◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2011/01/19 http://dndi.jp/

世界を変える「facebook」のファンタジー

 ・日本を狙う―日本代表、児玉太郎氏の戦略
 ・映画『ソーシャル・ネットワーク』の凄味
 ・巧なセリフ劇の裏をかく、意外な結末
 ・facebook成功の秘訣は、起業環境の優位性
〜連載〜
 ・塩沢文朗氏「何のために書いているのだろうか」
 ・橋本正洋氏「健康イノベーション」
 ・山城宗久氏「サイバーフィジカル情報革命」

DNDメディア局の出口です。いやあ、わたくし的にはfacebook元年となりそうで、近ごろやっとマイブームの予感がします。日々、朝から夜までスマホで10回はのぞく。これまでにも触れましたが、世界につながるfacebookに夢中で、もう"フェスボ中毒"かもしれません。あきっぽさがアダにならなければいいのですが、ね。


 さて、世評はどうか、といえば必ずしもそれをお認めにならないメディアもあるらしいのです。う〜む。映画『ソーシャル・ネットワーク』については、中段に書き込んでおりますので、どうぞ、ご批評くださることを期待します。


 このfacebookを実名交流サイトと称し、空白の日本を狙う‐という見出しの記事(18日付朝日2面)に、やや驚いて目を通した。「実名交流サイト」という呼称は、どうも堅苦しく思いませんか。ユーザーサイドからすれば、実名交流サイトというと、どこのこと?という感じになってしっくりこない。これは、どうにかならないのだろうか。


 現在約5億8000万人と、日々急拡大するfacebookは、欧米のユーザー数に比べて、日本、ロシア、中国、韓国がfacebook後進国という位置づけらしく、創立者のマーク・ザッカーバーグ氏がこの4ケ国に重点的な攻勢をかける、と昨年6月に講演で述べたことが、この記事の「攻勢」の論拠となっているようです。


■日本を狙う?―日本代表、児玉太郎氏の戦略


 記事は、それが日本で根付くのか、見方は分かれる―とし、リクルートやユニクロなどが前向きにfacebook上で開始したいくつかのサービスを取り上げてはいるが、あとの多くは否定的な見解で、「ほぼ7年でここまで成長した1企業が、これほど多くの個人情報を持つことへの懸念」を疑問視し、不本意な写真を他人に投稿される例は後を絶たない、と指摘する。あろうことか、英国でおきた妻殺しの夫の動機が、facebookのプロフィルの欄に妻が「既婚」から「未婚」に変えたことだったとし、facebookでの犯罪を印象づけていました。また、facebookは米国流のパーティ文化の象徴で、日本人には少し違和感がある、とITジャーナリストの懐疑的なコメントも載せているのです。 いやあ、メディアの責任として、注意喚起や警告を鳴らすことも必要かもしれない。が、わたくし的には違和感があるのは、むしろこの記事の扱い方で、日本進出への攻勢を本格化する、という本文から引用した「日本を狙う」との見出しははやり懐疑的です。その狙う、とはその裏にどんな策略が潜んでいるのか、と疑ってしまうじゃないですか。よく読むと、昨年、都内にオフィスを設置し、日本ヤフーから児玉太郎氏(33)を日本代表として迎えたということしか書いておらず、これでは「日本を狙う」という表現の仕方は適切とはいえないのではないか。


 結果的にfacebookに何か、問題でもあるのかのような後味の悪い印象を与えています。それ以上に残念なのは、この記事の書き出しからお終いまで、実際に利用しているはずの自分たちのこと、つまり朝日新聞のケースが1行もでていないことです。編集や営業の現場でfacebookにどう向き合っているか、例えば、利用しているか、していないのか、それらの実際の現場体験をどうぞ、お示しくださいな、といいたくなってしまった。


 先般、Web上でにぎやかに取り沙汰されたのは、読売新聞が記者らにツイッター禁止を通達した、という情報でした。事実かどうか、確認の術はありませんが、取材先のことや社内の裏事情をあれこれ、つぶやかれては困る、という危機管理上の対応という観測が流れていました。"ナベツネ"が、指示したと。それはないでしょう。それは、ひとつの見識と思います。が、この禁止令は、両刃の剣となるかもしれない。情報を遮断してしまうのですから、世の中の動きが肌で感じられなくなるのではないか。


