DNDメディア局の出口です。夢に向かってチャレンジする金沢工業大学(石川憲一学長、石川県野々市市)の学生らと身近に接することができるのは、この歳になって幸せなことかも知れない。未来に希望があるとすれば、その多くは次世代の彼ら手の中にゆだねられているものだからだ。大学のキャンパスで、ひと言ひと言確かめるように質問に答える彼らの姿には、少しの照れも気負いもない。むしろ朴訥な語り口の中に逞しさを感じた。夢を形にする、という胸に秘めた一途な気構えは、それ自体、周辺に感動を呼ぶ。ちょうど設立20年の節目を刻む「夢考房」の成果なのだろう。
出発に先立つ昨日15日は、官邸に安倍総理を訪問し、「日本は先端技術で頑張っている。もの作り大国として日の丸を背負って頑張ってきてほしい。皆さんに日本の未来が懸かっている」との力強い激励を受けた。そして本日、ベトナムに飛んだ。
頑張れ!金沢工大チーム「飛翔」。
【表敬訪問した学生メンバー】
内山孝太さん(チームリーダー/ロボティクス学科3年)
片山泰伸さん(ロボット操縦者/ロボティクス学科3年)
真下康宏さん(スターター/ロボティクス学科2年)
河原貴軌さん(ピットクルー/ロボティクス学科4年)
市川智章さん(ピットクルー/ロボティクス学科4年)
古宇田秀明さん(ピットクルー/ロボティクス学科3年)
※安倍首相を表敬訪問した「飛翔」のメンバー
http://www.kanazawa-it.ac.jp/sp/kitnews/2013/1194710_4053.html
この夏の一押しの感動は、ロボコン決勝の1秒の攻防だった。金沢工大のプロジェクトチームが、「NHK大学ロボコン2013」の決勝戦で2連覇中の東京大学を破って3年ぶり3回目の優勝を果たし、世界大会の日本代表となった。
史上初の三連覇を狙う東大、昨年の雪辱なるか金沢工大、両者いずれも決勝の常連校なのである。スタートから一歩リードした金沢工大がわずかに早く4m先の月に見立てたゴールに苗木を飛ばすことに成功した。そのタイムは最速の37秒、東大とはタッチの差であった。この7月15日放映の模様を撮った録画を見て、思わず凄いって声を上げた。番組的にもスリリングな試合展開でうまくいっただろうと思った。
優勝が決まった瞬間、左手を突き上げて雄叫びをあげた操縦者の片山泰伸さんが、インタビューで「小学校の時にロボコンを見て大学生がこんなに素晴らしいことができるのかと感激してロボコンで優勝することを夢見てきた」と声を震わせた。応援席で声をからし続けたリーダーの戸塚康介さんは、「いままでずっとこの瞬間を待っていた。夢がかなってうれしい。飛翔は最高のチーム、みんなありがとう」とひと目はばからずしゃくりあげた。会場にいたチームの面々や関係者らが顔をくしゃくしゃにしていたのは感動的だった。いいチームだし、素晴らしい光景だ。
いい光景といえば、負けたとはいえ、精度の高いロボットを作り出した東大「Robo tech」の健闘も光った。大久保拓郎さんは、「ほぼベストなタイムを出すことができたが、最後の勝負強さで及ばなかった」と肩を落とした。そして操縦者の今村友信さんは、「悔しいです」と言い、金沢工大に対して「日本代表として世界で勝ってきてほしいです」と殊勲なエールを送っていた。胸に熱いものがこみ上げてきた。人生の先輩として、金沢工大、東大、そしてこの日熱戦を繰り広げた彼らを誇りに思った。
金沢工大のロボコンチーム「飛翔」は、明日18日、ベトナムのダナン市で開催される第12回ABU・アジア太平洋ロボットコンテスト2013」に日本代表として出場する。一行14人のメンバーは、16日成田からハノイ経由でダナン市入りする予定だ。ダナン市は、ベトナムからミャンマーまでを結ぶ「東西経済回廊」の東の起点で、大規模工業団地の建設ラッシュが続く港湾都市で、最近国内外の企業から注目されている。大会の模様は、9月16日にNHKで放送される。
先日、最後の点検に余念がないロボコンチームとソーラーカーチームのリーダーらを夢考房に訪ねた。今回は、ロボコンの操縦者、片山さんとチーム「飛翔」のリーダー戸塚さんに抱負などを聞いた。
出口:おめでとう。凄いよね、あれから勝利の瞬間とか、あの場面とか、夢に出てきませんか?
