DNDメディア局の出口です。Uchidaさんからfacebookにメッセージが入り、昨日facebookの機能を試していたら37年ぶりで中学の同級生に出会えました。彼女はニューヨーク在住でした、という。果たして、Uchidaさんのリクエストに彼女はどうこたえるのか、画面にむかって返信を待ち焦がれる〜。こんな奇跡の再会を演出するfacebookは、う〜む、やっぱファンタジーだ。
エンジニアのUchidaさんは、温度と湿度の制御機器を得意とする(株)ニッポー(本社・川口市、社長・若槻憲一さん)の取締役で、雪深い奥出雲の製造工場の工場長を務める。つい最近、私が彼をfacebookにお誘いした。また、これは大学の先輩のことなのですが、いやあ、登録したら偶然、昔一緒に仕事した米国在住の彼女からアクセスがあって、驚いた、という声も寄せられました。
世界を変えるfacebookが、遅ればせながらやっと、いま日本中で沸騰してきたようです。こちら側の勝手な思いすごしかもしれませんが、世界で6億人が参加し、そのうち日本は300万人余りというのは、多いのか少ないのか、いずれにしても今年に入って、いやあ、今週あたりから、私の周辺でfacebookが確実にブレイクし始めています。このグローバルで、しかも身近なソーシャルメディアが、創設者、マーク・ザッカーバーグ氏の予言通り、いま世界を変える。
チュニジアの政変劇は、37万人が声を上げたfacebookと、独裁政権の豪奢な生活ぶりを暴露した告発サイト「ウィキリークス」の挟み撃ちがもたらした市民革命を演じ、そのすさまじさを世界に見せつけました。facebookという新しい媒体が、23年続いた悪しき政権を一瞬にして転覆させたのです。その余燼がエジプトなど周辺各国に飛び火するのだから、ひとかけらの名もない人のつぶやきを侮ってはならない、という戒めなのだろうか。
考えれば、今日のグローバル社会は、公的から私的なものへ、組織から個人へ、そしていわば世界の原理主義的現象に挑む、村上春樹さんの流儀にそうと、「壁と卵」の喩に見るように、イズムからストーリーへと時代のベクトルを大きく転換させた証左なのだろうと思う。
物語に素晴らしい価値がある、村上さんは言う。インターネットという仮想現実からひとつの物語が生まれ、それが独裁政権を転覆させうるエポックになったというのは、極めてその象徴的な話ではないか。新しい現実なのですね。
焼身自殺したチュニジアの青年を悼む。こんな切ない話は、もうご免だ。
家族の支えがあってやっと大学を卒業した。が、他の人がそうであるように、思うように職がない。失業率52%の現実は、大卒とはいえ、若者を絶望の淵に落とし込む。そんな職にあぶれた青年が、学費を工面した母親の恩返しのために農家から安く仕入れた野菜を路上で売りはじめた。小さな起業の一歩だ。彼が、大学で学んだ起業家マインドとは、どんな過酷な状況に置かれたとしても、このように前向きで自立的な生きざまをいう。
この露天の商いの先に、きっと明日があるに違いない、と希望を持った。農家とかけあって、安く仕入れるコツをつかんだ。売れ残ると赤字になるから、街ゆく人に声をかけた。余ったら、レストランの経営者に安く卸す手もある。この商いでお金が少しだが、手元にたまってくるのが嬉しい。母が喜ぶ顔が目に浮かんでくる。日を追うごとに、売れる品や、売れる時間がわかってきた。今日より明日、明日より明後日、少し見通しが立ってきた。このまま商いを続けていけば、もっと大きなビジネスができるはずだ。レストラン経営もやりたい。夜は、バーも経営したい。夢が、疲れを癒してくれた。
が、周辺がざわついてきた。12月17日の事でした。いきなり警官がやってきて、新聞紙の上の野菜を蹴飛ばした。何をする、と立ち上がったら足をけられた。露店の商いが、無許可で違法であると、数人の警官が、青年を取り囲んだ。キャベツやキュウリ、トマトなどの野菜が踏まれ、道端に散乱した。いくつか残ったものは没収された。返せ!と訴えたら、また殴られた。
青年の名前は、モハメド・ボアジンさん、26歳。我慢がならなかった。悔しかった。頭が真っ白になって、気がついたら街のスタンドからガソリンを持ち込んでいた。役所の前で叫んだ。誰のための政治だ。生活ができないのだ。誰でも商売をやらせればいいじゃないか。悪いのは、権力の亡霊と化したお前たちだ〜。
ボアジンさんは、突然、ガソリンを浴び、火を放った。焼身自殺である。火は黒い炎をあげて燃え上がった。
