第115回 第6回環境フォーラム「うつくしまEMパラダイス」2016(2)




 前回は 2016 年度の EM研究機構とベラルーシ国立放射線生物学研究所との共同研究の成果を紹介した。要は、EMの使い方次第、すなわち応用のレベル次第である。EMは、現状のレベルでも十分な対応は可能であるが、被災地の現場において実証され、実用化が進んではじめて効果があるということになる。これまでの成果は、その裏付けとなるものである。
 とは言え、公(政府)が当面、この技術を活用する見込みはなく、遅々としてもどかしい思いもあるが、ユニバーサルビレッジ国際会議の第 4 番目の課題である「微生物による元素転換を利用した、有害な放射性物質の無害化のための具体的な技術の研究」を完成させるためには、更なるEM技術のスキルアップを行う必要がある。
 今回紹介する事例は、EMを使い続けた場合の放射能汚染の低減効果や生産物の収量や品質や環境中の変化を確認したものである。結論的なことを言えば、前回紹介した私のあいさつの通りであるが、個々にも、かなり改善効果が現われており、この点も踏まえ現場の成果を考察したい。



1.ボランティアによる自主的な放射能汚染低減化の取組みの現状

 放射能汚染対策は、すべて国が行うことが法律で定められている。したがって、国が 認めていない技術は、いかに効果的であっても活用されることはなく、報道の規制が掛 かっている。この場合、唯一残されているのは、ボランティアによる取り組みである。 NPO 法人地球環境共生ネットワークは、2011 年にEM災害復興支援プロジェクトを立ち 上げ、被災地における衛生問題や塩害対策、放射能汚染対策に取り組み、多大な成果を 上げ、EMの社会化に務めてきた。
 この一連の活動は、現在でも、たゆまなく続けられ、各地の洪水後の衛生対策はもとより、熊本地震においても、その力をいかんなく発揮するようになってきた。
 放射能汚染対策は、一過性のものではないために、20-30 年の長期的な活動が続けられる仕組みが必要であり、生活に根付いたEM活用は不可欠のものである。
 次に掲げる地図は、現在の取り組み状況であるが、フォーラムを含め、年3回の検討会が持たれているが、今後は、よりメリットの高い取り組みを検討中である。





2. 水田における成果
 米は食糧の根幹をなす作物である。玄米を含め、米の栄養機能的な力は極めて優れたものであり、栽培方法によっては医食同源にすることも容易である。
 すなわち、化学肥料や農薬を使用せず、土壌の有害物資を吸収していない米は、健康保持の根源を支えるものである。
 EM は放射能汚染対策はもとより、米の持つ本質的な力を発揮させられる力を持っている。この数年の取組みは、その裏付けを確たるものにし始めており、今回は主として稲作の成果を紹介したい。




 
写真1:グランドゴルフ場へのEM散布  写真2:水田用に培養したEM活性液

 
写真3:EM団子            写真4:田圃の穴あけ作業


写真5:今年のイネと羽根田氏

図1 水田土壌の放射性Cs濃度と白米の放射性Csの濃度は上の通りである。

※羽根田氏は平成 9 年(1997年)から有機栽培をはじめるが、収量は4俵強で、EM を本格的に使う以前は、豊作年でも5俵に届かなかったとのことである。EM導入後、平成27年(2015年)は、4.9俵、平成28年は6俵となり、今後は8俵を目標に取り組んでいる。






 
写真6:瀧澤牧場畜舎          写真7:田圃に描いた六芒星

 
写真8:六芒星の接点にEM埋炭     写真9:元気に育った稲

※この地域は慣行栽培で 8-9 俵、2011 年から 2014 年までは放置、2015 年に EM を導入し、8 俵、食味値 78、2016 年は 8.3 俵、食味値 87 となり、収量、品質は期待値を上まわった。


図2:水田土壌の放射性Cs濃度の推移  図3:玄米と白米の放射性Cs濃度






 
写真10(左):H28年5月14日結界でのネズミ被害防止
写真11(右):H28年5月14日結界効果で素晴らしい生育苗


写真12:H28年6月21日田圃に結界を張り巡らせる

 
写真13:H28年10月14日隣地(株の比較) 写真14:H28年10月14日EM西光地(株の比較)




