第56回 タイ国の大洪水後の浄化活動に国策として活用されたEM (3)


→english


 今月(3月)上〜中旬にかけ、タイ国から私あてに日本語訳された「中部14件の洪水被害地域における汚水問題緊急解決プロジェクト実施成果のまとめ」と「洪水被害による汚水浄化プロジェクト実施結果のまとめ」が送られてきた。

 前者は、国防省と天然資源・環境省によるもので、後者はタイ国陸軍による公式な報告書である。


 図1と図2は、その表紙である。



図1:報告書の表紙



図2:報告書の表紙


 先ずは、国防省と天然資源・環境省の実施成果のまとめの要約である。


 洪水被災者救済対策センター(ソー・ポー・ポー)指令、第29/2554号「諮問委員会および中部14県の洪水被害地域における汚水問題緊急解決調整委員会の設置」によるものである。


 中部14県(ナコンサワン、ウタイターニー、シンブリー、チャイナート、アーントン、サラブリー、アユタヤ、スパンブリー、ロッブリー、ナコンナーヨック、ナコンパトム、パトムターニー、ノンタブリー、チャチェンサオ)における被災地の汚水問題が危機的レベルに達したため、首相は、2007年災害防止緩和法の第31条に依り、2011年10月20日に首相令第17/2554号「大規模災害発生地域における問題解決措置規定」を発動し、2011年10月17日に、天然資源・環境省および国防省、タイ国軍を被災地の汚水問題解決にあたる中心機関として任命し、15日以内に実施を完了させるものと定めた。これを受けて委員会は、各県の問題の深刻さを考慮し、約190万バーツの予算の下、汚水の浄化に着手した。その内容は次の通り。


  1. 洪水被害に遭ったピサヌローク県バーンラガム郡の30ライのゴミ貯留地におけるEMを使った汚水浄化。
  2. アユタヤ県マハーラート郡ローンチャーン村の9ライのゴミ貯留地におけるEMを使った汚水浄化。
  3. 市民に無料配布を行うため、EM活性液提供部隊をバンコク都ウィパワディー通りの陸軍競技場に設置。


 現在、洪水により発生した汚水をEMを用いて浄化する作業は、効果的かつ整然と進められ、事前に定められたプロジェクトの目的は達せられた。これは、任務を担った全組織の協力による成果であり、どの箇所においても任務が地道に実施されたことで、今回の活動の成功を収める結果となった。この度の被災者の苦しみを軽減することができたと考えられる。これらの各種活動の写真を、委員会は以下の通りまとめた。


代表的な事例は図3、4、5に示す通りである。



図3:10m以上冠水した被災地では、ゴミ貯留地への移動は船で。



図4:ごみ貯留地へのEM資材の投入



図5:EMの水質浄化の結果


 次に陸軍の実施結果のまとめの要約である。


 陸軍災害救援センター命令(臨時)第01/54号により、陸軍司令官より陸軍災害救援センター民間任務部に対して、タイの洪水被害地域における汚水問題の解決にあたり、被災者の困難を軽減するよう命令が下された。
実施手順は次の通り。


  (1).政府機関、民間機関、市民(有志)を対象とする研修の実施。2011年11月17日と2011年12月6日の2回開催された。いずれも会場は陸軍クラブ(ウィパワディー)、時間は9:30〜17:00。研修参加者は合計で2,000名。
2011年11月17日 研修実施第1回目
於:陸軍クラブ マッカワーン会議室


講師を務めた専門家

  1. ピチェート・ウィサイジョン陸軍大将
    題目:貧困・環境問題の解決を目的とした陸軍ネットワーク内でのイーエム微生物(EM)の利用。
  2. ワラヌット・ジッタタムサパーポン教授
    題目:イーエム微生物(EM)と世界最大規模の汚水浄化。
  3. マナット・ヌーサウィー
    題目:サムイ島での市民ネットワークの汚水問題解決の経験。
  4. ポンティップ・ロージャナスナン 題目:イーエム微生物の環境浄化への利用。
    (プーケット津波被害の際の遺体のケース)
  5. チャオ・ノックユー博士
  6. チャルームポン・ジナーラット陸軍大佐
    液体微生物の繁殖方法およびイーエム・ボール(EM Ball)の作り方。
  7. シリラット・スラルートランシー教授
    液体微生物の繁殖方法およびイーエム・ボール(EM Ball)の作り方。