幾つかの新聞によると、ボアジンさんの事件は、YouTubeなどでネットに流れた。ツイッターやメールで大衆の知るところとなって広まった。失業問題に高物価、不満を抱く若者らが次々に非難の声を上げた。政府側の圧力でメールが遮断された。が、匿名でも投稿可能なfacebookで、街にでよう、抗議デモに行こう、という書き込みが溢れた。次から次と書き込まれた。若者わが、街に繰り出し、気勢を上げた。そこへ治安部隊が乗り込んで、発砲した。多数の死傷者が出た。それがさらに強い反発を招いた。
政権への抗議が、facebookなどの書き込みで拡散しそれが政権の崩壊につながった。つぶやきがうねりとなって、若者を行動へと駆り立てたのですね。facebookには37万人の投稿で溢れた、という。この政変をネットは、チュニジアの国花に見立てて、「ジャスミン革命」と命名した。一部の若者は、青年の行動を後世に残そうと、「ボアジン革命」と呼んだ。
さて、この青年の動向について、詳しい情報が少ない。焼身自殺の経緯も具体的な記述がないのです。唯一、テレビ映像が病院のベッドで仰向けになったボアジンさんを映しだしていた。包帯で全身ぐるぐる巻きの姿は痛々しかった。母親がカメラに向かって訴えていた。
息子が火だるまになって苦しんでいるのを警官らは、火を消そうともせず傍観していた。なぜ、周辺の誰も消防車を呼ぼうとしなかったのか、と声を荒げて悔しがった。孝行息子が、やっと大学を卒業したのに職がない。やむなく野菜を安く仕入れ、路上での商いを始めた。これが唯一の自立への一歩だったに違いない。少し、考えてみませんか。
アントレプレナーシップ、あるいは起業家マインドと言葉を並べても、その原点は、路上での商いから始まることを肝に銘じたい。起業家教育で全米NO.1の評価を誇るバブソン・カレッジは、その教員の半数以上が起業経験あり、というベンチャラスなキャリアを持つが、世界で起業家教育が一番盛んな地域は、ラテンアメリカなど開発途上国という報告を、かつて視察に行った時、そこで学んだ。
己の力で生きる、失敗を恐れない、最後までやりきる。それらがアントレプレナーシップと知る。一身独立して一国独立す―は学問のススメの福沢諭吉翁の言葉でした。どこか起業家マインドと通じている。わが国にもそんな哲学が国を黎明へと引き上げていたったのです。
その生きる力を腕力で踏みにじった。税金で禄を食む輩が、自立に向かう若者を蹴散らす。路上営業の許可を取らない違法性より、むしろ生きる力をへし折るような奪命者の方が悪辣ではないか、と思いました。
政府系の地元の新聞編集者は、ツイッターが、facebookが、いわばインターネットが政変を起こした、という世評に首をかしげながら、パソコンの画面でじっとしていても何も起こらない。若者は、街に飛び出し、素早く行動をとったから、地殻変動が起きた。ネットじゃない。行動こそ政変の源泉だ‐とまくし立てた。確かに、その通りかもしれない。
余談だが、先般、東大の大学発ベンチャーセミナーに関連して、facebookに写真をアップしたら、黒川清先生から、こんな、メッセージがありました。
All you need is ACTION .Go forit!と。
さて、政府系の新聞ばかりか、欧米の新聞もイスラム社会の中で、チュニジアが数少ない親米派だから、と前ベンアリ大統領の独裁を見逃してきた節がある。私が湾岸戦争後にチェニスに入った時は、チュニジア人はおおよそ温厚で、そのカルタゴの遺伝子を持った思考形態が日本人とよく似ている、と言われていた。こんなエネルギーはいったいどこから生まれたのだろうか、政変劇の一報を聞いて、わが目を疑った‐というのが正直な印象でした。チュニジアは、旧フランス領で、言語は5つ。メディアは政府系といいながら各国のニュースが入りこんでいます。情報には敏感な国情と思いました。
それが、23年に及ぶベンアリ政権は腐敗し、秘密警察を配置して密告が横行する恐怖政治が横行していた。人口1000万人の43%が、20歳以下の若者、しかも高学歴で毎年10万人の大卒者を送りだすが、2−3万人が失業状態に陥っている。失業問題を大学生の就職内定率で捉えると、残念ながら大卒者の内定率が68%という日本の窮状と変わらない。facebookの巨大な仮想空間は、今なお拡大スパイラルの線上にあり、それが現実と仮想の境界が徐々に薄れてきていることを重大なシグナルと捉えたい。
