第29回 EM技術による気象災害対策(2)



 前回は主に稲作における低温、日照不足による冷害対策について述べたが、稲作にかかわらず、この原理は、果樹はもとより、すべての作物に当てはまるものである。また中山間地の晩霜や早霜も、お茶や果樹や野菜に壊滅的な被害を及ぼす場合も少なくない。このような地域でも50〜100倍のEM活性液の葉面散布を週に2回程度の目安で行なうだけでも顕著な効果が認められている。


 EMは界面活性力が極めて高いため、葉面に発生する霜の核をブロックする力がある。そのため、霜を発生させない機能もあり、同時に低温による組織破壊の元凶であるフリーラジカル(活性酸素)を消去するため、霜害を完全に防ぐ力がある。


 葉面散布は、すでに述べたようにEM活性液を50〜100倍の単独でも効果は認められるがEM7を5000倍、EMスーパーセラCを5000倍、EM液体石鹸を1000倍になるように添加すると、低温期の代謝の活性化と相まって、更に効果的である。コスト的に見ても、市販の葉面散布剤の4分の1以下である。


 当然のことながら、それらの諸原理は、夏の高温障害や干魃対策にも効果的である。前回にも述べたように、土壌中のEMの密度が高まると、地温が30℃以上になる夏期の午後から夕方にかけ、地温が2〜3℃も下がるという、信じられない冷房効果が現れてくる。既述の葉面散布と併用すれば、高温や干魃に対する作物の耐性が著しく強化されるようになる。


 すなわち、EMの界面活性作用によって、葉面に集中する熱が分散され、葉温が上がり難いという場が形成されるためである。その次に、EMのエネルギー付与機能を持つ触媒作用によって、使用できる波長の範囲が広がり、通常なら、熱となる領域の波長が、光合成に活用されるという現象が現れる。そのため、強光や高温のために発生する光呼吸等が著しく低下する。


 光呼吸とは、作物が紫外線や高温に耐えるために、すでに合成した糖分を消耗する現象で、夏期高温時には、全光合成量の50%を越える場合も少なくない。高温や乾燥の害も、その原因の大半は、冷害と同じくフリーラジカル(活性酸素)によるものである。すでに述べたように、EMは極めて強い抗酸化作用があり、あらゆるタイプのフリーラジカルを消去する優れた機能をもっている。


 葉面散布は、3〜4日に1回の割合で2〜3回続け、葉面のEMの濃度を高め、その後は週に1回とする使用法が一般的である。とは言え、散布回数は、多い方が収量や品質も向上し、病害虫耐性が著しく強化されるため、完全無農薬栽培にすることも可能である。


 異常気象は、常に病害虫の多発と連動する関係にあり、この複合作用が農作物に壊滅的な被害を及ぼしている。原理的に見ると、異常気象による作物体への物理的なストレスが、作物体内のフリーラジカルを増大させ、その結果として、作物の環境や病害虫に対する耐性を低下させる連鎖的な現象である。


 これまで主に、低温と日照不足、高温と干魃対策について述べたが、夏の高温と日照不足という組み合わせも発生する。このような場合は、スイカ、メロン、トマト等は、水っぽくなり、果物は糖度が不足してまずいものとなる。このような事例が発生した場合も、既述の葉面散布で十分な対応が可能であるが、状況がより深刻な場合は、光合成細菌主体のEM3号を500〜1000倍になるように添加すれば更に効果的である。それでもなお、不安が残る場合は、光合成細菌添加の葉面散布液の土壌潅注処理を行い、根の活性を高めれば、数回の処理で徒長は止まり、糖度も急速に高まり、味も激変するくらいの効果が認められている。いずれも、本シリーズ第24回で述べたシントロピー現象である。


− 潮風害、塩害、集中豪雨、台風対策 −

 防風林や排水等の物理的な対策を講じても、それを上まわる台風や集中豪雨、潮風や塩害が発生する場合がある。このような状況でも、既述の葉面散布でかなりのレベルの対応が可能であるが、抗酸化力を更に強化したい場合は、EMXゴールドを1000〜2000倍になるように添加し、12時間以内に散布すればかなり効果的である。物理的な折損や倒伏を除くと、被害直後の果樹や水稲は意外に青々とした状態にあるが、24時間も経過すると葉は茶色になり、数日もすると山火事にあったような状況となる。


 生理的にみれば、過剰なフリーラジカルの発生によるものであるが、遅きに失した場合でも、果樹やお茶など多年性の作物に対する葉面散布は、樹勢の回復を早め、次年度への悪影響を最小限にすることも可能である。


 秋の台風による稲の倒伏や果樹の落果等は、不運をなげくしかないという状況であったが、長年の経験からEM技術によって、かなりのレベルで対応できることが明らかとなり始めている。写真1は平成3年ごろに福井県の敦賀市で確認された台風一過後の水田の状況である。


写真1 EM栽培の稲は倒伏に強い
:写真1 EM栽培の稲は倒伏に強い

 EMを活用した水田は殆んど倒伏しておらず、全く信じられない出来事であった。その後、意識的に調査した結果、EMを活用した水田は倒伏しにくい、倒伏しても数日で立ち上がり、コンバインで支障なく刈り取ることが出来たという報告が多数寄せられるようになったが、稲がEMやEMスーパーセラCで丈夫に育ったためと思われていた。


