という習慣が途切れたためか、私の日常に大きな変化が芽生えてきました。新しいオフィスは、自宅からマウンテンバイクで5分と至近で、それも会議がないと、ほとんど在宅勤務で事足りる。電話やメールで要件が済んでしまう。


 仕事は、常時スタンバイで早朝5時からデスクに向かう時もしばしばです。職住近接は、"食住近接"という言い方がふさわしく、軽めのランチは自分で調理するしウトウトすればソファーで10分ほどの午睡も許される。考えに詰まったら、庭の手入れにたっぷり汗をかいてシャワーを浴びればリフレッシュする、とても爽快です。


 冷房の弱い汗ばんだ電車通勤から開放されて願ってもないバランスのよい日常を手に入れたのだから、少しは今まで以上に仕事に身が入るハズだ、と思い込んでいたらアテが外れた。これがそう生易しいものではなく大いなる誤算というものでした。大震災、原発事故、政局…この閉塞状況と対峙してみるのだが、あれこれ迷った挙句、ピタリ、筆がとまりそうになってしまった。脱原発や復興の事が気になる。いな、何を書くか、その主題がみえなくなってしまった、というのが正確かもしれません。


 例えば、松本龍さんという民主の復興担当相が、残念な失言であっさり辞職したでしょう。その前日、テレビで繰り返し映し出された宮城県庁での傲慢ぶりは、辞任会見では影をひそめ、すっかり毒が抜けていた。若い苦労知らずの閣僚とちがってちゃんと自分の言葉でしゃべっている。辞任は、確信犯か?の問いに、そんなことするはずがない。せっかく菅さんが任命してくれたのだから、ありがたいと感謝していますよ、テレビで被災者のインタビューをみた。そのコメントで、辞めなきゃいけない、と思った、と率直に語っていた。それに感じ入った。人間に深みがにじむ。いい男じゃないの。〜知恵を出さないやつは、助けないぞ、いいか…あの言いまわしはなんだったのか、と思わせた。同じ人物とは思えないほどの、大きな落差を感じてしまった。


 さて、こんなことをテーマに文字を書き連ねてどうか、なるのだろうか。どうにもならないような気がしてきたのよ。だったら書く意味なんか、ないよね。


 劣化内閣の菅政権、いまや民主の側近らが手のひらを反して距離をおく。孤立無援だ。官房長官すら腰が引けている。彼って、親分を支えきれない性分なのだろうか。私なんかは、菅さんに憐憫の情を抱いてしまう。がんばれ、菅さんなんて言ってみたい。が、この1年の無理の蓄積は、早晩、何らかの清算を迫られるのは明らかですから、賢い人はそんな余計なことはいわない。興味があるのは、そのクライマックスに伝家の宝刀と抜くか、どうか。つまり解散に打ってでるか、だ。


 盟友の国士、仙谷由人さんが、「そこまでおかしくなっていない」とバッサリ、やったと新聞に出ていた。これも考えれば、くだらないといえばくだらない。政局ほど世間を騒がすわりには長く続かない。


 しかし、保守政権の崩壊を象徴する出来事と言えば、1976年当時の"三木おろし"なのだがその時の動きと今の"菅おろし"の違いは、反対勢力が与野党で圧倒している、という事実であり、寄ってたかって首相をやめさせようと罵倒するが、菅さんが意外としぶとく土俵の俵で踏ん張っている。そして解散に踏み切る可能性が濃い、という風に伝わっているし、ついでにポスト菅の候補名がまったく出てこないという不思議さでしょうか。


 政局なんか相手にしないとか、なんとかいいながらついつい書いてしまったではないですか。書いてもどうにもならない、ということを強調したかったのだが。民主党政権が誕生してから、やや皮肉を込めて政局ネタをずいぶんとフォローしてきました。あえて、DNDメルマガのバックナンバーからタイトルを引用するのは控えますが、まあ、一生懸命追ったよね。政権末期は、決まってタガが外れたように閣僚の辞任が相次ぐものです。また閣僚のスキャンダルがちょくちょく表ざたになって三面記事をにぎわすし、失言は、これも合わせ技で飛び出します。こんな政局に目を奪われていたら、大事なことを見逃してしまいます。


