第24回 健幸まちづくりと観光交流


 2月初、指宿での九州Smart Wellness City(SWC: 健幸まちづくり)フォーラムに参加し、さらに天草まで足を伸ばし、ヘルスツーリズムフォーラムに行って来ました。筑波大学准教授でつくばウェルネス・リサーチ(TWR)社長の久野譜也先生が主催しているこのSWC首長研究会については、第3回で紹介しています。
http://dndi.jp/25-takimoto/takimoto_3.php
http://www.swc.jp/




指宿フォーラム
 平成23年4月からほぼ2年ぶりの指宿での九州フォーラム開催となりましたが、久野先生の指宿好き(特に鰻温泉というとても熱い、不思議な温泉がお気に入り)と観光カリスマの指宿ロイヤルホテルの有村会長や豊留市長の熱意によるものです。SWC会長の久住見附市長はじめ22市町の市長・副市長等が参加しました。九州における各地域の関心の高さを示しています。


 この2年間でのSWCの活動としては、地域活性化特区として見附市など7市共同が指定を受けた「健幸長寿社会を創造するSWC総合特区」により、中心街から車の通行を制限するなど歩きやすいまちづくりと健康リテラシーを高めるための施策が講じられています。見附市の「健幸基本条例」や「歩こう条例」、新潟市の「公共交通や自転車で移動しやすいまちづくり条例」なども制定されました。三条市の月に一度の「三条マルシェ」では、歩行者天国になったシャッター商店街に人口9万の街に10万人がまち歩きを楽しむようになったことも話題です。国交省の都市政策や交通政策部門とも連携が始まっております。


 この指宿では、昨年4月から九州経済産業局の上村欣也さんが副市長として出向することになり、本件の事務方責任者となりました。豊留市長の肝いりで、日本一健康なまち『IBUSUKI』構想がまとめられました。観光・地域活性化を見据え、歩く街の整備や市民の行動変容を促す健康医療情報の浸透のための施策を行うこととしており、内閣府の特定地域再生事業(改正地域再生法)にも採択されました。


 翌日は、指宿の若手の観光関係者との意見交換。観光協会では、着地型ヘルスツーリズムのプログラムを始めました。(株)アグリスタイルという特産品づくりの会社が行う農業体験のプログラムがかなりうまくいっているようですし、休暇村指宿から始まった朝の散歩ガイドが各ホテルに拡がるなど指宿の新しい観光の顔が生まれています。訪問6回目にして初めて砂蒸風呂に入りましたが、指宿は、地域の体温の高い地域なのです。


 

第一回天草ヘルスツーリズムフォーラム
 天草プリンスホテルの國武裕子女将のヘルスツーリズムの取組は、真に感心するばかりです。ヘルスツーリズムの宿として、この3年で2万人を受け入れ、63回!という福岡のリピーターもおられ、宿泊客が増えています。昨年、NPO法人ヘルスツーリズム振興機構の第4回奨励賞を受賞しました。
http://www.npo-healthtourism.or.jp/about/index.html


 國武女将は、9年前に大病を患い、ご自分の健康のために始めた散歩でしたが、旅先で歩けないストレスに気づき、お客様と一緒に歩くことでホテルのおもてなしにしようと考えたそうです。天草の動植物や歴史、伝承を学ぶために観光ボランティアの会に入会し、正しい歩き方を身につけるために保健センターの講座を受講。そして、知人の病院長からアドバイスを受け、健康に配慮した食事、特に散歩後の朝食を管理栄養士と相談しながら、開発したそうです。これら3年間の準備期間の後に、平成21年10月からヘルスツーリズムプランを始めました。


 このフォーラムは、「あれ? 第一回なんだ」と思ったくらい、事前にほとんど打ち合わせもしていなかったのですが、良く練られた内容で、会場は、天草信金さんが無償提供してくれたそうです。天草らしいヘルスツーリズムについて、大学、國武女将、石垣集落の倉岳町の実践者、リピーターと私も加わり、興味深い討議が行われました。また、島原、黒川町、阿蘇市から女将がはっぴ姿で大勢来られ、熱心に聞き入り、交流されました。まさにKP集会でした。




