第36回 EM技術による天然記念物や老齢木の保全



 本題に入る前にヒト、トリインフルエンザについて一言、この緊急提言の初期の狙いは、強毒性のトリインフルエンザのH5N1型が変異して人にも移る気配があり、現実にタイ、インドネシア、ベトナム等々でH5N1型にかかったトリを食したり、そのトリと長期に接触したヒトに感染し、死亡した例が増え始めたからである。幸いにも、人間がH5N1型で死んだトリに触れなければ問題はないとされるようになったが、ウイルスの変異能力から考えると、H5N1型が昨年のブタインフルエンザのようになりかねないため、注意が必要である。


 昨年のブタインフルエンザ(新型インフルエンザ)は感染力が強かったため、パンデミック(大流行)宣言がなされてたが、重篤な患者は、一般的なインフルエンザよりも少なかったため、ワクチンは、1000億円分以上も余ってしまい廃棄された。日本に限らず、先進国の大半が同じ目に合ったが、廃棄された世界のワクチンの60%以上が日本であり、また、昨年使用された抗ウイルス剤のタミフルも、その80%が日本で使われている。


 良識的な医療の分野では、免疫力を高めておれば、ウイルスの感染防止が可能であり、たとえ感染しても、その症状は軽く、極めて短期間(一週間以内)で正常に戻ることが常識である。したがって、抗ウイルス剤は不要どころか副作用が多く、有害とされている。宮崎県で発生した口蹄疫もウイルスである。感染力や、被害の度合いは、他のウイルスの比ではないくらいに強いが、畜舎や飼養の管理にEMを活用することで、感染を防ぐことが明らかとなってきたが、この根幹はEMが強い抗ウイルス作用を持つことと、体内に入ると免疫力を強化するというEMの機能性によるものである。現在、騒がれているトリインフルエンザも同様な方法で対応が可能である。


 昨年の新型インフルエンザ(豚インフルエンザ)対策にEMを活用した松山市の複数の幼稚園では、園児の数が市内で最も多いにもかかわらず、学級閉鎖をすることがなかったとのことである。しかも園児の兄弟、姉妹が新型インフルエンザにかかって学級閉鎖になっていたにもかかわらず、その幼稚園に通っていた園児は、インフルエンザとは無縁であったとのことである。


 いずれの幼稚園も、日頃から、手洗いトイレやプール、室内外の掃除にEMを活用しており、また、インフルエンザの季節には加湿器にEMを入れたり、教室に朝夕の2回、軽くEMの噴霧を行なっている。この実績は、父兄からインフルエンザが広がらない幼稚園として、高く評価されており、その成果は介護や老人保養施設にも広がっている。EMは、素人でも20〜100倍程度に増やす事ができ、コストも無視できるくらいに安いものである。


 さて、本題のEM技術による天然記念物や老齢木の保全であるが、前2回の「生物多様性を守るためには」の補足である。重要な野生動物や野生の植物を守るために、保護区を設定しても絶滅するのは、化学物質や酸性雨等による汚染の結果、環境全体が酸化し、秩序の破壊が進むためである。すなわち、エントロピーの増大ということになるが、このような状況は連鎖的に起こるため、防ぎようがないが、同時に土壌や水中の微生物が酸化型、すなわち、強い酸化酵素を出す種類が優占している場合である。


 この根本的な解決は、環境中の微生物をEMのように、抗酸化機能の高い微生物群が優占するように、微生物相の管理を行なえば、強烈な酸化作用を持つ化学物質も分解されたり、反応しなくなってくる。同時に、その反応を促進していた有害な微生物相も機能しなくなり、秩序化が正常になり、蘇生化する。このような現象をエントロピーの対極にある概念として、シントロピーと称しているが、エントロピーの増大は、一方的な方向で、可逆ではないという考え方に対し、微生物の持つ3Dヘリカル(三次元コイル)による触媒的なエネルギーの賦与によって、可逆的になるという主張である。


 すでに述べたように、奈良の東大寺のEM活用は、まさにシントロピー現象ともいえるものであるが、天然記念物の保護には、動植物問わず、EMを年に数回散布し、自然界の微生物相を蘇生型にするだけで、問題の根本を解決することが可能である。しかも、コストは他の方法に比較すれば、想像を絶するくらいに安いものである。


 また、天然記念物に指定されると、その保護のために、何かの処理が必要となった場合、その筋の専門と称される委員会の議を経る必要がある。大体は、地元の大学または文化庁の指名する専門家ということになるが、かつては、EMを提案すると、当初は、ことごとく却下されたものである。そのために、やむを得ず、施用する堆肥をEMで発酵したり、水質浄化のためと称して、潅水にEMを混和し散布したものである。


 我が国の樹木の天然記念物指定の第1号となった山梨県の北杜市の武川にある山高神代桜は、今から、7年前に瀕死の状態となり、文化庁から、その蘇生的な対策を依頼された。私が委員長であったため、EM技術を活用することを提案したが、文化庁指名の委員が猛反対し、結果的に、EMはボランティアで使うなら認めるが、国の支出には認めないということになった。


