第86回 水産養殖におけるEMの活用



 EMの水系の浄化と水圏の生態系に対する顕著な効果や、生物多様性を積極的に守り豊かにする力は、前回にも述べた通りである。今月に入ってNHKは、1時間番組で東京湾が豊かになり、江戸前の漁業が突然に復活したことを放映した。

 その取材に応じた江戸前の材料を使った調理店の責任者は、東京オリンピックに来られる海外のお客さんにも、この美味しい江戸前の海産物を味わって欲しい旨のコメントで締めくくっていた。

 確かにその通りである。江戸前の魚貝類は日本一おいしいのは当たり前である。これまでに東京湾に投入されたEM活性液の量は、5千トン余、その流入している16の河川からも、かなりの量のEM活性液が河川浄化のために使われている。昨年の海の日に、東京の江戸川区で50年ぶりに泳いでもよいという許可が出たが、今年はお台場の人工浜はもとより、かなり広範な地域で人々が勝手に泳いでいる姿が目立つようになっている。朝日新聞8月24日、17頁も、その1例である。


 化学物質の汚染を除く、水質の安全性の基本的指標は、大腸菌である。EMは、これまで何回となく説明したように、大腸菌を顕著に抑制する効果があり、かなりの地域で海水浴場の大腸菌対策に使われている。


 そのメカニズムは、EMが大腸菌の基質(エサ)である腐敗性の有機物を発酵分解してしまうことと、水中に高分子状となって溶けている有機物を低分子化するため、結果的に、水のクラスターが小さくなり、界面から酸素が入りやすくなるためである。

 EMを施用すると、水の臭気が消える時期を前後して、水中の溶存酸素が著しく増えることも確認されているが、それより以前に調査すると、汚れた池等では、大腸菌が増え、溶存酸素が極端に少なくなるというプロセスがある。このような現象は、腐敗性の有機物中に潜んでいた大腸菌が、いっきに水中に拡散されると同時に、EM等の活動や有機物の分解のため、一時的に多量の溶存酸素が使われてしまうためである。


 EMの水産への応用の原点は、25年前から、現在も続けられている沖縄県うるま市の旧具志川市立図書館の合併浄化槽での活用である。この25年、大腸菌はゼロ。汚泥は全く抜き取ってないのである。当初、その水の安全性を確認するため、金魚等を飼育したら、病死はゼロ、成長も早く、水の再汚染がなく、エアレーションも不要になることも明らかとなったのである。


 世界のエビ養殖のウイルス対策に活用されているEM技術


 この旧具志川市立図書館の成果を受け、EMを最初にエビ養殖に使ったのが、熊本県、大矢野町にあった養殖場である。エビにホワイトスポットウイルスが発生し困っている。その対策に抗生物質を使っているが、ヘドロの浄化が出来れば更に効果的であり、EMの活用の方法を教えて欲しいということであった。

 当初は養殖終了後の池の海水を抜いて半乾燥になった時点でEM活性液を10a当たり50〜100L、耕耘した後、ヘドロ砂層の黒い還元層が消えるまで数回耕耘し、海水を入れ養殖を始める。同時に10a当たり50〜100LのEM活性液を投入するという単純な方法である。


 それまでは、毎回養殖場の砂を入れ替えたり、エアレーションを強化する。更には抗生物質をエサに入れて使うという方法で、かなりのコスト高となっており、このように万全を期したつもりでも、病気が発生し、万事休することがあるとのことであった。

 この試みは、大成功を収め、エアレーションの泡が1m以内で消えるようになると出力を半分またはゼロにしてもよいということも明らかとなった。この成果は、タイ、インドネシア、マレーシア、ベトナム、コスタリカ、エクアドル等々に広がり、今では、EMはエビ養殖の国際的なメジャーとなっている。



 EM研究機構では、下記のように海外のエビ養殖に対するEM情報を発信し、スケールが大きい場合は、担当者が直接現地で指導する体制をとっている。現在では、EMをエサに混和したり、EMセラミックスの応用、EMダンゴの投入等々、現地の状況に応じ、完全無投薬のエビ養殖の指導も行っている。EM養殖場の廃水は、外側の海水を浄化し、その周りの水系の生態系の改善に多大な成果を上げているが、EMの密度を更に高める管理を行えば、ヘドロ対策が万全となるため、海水の入れ替えも不要となる。



エクアドル、エアレーションなしの自然式養殖場(1700ha)



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