第17回 首都圏におけるEMの水質浄化活動の意義



市ヶ谷濠@ハシビロガモ、キンクロハジロ
:市ヶ谷濠@ハシビロガモ、キンクロハジロ

 第15回と16回の2回にわたってEMで甦った東京の日本橋川の状況を紹介したが、下水処理場等でEMを活用すると、東京港はもとより東京湾をきれいで豊な海にすることも比較的簡単なことといえる。本件については次回の「甦った三河湾」の紹介の際に説明する予定であるが、現在、日本橋川や神田川を浄化しているボランティア活動はその上流にある外濠の浄化にも取り組んでいる。


市ヶ谷濠Aプランクトンを食べるハシビロガモ
:市ヶ谷濠Aプランクトンを食べるハシビロガモ

 日本橋川や神田川のように目を見張る成果は認められていないが透視度も格段によくなり、悪臭は完全に消え、積層するアオコは消失し、ヘドロも徐々に減少し始めている。この差異は投入されたEM活性液の絶対量やEMダンゴの数の違いによるものである。試験的に行われた赤坂の弁慶濠はすでにシジミやドロ貝も復活し、魚の種類も大幅に増え、生態系が豊かな濠に変身しているのである。御承知のようにドロ貝は絶滅危惧種で東京都内では殆んど見ることができず、驚くべき成果である。


 弁慶濠の水質は、ほぼ水産一級のレベルに達しており、非常時には砂ろ過程度で飲料水に使える状況にある。大雨が降ればその限りではないが、数日もすると回復する自浄力を保持しており、カワニナも発生しているため次年度にはホタルを飛ばす計画である。


 1995年、私が地球環境財団の理事長時代に環境問題に熱心な若い青年が訪ねて来た。彼はEMのことをよく理解しており、次のような提案をしてくれた。すなわち1995年に起った阪神淡路大震災のライフラインで最も深刻であったのが飲料水を除いて、日常生活で使用するトイレや洗濯、シャワー等の水であったとのことである。市内の池や川の水を使おうと思っても汚染がひどく、全く使えなかったどころか、ゴミや汚物の投棄場に化した例も多く、悪臭や衛生面でも問題が多発したそうである。東京がそうならないために皇居のお濠をはじめ、都内の濠や池をEMできれいにして欲しいとのことであった。


市ヶ谷濠Bハシビロガモの給餌
:市ヶ谷濠Bハシビロガモの給餌

 阪神淡路大震災では、EMのボランティアも多数参加し悪臭対策はもとより、各種の衛生対策にEMが幅広く活用された。特に野外トイレや水洗が使えなくなったトイレや汚水対策に大きな力を発揮し、神戸新聞は両面開きでEMの特集を組んで報道したが公的機関は無関心または無視の状態であった。

 被災地を見舞われた天皇陛下がヘリコプターで到着した小学校の校長から、これまでどうにもならなかった悪臭対策をEMで行ない、陛下を無事におむかえ出来ましたという丁重なお礼の手紙をもらったこともある。

 以来EMは国内各地の地震や洪水後の衛生対策にボランティアを通し幅広く活用されるようになり、台湾中部地震でも大々的に活用されている。またスマトラ沖地震ではタイのプーケット、インドネシア、スリランカ、インド等でもEMは活用された。特にタイ国においては国軍の要請に応じかなりの量のEMを提供し、今ではタイ国軍の被災地出動にはEMは必需品となっている。中国の四川大地震でも中国の赤十字社の要請でEMの提供に協力したいきさつもある。


災害に強い都市作りをめざして


牛込濠@小魚を捕るキンクロハジロの群れ
:牛込濠@小魚を捕るキンクロハジロの群れ

 関東大震災の再来を疑う人は殆んどなく、時間の問題とされているが、その対策は建築物や構造物に限られている。これまでのEMボランティアの経験を総括すると最も感謝されたのが悪臭対策である。被災地では生ごみや排泄物や汚水の衛生対策のため、様々な消毒薬が使われるが臭気の対策が完全でないため薬品と臭気が混じったにおいが漂うことになる。そのため、夜も眠れず、いらいらがつのり些細なことにも過剰に反応する人が増えるとのことであるが、EMでこの問題を解決した後は、多くの人が積極的に協力体制を組む望ましい状況に一変するとの話である。


 EMを理解してくれている市町村には、EMを自分で増やし、生活化する仕組みを作ることを指導しており、公民館を中心に住民の大半がEMを使っている自治体もある。また非常時のために、1〜2トンのEMを備蓄することもアドバイスしており、私が勤務する名桜大学でも一般の人がEMを自由にもらえるようにするとともに、常に2〜3トンのEMが内外のいざという時のために使えるようになっている。


牛込濠Aアオサギ
:牛込濠Aアオサギ

 EMは乳酸菌や酵母および光合成細菌を核とした微生物の集合体であり、その安全性や環境に及ぼす影響については、世界中でチェックされ150余の国々に広がり28年も経過した微生物資材である。米国や日本でも飲用として製造が許可されており、農林水産のすべての分野、環境のすべての分野(化学物質、放射能汚染対策も含む)に活用され、土木建築、省エネ、医療健康分野など幅広く応用されており「うさんくさい。訳のわからない微生物」といわれるものではない。


 このような実績を踏まえると、説明責任はEM側になく、EMが問題だとする側が具体的に問題を指摘し、科学的な証明をする必要があるが、この常識を忘れている有識者が意外に多く、そのような人々の不勉強がEM普及の大きなネックになっている。


 日本橋川や神田川をきれいにし、その上流の外濠を浄化する大きな目的は災害に強い都市づくりをめざしたものである。1995年の提案から15年を迎え、都内の濠や池や川をきれいにする手法が確立された感がするが、当初からEMの活用を様々なルートからお願いした皇居の内壕の浄化は、ペンディングのままである。


 いずれ、都内各地の成果に従う形でEMが活用されるものと考えているが内壕を一巡した水が清水壕から日本橋川に流れ込み日本橋川の汚染源の一つとなっていることは残念な思いである。


牛込濠B集まるカワウ
:牛込濠B集まるカワウ


記事一覧へ