第55回 タイ国の大洪水後の浄化活動に国策として活用されたEM (2)


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 様々な偶発的な結果が幸いして、有用な好気性菌と嫌気性菌がPH3.5以下の強酸性下において共生的に存在することが確認された。その複合微生物は農業のすべての分野で応用できる可能性を有しており、連作障害対策やハウスの塩類集積対策や病害虫の抑制に顕著な効果が認められたのが1980年であった。


 1982年から公益財団法人自然農法国際研究開発センターの協力を得て、自然農法の分野での活用が進められたが、当時の名前は「サイオン」とか「偉力」と称されていた。その成果を国際化するため、1986年、米国で開催された世界有機農業会議で発表したが、世界に通用する名前として、英語の有用(Effective)と微生物(Microorganisms)の頭文字をとってEMと命名されたいきさつがある。



自然農法アジア人材育成センター研修室での国際セミナー


 農業分野を含め学術的に有用という場合は、 Beneficial という単語が使われ、決して、Effective とは使わないものである。そのため、EMではなく、BMが正しいのではないかという疑問も出されたが、あえて、EMと称した理由がある。BMと称した場合、人間側にとって都合のいい微生物という意味合いが強く、細菌兵器に使われる微生物もBMとなる。


 それに対し、EMは、人間や自然界に対し、有用な作用はあっても、有害な作用が全くない微生物群という意味で使われており、BMとは明確に区別された概念である。そのため、動物や人間の健康のために、広く飲用として活用している国もあり、我が国でも、多数の人々が自己責任で健康や内部被曝対策等に使っているという現実がある。



EM活性液作り


 したがって、EMは、米国やヨーロッパでは、EMという文字が商標として登録されており、日本をはじめ、世界の有機農業の認証資材ともなっている。今では一次産業や環境分野において、世界で最も多く活用されている微生物資材である。


 1986年9月、沖縄出身で、タイ国で広く社会福祉事業を展開していた世界救世教タイ国本部長であった湧上和雄氏が、私が勤務していた琉球大学農学部へ訪ねて来られ、タイ国での自然農法に対するEMの活用を希望されたのである。



EMボカシ作り


 同郷のよしみもあり、喜んで協力させてもらうことになったが、それ以前から、私とタイ国とのつながりは深く、沖縄のラン産業や鑑賞園芸の発展は、タイ国からの導入がなければ、今日の姿はないといっても過言ではない。当時、園芸学の教授であった私は、お世話になったタイ国で、自分の開発した技術が活用されることを素直に喜んだのである。その結果、湧上さんが来校された1ヵ月後の10月にタイ王室が支援し、農業省土地開発局が主催するタイ国有機農業会議で、有機農業におけるEMの活用についての基調講演を行い、湧上さんの協力でタイ国でのEM普及が始まったのである。


 その当時は、前回に述べたように、タイ東北部は長年にわたる干魃のため、農村は危機的な状況にあり、自給自足が可能な「王土楽土」をめざす有機農業を推進する運動が行なわれていた。プロジェクトの大半は、王室中心のキングプロジェクトとなっており、第二軍がその任に当たっていた。当時、日本からも、首相経験者をはじめ、多くの国会議員がタイ国を訪問し、数々の援助の約束をして帰ったが、一件も実現していないという苦情が寄せられた。


 本件について、担当のサナーン大将(後に国防大臣)に確認したところ、タイ東北部のプロジェクトは軍が担当しているため、日本の法律では外国の軍隊に予算的支援は不可能という返事であったとの事である。日本は、口約束で何もしてくれないというサナーン大将に対し、私と湧上さんでEMで東北の農民が自立できるような仕組みを作るので、軍もそれに協力して欲しいという提案をしたのである。



EMボカシによる生ごみ処理法


 EMを普及するには、そのモデルとなる農場と、人材育成のトレーニングセンターが必要である。私が年間1000万円の寄付を日本の民間から集め、それでEMを活用した自然農法センターを作り、協力してもらえる試験研究機関にも、小額(30万円以内)ながら予算を出し、同時に各地にモデル農家を育成する。この活動は、最低でも5年間は続けるというものである。


 この提案は、湧上さんの多大な協力でサラブリー県に自然農法アジア人財育成センターが出来、開所式には軍の幹部も列席し、関係省庁の積極的な協力を得てスタートした。私も年に6回タイ国へ行き、特別研修会を行い、集中的に人材育成を行なったが、その費用は、すべて私の個人負担であった。


 このまま行けば、メデタシメデタシとなる筈であったが、東大を中心とした日本土壌肥料学会が、EM潰しを目的にしたある団体から、500万円の寄付をもらい、EMは効果がないというコメントを出し、EMバッシングを始めたのである。農水省も、この動きに同調したため、この情報はタイ国にも入り、タイ国でも、大学や肥料農業関係によるEMバッシングが始まったのである。


 農水省は後になってEMの名誉回復を図ってくれたが、日本土壌肥料学会は、今でも知らぬ狸を決め込んでおり、学会誌に、EMの論文を平気で載せる無神経さと非常識さを保持し続けている。



EM処理、生ごみ等による土壌改良


 日本のEMバッシングの影響は、数年も続いたが、タイにおけるEMの実績は、いかんともし難く、現実のEMプロジェクトは加速度的に広がったのである。特に、軍や社会開発省では、麻薬や貧困対策、南タイにおけるイスラム教徒の貧困問題の解決とテロ防止を目的に、EMのトレーニングセンターを作り、年々1万人以上の人々がトレーニングを受けるようになり、現在も続いている。その成果は国連でも、高く評価されており、タイ国で環境や健康や農業、教育に関し、EMのトレーニングを受けた人々は、すでに100万人を超えているのである。


 その最大の功労者は、何と言っても湧上和雄さんである。タイ国とのゆかりの偉人と言えば、山田長政が歴史上の人物であるが、湧上さんが行なったタイ国でのEM活動は、真にタイ国を救済し、豊かにするという、タイ国発展の基礎作りに直結しており、歴史的にも前代未聞の偉業であり、日本人による国際貢献の偉大なるモデルである。


 本シリーズも、EMを通して幸福度の高い国造りがメインテーマであるが、東日本大震災や福島の放射能対策で、EMの力は、すでに実証済みである。福島における放射能対策は時間とともに、その実証例はいたるところで認められるようになってきた。


 タイ国にも、日本におけるEM情報は直につながっており、今回の大洪水を機にEMによる危機管理のマニュアルが出来上がっている。その結果、EMは完全に国策としての認知が得られるようになり、そのノウハウはベトナム、ラオス、カンボジア、マレーシア、インドネシア、インド、東ティモール等々の国々に広がっている。



EMを活用し、無農薬で育ったキャベツ


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