第169回 最近におけるブラジルのEM活用状況



1993年に出版した「地球を救う大変革」で、ブラジルでEMが大々的に普及し始めた頃の状況を説明した。今では、EMは誰が使っても何の違法性はなく、自由に使えるようになっている。新しい技術が出ると、人々は必ずその可否を役所や研究機関に確認することが常となっている。

役所や研究機関にその技術を評価する能力があれば問題はないが、多数の蘇生型微生物が密封容器の中で嫌気的に存在しているEMは、当時の科学的常識では否定的な存在であった。

すなわち、微生物は、生きるために酸素が必要である。複数の微生物を同時に培養すると競合するため、5科10属81種なんてとんでもないという理由である。そのため、現場の驚異的な事実は無視され否定的な見解が続出し、ブレーキがかかったのである。

それでも多くの関係者の努力によって、EMの実力が認識されるようになったが、当初の勢いを失い、低迷状態になったのである。

今では、コスタリカのEARTH大学が中南米のEM普及の人材育成機関として機能するようになっているが、ブラジルもEARTH大学の卒業生であるCid氏を中心に、15年前に仕切り直しとなったのである。

その結果、現在では50万ha(日本の水田面積は500~600万ha)以上の農地にEMが活用され、水質浄化や様々な分野でEMが大々的に活用されるようになってきた。ブラジルの水質汚染は、解決策はないとまで言われてきたが、Cid氏は役所の協力を得て、写真1のように大々的な水質浄化に取り組んだのである。2000haで総水量1億6千8百トンのダムである。写真2の黄色い丸印(7ヶ所)がEM投入地点で、計402,800リットルのEM活性液が投入されたのである。


(写真1)


(写真2)

2020年、2月に投入され(写真3)たが、2021年5月の中間報告は以下の通りである(写真4)。


(写真3)


(写真4)

ブラジルから水処理の2ndレポートいただきました。 言語ポルトガル語なのですが、最後の結果報告以外はほとんど写真資料ですので、送りいたします。サマリー要約は以下の通りです。

具体的な結果
  • 水質の維持
  • 現在まで臭気抑制が進み苦情報告無し
  • 水の濁度が改善され、外観を改善する
  • 提示されたデータによると、P(80%)、N Total(65%)、N-NH3(80%)、BOD(75%)の減少が確認された
  • また、カマサリ川の場合はクロロフィルa( 90%)他の監視対象パラメータの大幅な改善および/維持に効果が見られた
  • 生物相に関しては、生物相の増殖、発達、主に大型魚の大型動植物の回復、食物連鎖の再構築の開始が見られた
以上です。


この結果を受けて、リオデジャネイロ連邦大学(UFRJ)とフルミネンセ連邦大学(UFF)海洋生物学科の協力で、今回の規模と同程度の別のプロジェクトも進んでおり、また、学校や地域の環境浄化も計画されており、ブラジルの水質浄化の根本的な解決策として期待されている。

6月8日にはブラジル向けのzoomによるQ&A形式の講演会が催されたが、主な内容は以下の通りである。

I. EM技術の過去について

1. EM技術はいつどのように誕生したのですか?
私は子どもの頃から農業が大好きで、小学校5年生のときには、この世の中で最も尊い仕事は農業であり、将来は、自分で農業するか、または農業指導者になろうと考え、以後、見るもの聞くものすべてが農業に活用できるか否かという考えで情報を集約してきました。

将来はブラジルへ移民して、大農場を経営したいという夢を持ち、農業高校へ進学しましたが、戦後の食糧難で酷い状態にあった沖縄農業の解決のため、全力を注ぐ決心をし、ブラジルへ行くことをあきらめました。その当時、夢のような化学肥料と農薬の効果を見て、その技術のエキスパートになろうと考えました。大学、大学院も、化学肥料や農薬の研究を重ね、琉球大学に勤務するようになると、農薬や化学肥料中心の現場指導を徹底的に行いました。