 先般、ソフトバンクの孫正義さんが、地下鉄に入ると携帯がつながらない、というユーザーからの声を受け止めて、この問題に対して、さっそくメトロの工事はソフトバンクが工事代を負担する、と言い切ってツイッターで東京都の猪瀬直樹副知事のアカウントを誰か知らない?と呼びかけていました。その数分後、当の猪瀬さんからリツイートがあった。さらに名古屋市長のそれは、誰か知らない、などと孫さんの呼びかけが深夜から続きました。山が動く、というよりひとつの"つぶやき"が列島に地殻変動が起きたかのような印象を持ちました。孫さんのフォロアーが70万人を超えているというから、半端じゃありません。つぶやきがメディアになりうるという証明だと思います。しかし、まあ、中には、おぞましい中傷もあって、不愉快であるうえ、まったく失礼なことと恥じ入りました。


 また、最近では政権崩壊のチュニジアでもfacebookを通じてデモの様子が映像で流れ、政府への抗議を呼び掛けていた、という事実が、朝日の記事中にもありました。あるファンページには世界中から37万人の賛同者が集まった、と伝えていました。つぶやきが強権的な政治体制をひっくり返した、といえるのでしょうか。そうであれば、つぶやきのなかにこそ、市民運動の原点があるのかもしれない。肩書や国籍、年齢や男女の別、おおよそそのようなものはこの世界ではそれほど重要ではないのです。メディアなら、その辺をきちんと分別するべし。


 余談になりますが、チュニジアの首都、チェニスを訪れたのは湾岸戦争直後のことでした。世界芸術文化祭がカルタゴの遺跡があるコロシアムで開かれました。その当時、取材に1週間程度滞在した。ミラノから総勢500人が大挙し、アイーダを上演しました。日中は40度の熱波が襲うので涼しくなる夜10時からの開演でした。チュニジアの人は、質素で控え目な印象でした。職にあぶれたおじさんらが、日陰でたむろし、パイプで吸う水たばこを回しのみしていました。イスラムの戒律は厳しく若い男女のお付き合いは人目を忍んでホテルの薄暗いロビーでひそひそ話しをしていました。それが、テレビで反政府の活動の模様が映し出されていましたが、勢い余ってあれほど暴徒化するものか、とわたしには信じられないことでした。


 プライベートビーチは美しく静かで、地中海自慢の料理もスパイシーで美味しくいただきました。在チェニスの日本領事館の方々には終日、お世話になりました。


 さて、facebookの件。公式ホームページから、その概要を数値で示すことの意味は否定しません。が、facebookがどのようなものか、それで伝えられるものではありません。いくら車の普及台数や売上の動向を示しても自動車の快適さは伝わらないことと同じで、また事故で死ぬ人が絶えない、とか、排気ガスをまき散らすといったマイナス面を"告発"指摘したところで、それでの車は走るものです。そういった警告を新聞の責任と思っているとしたら、新聞というメディアは、だんだん疎まれる存在になってしまうでしょう。


 記者の目から、実際に使ってみた感触からこの急拡大の要因と、その利便性について語って欲しいものです。ひと事付け加えれば、記事のお陰でfacebookの日本代表がどんな人か、初めて知ることができた。現在の利用者は、昨年11月で推計293万人、facebookはまだ日本のネット人口の数%だが、なにか信用に傷がつくような問題が起こらないかぎり、先行する「ミクシィ」の2000万人に追いつくのもそんなに遠くはないのではないか。


 ◇            ◇              ◇


■映画『ソーシャル・ネットワーク』の凄味


 さて、封切りの15日を待って映画館に走って、評判の『ソーシャル・ネットワーク』を観て、う〜む、と唸ったのがその場面展開のスピード感と、リアルで巧みなセリフ劇でした。彼女とのちょっとしたいさかいで気持の高ぶりが抑えられないらしい。冬の雪のハーバード大学キャンパスを突っ切り、寮の部屋のパソコンの前に向って盛んにキーボードを打ち続ける失意の19歳の学生が、その後、あっという間に大学をベースにユーザーを急拡大させた「facebook」の創業前夜のマーク・ザッカーバーグ氏でした。


