第82回 EMによる創造的な農業生産(3)



−水田の雑草対策−

 今から25年以上も前の話である。福井県で自然農法水田に対するEMの活用試験を試みた。増収、品質の向上はもとより、倒伏防止、病害虫の抑制など目を見張る成果が得られたのである。

 その中でも、不思議なことがいくつか現われてきた。山間部の日当たりの悪い湿田地域でEMを使ったら、草一本も生えなかった。その上、例年発生する秋落症状(生育後半の著しい成長障害)が消えたのである。この水田は、日当たりが悪く、低温になるため、登熟が著しく悪く、例年なら、かなりの未熟米、すなわち、青米が発生していたそうであるが、EMを使ったら青米も極端に少なくなったとのことである。

 この水田は、谷の上部に位置していたが、その水田の水が下方の水田に流された結果、その下の水田もある程度良くなり、徐々にその効果がうすれ、3段下までは、その効果が認められたということである。

 一方、日当たりの良い平地の水田でEMを施用したところ、雑草が芝のように大量に発生し、除草に苦労し、多大な労力がかかったという報告もあり、この相矛盾する結果に現場では、結論が出ず、私に助言を求めてきたのである。


 答えは以下の通りである


1)雑草の抑制効果と雑草の大発生

 EMは植物の生長を促進する効果があるため、雑草もよく発生するのは誰でも理解できる事実である。芝生のように雑草が大発生するのは、EMには種子の休眠を打破する効果があるためで、水田の泥の中で休眠していた種子がいっせいに発芽するためである。

 この性質を活用し、秋口にEMを処理すると、その年に落ちたヒエや雑草の種子は秋に発芽し、冬の寒さで枯死するため、次年度の雑草は極端に少なくなる。同じことを晩春と田植前にEM活性液(10a当り100〜200L)を施用し、軽く代掻きすると雑草を完全に抑えることが可能となる。


2)湿田で雑草が全く発生しなかった現象は、水びたしの水田では、EMによる発酵作用によって、泥中の種子が発芽し、酸素不足となるため枯死した結果といえる。秋落症状は、湿田の宿命的なもので、生育の後半に根圏の酸素の不足が還元状態を作り、その結果、硫化水素やメタン、アンモニア等が発生し、根を枯死させることが主たる原因とされている。

 EMは、有機物を発酵分解するため、硫化水素やメタンやアンモニア等の還元物質は発生せず、例え、発生した場合でも、EM中の光合成細菌がそれらの物質を資化し、アミノ酸や糖類に変わるため、秋落ち症状は全く発生しなくなる。


3)その結果、湿田でも登熟は促進され、青米も極端に少なくなり、増収と同時に品質が著しく向上する。

 それらの知見を基本とし、EMによる水田雑草対策が以下の要領で行われるようになったのである。先ず収穫と同時に稲ワラを細断し、表面にばら撒く。その上からEM活性液を10a当り200〜300L散布し、5cm程度の表層撹拌耕起を行い、排水口を閉め、水を張る。可能であれば冬の間も水を張って冬水すなわち冬季堪水とする。


 田植の2〜3週間前に再度EM活性液を10a当り200〜300L散布し、代かきを行い、更に田植直前に再度、代かきをする。というものである。

 この要領でヒエはもとより、雑草が1本も生えず、収量や品質が著しく向上するのである。水田にEMを施用すると土壌が膨軟となるため、深耕は不要であり、代かきの回数を増やすと表面のトロトロ層が厚くなる。トロトロ層が3cm以上になると、表層の雑草の種子はトロトロ層の下層に移動し、発芽不能となると同時にEMの発酵作用によって枯死する。


 したがって、収穫後に稲ワラはもとより1〜2トンの有機物(牛・豚糞等)を表層にかぶせるように敷いて、EMを施用し、冬から田植するまで堪水にすると完璧な不耕起、無除草栽培も可能となる。


 とは言っても、日本の水田の大半は用水管理のシステム上、田植1週間前後にしか水が無いという現実がある。このような場合は秋に有機物を施用し、EMを散布し5cm程度の表層撹拌耕起をし、排水口を閉めて、雨水がたまるようにする。そのようにすれば、特に水を張らなくてもヒエはもとより雑草対策にかなりの効果がある。また、田植直前にもEMを施用し、1〜2日おきに2回程度の代かきを丁寧に行うと、トロトロ層が3cm以上となるため、雑草は皆無となる。要はトロトロ層を早急に厚く作ることである。


究極の米麦二毛作の試み

 人口増大による食糧問題は、悲観的な予測であるが農業に投入するエネルギーを最少にし、農地の年間利用率を高め、単位面積当りの収量をいかに高めるかにかかっている。

 EMによる不耕起、無農薬(除草剤も含む)栽培は、エネルギー使用量を極端に減らすことができ、あらゆる有機物を地力として取り込めるようになっている。

 とりあえず、土壌が自然に肥沃になる仕組みと収穫物以外の残渣をすべて土に戻し、葉面散布も含め、EMによるマイクロバイオームの管理を徹底して行えば、様々な限界突破が可能であると考えている。

 先ず、その手始めに、前回に述べたEMダンゴの応用である。下記の写真は三重県津市にある自然農法科学研究所の小野氏の協力を得て実施したものであるが、雑草対策は完璧といえるレベルにあり、収量、品質も同地域ではかなり高いレベルにある。

 今後は米麦二毛作、将来的には外部からの有機物の追加はコストのかかるものは全てやめ、玄米で700〜800kgを当面の目標としてチャレンジしたい。


   
<穴あけ>坪1個の場合(1.8m間隔)で穴堀機で穴開け<EM団子投入>40cmくらいの深さに団子を投入
<水田1>田植1ヵ月半後の画像。水田全体<水田2>アップ画像。雑草は無し。
<水田3>さらにアップ。表面がトロトロ層になっている。

※EMダンゴは野球ボールくらいの大きさとする。
除草時間は、写真の田はゼロ時間。
もう1ヶ所の田は、用水と一緒に雑草の種が流れ込んだため、水口辺りの除草を1時間行った。
年間で(栽培期間以外にも施用)10a当たり約1.2トンの2次EM活性液を施用している。



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