当初は、うまくいっていましたが、2~3年後から抵抗性の病害虫のため、農薬の散布回数は増え、新農薬が必要になり、最後は私が農薬の慢性中毒症になってしまいました。交通事故のムチ打ち症も重なり、このままでは50歳になるまで生きられないという医師の宣告を受けました。

よくよく考えると、農業は合法的に毒物を散布し、自然や人間の健康など、何もかも破壊してしまう構造になっています。

農は国の本なるぞ、という信念で取り組んできたのに、その農業が長い目でみると国や人類を滅ぼしてしまう仕組みになっていることに気がついて、有機農業に戻るのではなく、化学肥料や農薬を全く使用せず、それを上回る技術の開発に挑戦するようになりました。

様々な試行錯誤から、発酵的性質を持つグループと合成的機能を持つ微生物の組み合わせが最良であるということになり、1980年にEMが出来上がりました。とても運が良かったと思います。

特にEMの安全性については、最終的には、私自身が長期にわたり飲み続け、体調が良くなるという余得もありました。また、連続的な大量投入の実験でも致命的な影響は認められず、化学肥料や農薬にかかる金額のEMを連年散布すると、その累積効果が現れ、経済的、常識的な使い方をすれば、有害な作用は全くないことも明らかとなりました。

EMを実用化して40年になりますが、使用過多に対するネガティブな例は全く発生していません。

2. 初めてEMを使ってくれた方はどのような方だったか? その際、EMはどのように使われたのか? 初めてEMを使った時の効果はどうだったか?
長年の現場指導の結果、私を信頼している農家が多数おり、多くの農家が協力してくれました。

有機物を多く使っている農家では、顕著な効果があり、使い続けると更に効果が高まることが明らかとなりましたが、試験研究機関や、他大学では、微生物の種類が多く、それぞれの因果関係が明確でないということで無視されてしまいました。

当時は、複数の微生物を使うという発想はありませんでした。結果の再現性は明確であったため、1982年から自然農法国際研究開発センターとの協同研究が始まり、自然農法へのEMの活用は実用的であるという結論になりました。その結果は、1986年、アメリカで開かれたIFOAMの国際会議で発表され、それ以後、EMはIFOAMと協力的に広がり、IFOAMの認証資材ともなりました。

EMを世界に広げる目的で、1989年から2001年まで、2年に1回、IFOAMの協力を得て、自然農法とEM技術の国際会議を五大陸で行いました。また、IFOAMでも多数のEMの成果を発表し、会誌にも載りましたので、有機農業関係者はEMを良く知るようになり、多くの賛同者が増えるようになったのです。

EMがどんどん発展するにつれ、旧来の化学肥料や農業を中心とする研究機関から様々な否定論があり、公的な機関では取り上げてもらえませんでした。

また、検証しない学者たちの激烈なバッシングがあり、国のすべての補助対象からも外されてしまいました。 今では有機農業は世界の潮流になり始め、EMは国際学会でも評価され、勝負はすでについています。

3. EM技術を人々に理解してもらううえで最もたいへんだったことは?
微生物は目に見えないし、有害であるという考え方が強く、自然には無限的に微生物がおり、人工的に培養した微生物で置き換えることは不可能という信念みたいな反対論があり、全く話が通じませんでした。

EMを施用すると、EMだけでなく、自然界の様々な有用な微生物やミミズなどの小動物も急激に増えることも明らかとなっています。

メタゲノム分析法によって、微生物の研究は奇蹟的ともいえるレベルに発展したため、今ではEM技術の主張が正しかったという結論になっています。

また、EMが放射能を消滅させたり、作物の放射性物質の吸収抑制効果についても国際誌に載りましたので、今では誰もEMの量子的な性質(万能性)を否定することが出来なくなりました。40年もかかっています。