 クラブという選ばれたセレブしか入れない社交場の古い伝統への反発が、心の奥底にあったのかもしれない。会社運営をめぐる対立や背信、近寄る投資家やファンドに加え、曲折はあるが、起業のメッカ、シリコンバレーへの誘いや身近なメンターの存在が、確かな普及拡大をもたらしていく。面白い事をとことんやる、というマインドをまき散らしながら、次々とサイトの機能を増やし、ハーバード大学からイエール大学、英オックスフォード大など大学への登録を急速に増やしていくのです。


 04年2月4日、大学の寮で開設したソーシャル・ネットワークは、その期末には30大学、学生10万人を確保する。そして、facebookの会員が100万人突破のカウントダウンの日でさえ、彼ひとり表情はうかない。その理由を悟らせないようにストーリーはさまざまなトラブルや試練を折り込んでいくのです。


 もうお友達からお誘いがありましたか?facebook、フェイスブックに登録していないと、実際、その楽しさが理解できないかもしれない。が、facebookを知らなくてもこの映画は楽しめます。ある意味、米国でappleやGoogle、それにMicrosoftが誕生し一気にシェアを広げていったように、これもベンチャーの誕生から、数々の伝説的なエピソードを積み重ねた。が、この物語は、いまようやく始まったばかり、とは信じられるでしょうか。


 夢を追う、若者がメーンなので、勢いが止まらない。その背景には、監督のデヴィッド・フィンチャー氏が、脚本家のアーロン・ソーキン氏から、とても刺激的な内容の作品が書き上がったから、ぜひ、一緒に仕事をさせてほしい、との打診があったことからもうかがえる。その脚本は、言葉の羅列が延々と続くものだった、という。確かに、見事なセリフ劇でした。


 そのスピードは圧巻でした。彼と彼女の冒頭の激しいやり取りがそれを象徴していました。その後も、他の役者が夢中で激しいセリフが飛び交うなかで、マークがその会話のそとで別の世界と向き合っているようなシーンがある。見る側としては、この先、どんな展開があるのか、彼が何を考えているのか、まったく予想がつかない不安に陥れられることがしばしばおこった。画面が、フィードバックしてやっとそのシーンの意味が理解できる、というようなひねくれた構成なのにはめんくらった。それがスリリングでした。映像の随所に見せる建築群や家具、調度品、それにハーバード大学のエリート学生の服装など、それら格式のある重厚さが、映画全体を洗練された仕上がりにさせていた。


 それもこれもキャスティングの妙が光っていましたね。ハーバード大学ボート部の、ウインクルボス兄弟の体格もそうだが、そのキャラは際立っていました。マークに憤慨し、やがて訴訟を起こすのだが、はるばるやってきたケンブリッジ大学でのレガッタ大会のパーティの席上、優勝を逃して気落ちしているのに、追い打ちをかけるようにケンブリッジの学長がぼそっと、「アメリカにもfacebookがあるのかね」という言葉を耳にして腰を抜かす。このわずかな場面で、facebookがすでに世界的規模に向かっていることを暗示していました。その象徴的なシーンでした。


■スピード感と巧なセリフ劇の裏をかくファンタジックな結末


 脚本家のソーキン氏は、インターネットに惹かれる理由について述べていました。「自分が頭の回転が速くて賢い人間とみんなに思われたい。みんな"送信"をクリックする前に、自分自身を書き直し、磨き上げたいのだ」と。確かに、そういう一面は否定できませんね。うまくいくか、どうかは別の話ですが、意図するところ、ソーキン氏の指摘は的を射ていると思う。


 さて、映画のクライマックスは、その最終章に予期せずやってくる。やっと辿りついた先の彼のWeb画面に現れたのは…。薄ぼんやり暗い手元が不確かでマウスの動きはわからない。ほんの数秒だったのだが、見ている観客の誰もが、そこで一瞬安堵をおぼえたに違いない。素直にこの結末は、ファンタジーだと思った。


 このセリフ劇といえば、シェークスピア劇だろうか。もう20数年前のその昔、東京・百人町に新装の東京グローブ座のこけら落としに招かれて舞台劇を観た。うろおぼえだが、「丘の上のハムレットのバカ」という題名だったと思う。もう亡くなったが屹立した個性派の俳優、草野大悟さんや、若き平田満さん、それにハムレット役に、風間杜夫さんでした。風間さんが、舞台中央に立って、20〜30分にわたる長いセリフを凄いスピードでまくし立てていた。圧巻でしたね。シェークスピア劇は、その長いセリフが見せ場なのですね。