 平成19年の7月、沖縄でスーパーセラCを使ったEM栽培のバナナ園の台風被害を見てこの考えは一変した。そのバナナ園とは、私が直接管理しているもので、バナナゾウムシ対策にEMスーパーセラCを年に4回バナナの芯に10g程度投入したものである。平成15年頃から、EMスーパーセラCを併用すると、病害虫にも強く、気象災害にも卓越した効果があることが確認され、この現象は、単に作物が丈夫に育っただけでは説明できない物理的な耐性効果もあるという見方に変わり始めていた。


 台風が襲来する2週間前の6月の末にEMの異業種交流会でも、その話をし「私のバナナ園は年に4回、2年で計8回のEMスーパーセラCをバナナの芯に投入した。バナナは台風に弱いので、その結果を観察するには最適なものである。近々に台風が来ることを期待している。」という話をした。なんと、その2週間後に、本格的な台風が本当にやってきたのである。


 そのバナナ園は、まわりの建築物の関係で、強い風が吹き込んで、うずまくような地形となっている。台風時には、他のバナナ園よりも風速が強く、大きくうずまいていたとのことである。残念なことに、台風時には、私は東京と広島の出張に出ており、直接観察したわけではないが、台風当時に現場をまわったEM研究機構の研究員の話である。


写真2 台風前
:写真2 台風前

 バナナは200本余、定植2年目の7月12〜13日にかけ、たわわに実ったバナナ園(写真2)に最大風速55mの台風が襲ったのである。10m以上の風が吹き始めて、ピークに達し、台風が去るまで、まるまる2日余、風に弱いバナナにとっては最悪の条件である。


写真3 台風4日後
:写真3 台風4日後

 私が沖縄へ戻ったのが7月16日の夜で翌7月17日、すなわち台風後、4日も経過した現場を見たのである。7月前半に最大風速が50mを越える台風は沖縄気象台観測史上、初めてのことで、いくらスーパーセラCといえども50m以上の台風には無力だったのかと思いつつ園内をまわって驚いた。(写真3)



写真4 根元から折れ曲がった株
:写真4 根元から折れ曲がった株

 花が咲いたばかりのものや果実が小さなものは倒伏や折損は少なく、葉がぐしゃぐしゃになっているだけで、その後の管理次第では収穫までもっていける状態であった。果実が10〜15kg以上のものは大部分が倒伏したり折損はしているものの葉が全くなくなったり、幹がぶっつりと、千切れているものはなく、ストローが折れ曲がった状態となっていた。(写真4)


写真5 幹がぶっち切れた他のバナナ園の状況
:写真5 幹がぶっち切れた他のバナナ園の状況

 同じ時期に同じ品種を植えた他のEM栽培のバナナ園とEMを使ってないバナナ園も調査したが、EMを活用しているバナナ園の状況は、ややましという程度で、10kg以上の果実のついたものは壊滅状態で、折損した株の殆んどのものが幹が完全にぶっち切れた状態となっていた。(写真5)

写真6 支柱で立て直して収穫にいたる
:写真6 支柱で立て直して収穫にいたる

 私はストローが折れ曲がった状態のバナナや倒伏したバナナを起こし、支柱にしばって安定化し、芯の部分にスーパーセラCを10〜15g投入し、全園EMを散布して、回復を待ったのである。(写真6)何と85%以上が収穫できたのである。他のバナナ園は全滅または10〜20%しか収穫できなかった時である。


 多くの人々が、私のバナナ園を見て、信じられないと驚嘆した。同時に、稲の倒伏防止についても、ほぼ、結論が得られたものと確信し、機会あるごとに、EMスーパーセラCには、稲の倒伏防止の力があると力説するようになった。


 EM栽培に徹すれば、倒伏防止効果があることについては、EM関係者の間では常識となりつつあるが、後半のイモチ病対策に、EMとスーパーセラCを散布した水田は、イモチ病を抑制したばかりでなく、倒伏にも更に強いことを確認していたからである。


 8月に、私のバナナ園に見学に来た福岡県行橋市のグループに、その話をしたら、早々に6ha以上ものコシヒカリにスーパーセラCとEMを散布したのである。コシヒカリは、倒伏に特に弱い品種である。幸か不幸か、9月の上旬に30m級の台風が来襲したのである。他の水田のコシヒカリは、全て、倒伏したのに対し、EMスーパーセラCを散布した水田は全く倒伏しなかったのである。


 この台風は、全国で縦断したため、各地で類似の成果が多数確認されたが、果樹でも同じ効果が確認された。特に、10年以上も前から、EM栽培に徹し、スーパーセラCを活用している青森県弘前市の弘前EMネットグループのリンゴ園(約80ha)は、他の果樹園にくらべ落果や落葉が著しく少なく、その後の樹勢の回復も、顕著であったということである。


写真7 倒伏を免れた水田
:写真7 倒伏を免れた水田

 昨年の8月30日、千葉県に30m級の台風が上陸した。写真7は、EMスーパーセラCを散布して倒伏をまぬがれた収穫直前の状況である。この水田を除く、まわりの40haの水田は、すべて倒伏したとのことで、この地域は、今期から大半の人々がEM栽培に取り組むようになったとの事である。



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