第99回 国策的にEMを活用するようになったタイ国



 本DNDシリーズでもタイ国におけるEMの普及事例を度々紹介したが、前号で述べた映画「蘇生」の中にタイ国の成果がかなり詳しくクローズアップされている。
 EMのような万能的な資材に対し、インテリは必ずエセとかサギとして拒否し、いくら現場で画期的な成果を上げても、必ず問題が発生すると言って積極的な反対にまわるのが通例である。

 それに対し、理論はどうであれ、現場で目を見張るような効果があり、それにともなう副作用がなければ、その技術を受け入れるという現実がある。現場で評判になると、試験研究機関が乗り出し、単純な比較試験をして判定するというプロセスをたどる例も多く、不幸にして、その資材の最良の使い方を無視された場合は全く意図しない結果となる。

 例えば、同じ場所で同じような材料を使い続けるというテスト法をとると、EMを活用した区では年々地力が向上し、収量も増えるのに対し、化学肥料を使った場合、1年目突出してできるが2年目から、その成果は下落し、土壌も劣化し、病害虫も多発し、3年〜4年で収穫が全く出来なくなるという現実がある。1年目の単なる比較試験では、EMは効果なしと判定され否定されるということになる。殆どの試験研究機関では1回きりの試験で判定する方法をとっており、経年的な効果は無視されてしまうのである。

 しかしながら、現実の農業は、同じ土地で長年にわたって続けられており、経年的な効果がより重要である。EMに対する現場と研究機関の埋まらない大きなギャップは、そのために生じたものである。

 水質の浄化についても、全く同じ原理であり、継続的にEMの密度を高め保持すると失敗する例は皆無であり、東京湾の浄化は、その代表例である。

 タイ国の場合は、現場で様々な形で多大な成果が上がり、研究機関もそれを否定せず、支援する方向に変わったために、EM普及に加速がついたが、それは、タイ国のキングプロジェクトという独自のシステムが功を奏したのである。キングプロジェクトとは、地方の貧しい人々の自立や活性化のための王室のプロジェクトで、軍の協力で推進している独自のプログラムで多くの浄財や協力者に支えられている。

 EMがタイ国に導入されたのが1986年の秋であるが、その数年前から、東北部の干魃が続き、子女の身売りも出るほど疲弊し、様々なキングプロジェクトが実行された時代である。
 タイ国で自然農法を推進していた沖縄県出身の湧上和雄氏からタイ国を救うためにはEMのように安全で快適、低コストで高品質で持続可能な万能的な力が必要であるという強い熱意に賛同し、具体的な取り組みを始めたのである。

 先ずは、自然農法のモデル農場と研修施設の充実である。湧上さんは、すぐに実行に移し、私も2ヶ月に1回、すべて自費で訪タイし、研修会や現地指導を5年以上も続けたのである。その目を見張るような成果に、キングプロジェクト関係者も賛同し、燎原の火のように広がったのである。日本のネガティブ情報でEMをたたこうとした人々は、この勢いにおされ、いつの間にか消失したのである。

 王様のプロジェクトで軍が全面的に協力しているとなれば、その他の官も協力せざるを得なくなり、EMは貧困対策プロジェクトから、スクールプロジェクト、足るを知る経済の自給自足プロジェクト、ごみのリサイクル、水質浄化、医療健康分野へと広がったのである。タイの試験研究機関は、そのような背景を踏まえ、EMをいかに上手に使うかという方向で研究を進め、様々な成果を上げ、今では、EMに否定的な人は皆無である。
 これまでに、湧上さんが創設したサラブリーにある自然農法アジア人材育成センターでEMの研修を受けたリーダーは10万人余、各地の支部を含めると100万人以上の人々がEMの研修を受け実行しているのである。

 キングプロジェクトを中心に、南タイの貧困農家の自立のために、1日でEM技術が身につけられるモデル事例を盛り込んだ研修センターが軍の主導で行われ、すでに10万人余の人々がEMを学んでいる。このプロジェクトは軍のEMプロジェクトを育てたピチェット大将が直に指導したものである。
 その他に、住宅公社のプロジェクトに同様なプログラムと研修センターもあり、そこでも10万人以上の人々がEMの研修を受けており、タイ国の農村のリーダーは、すべてEMを指導できるようになっている。

 このような素地が整っていたために、2011年の10月-12月の100年に一度の大洪水後の衛生対策は、軍主導で各省庁の委員会でEMを活用することになったのである。

 その成果はめざましく、これまでEMを知らなかった都市部の人々も、マスコミを通し、EMを知り、多くの人々がEMのボランティアに馳せ参じたのである。
 映画「蘇生」に登場するピチェット大将はその当時にEMプロジェクトの総司令官であり、元住宅公社の副総裁であったワラヌット氏は、住宅公社でのEM活用はもとより、EMによる環境浄化を定着させた大功労者である。
 御二人は、数年前にリタイアされたが、今でも、各種の組織の顧問を務め、EM普及に対するNPOを立ち上げ、EMによる国造りに余生を捧げるというEMざんまいの生活を送っており高齢者の望ましいモデルとなっている。



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