もっと言葉を選んで問題提起を進めよう。私たちは、どんなものにも100%安全ということがないことを知っている。だから、「安全の確保」という言い方はやめ、「リスクの管理」という言葉を使いたい。ちなみに、リスク概念の誕生は、人間が旧来からの因習から解き放たれ、神秘主義を科学と論理で打破するようになったルネッサンス時代だそうだ。リスクをどのレベルで管理することが適切かという議論は、近代1958年に米国のFDA (Food and Drag Administration)が、食品添加物に起因するリスクをゼロ・レベルで管理するという考え方の規制(デレニー条項)を導入したことをきっかけとして、ゼロ・レベルの管理は不可能であり現実的でないとの議論が巻き起こり、それ以降、特に米国を中心に活発に行われてきた。リスクとの付き合い方は、科学技術の発展に影響されることはもちろんのこと、個人と社会との関係の進化によっても大きく変わってきたのである。現代では、日本を含め、多くの人為的リスクは可能な限り科学的なデータに基づいて10-4から10-6のレベル(*i)で管理されるのが一般的となっている。
一方、米国では、多数の高学歴の専門家が行政機関に常勤職員として在職し、リスク評価活動を含む規制業務に携わっている。米国では、有害化学物質は、米国環境保護庁(EPA)のOPPT(Office of Pollution Prevention and Toxics), 農薬の規制は同庁のOPP(Office of Pesticide Programs)、医薬品の安全審査はFDAが担当しているが、これらの機関には常勤の専門家が多数在職し、日々のリスク評価活動にあたっている。これら各機関の職務内容は、日米間で関係する規制内容や規制組織内または間の責任分担関係が異なることもあって同じとは言えないが、これら機関の常勤職員の数を比較すると日米間でほぼ10倍程度の差がある。