第67回 EMによる重金属の吸収抑制



 前回までは、福島におけるEMによる放射能汚染対策に関するフォーラムでの発表の中から、現存する問題に対応出来る事例を紹介した。福島におけるEMによる除染対策はすでに紹介したように着々と進められ、特に乳牛への活用は、加速度的に広がっている。


 3年目を迎えた、チェルノブイリ原発で被災したベラルーシの国立放射線生物学研究所との共同研究では、内部被曝対策や畜産へのEMの応用、昨年までの成果を踏まえたセシウムやストロンチウム吸収抑制の実用化等々が行われることになっている。
 それらの成果は、今年の秋に行われる第2回のフォーラムで発表される予定である。日時は11月9日(土)開演13:00となっており、今回は福島市(県教育会館大ホール)で開催されるが、今年も昨年以上に、より広範な成果が得られる見通しにあり、多数の関係者の参加を期待している。


 第65回で紹介した「EMが土壌に含まれる放射性セシウムの植物への移行抑制効果」は極めて明確であり、すでに紹介したように放射性ストロンチウムにも顕著な効果が認められている。その件に関するメカニズムは(1)EM処理により、植物に吸収されやすい水溶性及び交換態のセシウムの量が減少する。(2)EMの施用により、植物が吸収しにくい有機物結合体セシウムの量が増える。(3)EMの施用により、植物が吸収しにくい粘土鉱物結合体セシウムの量が増えるという三点に要約される。


 このメカニズムは、そっくり放射性ストロンチウムにも当てはまるが、当然のことながら重金属の吸収抑制にも当てはまる結論でもある。農作物に対する重金属の汚染は、カドミウム、水銀、鉛、砒素等々が上げられるが、産廃処理や工業排水の厳しい規制により、現在問題として残っているのは、主としてカドミウムであり、特に神通川に代表されるように上流に存在する各種の旧鉱山が発生源である。


 コーデックス(CODEX)は、カドミウムの健康に対する安全基準を0.2ppmと定めている。これに対し、我が国の安全基準は0.4ppmとなっており、国連の基準を常に重視する我が国の習性に著しく反している。同様なことは、放射性セシウムの内部被曝量等々にも散見されるが国のやむにやまれぬ事情の結果である。


 もしも、日本の米のカドミウム含量基準を0.2ppmにした場合、現在の日本の米の30%内外は、完全に出荷できなくなり、厳密に調べると50%以上に達するのではないかという意見もある。カドミウムは酸化すると水に溶けやすく、作物に吸収されやすい性質を持っている。


 そのため、化学肥料や農薬の連用による土壌の酸性化や土壌中の有機物の減少がカドミウムの可溶化の大きな原因となっている。更にやっかいなことに、秋から春に水田を乾燥させる管理方式となっているため、この方式がカドミウムの酸化を促進し、より可溶化しやすい構造的なものとなっている。


 カドミウム対策に限ってみれば、有機物の量を増やし、周年を通し、湿田状態にすれば、土壌全体が還元状態になる。そのため、カドミウムの溶出量をかなり抑制することが可能となり、農林水産省のカドミウム対策はこの原則に従っている。


 しかしながら、現在の乾田方式は、水田の機械化の効率や米の病虫害や品質対策の向上のために体系的に発達した背景があり、特別な対策なしに、湿田方式に戻すことは、ウンカやイモチ病の多発はもとより、秋落ち(秋になり稲の根が腐る)による減収、低品質となる危険性を覚悟せねばならない。


 そのため、ゼオライト等のカドミウム吸着資材の投入はもとより、水管理に細心の注意が必要となるが、結果的に農薬の散布量を増やすことになりかねない状況にある。また、富山県の神通川水系で、カドミウム汚染のため、土壌の総入れ替えを行った地域でも、時間の経過とともに、カドミウムの作物への移行が現実の問題となっている。


 この件に関し、平成21年から種々の調査を行った結果、EM農家の水田のカドミウムの玄米への移行が、かなり低いということが明らかとなり、平成22年に実験的な確認を行い、EMによるカドミウム対策の指導を行ってきた。すなわち、10a当たり年間に300〜500LのEM活性液を流し込むだけで、他の栽培管理は、全く変えなくても明確な効果が現れてくるということである。


表1は、その成果の一部であるが、農水省の指導通りに、湿田期間を長く取りEMを併用すれば更に効果的であるため、現在は以下の方法でカドミウムや放射性セシウム対策を行っているが、その半量でも顕著な効果が認められている。


表1 EM施用による稲のカドミウム吸収抑制効果(宮城県栗原市)

※平成21年はEM無施用のカドミウム分析値
※平成22年は同じ水田にEM活性液(300〜500L/10a) 施用後の分析値




水田のカドミウム及び放射性セシウム対策に対するEMの活用法

1.EMを構成する主要菌の役割
1)酵母
 ・嫌気的条件では、リグニンやセルロースなどの難分解の有機物を発酵分解 し、低分子化する。主として、アルコール工業などで活用。例)リグニン→セ ルロース→デンプン→糖→アルコール→有機酸その結果、生の有機物を水田に投入してもメタンが発生しない。
 ・好気的条件下におくと、有機物を急速に酸化分解するため、有機物の分解 促進に極めて効果的である。
2)乳酸菌
 ・嫌気状態では、タンパク質をアミノ酸に変えるための発酵食品の主役であ る。
 ・動植物中のタンパク質を低分子のアミノ酸に変える過程で、タンパク質を含む組織を解体するため、結果的に有機物の分解を促進する。また嫌気状態で抗酸化作用が高まると、炭素源があれば無機の窒素を低分子のアミノ酸に変換する力がある。そのため、アンモニアや硝酸態窒素の過剰な発生を抑制する。
 ・好気条件下におくと硝化作用を促進し、有機物を急速に分解する。

