第57回 堆肥等の放射線対策



 桜も散って、春の植付けのシーズンとなってきた。放射能に汚染された地域の有機農業農家は、地元産の有機物を原料とする堆肥が使えないという深刻な問題をかかえている。そのためU-ネット(NPO地球環境・共生ネットワーク)では、西日本のボランティアの協力を得て大量のEMボカシ(EM発酵有機肥料)を支援し続けているが、ボランティアの限界がある。


 そのため、地元の有機物や堆肥にEMを施用し、放射能レベルを下げ、同時に栽培においてもEM活性液を10a当り、200L〜500L使うことをすすめている。この提案は本DNDシリーズの第48回「福島県におけるEMによる放射能対策(中間報告)」でもすでに述べたように放射能汚染汚泥をEMで発酵処理した岩手コンポストの結果に基づくものである。


 岩手コンポストは、岩手県のほぼ全域の汚泥をEMで処理しており、福島県の原発事故後も、通常通り汚泥が搬入され、処理されている。当然のことながら、その汚泥には放射性物質が含まれており、その対策が課題となっていた。岩手コンポストは15年以上も前からEM仕様に徹しており、その製品(コスモグリーン)は有機農業にも使用されている。一般に汚泥を原料にしたコンポストは、有機農業への使用は禁じられているが、公的機関の再三の分析結果によって、安全性を完全にクリアしており、その品質の高さには定評がある。


 放射能対策についても、搬入する材料と製品の放射能を徹底して測定することから始まったが、原料には、放射性物質が含まれているのに対し、45〜60日かけて出来上がったコンポストには、放射性物質は全く検出されず、毎回の検査でも、例外はないという結果となっている。


 この成果を福島県内のEM農家に応用してもらった結果、すべての農家の作物から放射性物質は検出されないということが明らかとなった。測定はゲルマニウム半導体検出器で行われたが、公的機関は、この検出器以外の検出器で測定したものは信用しないことを前提としており、検出誤差は1ベクレルである。すなわち、ゲルマニウム半導体検出器で測定し、検出されずとなると、例え放射性物質が含まれていても、最大でkg当り1ベクレルであり、実質はゼロとみなしてもいいという数値である。(表-1)



表1


 これまでの検査の結果は300余となっており、その結果は信頼に値するものである。また、栽培をくり返しているうちに、放射性セシウムが再吸収される懸念はないのかという問い合わせもあるが、5000ベクレル内外の汚染土壌でセシウムを吸収しやすい、小松菜を同じ圃場で4〜5作続けても、EMを使っている限り、吸収されないことも明らかとなっている。


 福島に限らず、東日本全域にホットスポットが存在しており、それらの地域は、除染の対象にもならず、現在のところ、自力で対応せざるを得ない状況になっている。その上、農林水産省による肥料、土壌改良資材の放射性セシウムの暫定許容値は400ベクレルとなっており、この規制値に従うと東日本の大半の有機物は使用できない状況となる。そのため、NPO法人地球環境・共生ネットワーク(U-ネット)では、西日本を中心に安全性の確認されたEMボカシやEMの堆肥を福島の有機農業農家に送るという支援活動を行っているが、東日本全体の有機農業のことを考慮すると、EMの応用を徹底すべきである。


 表2に示された結果は、すでにU-ネット通信220号(3月30日)で発信されたものであるが、堆肥を作っている間にセシウムが他に移動したのではないかとか、試料の採取方に手違いがあったのではないかという様々な見解があるが、この結果は、EMによって放射性のセシウムが確実に減少していることを示すものである。



表2


 この結果について、当事者に更に細部について問い合わせを行い、次のような参考情報が得られたので補足したい。

  1. EM活性液は仕込みの段階でEM3号を添加(一般にEM活性液の光合成細菌のレベルを上げるために仕込段階でEM1号とEM3号を等量入れる方法とEM1号の活性液を作り透明の容器に入れ、直射日光に当て、やや赤みがかった状況(1〜2週間)で使用する方法がとられている。)
  2. 材料は、屋外の堆肥工場にある発酵途中のバーク堆肥(街路樹等の剪定枝・落葉・刈草等)を取り出し試料とした。試料は、フレコンバッグ(耐久性が強く水が通らない大型の袋)に詰め、雨よけの屋根のある場所に設置
  3. EM散布の度に、試料をフレコンバッグから取り出しビニールシート上で撹拌、その後再度フレコンに詰め直した。
  4. 発酵状態がよく、かなり高い熱を発していた。


 以上の結果、当初680ベクレルもあった放射性セシウムは、4ヵ月後には260ベクレルまで下がり、農水省の規制値をクリアし、5ヵ月後には190ベクレルとなり、処理回数が増えると時間の経過とともに、減少率も早まる傾向にある。一般的には、時間の経過とともに、有機物の分解や消耗によって、全体の重量が減るため、放射性物質の濃縮効果が現れ、放射線量は増えるというパターンを取るが、それに反し、今回の結果は、放射線量が著しく減少していることである。


 EMの効果を信じない多くの人々、特に物理学者は放射性物質は、短期間に消失することはなく、半減期の法則に従っているという確固たる信念を持っている。そのため、本DNDシリーズでEM処理によって放射性物質が減少したという情報を公開しても、測定の方法が間違っているのではないかとか、当初の測定の部分から、放射性元素が雨水で下方に移動したためではないか等々で、EMの効果を絶対に認めないという態度をとっている。


 本試験で170kgの堆肥原料に10LのEM活性液を散布し、ビニールのシート上で均一に撹拌した後に、水を全く通さないフレコンバッグに入れることをくり返している。このような方法では、放射性元素は、すべて均一に混和されており、系外(袋の外)に出る条件にはなく、放射性セシウムは消滅したとしか言えないのである。放射性セシウムが、不透水のフレコンバッグから抜け出る性質があるということであれば、話は別であるが、このようなことは寡聞にして聞いたことはない。


 今回のようなセシウムの消滅現象は、各地で認められるようになっている。そのため、すでに普及体制に入っており、放射能汚染の根本的な対策となり始めている。今回の試験で重要なことは、放射性セシウムがEM処理によって明らかに消滅していることと同時に、EMの処理回数を増やせば増やすほど、堆肥の質が飛躍的に良くなるということである。


 ホットスポットや低レベルの放射性汚染地帯の落葉や雑草、剪定枝などの放射線は予想よりもかなり高くなっている。そのためそれらの取り扱いは焼却し灰に濃縮し保管というコストの高い方法がとられているが、有機農業や農業分野に有機物を活用できなくなれば、地力はもとより、将来に様々な問題を生み出す危険性をかかえたままである。


 これまで何回となく述べたが、放射性元素は逃げないし、短期間に消滅するものではない。したがってEMに効果があるか否かは計ってみればすぐに解かることである。



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