片山さん:そういうタイプのものじゃないので、(笑い)。むしろ、この状態にくるまでが大変でしたし、正直、怖かった。
出口:試合に臨んで、怖いことと言えば?
片山さん:操縦ミスですね。
出口:どんな風にミスするの?
片山さん:リーフを置く場所のズレとか、最後に苗木を飛ばす射出の向きとかですね。
※iPadで録画をみてもらう。
出口:東大との決勝戦で、最後打つとき、ちょっと戸惑ったよね。
片山さん:あの苗を飛ばす時に、うちのチームは手動で、向きと、場所とを合わせる形をとります。苗木を受け取ってから位置調整と、向きの調整を行わなければならない。
出口:あれが精いっぱいだったの?
片山さん:あのぐらいが、マックスだった。
出口:急いでいるようにはみえなかった。落ち着いていたよね。
片山さん:自分たちの自動ロボットが、最後の3つ目のリングにリーフを入れ終わって帰ってくる時に、東大チームのロボットが遅れてリーフを最後のリングに入れているような状況が見えていたので、自分たちのチームが少しだけ早いということが頭に入っていた。焦ってはいなかった。
出口:そうなんだよね、わずかに金沢工大がリードしていた。苗木をつけて、構えて、次のポジショニングというか、位置決めをして、高さを決めて、という一連の動作がゆっくりしていたように見えたのだが?
片山さん:いやあ、東大さんは、最後の射出は、レザーを使った最新の制御技術で、勝手に足回りが移動する。なおかつ向きも自動で焦点を合わせられる優れものだ。自分たちのチームは、実はレザー制御の開発が間に合わなかった。そのため、(操縦者の)自分が位置決めし、方向を定めて射出する方法になった。
出口:マニュアルが自動制御に勝った?カンなの?
片山さん:詳しく言うと、手動のロボットの前に、リーフを取る三角形のアームがあるんです。それをラインに対してかぶせるようにすることによって、正確な位置決めができる。正方形のスタート地点を対角線に結んで、苗木を飛ばす月と自分の間にロボットを真っすぐ走らせるようにしている。
東大は、足回りを若干下がってそこでレザーを使って月までの向きを合わせ、バネを引いてきて打つんですよ。その距離に応じてバネの弾性力を自在に変えられる。それら一連の動作を自動で行うのが東大で、そのため射出といわれる最後の勝負は100発100中といわれるほど高精度だった。レザーの制御としては、うちのマシーンより数段上だった。
出口:それは前から知っていたのか?
片山さん:いえ、それは大会会場で見て知った。自分たちもそのレザーを使った自動制御の開発を急いでいた。が、発射のほかのところでバグが発生して悔しいけれど、大会までに間に合わないというので、最後に自分が操縦にかけることになった。東大はそういう意味で射出の成功確率が100%、ぼくの方は決勝トーナメントの初戦で1回外した6発中5発の確率で、一番信用していた苗木がなぜ、あの時、外したのか、原因はわからない。いつも通りのやり方といつも通りの射出の仕方だったのだが、なぜか、方向と距離が変ってきて外した。次の大会までにその辺を解明する。
出口:じゃあ、初戦は危なかったね。
片山さん:初戦の相手は名古屋工大、名古屋工大はリーフを入れるミスをした。リトライをかけているうちに、こちらが射出のリトライをかけて無事に終えることができた。ラッキーだったかもしれない。
出口:戸塚さん、感激のメッセージだったよね、テレビでのコメントは事前に考えていたの?