II. EM技術の現在について

1. 比嘉先生が現在最もお勧めしているEM活用法は?
先ず、あらゆる場にEMを空気や水のように使い、空間全体をEM化することです。そのためには、塩を1~3.5%含む液(水や海水)でEMの培養をすると、変質することがなく、時々1000分の1の原液を加えることによって、その安定性を保つことが出来ます。
水源をまるごとEM化したり、有機廃棄物に臭気がなくなるまで散布すると、堆肥にしなくても良質な有機肥料になります。また植え付け前の高濃度液の注入も効果があります。
要するに、効果が出ないのはEMの密度が低いからです。

2. 現在EMは世界中に広まっているが、EMがこれほど普及すると予想していたか?
私はEMにより食糧や環境や人間の健康や自然が保護できるという確信を持っていましたので、当初から世界中をEM化しようと考えていました。
自然農法国際研究開発センターやEARTH大学やIFOAMとの協同的な活動は、その考えに沿ったものです。1993年に出版された「地球を救う大変革」にものそのことを書いてあります。

3. 世界のEM技術の普及状況についてどのようにお考えか?
インターネットの時代になり、SDGsも人類の義務となりました。その実現のためには、EM技術は不可欠であり、各々に応じたモデルを世界中に作るべきと考えています。

4. 現在、EM技術の主な用途/方法は何か?
現在はEMの量子的、万能性の実用化に入り、医療・健康や資源エネルギーの分野に踏み込んでおり、放射能汚染対策はもとより、人類が幸福になるための基本的問題に取り組んでいます。

5. 今日のEM技術に至るなかで、最も重要な発展・進歩はなんであったか?
a. EMを人類の共有財産にし、あらゆる問題を解決するという信念と
b. 情報を公開し、技術を固定化したり独占せず、EMに関わる人々の技術が常に進化するように配慮したことと、実行に当たっては、自己責任原則と社会貢献の認識に徹したこと
c. 技術のチェックポイントを、安全で快適、低コストで高品質、善循環的持続可能とし、誰もが幸福に生きられる社会作りを目標にしたことです

III. EM技術の今後・将来について

1.世界のEM技術は将来どのようになると考えているか
EMには量子的な性質があり、量子的なエネルギーを集約する力があり、その応用は、医学やエネルギーの問題を本質的に解決する力があります。大げさに言えば、人類の抱えるすべての問題を解決できるということになります。
現今では、都市の汚水やゴミ等をシステム的に最良の生産資源や環境浄化源として循環できるようにすれば、食糧、環境、医療健康のほとんどの問題を解決することができます。
要は、EMが環境中に充満し、蘇生的な微生物相になれば理想郷となります。すなわち、ダムや海洋も、山林や原野もすべてEM化すればいいということになります。一般の船舶や航空機にEM散布システムをセットすれば、簡単に実現できます。
EMは常識的なレベルでどんなに大量に散布してもマイナスが発生することはないという究極的な結論も出ています。

2. 特にブラジルにおけるEM技術の将来はどのようになると思うか?

ブラジルの大規模農場におけるEM技術の成果は、世界に希望を与えるものですが、機械は必要最小限にし、完全な自然農法に切り替えるべきです。
今世紀に入って、奇蹟の土壌として注目されているアマゾンに存在するテラ・プラタ・ノバをEM技術で大規模化し、自然や環境が積極的に守られる農業に変えるべきです。
EMグラビトロン炭を作り、その炭で大地にエネルギーを集約する結界を作ると、有機物の自然循環を中心に、海水レベルのEM活性液を活用することで、テラ・プラタ・ノバ以上の土作りが出来ますので、世界的なモデルを作ることが出来ます。
Cidさんは、すでに大規模な水質浄化や大農場での成功例を定着させた実績もありますので、自然を回復させながら農業生産を飛躍的に増大させる方向にチャレンジしてください。

その後に、2018年米国のMITで催されたユニバーサルビレッジ国際会議での人類の未来を開くEM技術の総括講演の解説を行い、最新のEM情報を十分に伝えることができ、コロナ禍ですが大変革を実感する機会となった。





記事一覧へ