(2)微生物サービスセンターの設置。洪水で発生した汚水の浄化に使うための微生物(EM)の生産・繁殖を行い、市民へ配布した。続いて、陸軍災害救援センター民間任務部は、微生物サービスセンターを以下の5か所に設置した。

  1. 第1軍管区 災害救援センター(担当:第11歩兵師団災害救援センター):バンコクおよびその周辺地域の市民へサービスを提供。
  2. 航空防衛師団 災害救援センター(担当:陸軍第1航空防衛戦闘センター):アユタヤ県の市民へサービスを提供。
  3. 特殊作戦師団 災害救援センター:ロッブリー県の市民へサービスを提供。
  4. 近衛第2騎兵師団 災害救援センター(担当:近衛第5騎兵局災害救援センター):サラブリー県の市民へサービスを提供。
  5. 獣医局 災害救援センター:ナコンパトム県の市民へサービスを提供。


(3).微生物サービスセンターは微生物(EM)の繁殖を行い、管轄地域の市民へ配布した。配布量はサービスセンター1カ所につき、1日あたり10,000リットル。5つのセンターを合わせた液体微生物の市民への総配布量は1,500,000リットルにのぼる。


 現在、洪水により発生した汚水を微生物を用いて浄化する作業は、効果的かつ整然と進められ、事前に定められた洪水被害による汚水浄化プロジェクトの目的は達せられた。これは、任務を担った全組織の協力による成果であり、どの箇所においても任務が地道に実施されたことで、今回の活動の成功を収める結果となり、この度の被災者の苦しみを軽減することができたと考えられる。今回、支援を受けた市民は、陸軍の洞察力と善意、市民の安全と健康を重視するその姿勢に感動を受けた。陸軍司令官の代理となって任務にあたるすべての軍兵士へ感謝の言葉をここに伝える。市民を救援するために活動したことは、任務を遂行した者にとって大きな喜びであり誇りである。これらの各種活動の写真を、実施委員会は以下の通りまとめ、当文書に添付する。



図6:研修参加者は1回で1000名



図7:配布用のEM活性液の瓶詰め作業と運搬



図8:市民へのEMの提供



図9:陸軍の市民への協力活動


 公式な報告書の要約は以上の通りであるが、その他、社会開発省、文部省もこの活動に積極的に参加し、タイ国仏教協会、タイ国経団連など挙国一致的な活動が行なわれたとのことである。投入されたEMダンゴは600万個以上となり、その大半は学校関係と、市民ボランティアによるもので、その成果は連日、マスコミも取り上げ、今やタイ国民でEMを知らない人はいないという事である。


 我が国でも、本シリーズで何回も報告したように東日本大震災や福島の放射能汚染対策に、大量のEMが使われ、現在もなお、その支援活動が着々と続けられている。いずれも、公的な協力は皆無であり、すべてEMボランティアの自主的な活動にゆだねられている。


 拙書シントロピー(蘇生)の法則-EMによる国づくり-でも明らかなようにEMは、国家の危機管理として、また空気や水の如く国民の生活に不可欠なものとして位置付けすべきものである。もしも、自衛隊、または国が、タイ国並みにEMを活用して、東日本大震災の災害対策に当っておれば、次元の違う危機管理が生まれたと思われるが、時期いたらず、これからも地道に実績を重ね、多くの人々の理解と協力を得る努力を一段と強化する心算である。


 タイ国は、今回の報告書を基に市民のEM活動の成果を含め、一冊の本にまとめることになり、EMの開発者としての思いを書いて欲しいという依頼が来た。そのタイトルは「EMでタイ王国を世界に冠たる理想郷へ」とし、すでに投稿済みである。



記事一覧へ