産学官連携に新しい風を吹かせたい(1)
−第5回産学官連携推進会議(6月10〜11日、京都国際会館)について−
出口編集長のご好意とタイムリーな企画で、日本の将来のために、日頃、産学官連携に汗して取り組んでおられる方々に、今回の産学官連携推進会議のねらいとハイライトをお伝えできる機会をいただきました。2回に分けて、できるだけ読みやすくお伝えしたいと思います。
今回の会議の基本コンセプトは、「日本の産学官連携活動は、新たな段階に向けて大きく進化する必要があるという認識を参加者の間で共有できるようにしたい」ということです。
これまでの関係者のご努力によって、産学官連携の意義についての理解が共有され、連携活動を支える様々な組織面、制度面での仕組みの整備が進み、ここ10年間で我が国の産学官連携は大きく進展しました。ざっくりと言って、大学の持つ知的資源を形とし、その活用を図るといった活動が定着してきたというのがその成果であると思います。
こうした活動の重要性は今後とも何ら変わるものではありませんが、日本の将来が、科学技術を源泉とするイノベーションの実現にかかっていることを考えると我が国の産学官連携も一層進化することが必要と考えます。
大きな経済的、社会的なインパクトをもたらしたイノベーションの多くは大学における革新的な基礎研究と、それに続く20年30年にわたる地道な産学官の連携を通じた研究活動によって生まれています。携帯電話やATMパネルに用いられている導電性のプラスチック、i-Podのような高密度の情報記録媒体を日用製品とすることを可能にした垂直磁気記録方式などはその代表的な例であり、日本の国際競争力の源泉となっているのみならず、人類全体の新しい文化をも生み出しつつあります。こうした中で大学は、異種、異分野の研究者間の知識の融合の培地となり、イノベーションの種を育む知的生産活動の「場」を提供してきました。実際、長い歴史をもつ米国でも産学連携活動の中心は、既にそうした方向に変化しつつあります。
こうした認識をもとに、誤解を恐れず簡単に言えば、イノベーションの種とそれを支える人材を創出する「共有の場」を、産学官が腰を据えて作りあげていくことが、今後の産学官連携が目指すべき進化の方向ではないかと思います。さらに、モノ、人、金が国境を越えて自由に動く時代に、産学官連携が国内だけの連携に留まっていて良いわけがありません。また、大学の知的資産も、大学の財産として保護するだけでなく、それを社会で広く活用するという方向に取組みの重心を移していくことも必要です。
今回の会議が、産学官連携の将来についての様々な問題提起や先進的事例の紹介、そしてそれらを受けた参加者の方々による活発な議論を通じて、産学官連携の新しい風を起こすきっかけになることを期待しています。
<戻る>
|