産学官連携に新しい風を吹かせたい(3)
−第5回産学官連携推進会議(6月10〜11日、京都国際会館)について−
出口編集長に3回の連載の枠をいただいて、これまでの2回は、今回の産学官連携推進会議の企画に主催者として込めた思いをご紹介させていただきました。3回目の今回は、今後、こうしたイベントにおいて企画側の思いが上滑りなものにならないようにしていくためのご意見やご批判を読者の皆さんにいただくために、今後の産学官連携推進会議のあり方について私が考えていること、悩んでいることを書き連ね、皆さんからご意見をいただく材料として提供させていただきたいと思います。
・・・と考えていましたら、産学官連携推進会議での新企画がまた一つ加わりましたので、まず、そのご紹介を。 6月10日の午前中の基調講演の最後に、「先端融合領域イノベーション創出拠点形成」プロジェクトについて、同プロジェクトの選考委員でもある清水勇先生に紹介していただくことにしました。このプロジェクトは、産学双方が相応の負担とリスクを負いつつ、10から15年という腰を据えた協働作業にコミットすることにより、我が国の将来のイノベーションの種を育てることを目的とするもので、今年度から科学技術振興調整費による国の支援が開始されています。我が国の産学官連携の一つの進化形を目指すものといえます。総合科学技術会議としては、イノベーション創出政策の切り札の一つとして、来年以降もこの施策への資源投入を強化していこうと考えています。そこで、産学官連携の推進に携わっている参加の皆さんにこうした国の支援施策の存在を知っていただき、今後、よりよい提案をいただくことを期待して、このプレゼンテーションを清水先生にお願いしたものです。
さて、本題へ・・・。 正直言って、恒例となりつつある6月の産学官連携推進会議、11月の産学官連携サミットといったイベントにはマンネリ感も指摘され、また、この2つの会議は一つにまとめて良いのではとの声も聞こえてきます。また、DNDのメルマガを見ていて分かるように、類似のイベントは全国で数多く開催されるようになりました。基調講演+パネルディスカッションというイベントの形式に起因する限界もあります。そうした抜本的改善策が必要という声がある一方で、こうした会議は役に立つとの声もあります。
昨年の11月の産学官連携サミットの後、外部機関に委託して実施したアンケート調査(調査対象1,000名、回収率37%)の結果では、「産学官連携や科学技術振興策など国の施策の方向性がこの会議で示される」、「産学官連携活動に関する情報収集の場として重要である」、「講演者やコンメンテータが各界トップクラスである」、「継続的な開催によって国内の産学官連携の推進に役立っている」等の理由で、約6割の方々が「満足」、「まあ満足」と回答されました。「継続は力なり」と思う半面、かなり抜本的な改革が必要ではないかと考え、アンケート結果をそのきっかけと材料にしようと考えていた私にとっては、正直言ってやや意外な結果でもありました。
この連載の第一回目にも書いたとおり、「イノベーションの種とそれを支える人材を創出する「共有の場」を、産学官が腰を据えて作りあげていくことが、今後の産学官連携が目指すべき進化の方向ではないか」と考えると、現在のような会議形式のイベントは、問題の提起や成功事例のデモンストレーションの場とすることはできても、産学官が腰を据えて「共有の場」を作りだしていくために鍵となる相互の信頼、理解の醸成のきっかけのとなるには限界があります。山城さんからの投稿中に、和田同志社大学知的財産センター兼リエゾンオフィス所長の次のような指摘−"共同研究を企業と行う際の企業側の対応を見ると、大学は産学連携を金儲け(外部資金導入)のために行っているというのが企業側の認識のようであるが、これは長年私立大学に勤務している人間にとっては戸惑う認識である"−が引用されていますが、今、日本の産学官連携が進化していくために何よりも必要なことの一つは、産学間の理解と信頼感の醸成ではないかと思います。そのためには、もっと関係者が胸襟を開いてじっくり話し合える場(サロン、飲み屋?)のような場が必要なのでしょう。
と書きつつ思い出したのは、ここ数年、産学官連携推進会議の日の夜になると京都の先斗町あたりでは、産学官連携関係者のワイワイ、ガヤガヤといった集まりがあちこちで花開いていると聞いたことです。私自身は、そうした楽しい会合に参加するという余録に預かったことがないのですが、結構、これが産学連携推進会議の結構大きな副次効果なのかもしれません。だれか、こうした夜の部の成果報告をしてくれませんかー?但し、産学官連携の話題に限ってで結構ですが・・・。
とりとめのない雑文になりましたが、今後とも皆さんのご協力をよろしくお願いします。京都でお会いしましょう。
塩沢 文朗
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