第110回 EMと畜産



 これまで植物生産、有機物のリサイクル、水質浄化、水産でのEM活用事例を述べたが、畜産については、2010年の宮崎県における口蹄疫対策を中心に断片的な情報にとどまっている。EMは「A飼料」として国に登録されている。すなわち、飼料に添加して食べさせても、飲水に混和して飲ましても良いという、安全性の極めて高い微生物資材で、法的にれっきとした戸籍を持っている微生物である。

 畜産関係者には、このような認識が徹してないため、EMが広範の分野で使われているため「訳の分からない微生物」としてEMを批判したり、かたくなに、EMを活用しない畜産農家もかなり存在しているのも事実である。
 一般に畜産と言えば、悪臭公害、水系の汚染源、ハエ等の衛生問題等々の悪いイメージがつきものである。EMの畜産への応用は、悪臭対策からスタートしたが、EMボカシ(EMで発酵した有機物)が家畜を健全に育て、臭気が極端に減り、その糞尿が良質の有機肥料となることも明らかとなってきた。

 EMの法的な安全性を確認した国々では、畜産分野においても、EMの活用は広がっているが、現在のところは、個々の責任の守備範囲にとどまっている。しかしながら、これまでも述べたように、EMには、マイクロバイオーム(微生物相)を善玉菌に変える絶対的な力がある。
 人間の健康も、環境の良し悪しも、植物や動物の健全度や生産力や品質も、すべて、マイクロバイオームに支配されていることは、今や微生物の応用では常識となっている。とは言え、公的に安全性が確認され、自由に増やして使用できる微生物は、世界で唯一、EMだけである。

 本シリーズでも、過去に、EMを活用した畜産を軸に農業振興を図るべきであるという主張を行ったが、EMの活用は、畜舎関連から発生するメタンガスや牛のゲップの際に発生するメタンガス対策にも顕著な効果が認められている。余談ではあるが、水田や水質浄化にEMを活用すると、水田や湖沼から発生する大量のメタンガスの発生を抑制することも可能である。従来の常識からすれば、制御不可能とされる強烈な温室効果ガス問題をいとも簡単に解決し得るが、メタンを発生する腐敗系の有機物の分解を有用発酵系に転換し、多様な潜在的資源を形成するためである。
 世界有機農業運動連盟や各国の有機農業認定機関は、抗生物質を使用した家畜の糞尿の使用を禁止しているが、土中に、かなりの量の抗生物質が残り、それが作物に吸収されるためである。
 EMは、放射能はもとより、ダイオキシン等の分解の困難な化学物質を無害化または分解する力があり、EM活用に徹すれば、畜産にまつわるすべての問題は根本的な解決が可能である。

 今回紹介する沖縄県名護市にある、農業生産法人 有限会社 我那覇畜産は、養豚にEMを初めて使ったという輝かしい実績を有している。当初は、悪臭対策から始まったが、ハエ等の衛生対策、糞尿の良質の有機肥料化、水質浄化等々にEMの活用は広がっている。
 抗生物質をはじめ、様々な投薬は法定基準の最小値となり、肉質は業界No 1であり、「琉美豚」としての銘柄で知られ、全日空の機内誌で、あまりにも美味なため「声までも食わんかな」と表現せしめた究極の養豚を実現しているのである。
 豚糞堆肥は、販売に困ることなく、一般のものよりも高価に売られているにも関わらず、品不足気味である。
 平成2年から導入されて以来、畜舎全体がEM化しており、使用される薬品も極端に減り、事故率も低く、病死は皆無の状況である。浄化された水は、最終的には、辺野古の大浦湾に流入し、海の浄化に多大な力を発揮しており、大浦湾のサンゴの状況や生態系は県内トップとして評価されている。
 現在の飼育頭数は、13,000頭、豚1頭当たりの排泄物は人間の10倍、すなわち、13万人の都市の糞尿処理に匹敵する規模である。































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