戸塚さん:いやそうじゃないです。
出口:そうよね、テレビにむかって意識的に涙をみせるなんてそんなことできないよね。
戸塚さん、まあ、涙もろいのは性格ですが…(笑い)。
出口:友達とか、実家の方から何かメッセージはなかった?
戸塚さん:静岡・掛川の実家から、父親から「やっとだね、おめでとう」とのメッセージが届いた。妹(歩美さん)が進学先の埼玉から会場まで応援にきてくれた。会場内にはチケットがないので入れなかったが、外で応援してくれた。
片山さん:金沢工大がロボコンに強い大学というのは、小さいときから知っていたし、過去に優勝もしているので、小学校の時から将来は、金沢工大に入学してロボコンで優勝する、というのが夢だった。
出口:凄いじゃないの、夢がかなって、よかったね。
出口: 抱負は?
戸塚さん:優勝です。日本の技術を世界に示したい。そして優勝です。条件?1つ、スピード、1つ確実性、そして、う〜ん、いつでも同じ状態で練習の成果を発揮することです。
出口:片山さん、結構、ドキドキするでしょう?
片山さん:自分としては、優勝を強く意識するとよくないので、気分をやや低くし冷静にやれればいいと思う。
夢を託してコンテストで使うマシーンはベトナムに送った。チーム一行は、成田で1泊して16日にベトナムに飛んだ。ハノイ経由で会場のあるダナンに向かう。大会は18日、抽選はテストランを含めて、その日のうちに終える。19日が観光とレセプションが予定されている。いまのタイムならシードが取れる可能性は高い。参加は、19ケ国から20チーム、主宰国のベトナムが2チーム参加する。予選は3チームで総当り、決勝トーナメントには7ブロックの優勝7チームと、各ブロックで負けたチームの中で最速だったチームがワイルドカードとして8強の一角に繰り上がる。ぜひ、勝ち上がってほしいものだ。準備に余念がないので勝算は十分にある。この辺に金沢工大の強さを感じた。
夢考房の拠点、その1階のフロアーには、ビニールを敷いてそのつなぎ目をガムテープでつないでいた。会場の床の滑りや凹凸を想定した工夫で、条件が違う会場での想定練習を繰り返していたのだ。
金沢工大は、チームの6人と、オブザーバーら7人、顧問格の技官1人の14人で参加する。地元の石川テレビのクルーが同行取材する、という。
金沢工大のロボコンチームは、正確には「夢考房」のロボットプロジェクトなのだ。「夢考房」は、1993年の設立当初の理念の通り、夢を形にする学生の自由なモノづくり道場でもあり、ロボコンなど未来志向プロジェクトのグローバルな発信基地になっている。
「夢考房」プロジェクトは、14を数え、約480人の学生がそれぞれ予算管理から製作、組織運営、民間企業との産学連携などすべてを課外活動として自主的に行っている。学部や学年の壁を取り払った横断的なプロジェクトは、実践的な取り組みに見える。
「人間形成、技術革新、産学協同」を掲げた創立者である先代の泉屋利吉氏の建学の精神が、キャンパスの隅々まで行き届いているようだ。プロジェクトには、ロボコンのほか、3000キロ縦断のソーラーカーや鳥人間コンテスト、エコラン、小型無人飛行機、自律走行車、風力発電、福祉機器、建築デザインなどがある。
◆続く次回は、10月6日にスタートする過酷なオーストラリア大陸縦断3000キロレース「World Solar Challenge2013」に挑む「ソーラーカープロジェクト」を紹介します。金沢工大としては12年ぶりの参戦、山部副学長も同行し、民間企業83社の協力を得たエキサイティングなプロジェクトだ。
※金沢工大のロボコン
http://www.kanazawa-it.ac.jp/kitnews/2013/1194314_3527.html