 この騒ぎをしり目に、何かがうごめく。そんな嫌な予感がしてきませんか。ちらちらその断片が脳裏をかすめるのです。このところ私の取材の焦点が定まらないし、それ以外のテーマではさほど意欲がわいてこない。その嫌な予感というのは、福島原発の現状であり、その行く末です。


 どうなっていくのでしょうか。その感触を確かめるためにはなんとしても行かなくてはいけない。東北の被災地現場から戻ってもう2ケ月も経ったのだが、今度は、福島原発の現状をこの目で確かめてこないと、この物語がいつまでも終わらないような気がしてなりません。


 さて、そこでまず最前線で指揮を執る、ベント停止の指示に従わなかったあの吉田所長を見舞いたい。ご迷惑かも知れないし、近づけないことは重々承知です。が、「君命も受けざる所あり」の覚悟について、聞いてみたい。部下の士気は、どう維持しているのか、心身ともにお疲れではないか、ご家族はどんな思いだろうか…。


 そして、フクシマ原発事故がいつ終わるのか、第2のチェルノブイリ事故より事態は深刻じゃないのか。避難住民が、二度と戻れない最悪の事態は想定できるか。そんなことを教えてもらいたい。


 今週号の「ニューズ・ウィーク」誌の「チェルノブイリ25年目の教訓」を読むと、チェルノブイリ周辺の土壌は、今も汚染されている。ジャーナリストのデービッド・ホフマン氏は、福島原発事故について「日本人はまだ理解していないが、しばらく人間が住めない土地がうまれる。チェルノブイリのように、現代社会のデットゾーンができる」と警告していました。


 もうひつの懸念は、震災リスクです。月刊「AERA」3月28日号の特集「放射能がやってくる」で言及した「原発恐慌と日本経済破綻」の文中に、原発事故による経済損失を試算した1961年当時の「マル秘」資料が明らかにされています。ちょうど50年前のものが、原発事故の損害額が試算されています。


 それには、出力16万キロワットの小型原発が重大事故を起こし、原子炉内の放射能が約2%放出されると、1.1〜3.73兆円の損害が出るとの数字が並ぶ。当時の国家予算約1.7兆円が吹っ飛ぶ計算だが、政府はそれでも過小評価だとしていた、という。


 それでは今回の福島第一原発の事故のケースはどうか。1号機から4号機の出力合計は、約280万キロワットにのぼり当時の16万キロワットの17倍を超すことになる。福島原発の被害額を61年当時の通貨価値のまま試算したとしても、その損失額は最大65兆円とはじき出されていた。65兆円は、でたらめな数字だろうか。


 この試算は、中部電力の浜岡原発を巡る運転差し止め訴訟の原告団が、2007年に提出した最終準備書面に記載されている。65兆円とは…。いまどのくらい経費が毎年かかる見通しなのか、石棺など最終処理までには累計でいくら積みあがるのか、国家的破産のシナリオを回避する技術的解決策はあるのか。その辺を厳密にチェックしていかなくてはなりません。要領ばかりの政治家にまかせていたら、命を脅かす放射能と莫大な借金を孫の世代に押し付けることになりかねない。


 しかし、今朝の新聞は、九州電力玄海原発の運転再開発に伴う国主催の県民説明会の意見投稿に九電の社員らによる一部"ヤラセ"があったことが発覚、この夏の運転再開は絶望的になったうえ、全国の原発の運転再開にも影響がでそうです。しかし、気持ちはわからないでもない。メールやファックスで賛否の意見を問うとなれば、主催する方もあんまり反対が多いと墓穴を掘る。だから、といって、"サクラ"、"ヤラセ"の発覚が、この時期どんな意味を持つか、万が一のリスク管理、そこに知恵が回らない。朝日は、ここぞとばかり1面トップ、3面、社会面の大車輪です。これがそもそもの電力会社の体質であることは、あえていうまでもない。九電の社長は陳謝し、海江田大臣も憤りを隠さない。こんなことをやっている時間はないはずなのだが、お粗末です。


