第3回 指宿で健康関連産業の広域連携


指宿IT湯治
 指宿は、古くは湯豊宿(ゆぶしゅく)の地名に由来するといいます。世界的にも珍しい砂むし温泉、天璋院篤姫の生地で有名でありますが、有村佳子さんという優雅で魅力的な女傑がいらっしゃいます。



有村会長(右)と弟さんの細川社長(左)

 指宿ロイヤルホテル会長で、観光カリスマ、地域活性化伝道師、中小企業政策審議会委員などにも就任され、私が地域資源活用プログラム策定の担当をしていた時からのご縁です。


 埼玉のご出身で、指宿のホテルに嫁がれ、女だてらにといわれそうな保守的な薩摩の地で、行政、観光関係者を巻き込み、温泉と食と健康増進を結びつけたスパ・ドウという取組を地域ぐるみで始められました。


 さらに、鹿児島大学とともにITを活かした「平成版IT湯治」構想が内閣府地方元気再生事業に採択、ビジネスモデル特許も取得しました。ホテル・旅館でベルト型の心電モニターを付けて、保養観光を楽しみながら、ストレス低減の実感し、専門的なアドバイスも受けられるというものです。


連携会議のきっかけ
 話は、昨年8月に遡りますが、九州成長戦略アクションプラン策定会議で、委員だった有村さんと3年半ぶりにお会いしました。その際に、メディポリス指宿も開設されるので、指宿で健康関連産業の連携会議を行って、政策の連携と事業の切磋琢磨ができるようなプラットフォームを作っていこうということになりました。


 「つくばウェルネスリサーチ(TWR)」の久野譜也社長・筑波大学教授と有村さんの取組と連携してもらおうと、また、次回会議のゲストスピーカーとしてお呼びしようとご紹介しました。その後、久野先生の方もすっかり指宿に魅了され、この半年で、既に3回指宿に訪問されました。豊留指宿市長とも懇意になられ、既に連携が始まっていたのでした。


メディポリス指宿
 さて、そのメディポリス指宿ですが、・・・ この4月、約150億円かけて開設された、がん粒子線治療研究センターで、宿泊施設と併せて、メディポリス指宿と称されています。眼前に指宿の温泉街、錦江湾、反対側に開聞岳。そして遙か向こうに大隅半島を望む山の上にあります。その規模が半端じゃない。東京ドーム77個分の敷地、かつては年金基金で作った「グリーンピア指宿」でした。



メディポリス指宿外観

 メディポリス医学研究財団理事長の永田良一先生は、医薬品開発の受託研究企業、新日本科学の第二代社長で、医学博士にして、高野山大学の密教学修士も取得されています。


 「メディポリス指宿構想」は、先端がん治療と予防・統合医療のセンターを作ろうというもので、鹿児島県、指宿市の医師会も含む産学官連携で進められてきたものです。地元からの要請を受けたものであるとはいえ、永田社長の英断と地域活性化の志に感銘を受けました。


 なお、佐賀県鳥栖市には、重粒子線ガン治療施設が建設中(2015年開設予定)です。


連携会議と講演会
 緑萌え、山嗤う4月末の小高いメディポリス指宿で、いよいよ健康関連産業連携会議を開催されることになりました。


 第一部は、各県や自治体、企業、大学からの発表と意見交換。熊本健康サービス産業プロジェクト、大分と宮崎の東九州メディカルバレー構想(医療機器産業拠点)、天草の健康観光、北九州の糖尿病予防サービス事業などの発表がありました。


 第二部は、久野先生、永田社長、熊野の化粧筆のプロデュースで有名なカリスマ・マーケッティングコンサルタントの三宅曜子さんが講演を行いました。豊留市長は、全管理職職員40名を研修として参加するよう厳命したのだとか。


運動プログラムで若返り、医療費の低下
 久野先生の研究は、茨城県大洋村で、運動プログラムで医療費を抑制するという画期的な社会実験が行われ、これを下に平成14年に大学発ベンチャーを起業されました。その後、産学官連携科学技術大臣賞など各賞を総なめにしています。経済産業省の健康サービス産業創出事業でも代表的な事例となりました。


 これまで60の自治体等のプロジェクト全てで、3ヶ月以内に5才以上の体力年齢の若返りを実現し、医療費の抑制に貢献しています。


 しかし、これらは、数百名から千名の特定集団を対象としたものであって、市民全体を対象とした場合には、健康増進に関心も意欲もない集団に対して、行動変容をどう起こすかが大きな壁になっています。


 健康についてのリテラシーはもちろんですが、運動がしたくなるような地域の住環境、さらには地域社会の一員としての参画意識などが大きく影響を与えるのだといいます。


 例えば、公共交通機関の発達した東京は、自動車に頼る愛知より、糖尿病患者の外来数が3割少ないのだそうです。また、地方都市は、車依存になって、商店街がシャッター通りになると、歩かない街になり、それが生活習慣病を増加させていく。このような街の機能の低下が街の住民のつながり力を低下させ、地域活性化の阻害要因になっています。


 ドイツなど欧州では、街の中心部から自動車をどう排除し、住民の暮らしの質とwellnessをどう高めるか、数十年の積み重ねがあります。
(服部圭郎著 「道路整備事業の大罪〜道路は地方を救えない」にも詳しい)


Smart Wellness City 構想
 健康増進につながる街づくり、地域社会が健康に投資する社会システムを通じて、健康寿命を延ばし、持続可能な医療制度につなげる。この目標に向け、これまでプログラムに参加した有志の市長が集まって、平成21年から健幸(ウエルネス:健康+幸福)まち作りのためのSmart Wellness City 首長研究会をつくばで立ち上げました。これまで3回の会合が行われました。現在16の市長がメンバーになっていて、「健幸まちづくり基本条例」の策定を目指そうという動きになっているとか。


 さらに、内閣官房地域活性化事務局の和泉局長の呼びかけで、健康まち作りのための各省連絡会も発足しました。


今後の抱負
 連休明けに、有村会長があいさつに立ち寄られました。
「IT湯治を観光客だけでなく、地域住民も参加する健幸づくりの運動として進めていきたい。会議がおわって、市長の考えについて若い職員が理解し、支えるようになっている。経済人も市長の構想に協力する動きになってきた。」といったご報告をいただきました。


 さらに、観光、食、医療、商店街も巻き込みながら、九州版のSWC構想として久野先生に提案していこうとの抱負を語りあいました。



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