ここでは、facebookがソーシャルメディアとしての新しい可能性をひらきました。が、政府転覆がこのfacebookの狙うところではない。チュニジア政変のもうひとつの要因は、告発サイト「ウィキリークス」でした。ウィキリークスが公開した米国の外交公電を16日になってニューヨーク・タイムズ紙が報じた。内容は、ベンアリ大統領一族の腐敗しきった暮らしぶりに及んでいました。ウィキリークスが腐敗政権に風穴を開け、facebookが怒りの抗議に火を付けた格好です。ネット革命とも称されています。ネットという仮想現実がよりリアルで新しい現実を創造していることは確かです。
さて、今週のメディアの話題は、facebook一辺倒でした。にわかにfacebookが注目されました。テレビも盛んに取り上げた。今週は、週刊『ダイヤモンド』が24日に「facebookの旅」とのタイトルで特集を組んだ。そして25日には、週刊『エコノミスト』が「フェイスブック大旋風」と続いた。エコノミストは、「グーグルがはじかれる巨大な空間、ネット覇者の交代」と検索からソーシャルメディアへ、ネットが変わり始めていることを印象づけた。また、『東洋経済』は25日、facebook上に「デジタル東洋経済」のリンクを張って、新たな動きを始めています。
facebook上では、ダイヤモンド誌やエコノミスト誌への掲示板が用意され、ユーザーが「コメント」をつぶやき、そして賛意を示す「いいね」が数多く表示された。「日本攻勢」の一貫なのだろうか。そこで数字をまとめてみました。これはfacebookを使った新しいPR手法実験ですね。実名主義なためそのコメントの投稿者は誰か、が分かる仕組みなので、無責任な中傷批判の類の投稿は見当たりません。健全なのです。
これは本日27日正午現在の数字です。24日発売の『ダイヤモンド』がコメント896件、「いいね」3781件、25日発売の『エコノミスト』がコメント339件、「いいね」2029件というもので、コメントの9割は、それらの特集を評価し、「買いたい」、「読んだ」などのつぶやきがあふれていました。
このところの関心は、メディア環境の変化に向いています。
新春第一弾の12日配信のDNDメルマガのタイトルが『メディアの新しい現実』(http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm110112.html)でした。テーマとして「スマホによる脱テレビ宣言の裏事情!」、「ヒトの感覚器官は毎秒4億ビットの情報」、「facebookの映画ソーシャル・ネットワーク」、「内部告発サイト・ウィキリークスの衝撃度」などを扱いました。ここで初めてfacebookを取り上げたのです。
続けて、映画「ソーシャル・ネットワーク」が封切りになり、その紹介も兼ねて先週のメルマガ第404回は、『世界を変える「facebook」のファンタジー』(http://dndi.jp/mailmaga/mm/mm110119.html)でした。中味は、「日本を狙う―日本代表、児玉太郎氏の戦略」、「映画『ソーシャル・ネットワーク』の凄味」、「巧なセリフ劇の裏をかく、意外な結末」、「facebook成功の秘訣は、起業環境の優位性」などでした。
そして、今回も「facebook」をあつかいました。昨年12月20日に、名古屋大学VBLで講演した時は、facebookといっても反応が感じられなかった。が、年が明けて1月20日に横浜国立大学VBL成果報告会でスピーチしたら、会場にいた横浜国大VBL博士課程修了のOBで自ら「LDファクトリー」のベンチャーを立ち上げた川名祥史さんから、さっそく「お友達」の「承認」のメールが飛び込んできた。そしてfacebookでつながった。
横浜国大からの登録がこの数日ラッシュです。続いて、その翌日は、金沢工業大学ものつくり研究所や、金沢工業大学ライブラリーセンターに足を運び、金沢工業大学産学連携機構事務局の研究支援部長で、工学博士の泉屋利明さんにfacebookの優位性をお話しすると、さっそく登録された。
ここ数日の動きは、驚くべきスピードです。私のお友達の中には、koduhさんという達人がおり、毎日、彼の投稿を細かくチェックする。「yasushi kudoh」さんは、ネットメディアの雄、ITmediaの部長さんで、もはやこの世界のカリスマ的存在です。お友達は、フェイスブック運営部の仲間をふくめると、1500人を超えます。毎週水曜日に、フェイスブック研究会を開く。正統なfacebook伝道者なのです。私は、彼の友達の末席を汚していますが、まだお会いしていない。が、その存在感が日々、大きくなっています。紹介は、動画サイト「zoome」社長で、ウェブの鬼才、工藤純平さんでした。