 さて、私の関心事は、いわば国家的破局とでもいうべきか、原子力事故が国を危うくするいう恐ろしい現実です。このままなら、ギリシャのような破産国家に追いこまれないという保証はない。刻一刻、住民の被ばくの怖れが深刻さを増している。汚染水の垂れ流しは徐々に止まりかけた印象だが、太平洋にどれくらい流出したか、地下のコンクリート周辺からどれだけ漏れ出たか。放射能の飛散でどのくらいの範囲にどのくらいの量が堆積しているか、政府がすすめる安全のシナリオとは裏腹に、現実はきっとわれわれの想像を超えているのではないか、という疑問符がついてまわります。


 本日、facebookで綴る、福島原発事故の同時進行ドキュメントは3月19日から4月1日までの膨大なやり取りをシリーズその4として一挙、掲載しました。官邸、東電の発表などに対して、現実に起きる事態を一般人、専門家を交えたfacebookの友達がコメントし、東電、官邸サイドの胡散臭さが次々と浮き彫りにされています。


 第1号機のベント直後の水素爆発で格納容器の損傷はない、そして放射線量の飛散だってただちに人体への影響はないと、繰り返し安全を宣言していましたね。もっと正確に細かく発表していたら、深刻な被曝が避けられた可能性も見受けられます。1号機、2号機、3号機の空焚きだって数時間は続いていたことが、後でわかる。いずれにしてもこれら4つの原子炉に加え、使用済み核燃料を含めた適切で安価な最終処理を適える究極のシナリオはあるのだろうか。


 まとめになりますが、これは私の素朴な疑問です。


1・原発事故は、いつ終わりますか   10年?30年?50年?
2・コストは、いくらかかりますか   65兆円?
3・そのシナリオはありますか 
4・住民はもとの土地に戻れますか
5・ほかの老朽原発は、大丈夫ですか


 こんなことを考えていたら、夜も眠られない。子供や孫の将来を思ったら、いま何をすべきかが、おぼろげながら見えてきませんか。私たちがいま何をしなければならないのだろうか。脱原発は、今後、次の世代が原発事故に怯えることのない再生エネルギーを駆使した安心社会を創出していこという趣旨です。エネルギーを買う、使う一辺倒から、太陽光や燃料電池で自らが創ってためて、そして売る側に立る自律型のシステムに変えていこうという趣旨です。高度な産業を基盤とした経済社会をよりイノベーティブに推し進めるために、大学発のベンチャーが優れた技術をベースに事業拡大のチャンスをつかめるような健全な社会を築いていかなくてはなりません。原発を主軸に電力を一社に独占的にゆだねる体制では、新エネルギーの開発も志高いベンチャーも、ロボット分野でさえ目に見えぬところで排除され、チャンスの芽をつぶされかねない悪しき構図が厳然とあったと聞く。もう、それもこれもわかりやすいように変えていきましょう。


 どこの家の庭の芝生でも、孫が安心して遊べるように、ね。


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 あんなに飛び回っていたのだから、作家の瀬戸内寂聴さん風になぞれば、元気という病気? 精神科医の斉藤茂太さん流ならひょっとして、心の風邪? そういえば妙に苛立って怒りっぽい。大丈夫ですか、諏訪中央病院の名誉院長、鎌田實さんなら、還暦に近づいて魂が彷徨を始めたのかなあ、笑えばよいのよ、と診断してくれるかもしれない。


 このスランプはいつまで続くのか、どう乗りこえればいのか? 無理せず、急がず、そしてやりたいことを少しずつやればよいのではないか、そして余裕をもって、そうだ、フクシマに行こう!と叫べばいいのですよね。


 3・11以来、必死にニュースを追った。Facebookに書き込んだ。新聞、雑誌を買いあさり、テレビ番組は録画した。体重は知らないうちにどんどん落ちていった。82キロから一時期、75キロまで減った。写真に写った顔は、引きつって青白く見えた。夢中だったから自分を顧みる余裕がなかった。それだから、なんとかやってこられた。


 被災地の取材から戻り、ほぼ1ケ月かけて現地報告を終えた。ひと息ついたら、ぽっかり心に穴が開いていた。6月上旬から少しずつ回復し、体重は3キロ増えて78キロになった。これは東京へ行かなくなった反動かもしれないので、犬と一緒にジョギングして汗を流している。が、時折、ふと甦るのがあの日の東京の危うさでした。心の後遺症は、なかなか消えるものではないようです。





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