3)光合成細菌
 ・好気的条件では失活するが、死滅する事はなく条件が整えば復活する。
 ・基質(エサ、有機物)が十分にあり、水分が適当にあると好気的条件でも増殖する。
 ・一般的には嫌気的条件下で光があると増えるという認識があるが、基質(エサ、有機物)が十分にあると光が無くても自然のエネルギーを取り込んで増殖する。
 ・光合成細菌は、地上部の植物と同じように土中や水中で光合成(炭酸ガスを水素で還元し、糖分を作る光合成作用)を行う能力を有するが、その反応においては、アンモニア、硫化水素、メタン等の水素を切り離し水素源とするため、不完全光合成と称されている。
 ※ 完全光合成:緑の植物がクロロフイルに太陽のエネルギーを取り込んで、触媒反応的に水を電気分解し、水素源を得る光合成を完全光合成と称している。
 ・土壌中に光合成細菌が増殖すると、アンモニア、硫化水素、メタン等を基質として活用するため、土壌中の有害還元物質が著しく低下するとともに、土壌の浄化機能が強化される。


2、水田での具体的な活用方法
1)上記のEMの主要構成菌の性質を十分に理解した上で、水田を肥沃化し、土壌の抗酸化状態を高めるには、収穫時以外は水田を乾燥させず、収穫残渣を全量水田に戻すと同時に、可能なかぎり生の有機物を水田に投入し、EMが土壌全体にくまなく増殖するような仕組みを作る事が重要である。


2)EMは、EM1号(乳酸菌、酵母主体で光合成細菌を含む)とEM3号(光合成細菌主体)をそれぞれ1%、糖蜜を2〜4%混和し一次培養する。その一次培養液にEM1号を1%加え、さらに100倍の二次培養液を作る。雑菌の活性を抑えるため、EMセラミックスパウダーを5000分の1程度添加すると同時に、1トンの培養タンク当たり1kgのEMセラミックス(パイプ35)を常時セットする(EMセラミックスの寿命は半永久的である)。なお、光合成細菌の添加量や基質のレベルを改善すれば、三次、四次培養も可能であるが、雑菌が多くなるため、長期の保存は困難となる。したがって、培養完了後は3〜7日で使い切る場合に限られてくる。


3、一般には、二次培養液を10a当たり年間1トン。水口から流し込むだけで十分であるが、EMの性質を活用し、不耕起、無除草、無農薬、無化学肥料等を含めた、省エネ、環境保全、河川や海の浄化、多収および品質向上対策が同時に行えるシステムと栽培法を普及する必要がある。このような事例は、すでに全国に普及し始めており、群馬、熊本、宮城、北海道にも一般公開できる事例(全てha単位以上)がある。


4、EMは、微生物管理技術であり、土壌中のEMの密度さえ高めればよく、栽培暦に合わせた使用法は無く、いつでも施用可能であるが、水田では以下の方法がパターン化し始めている。
1)秋処理。収穫後、イナワラを広げEM活性液を10a当り100〜200L散布し、軽く耕起した後、排水溝を閉め湛水状態を保つ。雑草の種子の大半は、EMの発酵作用で枯死。
2)田植えの1〜2ヶ月前に、EM活性液を100〜200L散布し、代かきのみ行う(EMの秋処理のため、土壌が軟らかくなっており、プラウをかける必要が無い)。代かきは、田植までに数回行うと、トロトロ層をかなり厚くすることが出来る。そのため雑草の種子は、トロトロ層の下層に移り、呼吸困難となり発芽が抑制される。
3)田植直後から、10a当り1回100Lの活性液を水口から流し込む。栽培期間中に400〜600L流し込むと、イモチ病をはじめ病害虫に著しく強くなり、多収・高品質となる。
4)収穫後、収穫残渣以外に、家畜の糞尿や他の有機物を投入しEM処理すれば、30〜50%以上の増収となる。
5)新規に春から取り組む場合は、田植前1〜2ヶ月の間にEM活性液を10a当り100〜200L散布し、代かきを数回行い、トロトロ層を厚くする。 代かきを行う毎に、EM活性液を100〜200L施用すると、なお効果的である。
6)田植直前にならないと水が来ないため、前もって代かきが困難な場合は、その前に有機物を投入し、EM活性液を100〜200L散布し表層を耕運する。その後、水が導入できた時点でEM活性液を100〜200L水口から流し、数回丁寧に代かきすると、トロトロ層が厚くなるため、雑草を完全に抑制することが可能である。要は、代かきの回数次第である。

 ※有機物の投入量は、10a当り500kg以上、1t以内を目安にする。
 それでも雑草発生の懸念があれば、除草剤を活用する。

7)一般的な普及において重要なことは、従来の栽培法にEM活性液を10a当り年間500〜1000L(5〜10回に分け12ヶ月で)施用することから始まり、技術が向上し、土の力が付き始めると、徐々に化学肥料や農薬を減らし、3年を目処に転換するほうが無難である。



記事一覧へ