第70回 EM技術で資源工場化を達成した山梨県身延町の峡南衛生組合
1、焼却炉
1990年代後半、日本列島はダイオキシンの問題にゆれ続け、新聞は連日のようにその恐怖をあおり続け、このままでは人類の未来は無いとする報道や書籍が溢れかえっていた。最終的な解決策は800℃以上の高温焼却とバグフィルターの設置及び排出基準を既設の場合、大型は1ng-TEQ/㎥N、中型5ng、小型10ng、新設は大型0.1ng、中型1ng、小型5ng以下となり、定期的な検査が義務付けされ現在に至っている。
これでメデタシメデタシということになったが、この規制のため既設のごみ焼却炉の大半は廃炉となり、製鉄所なみの高温溶融炉が幅をきかすようになり、ごみ焼却のコストは自治体の財政を圧迫する大きな要因ともなっている。
EMはエネルギー転換力が強いため、ごみにEM活性液を散布し焼却すると低温完全燃焼という常識はずれの現象が現れる。この原理を活用して、EMセラミックスによる焼却炉の補修や0.1%のEMセラミックスパウダーの添加によって500℃程度の旧来の燃焼方式でも法定基準を大幅にクリアし焼却炉の寿命も大いに延ばせることも明らかとなった。バツチ式の中型炉は、沖縄県旧具志川市で、連続式の大型炉は、和光市の焼却炉で実験を行い、その成果は環境省にも報告され、ダイオキシン対策の一般公募にも応募したがいずれも対象外として却下されたのである。
今となってみれば、ダイオキシンは、当初に騒がれていたよりも毒性は低く、これほど厳しく規制する必要はないとのことが明らかとなっても、法律的に規制がかかると、これを元に戻すことは不可能である。そのため、東日本大震災のガレキも野焼きする事が出来ず、新たな高温焼却炉を設置したり、遠く離れた県外の焼却炉を活用せねばならず、膨大なコストをかける結果となっている。
既述のような国の方針によって、老朽化した焼却炉は、すべて廃止せざるを得ない状況に追い込まれ、既設の焼却炉も高温焼却を続けた結果、重油等のコストはもとより、焼却炉の劣化が著しく、結果的に廃炉となった事例も少なくない。
そのため、新設の大型で高額の焼却炉が広域的対応の役割を荷負っているが、現在のように高温で、ごみを焼却し続ける限り、炉の寿命は短くなり、迷惑施設と存在し続けることになる。この問題の本質的な改善は、EM技術の活用により先ずは、低温完全燃焼方式を取り入れ、焼却灰を機能性の高い土壌改良剤や建築資材として活用する事である。
その結果は、高温焼却による大幅な燃費の節減と炉の寿命を数倍以上も長くする事が可能となる。その次に、工場から発するEMの蘇生的なエネルギーで周辺の空気はもとより環境を積極的に浄化する余得が現れるようになる。その上、焼却施設で働く人々にとって、より健康的な職場環境に変わるということである。にわかに信じ難い話であるが、そのことを明確に実現したのが山梨県の峡南衛生組合の(遠藤稔所長)のバツチ式の小型の焼却炉である。
平成11年7月に「ダイオキシン類対策特別措置法」が公布された時点では峡南衛生組合の焼却炉は時間当たりの処理能力は約2トン弱で80ng-TEQ/㎥Nであったが、それを平成14年までに10ngに下げる必要に迫られていた。幸いなことに、その時点で、ごみピットの悪臭とハエ対策にEM活性液が活用され、炉の補修にEMセラミックスを活用していたため、私は、10ng以下にする事は容易であり、通常の焼却で特に高温にする必要はなく、バグフィルターも不要というアドバイスを行なった。
当初は、万全を期すため、可能な限り高温にし、バグフィルターも活用したため5ng以下となり、1年後には更に1ngを切るようになったのである。最近の結果は0.093、直近の平成25年2月21日の分析結果は0.063となっている。この数値は、最新鋭の大型の連続焼却炉の基準である0.1ngをはるかに下まわるものであり、法律の許容基準の同型炉の100分の1以下になっている。しかも、それらの成果は通常の焼却法によるものである。
写真1:焼却炉の全容
