第6回 中南米のEM普及拠点となったアース大学



 前回はEMによるペルーの貧困農科自立支援事業の成功例を紹介しましたが、そのきっかけはコスタリカにあるアース大学(EARTHはスペイン語で熱帯湿潤国際農業大学)の卒業生のEM普及による地域農業振興活動に端を発しています。


アース大学全景
:アース大学全景

 アース大学は創設20年ぐらいの若い大学ですが、今では中南米のNo,1の国際農業大学です。この大学は、中南米はもとより熱帯の湿潤地の農業が不振なのは、農業現場に額に汗して働く若い専門の指導員が不足しているからであり、その目的を達成するために徹底した現場教育を行うために設立された大学です。


 この大学の実質的な創設者は元コスタリカ大統領で1986年にノーベル平和賞を受賞したオスカル・アリアス氏です。アリアス氏は中南米の農業振興のロマンを求めてその目的に賛同する個人や団体の寄付を世界中から集め個人の持っていた飛行場付きの広大な農園もすべて寄付し、米州中央開発銀行の協力を得て設立したのです。


 学生の大半が中南米各国からアース大学の教官が各々の国に出向いて面接し決定され、中南米では最高額の奨学金が支給されています。


 大学のカリキュラムは実習につぐ実習で、インターンシップ制も充実しており学内でのランキング付けも厳しく、ある一定のレベルをクリヤーしなければ退学となり、上位にランキングされるとスタッフ(教官)に近い扱いを受けるシステムになっています。したがって学生は昼夜たがわず目の色を変えて頑張っており自主自立が徹底して教育され様々な国際会議でも堂々と対応できるレベルにまできたえられています。


 私とアース大学の接点は1994年にシンガポールで開催された21世紀コモンウェルズバイオテクノロジー国際会議です。この会議にアース大学のタボラ教授が出席しており、私のEM技術の講演を聞いて資料の提供とアジアにおけるEMの普及活動を実際に見てみたいという申し出がありました。私はEMのアジア太平洋の普及拠点で私が会長をつとめているバンコクのAPNAN(アジア太平洋自然農業ネットワーク)事務所を紹介したのが始まりです。


 その後、タボラ教授は毎年のようにアジアのEM活動の事例を調査し、1996年の初夏に沖縄まで訪ねて来られ、共同研究に関する提案を出されました。両者のコンタクトの手違いで私が空港へ出発する直前に10分間だけ会うことになりました。私はOKを出し1997年の夏に国立コスタリカ大学のバイオテクノロジー国際会議で基調講演を行うことになっているので、その時に詳しく話し合うためアース大学を訪ねることを約束しました。


 アース大学は大西洋に面した港町のコロンへ行く途中の熱帯多雨林地帯の代表的な場所に位置し、入口から本部建物まで2km以上敷地は4000haもあります。大学のまわりにはホテルや小さな雑貨店やレストランが数軒あるだけで全寮制の学生は実習や勉学に励む以外にはやることがないという環境にあります。タボラ教授は、アース大学では今後の農業の方向性として有機農業を重視しており、EMの併用で化学肥料や農薬中心の現在の農業を超えることが可能であることをバナナの実験を通して説明してくれました。


 その後、副学長や他のスタッフも加わり、研究費の寄付などの外に大学に対するかなりの高額な支援をお願いされました。バナナ園は300ha以上、農地の余力が1000haもある農業大学です。大学の理念やカリキュラムの説明を聞いた私は「私もこのような農業大学を作りたいと考えていましたが、すでに出来上がっているこのアース大学を全面的に支援します。しかしお金は出しません、EMで自立出来るようにノウハウを伝授します。」と答えました。


アース大学バナナ園
:アース大学バナナ園

 一同あっけにとられた表情になってしまいましたが、聞けばバナナ園は赤字状態で規模拡大も不可能でその他の分野でも収益が少なく、今後の展開には世界中から寄付を集めないとじり貧になるという話だったのです。「バナナ園をEMで有機栽培に変えるだけで大学の運営費の捻出は可能である。1000ha以上もの農地化できる土地を持った農業大学が、その土地を利用し自立できないようだと本当の意味の教育は不可能であることを説明し、私のEM普及の代行組織であるEM研究機構から客員教授を派遣し、EMの製造工場も作ってあげましょう。そうなれば大学で必要な資金は自立的に調達できます。」という私の逆提案をアース大学は受け入れたのです。


 とはいってもアース大学の大半の教授はEMを信用しておらず、タボラ教授と数名のスタッフが賛同し、有機農業に役に立つならばというレベルからスタートしました。したがってEMの初代の客員教授となった新谷君の苦労は並大抵のものでなかったと思いますが、彼の任期中の4年間ですべてを納得させる実績を作り上げ、今ではアース大学は別称「EM大学」といわれるようになりました。


 EMで有機栽培に変わったアース大学のバナナは、コストが半分以下になり価格が4〜5倍にもなり、今では米国にある世界最大の有機農産物流通会社であるホールフーズが全面的に協力しています。このアース大学の成果を受け、コスタリカのバナナ事業組合は独自のEMの試験を行った結果、今後はすべて有機栽培に切り替える方針を確定したのです。この動きはドールやデルモンテ、チキータなど国際的なバナナ資本に広がり、全世界のバナナプランテーションがEM栽培に変わるのも時間の問題となり始めています。


 中南米の使用されるEMの種菌はアース大学で作られており、各国の卒業生会が中心にEMの普及が進められており、EMが普及すると各々の国も良くなりアース大学の財源も大きくなる仕組みも出来上がっています。


ワークショップ参加者 

 昨年の6月にアース大学での中南米EM国際会議があり、数年ぶりにアース大学を訪ねました。ホセ学長もそのためにわざわざ日程を変更し終日参加され「アース大学はもとより中南米にとってEMは革新的な技術であり、それを普及することは大学の使命である」旨のあいさつをされました。


 今ではコスタリカの水産(エビ)と畜産の90%以上がEMを活用し、環境関係でもほとんどの分野にEMが使われています。また、有機のバナナ、コーヒー、ココアなどはもとより有機農業のすべてにEMが活用されています。アース大学を創設したアリアス氏は憲法が変わったため再び大統領に選任され「軍隊のない国を造ったノーベル平和賞」の経験を基にスイスよりもさらに望ましい国際的な平和国家のモデル作りを始めています。そのポイントはシステム的に有意な人材を育成し、自国はもとより中南米の一次産業と環境と貧困問題の解決となっており、アース大学はその象徴的な存在となりつつあります。



記事一覧へ