 國武女将は、天草女将の会を結成して、天草全体を盛り上げ、さらに他の地域にも呼びかけ、ノウハウ移転を快くされていることがまた立派です。女将さんから巻き込んでいくのは正解ですね。最近よく思うのですが、女性には、回りくどい理屈や面子に拘らず、物事の本質を捕らえ、実践しようという機動力、突破力があります。
 昨年10月に天草宝島観光協会が行政、天草女将の会など関係者とともに天草市ヘルスツーリズム推進協議会が結成されました。また、2年前から第三種の旅行業登録をしている同観光協会により、着地型旅行商品としてウォーキングやイルカウォッチングツアー、オリーブ園散策ツアー、浜辺ヨガなどが販売されています。


 前の晩に安田市長との意見交換会もありましたが、多方面にいろいろなことを手がけられ、汗をかいている方の背中を押され、相乗効果を生んでいると思いました。地域の体温の高さを感じます。京都大学との天草宝島二地域就労プロジェクトもその一つで、一昨年前に福岡でのシンポジウムに参加させていただいたことがあります。奇しくもこのプロジェクトのセミナーもフォーラムと同日開催で、懇親会にも合流し、懐かしい先生方に加え、ゲストで来られた人吉の田中市長がいらっしゃったのには驚きでした。人吉もやはり地温の高い地域です。


温泉クアオルト研究会
 温泉で有名な上山市、田辺市、由布市の市長によりクアオルト研究会は、観光業界、観光庁が応援しているプログラムです。ドイツに由来するクアオルト(健康保養地)を確立するため、研究と実際の取組を実施しています。クアオルトは、医科学を基盤にした健康プログラムのある良質な保養地で、質の高い滞在環境の整った地域のことをいいます。上山市温泉クアオルト協議会は、第4回ヘルスツーリズム大賞を受賞しています。


 昨年の10月に上山での三市長の参加の元、クアオルト研究会に出席し、SWCの健幸まちづくりの取組についても紹介しました。この研究会は、観光業界、観光庁も注目しているものです。朝の山歩きにも参加しましたが、ホテルのご主人のガイドのもと、「抱きつき木」など多くの工夫が施され、楽しい時間でした。今後、SWCとも有益な交流ができるのではないかと期待しています。




ヘルスツーリズムと健幸まちづくり
 健幸まちづくりは、元々は地域住民を念頭においたものでしたが、指宿や天草などでは、観光交流の活性化も期待しています。「住んでよし、訪れてよし」が観光の本質であるとすれば、住民向けと観光客向けとは、むしろ一体的に捉えることが理想的とも言えます。観光客が住民とともに参加し、交流が出来れば、魅力的な地域、取組に映ります。また、地域住民にとっても観光客という外の視線によって、地域についての再認識と誇りが生まれ、地域磨きのための連携にもつながります。
 また、おもてなしや集客交流の仕組みを工夫したり、農や食といった観光資源と組み合わせることにより、より魅力的な健康プログラムができることでしょう。地域住民と観光客を合わせたより大きな市場にすることにより、コストを低下し、収益力を上げていくことも可能になります。
 さらに、スポーツツーリズムとの連携も重要です。ウォーキングやフットパスなど歩くイベントやサイクリングや市民マラソンの大会も盛ん。健康とスポーツは一体的なものです。


 天草から帰った日に開催された第7回全国版SWC首長研究会では、日本観光振興協会の見並理事長から観光の力を地域振興にどう活かすかという講演も行われました。観光庁と日本観光振興協会も加わり、SWC×ヘルスツーリズム振興機構×温泉クアオルト研究会の三者合同のシンポジウムかセミナーが実施できないか検討していきたいと思っています。


 (以上は、個人としての見解であり、属する組織とは関係ありません。)



記事一覧へ