第81回 EMによる創造的な農業生産(2)
前回はEMを活用した限界突破の総合的な農業システムについて述べたが、個々の要素については、特に目新しいものはなく、EMの力を借りると、かくのごとしという事である。農業は自然と対応した生産活動であり、経済行為であるが逆説的に言えば自然との戦いである。
食料の生産を考えると、先ず食べられるものか否かから始まり、より多くの収量が得られるもの、よりおいしいもの、より栄養価の高いもの、より作りやすいもの等々を達成するため、様々な工夫や改良や開発が進められてきたのである。この究極が大型機械や農薬、化学肥料の発達であり、遺伝子組み換え技術であり、自然の影響を完全に排除した植物生産工場である。
一見すると、この道のりは、増大する人口に対する食料の供給という面では、必要必然と思えなくもないが、よくよく考えると、その延長線は、限りなく資源の消費であり、破壊的で、未来は無い。レイチェルカーソンの「沈黙の春」以来、50余年の今日、確かに残留性の強い農薬は、姿を消したが今日の世界的問題となっている「ネオニコチノイド」の状況を見る限り、農薬を使用しない技術の普及は、最重要課題である。
考えてみると、現在の農業は、合法的に毒物を散布できる不思議で違法な業態をなしているが、それらのことは、原子力発電所なみに、必要悪として容認されているからである。コスト競争や経済合理性が必要悪を必然的なものにしつつあるが、有機農業や自然農法の運動も対抗的な力としては十分でない状況である。
このような、構造的な致命的欠陥は、従来技術の改善の延長で解決できるものでなく、コペルニクス的な、創造的な技術革新が必要である。EMは、当初は、農薬や化学肥料の代替的な技術としてスタートしたが、有機物を従来の有機農業の半量程度を目安に、糖蜜等で活性化(拡大培養)し、施用し続けると、自然の力による生産力が著しく高まることが明らかとなってきた。
この現象が確認される以前には、不耕起栽培という発想は全くなく、従来の農業技術体系の中で、EMを農薬や化学肥料を使うような方法で行っており、効果が現われたら施用量を減らすという常識に従っていたのである。
マイクロバイオーム(微生物相(叢))の重要性
EMを使い続けると不思議な現象が次々と現われてきた。先ず、土壌が膨軟になり、ミミズや有用な線虫が大量に増え、土壌全体の微生物数が桁違いに増大したのである。
その上、土壌全体の好気性菌と嫌気性菌の分布は極めて特異的である。一般に好気性菌は、地表から10cmぐらいの範囲に分布し、嫌気性菌は、その下方に分布するというパターンをとるが、EMを使い続けると、地表から60cm以上の下層にいたるまで、嫌気性菌と好気性菌が混在し、土壌の腐植量が増大するのである。
世界的に有名なオランダのワーゲニンゲン国際農業大学の土壌肥料の関係者が、そんなことは絶対にないと主張し、オランダでのEMの普及にブレーキをかけたため、当方がかなり高額の試験費用を負担し、3年にわたって現地試験を行ったことがある。結果は、当方の主張通り、土壌腐植は20〜30%も増大し、牧草の収量や品質に多大な効果が確認されたが、相手方のコメントは「害がなくてよかったね」の一言であった。
EMを十分に活用している農地は、100mmくらいの集中豪雨でも雨水が地表を流れることなく大半は地中に浸透し、表流水は清水である。50ha以上もあるタイのサラブリー農場は、洪水の常襲地であったが、EMを徹底して使い始めた数年後から、洪水の被害は殆どなくなり、かつては泥水で赤くなっていた溜池は、今では、清水の貯水池となっている。
表土の流亡防止は、世界的な深刻な課題である。大型機械や除草剤による表土の裸地化は、表土の流亡の主原因であり、構造的なものとなっている。
また、EMを施用し続けると冬の土壌の極温が2〜4℃も高くなり、夏の高温時の地温も2〜3℃低下することも確認されている。平成5年、東北地方は、冷害で平年の3割程度の収穫しか得られなかったのに対し、EMを活用した水田は、平年並みという結果であった。当然のことながら、高温による米の品質低下は完全に防止することも可能であり、EMを活用している農家にとっては常識的なこととなりつつある。
それらの結果は、EMの密度が高まり、その結果として温度に対する適応範囲が広まったものであるが、同時にEMやそれと類似した自然界の微生物が産生した様々な酵素が抗酸化作用はもとより種々の代謝活動にプラスに作用した結果でもある。
ドイツの環境省では、様々な土壌肥沃化の研究を行っているが、過去に遡って詳しく調べると、インドやブラジルなど世界の各地で、常識的に見て、過剰な人口を養っていた地域があり、その地域の共通項として、素焼の土器に人糞を入れ密封し、地中50cmより深く埋める方法がとられていたとのことである。
その検証のため、種々の実験を行った結果、すべて失敗に帰したが、その素焼の土器にEMを添加すると、土器の周辺から徐々に肥沃になってきたとのことである。この件について、私は、EMダンゴ(EMボカシ、土、EMスーパーセラC)を1〜3平方メートルに1個を目安に30〜40cm下に埋めると同じようなことが起こりますよとコメントしたが、この方法も、EM農家では徐々に常識化し始めている。
メタゲノム分析法の飛躍的な発展で、現今では、これまで分離培養できなかった全ての微生物を特定できるようになってきた。その結果は、人間の健康はもとより、環境も含め、自然力と称される全ての分野が微生物相(叢)によって支配されているということが明らかとなったのである。
素人的にいえば、微生物相(叢)が善玉菌支配型であれば、健全化のレベルが高く、腐敗菌等の悪玉菌支配型になると崩壊的な状況になるということである。この件については、25年前に書いた「微生物の農業利用と環境保全」(農文協・電子化済)で述べた通りである。
前回は、EMの力を活用したシステム的な限界突破について述べたが、EMのような有用な微生物の本質的な力、すなわち抗酸化作用、非イオン化作用、有害なエネルギーを有用なエネルギーに転換する機能や様々な酵素活性による触媒機能が高まれば、生産プロセスにおけるエネルギーロスは最小限となる。その結果は、下記の写真に示されるように品種の概念を越えた限界突破現象が現われ、超多収、高品質の作物生産が可能となる。
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写真1:一房に20個しかつかないミニトマトがその数倍も着果する | 写真2:通常5〜6kgの大根が15kg以上となる |
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写真3:ラッカセイも通常の2〜3倍の収量となる | 写真4:通常50〜60莢しかつかない大豆が400莢も着くようになった |
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写真5:通常1個しかつかない品種が4個も着くようになった(トウモロコシ) | 写真6:通常1穂に100〜110粒しか着かないササニシキ200粒〜250粒着 |
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