 4年かけて、根の周りの土を新しい土に入れかえ、排水を良好にし、踏圧を防ぐという処置をすることになったが、その際に、施用した有機肥料は、EMで発酵したものであり、幹や根の周りには、EM1号とEMセラミックスを注入し、樹木全体をEMで洗い、潅水にもEMを使うボランティア活動を行なった。7年前の7月に行なわれた現地調査の時点で、葉は黄化し、落葉し始めており、古い幹や根本にはシロアリが発生し、サクラを知る人なら、誰が見ても、「この冬は越せず、次年度には枯死する」状況であった。


 造園関係の専門家から、「この委員を引き受けて大変なことになった」「比嘉先生、EMがそんなに効果があるなら、どんな方法でもいいから、このサクラを救って欲しい」と悲鳴にも似たような発言もあり、私は、いかなる反対があっても、EMを使うことを決心した。委員の大半は、私の提案に同意したのに対し、文化庁指名の委員が厳として反対し、その妥協案として、ボランティアなら、EMを使ってよいということになったのである。


 私は、委員会が終了した次の週に、関係者とともに再度現場に行き、EM1号の活性液を土壌や樹木の全体に浸みわたるように徹底して散布し、幹や根際にEMセラミックスをEMと混和し注入処理を行った。数週間後、大量に発生していたシロアリは完全に姿を消し、葉の黄化や落葉も止まり、小康状態となり、次年度からの土の入れかえ工事も、予定通り行なえるようになった。


 翌春の開花は、前年度よりも、かなり力強いものとなり、その後もEMの施用を続けたため、樹勢は、年々急速に回復し、7年を経過した今日、枯死の懸念は全くなくなり、徐々に往時の姿に戻り始めている。


 この山高神代桜は、樹齢が1200年余りともいわれ、800年以上も前に衰弱した際に、日蓮上人の祈願によって、再び元気になったと伝えられる桜である。幹まわり13M余、昭和に入ってから年々衰弱し、太い幹は枯れた大株となり、その株から出た直径30CM〜40CMの幹が10本くらいあり、樹医による様々な外科的手法が施されていた。その中の数本はすでに枯死しており、キノコが生え、根元にはシロアリも発生し、枯死寸前の状態であった。EM処理から3年目の開花の時にNHKからトピックス的に扱われたり、今では、多く人々が写生や見学に訪れるようになっている。


 老齢化した古木へのEMの活用は、非公式に関係者の責任で行なわれ福島県野村市の三春の滝ザクラ、香川県の善通寺の松、静岡県の白陰の松、国立市の大学通りの桜など、かなりの実績を持つものであるが、その元祖的存在は、台湾の花連にある台湾山脈のベニヒノキの御神木の復活である。


 台湾山脈の北部の地域は、タイワンベニヒノキの巨木が群生する保護区であるが、その中に樹齢2500年以上の御神木に指定された更に大きな複数の巨木がある。その中の1本が衰弱し、枯死寸前となったため、日本の樹医に見てもらった所、費用は250〜300万円、確実に良くなるという保証はないということになり、EMで何とかならないかという相談を受けた。1997年のことである。


 方法はすでに述べた山高神代桜と同じやり方で、根の周りや幹にEMを500〜1000倍にして、年2回徹底して散布したのである。写真のように、1年で回復し始め、奇蹟の御神木として、台湾の林業学会誌の表紙をかざるまでになった。この実績によって、台湾における古木や老齢木の管理にEMが活用されるようになったが、その後、台湾山脈を襲った伊勢湾台風並の強大な台風で、御神木の大半が倒れてしまい、今は写真のみしか残っていない。



 このような実績を踏まえ、日光の東照宮の杉や、奈良県桜井市にある大神神社の杉の御神木の復活に、EMの活用が試みられている。特に大神神社の成果はめざましく、衰弱した御神木は復活し、その成果を境内に広げ、今では御神体である三輪山の山頂からEMを散布するようになっている。山頂では、頂部にEMを撒くと雨水で下方まで広がるため、平地よりも簡単であり、効果が高く、山林の生態系保護には、決定的な力を発揮するようになる。


 この実績と奈良の東大寺の成果を受けて、全国の神社、仏閣における池の浄化や樹木の管理や文化財の保護等に、EMが活用され始めている。神社仏閣の木が枯れると、人の気も枯れ、「いやしろ地」がいやしろ地(なんでもいやす、清める力のある場所)でなくなるため、特に御神木の管理を中心に境内の緑や生態系の管理は重要である。


 これまで述べたような実績から、全国の神社や仏閣や聖なる地で、EMを活用すれば、その地域を更にレベルの高い「いやしろ地」にすることができ、生態系を守り、更には生物多様性を守る新しい力になり得るものと考えている。



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