写真1は焼却場の全容である。EMを使い始めたころは、焼却場の建築物は薄汚れ、所々に金属の錆びの縞が目立ったが、EM活用の年数を重ねるうちに、汚れと錆びは消失し、この17年余一度も塗り変えることなく、このように姿を保っている。
写真2:EM1次培養活性液タンク
写真3:EM2次培養活性液タンク
写真2は、トン単位でEMの100倍一次培養活性液を作っており、1トンタンク1基とかなり大きなものである。その一次培養液を写真3の二次培養タンク(計3トン)で10倍に増やし、焼却場のごみピットの消臭や汚水、または冷却水に投入したり、併設の生ごみ肥料工場で活用されている。
住民のEMに対する認識も高く、家庭での生ごみリサイクルや衛生対策および家庭菜園にもEMは幅広く使われており、1L 50円で販売され、極めて好評である。また、その二次活性液は併設された、
し尿処理の受け入れ槽に対する投入用の三次培養液の種菌としても活用されている。
EMは、一般的には、二次培養液までを限度としているが峡南衛生組合の場合は雑菌を除去するシステムがとられており、その上に活性液の変質を防ぐ様々なノウハウが蓄積されているため、二次活性液と同等の三次活性液を作り、汚水処理のコストの低減に顕著な効果を上げている。したがって、このシステムは大型の下水処理への応用も可能である。
一般にごみの回収や焼却に当っては、予期せぬ泣き所がある。第1にゴミ回収車の発する悪臭と、その汚染による車両の劣化である。その次は、焼却ピットの悪臭は、施設全体の空気の汚染や建築物の汚染に直結しており、高温によって生じる活性酸素による機材器具のサビや劣化である。
また、このような環境下に働く人々の健康問題も深刻である。それと同時に、建造物周辺の環境汚染も無視できないものがあるが、従来の方法では、やむを得ないものと思われており、更には焼却灰の再利用にも付加価値を付ける事は不可能な状況にある。
峡南衛生組合は、EMの活用に徹することで、それらの問題をすべて解決しているのである。EMが発揮する強烈な抗酸化作用は、加熱すると更に高まるという性質があり、臭気の発生の原因を根本から取り除く力を持っている。峡南衛生組合のメンテナンスの総計は、他の施設から見れば信じられないほどに低額である。
写真4:ごみピットの投入口
写真5:ごみピットのガラス窓
写真6:焼却灰のリサイクルモデル
写真4は、ごみピットの投入口であるが作業員の大半はマスクもせず働いている。写真5は、ごみピットのガラス窓である。EM活用以前は、ハエがびっしりと付いて汚れていたが、EM活用後は、きれいに拭いたような状態を保っている。写真6は、焼却灰のリサイクル展示場である。雑草抑制効果、病害虫抑制効果、土壌改良効果が顕著で花の公園や、農業の分野でも活用され始めている。
また、この焼却灰をコンクリートに1%程度添加すると、強度が著しく増すことも明らかとなっている。この焼却灰は、し尿処理後の有機物や生ごみ等のボカシ肥料と混和すると作物の生育に抜群の効果があり、その成果を踏まえ年間100トン余の有機肥料のペレット工場を稼動させるレベルに達している。それらの件については、次回に述べる予定であるが象徴的なことは、職員の健康を積極的に向上する職場に変わり、焼却場の周りの森林の生態系が著しく変化してきたことである。すなわち、姿を消していた野鳥や野生動物が戻り、植物を含め、生物の多様性が豊かになり、自然公園的な雰囲気になり始めていることである。
EMを徹底して活用し続けて10余年、峡南衛生組合のごみ焼却炉は耐用年数の限界に近づいているとは、とても思えない機能的な焼却場に変わっており、EM技術でメンテナンスすれば、半永久的な活用も可能である。全国には老朽化し、廃炉直前の焼却場はかなり残っており、予算のめどがつかない自治体が大半である。EM技術は、このような困窮に対し明確な解決策を与えることが可能である。
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