図4:水田土壌の放射性Cs濃度の推移  図5:玄米の放射性Cs濃度





図6:水田土壌の放射性Csの推移


図7:玄米及び土壌中の放射性Cs濃度

※2011年の被災の年に土壌の汚染度が3,580Bqあったにも関わらず、放射性セシウムは不検出となっている。このことは、被災前から長年にわたってEMを使っていた各農家にも同様な結果が認められている。



まとめと今後の展望
 最初の事例の馬場 EM 研究会とその次の瀧澤牧場の水田は、放射性セシウムの濃度が高く、水源となっている横川ダムは放射線量が高いため、立ち入り禁止となっており、 稲作は困難とされている地域である。次回に紹介する伊達市の長沼のような方法を取れば、ダムの水質は改善し得るものである。馬場 EM 研究会は、そのような状況下で、これまでの EM の累積効果を証明した結果となったが、特に 2016 年の米に含まれる放射性セシウムの大幅な低減は、土壌の整流力を高める EM ダンゴの埋め込みの成果である。
 収量も年々増え、2014年以前は 4 俵、2015 年は 4.9 俵、2016 年は 6 俵となり、被災前の 4 俵をはるかに上回っている。食味値も 83 で極めて美味しい米となり、予約販売で品不足状態となり、次年度は更に拡大する予定である。このような経過を踏まえて、簡略で大規模化に対応できる方法にチャレンジしたのが瀧澤牧場の水田である。場所は、馬場EM研究会の羽根田氏の水田に隣接した地域であるが、原理的に、EM ダンゴの埋め込みと同じように機能する方法で原材料を混和し、ダンゴを作らず、そのまま埋設する方法である。被災前のこの地域の収量は 8 俵くらいで、食味値は 70 以下であったのに対し、収量も 2015 年は 8.1 俵、食味値 78、2016 年は 8.3 俵と年々増加しており、食味値は 87 となり、美味しい米の 80 を上回り、ほぼ完璧な収量、品質の向上と放射性セシウム対策となっている。このような成果を受け、2017 年は 10ha 以上に広げる計画で準備を進めているところである。
 三番目の EM の微笑みの事例は、放射能汚染対策はもとより、EM の総合的な技術集約的な成果となっている。この地域は、気温が低く、収量も 6-7 俵、青米も多く、品質も望ましい状況になく、典型的な過疎地である。このような地域を活性化するためには、高齢者でもやれる EM を活用した不耕起、無除草、完全な無農薬で無化学肥料の自然農法を実行することである。その上、多収、高品質で、営農の結果が人々を健康にし、生態系を豊かにし、生物多様性のレベルを高めるという余徳がある。
 特筆すべきは、自然農法や有機農業で致命的となる、カメムシやイノシシ等はもとより、鳥獣害を完全に防止し、収量も 2015 年 8 俵、食味値 78、2016 年 10 俵、食味値 79 で、食味値 80 にほんのわずかに及ばないレベルに達している。EM ダンゴの埋め込みで、 トロトロ層が厚くなり、その結果、雑草も極端に減っている。そのため、次年度は、代掻きのみで、無除草が可能な状況にある。福島県の山間部には、このような類似の環境条件の水田がかなりあり、放射能汚染対策はもとより、この成果を地域活性化や地方創成事業として大々的に活用すべきである。
 最後の EM・エコ郡山の七海氏の水田は、有機農業に準ずる栽培法であるが、長年EM を使い続けている。その水田の放射能汚染低減の結果は、明確に現われており、経時的な EM の活用によってカリウム等を使わなくても確実に放射性セシウムが減ることを裏付けるものである。同時に、被災当初から、EM による放射性セシウムの吸収を著しく抑制されたという、EM 効果の典型的なパターンである。この結果は、前報のベラルーシ国立放射線生物学研究所の研究成果でも裏付けされており、EM を活用するとカリウム等の施用は不要である。
 震災後に EM 活用を強化したため、収量や品質も改善しており、EM ダンゴの埋め込み等を加味すれば、更なる発展が楽しみである。
 以上の4件の結果の外に、EMを使っている水田は、まだ発展途上であるが、すべて類似の成果を上げており、ユニバーサルビレッジ国際会議の4番目の課題である、「微生物による元素転換を利用した放射性物質の無害化のための技術研究」に対する、水田での活用の決定的な回答となるものである。


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