第20回 EMによる漁業振興(2)



 これまでEMによる河川や海の浄化や漁業の振興について述べたが、世の中には疑い深い人が多く、漁業は常に変動し、周期をくり返すので、たまたま、その周期と一致したのではないかという声も寄せられている。その疑問に答えるためには、長期にわたるデーターの積み上げのみであるが、5〜10年単位のデーターであれば十分である。これまでの説明では、ややデーター不足の側面もあったが、第18回で紹介した三河湾のその後の公的データーが発表されたので紹介したい。



 先ず、アサリの10年間の収穫量を隣の三重県と比較したものである。愛知県のアサリの大半は、三河湾でとれたものでEMの影響水域である。この両者を比較すると図1に示されるように愛知県の場合は右肩上がりでH20年はこれまで一度も経験したことがない数値となっているのに対し三重県は横ばい状態である。


 全国的な傾向も、図2示されるように、愛知県を除くと横ばいが下降気味である。その中で福岡県が上がり気味であるがこれも県南でEMが海苔養殖のためにかなり大量に使われるようになったからである。 図3の地域別のアサリの漁獲量をみると、一色町が群を抜いて断トツである。本シリーズの第17回でも説明したように、一色町は組織的に平成10年からアサリの漁場にEMをまき続けているのである。



 図4は、主要魚種別漁獲量である。カレイが横ばいから微増、シラス、アサリ、カタクチイワシは急激な右肩上がりで過去の記録を更新しているのに対し、イカナゴは変動をくり返し平成15年のレベルに下っている。イカナゴの減少原因については今後の追跡調査を続ける必要があるが漁獲量全体は飛躍的に増大しており、年別の豊漁、不漁の変動が少なくなっている。


 すでに紹介したように、世界で最もエビ養殖が盛んなエクアドルでは、全体の70%ぐらいの養殖場でEMが使われており、隣の中国ではEMの水産関係の論文や報告書は1000点以上もあり、中国の養殖場でもかなりのEMが使われている。



 我が国の水産資源の枯渇の原因は、海や河川、湖沼の水質汚染によるものであって、獲りすぎて魚貝類がいなくなった訳ではない。この最大の原因は、陸上で使われている農薬や化学肥料、各家庭で使われている洗剤や衛生対策に使われている殺虫殺菌剤や下水処理にかかわる塩素消毒等々の化学物質汚染である。そのような汚染が有用な微生物の繁殖をおさえ食物連鎖の最も基礎をなしている微生物相を破壊し、海を砂漠化しているのである。


 河川や湖沼や海など水系の微生物相が健全であれば、家畜や人間の糞尿やその他の有機物は、発酵分解的に動植物プランクトンのエサになり、流入有機量と漁獲量は比例的な関係となる。


 化学物質の汚染で、この食物連鎖の基幹が破壊されると、水系の自浄作用も同時に破壊され、悪臭を発し、ヘドロが堆積する最悪な状態となる。その対策として有機物の水系への流入を規制し、塩素消毒を徹底した結果、水はきれいになったが魚がいないやせ細った貧弱な水系となる。この矛盾した姿が現在の我が国の先端的な水質浄化の結果である。


 このような状況の中に、有機物が流入したり、護岸のために大量のセメントを使うと、有機物のアンモニアとセメントのカルシウムが強烈なアルカリ環境を作る結果となる。全国に広がる磯焼け現象は、その象徴的なものである。


 水産の側から見れば農業は合法的に毒をまき散らかす犯罪的な行為を行っており、衛生対策や医療、洗剤、下水の塩素消毒もすべて同類とみなす視点が必要である。


 EMは農業はもとより、医療洗剤、下水処理を含め、あらゆる分野に応用が可能である。これまで述べた三河湾などの多くの事例は、化学物質を禁止しない現状にEMを投入したり、生活の中にEMを活用した結果である。


 我が国の水産の振興を本気で考えるならば、化学物質汚染を最少にする視点で陸上から海へ流入する汚染を、すべてEMで処理し、水産資源の基礎を肥沃化する以外に方法はないと考えるべきである。



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