第177回 環境中の微生物の機能とDNA密度の重要性



メタゲノム分析法やDNAの多様性や機能性の研究は、これまでの微生物学の常識を根底から覆し始めている。従来の微生物学は、主として、環境から分離し培養をして、その性質を調べ、応用を検討する手法が定番となっている。この場合、技術的な制約が多く、実存する微生物の0.1%も解明されておらず、複数の組み合わせの効果を明確にするのも極めて困難である。

自然界における微生物は、常に活動を続け、生理生態的に生存環境を整え、総合的に生態系を維持する性質があり、物質のように固定的概念で捉えることは不可能である。

前号でも紹介した拙著「微生物の農業利用と環境保全」は、有用な微生物をより多く共生的に培養し、土壌に施用し続ければ、病原多発の「腐敗性土壌」から病気の発生しない「浄菌型土壌」に変わり、更に続けると、あらゆる有機物を無害に資化する「発酵型土壌」となる。更にそのレベルを高めると、土中で光合成や窒素を固定する菌やリンをはじめ、無機栄養を可溶化する微生物が増え、「発酵合成型土壌」になる。

このレベルになると、有機物を細断し、地表に敷きつめるように施用すると堆肥化するよりも効果的である。したがって有機農業の難点となっている堆肥化プロセスは全く不用となる。

現今、全世界に広がっているEMは、このプロセスの応用によるものであり、「有機物のリサイクルと環境浄化と限界突破的農業生産」を実現しているのである。

EMを収穫残渣レベルの有機物と一緒に施用すると、土壌中の微生物の種類と数が圧倒的に増大することは今や常識となっている。有機農業の微生物の多様性と密度に関する内外のコンテストでも、EM活用土壌はトップの常連となっている。




はるか昔の話になるが、EMと化学肥料の比較試験が多くの研究機関で行われ、統計的に差は無いとして闇に葬り去られた歴史がある。統計的に差が無ければ、様々な有害原因物質の化学肥料に置き換わってもよいということになるが、当時の研究機関では、このような考えはなく、化学肥料より効果がなければ認めないという考えに固執したのである。

同じ土を使って試験をすると、1作目は化学肥料区がやや良く統計的に差は無く、2作目になると化学肥料区はやや劣りEM区が良くなり、統計的に差が現われる。3作目になると、化学肥料区はまともに生育せず、EM区は旺盛に生育し、統計的にも大差が認められるようになる。

現実の農業は、同じ土壌を代々使い続けるため、この事実は顕在化し、効果は誰の目にも明らかである。研究機関のほとんどが、同じ土を使い繰り返し栽培実験を行う例はなく、土壌中で進行している微生物の累積効果を見逃しているのである。

最近のメタゲノム分析法では、環境中に存在する微生物のDNAをすべて特定することが可能となり、DNAそのものが量子力学的振る舞いをすることも明らかとなっている。次に紹介する森の古木の役割もその一例である。


古木は森を支える遺伝子を供給していると判明!

樹木は私たち動物とは異なり、何百年・何千年と生き続けることが可能です。そのため森の中にはときに、周囲の木の年齢の10~20倍以上にも及ぶ古木が誕生します。私たち人間の文化はそのような古木に対して、古くから畏敬の念を抱くと共に、信仰の対象にもしてきました。
そこで今回、CTSの研究者たちは、飛びぬけて年齢の高い木がどのようにして出現するのか、また森全体にどのような影響を与えているかを調べることにしました。
といっても、古木の成長過程を実測することはできません。そのため調査にあたっては主にシミュレーションが用いられました。研究者たちは、1年あたりの木の死亡率や環境変化を数値化し、さまざまな条件で1万5000年にわたる期間での成長過程をシュミレートしました。
結果、飛びぬけた年齢を持つ古木は、周囲に生息する木々とは最適とする環境が異なる遺伝的に「浮いた存在」であることが示されました。樹木の寿命は長いため非常に高齢の木では、定着した時期と現代の環境が変化している場合があります。
これにより数百年から数千年を経た現在に生息する若い木々とは、好む環境そのものが違っており、これが森の中でも古木を遺伝的に特異な存在にしていたのです。
(※極端な例で言えばイチョウの森に、1本だけカシの古木があるような状態)
そのため人間が長寿の木を神聖なものに感じた秘密は、この特異な遺伝的要素にあったのかもしれません。また研究者たちはシミュレーションの結果から、周囲と異なる古木の遺伝子は、森全体の遺伝的多様性を維持するのに役立っていることを発見しました。
環境が激変して現在の森の主流派となる木々の生育が困難になった場合でも、さまざまな時代の異なる環境で生育した古木たちがいる場合、森は速やかに回復することが可能になります。そのため森にとって古木は、異なる環境に適応する遺伝子を撒き散らしてくれる、貴重な存在だったのです。
古木の喪失は、そのような遺伝的な資源を失うことにつながり、森にとっての損失は計り知れないものとなります。研究者たちは古木を保護することが、森全体の生存性を高めることにつながると結論しました。チームは今後も、古木に焦点をあてた研究を行い、世界中の森林の適応力を高める手段を探していく予定です。
人間のコミュニティにおいても、古い知識を持つ長老は重要な存在ですが、会話ができない樹木たちにとっても、長老の木は古い時代の遺伝情報を伝えるという意味で重要なコミュニティの支えになっていたようです。
以上、[https://moneytimes.jp/archives/106064]より引用


有用微生物群(EM)との共生がLPS産生のカギである

EMを使い続けると、森の古木よりも環境に供給するDNAの量は圧倒的に多くなり、究極の農地は根本的に環境や健康、自然生態系を豊かにする力があることを再認識すべきである。

最近実用化されたLPS(リポポリサッカライド)は、グラム陰性菌の細胞壁の分解物であるが、免疫ビタミンとして呼ばれるようになっている。EMの中に居る光合成細菌は機能性の極めて高いLPSをも産生する特性も有している。

自然界でLPSを産生するパントエア菌は、EMと共生的に繁殖する性質があり、EMで発酵した果物や果物の皮のピューレにも増え、更には腸内でLPSを作る力がある。

すなわち、万能的な免疫ビタミンを日常的にEM生活で充足できる仕組みを作ることができ、病気にならない生き方が可能ということになる。パントエア菌の情報は、以下の通りであるが、EM栽培の農産物には発酵食品以上にLPSが含まれている。

昔から体に良いとされてきた玄米はLPSも豊富です。穀類では細菌が表面に共生する関係上、LPSは外側に多くなります。だから精白米より玄米の方がLPS量が多いのです。またLPSは漢方薬にも多く、十全タイホ湯については、有効成分がLPSであるという論文も出ています(※1)。 ところで、植物の栽培に、化学肥料を使うと細菌の種類が偏り、農薬を使うと細菌が死滅します。こういったことから、近年野菜についているLPS量は減っています。野菜のビタミンやミネラルが昔よりずいぶんと少ないのと同じで、野菜本来の力が弱くなっているとも言えるでしょう。
(※1)Uncovering potential ‘herbal probiotics’ in Juzen-taiho-to through the study of associated bacterial populations, Bioorganic & Medicine Chemistry Letters 25 (2015) 466-469

これらのことを総合的に考えると、有機物を使用せず、農薬を使用しないことを売りにしている水耕栽培もDNAの総合力を考慮しない限り未来はないといえる。


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