さて、冒頭に紹介した奥出雲のUchidaさんは、あれからニューヨークの幼なじみとメールを数回やり取りされたそうだが、facebookでの友達の「承認」はまだないという。37年ぶりの再会、寸前、こちらも気になる。きっと友達のホームに現れるお友達のスナップ写真、そこに昔の面影が残っているか、どうか。いやあ、やっぱこれは、ファンタジーに違いない。
私も、高校時代のクラスメイトでカナダ在住のYさんにfacebookの友達をリクエストした。「根室高校」との履歴で気づいて、返事をくれるだろうか。
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□石黒憲彦氏の「これからの1年…」
【連載】経済産業省商務情報政策局長、石黒憲彦氏の『志本主義のススメ』の第158回「これから1年間で我が担当分野で起こること」です。タイトルから、ググッと興味がそそられます。賀詞交換会などで、ご担当のエレクトロニクス・IT産業の経営者とのご挨拶のなかで石黒さんは、確信的な何かを掴んだようです。
タイトルが示すように「これからの1年…」にやはり心が動きます。今後急速に進む可能性があるのは、「クラウドコンピューティングとタブレット端末の組み合わせ」と指摘し、電子書籍、タブレット端末、スマートフォンの大乱戦が始まる、と続けます。さらにEV元年、スマートコミュニティ元年の動向をにらみながら、実証実験を展開する旨を明らかにし、「EVと蓄電池で負けるわけにはいかない。正念場です」と覚悟を決めていらっしゃる。が、このスマートコミュニティ全体のコンセプトを仕切るのは「皆未体験ゾーン」と捉え、インテグレーション能力の高い企業が育たないと輸出はできない、と断じています。どうぞ、その業界がどの方向に動いているか、そこを勝ち抜くためには何が必要か、その妙手が描かれています。必読ですね。
□比嘉照夫氏の「韓国の口蹄疫に対するEM活用」
【連載】名桜大学教授、比嘉照夫氏の緊急提言『甦れ!食と健康と地球環境』は第37回「韓国の口蹄疫に対するEMの活用」です。韓国の口蹄疫被害が深刻化し、殺処分が昨年12月で40万頭、今年1月は190万頭を超える勢いと憂う。特にこの16日は1日に21万2274頭が埋却処分された。が、殺処分に手が回らず、生き埋め処分にせざるを得ない状況だという、冒頭からショッキングなデータを紹介しています。
日本でも宮崎、鹿児島、そして愛知と全国でトリインフルエンザの感染が蔓延しています。どこまで飛び火するか、産卵鶏農場主は、まさに戦々恐々たる思いのようです。
韓国では、宮崎県におけるEMの口蹄疫感染拡大防止の成果については半信半疑の状況でしたが、昨年から今年にかけて問い合わせが相次ぎ、「あわててEMを使い始めている」のが実情だという。いまなお、日本では、EMによるトリインフルエンザや口蹄疫対策が公的に認められておらず、農家が自己責任として行われているに過ぎない、と悔しさをにじませる。
そのため、EM効果を伝えるために「ハンギョレ・サランバン」という名のサイトのブログなどを通して理解を深めているのです。いやあ、この深刻な現実を前に毎度、心ない専門家が立ちはだかる。その実、手をこまねいて傍観するだけなのですね。おかしいね。このブログは、英語版でも世界に発信されているという。その詳細は、本文をお読みください。
□氏家豊氏「コンセプト競争の時代―2」
【連載】氏家豊氏の『大学発ベンチャーの底力』の第10回「事業企画・コンセプト競争の時代−2」です。前回の論述をさらに突っ込んで、「技術で勝って事業で負ける」というわけにはいかない、と前置きしながら、「ほんとうの技術とは、ビジョン・コンセプト込み」でないとならず、技術側から「こんなこともできる」という可能性を、顧客・市場の側からは「こんなことをやってほしい」とい要求を、そのそれぞれの情報や知見を積み上げることが重要と説く。
次に、その手法を「スマートグリッド」と重ねて解説する。「発想はすべての立場の人のアタマニ生まれる」とは、至言です。そこからがやや難しいのですが、「バイオ・創薬プロセス」を例に、患者に関する基礎データの収集、臨床試験段階での患者、その予備軍へのアプローチ、そしてマーケットとのインターフェースという段階にはいる、と説明し、マトリックスや図表を使って分かりやすく努めています。いやあ、力の入った労作です。