 その意味で、まあ、こじつければ『ソーシャル・ネットワーク』は、人と人を結びつけるコミュニケーションのツールなのだと思えば、そのベースは1対1の対話にこそ、その本質がある、と見るべきかも知れない。


 さて、ここから映画を離れて、少し起業家マインドについておさらいをしましょう。


■facebook成功の秘訣は、起業環境の優位性


 facebookの成長の秘訣は、やはり投資環境がきわめて充実し活発化しているという起業家にとって優位な米国の社会事情があります。facebookの創業当初の資金調達を調べてみました。


 創業の04年2月4日から、その3月末までにハーバード大学からまもなく30大学、学生10万人のハイペースでユーザーが広がると、ある投資家から1000万ドル(8億2000万円)での買収のオファーが入る。それは断るのだが、その夏にカリフォルニアのパロアルトへ移ります。ベンチャーならシリコンバレーに行くべき、とサジェストしたのが投資会社にコネを持ち、facebookの評価額は10億ドル(820億円)と教えてくれた音楽共有サービスの「ナップスター」のショーン・パーカー氏でした。周辺にたくさんの成功体験をもったベンチャー起業家が多いのも特筆すべきことかもしれません。


 その夏、登録者が20万人を突破し、サーバーの運営コストが重荷になってくる。そこに登場するのが、決済のペイパル元CEOのピーター・ティールでした。Facebookが開放されると、数日後に全学生を取り込んでいることを見逃さない。50万ドルを融資する見返りにfacebook株の10.2%を手にする契約を結ぶ。ティールのアドバイスは、「台なしにするなよ」でした。


 その秋、04年の秋です。サイトに友人のプロフィルに書き足しができる「ウォール」の機能を追加する。会員が50万人に。が、そのころ、すでにインフラの事情は、ティールの資金ではまかなえないくらいの状況にあった。マークは、投資家らの警戒心を解かなかった。彼らは短期的にしか、物事を考えないと感じていた、という。


 そこへ出資を申し入れてきたのが、米紙の「ワシントン・ポスト」のCEO,ドナルド・グレハムでした。グレハム氏から、株10%を600万ドルで買いたい、というオファーが入る。この辺が、日本のメディアと随分、違う。新聞社の経営陣もfacebookの日本代表の児玉太郎さんにアプローチしたらいい。いまからでも遅くない。何をする?まず経営トップが会うことです。パートナシップか、アライアンスか、いずれにしてもその辺がポイントかも。


 このグレハム氏との取引は、成功したかに見えた。そこへベンチャー・キャピタルのアクセル・パートナーがやってきて、ワシントン・ポストより条件のいい1000万ドルの出資を申し入れてきた。facebookの若い連中が、アクセルの経営幹部らに招かれて高級レストランに入る。マークは、トイレでうなだれていた、という。


 グレハムとの約束がある。それより条件のよい出資が舞い込んだ。どうすればいいのか。マークは、泣きながらグレハムに電話を入れた。乗り換えるなんて道徳的に許されないのではないか−との悩みを率直に語った。


 グレハムから返ってきた言葉は、「20歳にしては立派じゃないか。私と徹底的に話し合って解決するために電話をくれたのだから」、「マーク、構わないから、そっちと契約を結んで事業を拡大すればいい。幸運を祈っているよ」というものだった、という(講談社刊、Courrier Japon12月号、Rules of success「マーク・ザッカーバーグ、ひらめいたアイデアは自分の手で守り抜け」から引用)。


 これらマークがfacebookの成長のプロセスで経験した資金調達のハードルでした。その翌05年秋にも、その買収を目論む誘惑の魔の手が忍び寄ってきます。メディアグループのバイアコムの重役のマイケル・ウルフでした。「君の会社の一部を売れば、君もこうした専用ジェット機を買えるよ」と誘う。マークは、その時、「別にお金が欲しいわけじゃないんだ。それにこんな良いアイデアを考えつくことは2度とないと思う」と言い切ったという。


 現在のfacebookは、2010年の売上が20億ドル(約1600億円)、今月、「米金融大手のゴールドマン・サックスなどが、企業価値を500億ドル(約4兆円)と試算して投資する」と報じられた(18日付、朝日新聞の時時刻刻から)という。マークの自己資産総額は、6000億円規模になり、昨年、26歳の最年少で米国の雑誌「TIME」の表紙を飾った。


 それにしても、マーク・ザッカーバーグの成功物語のスピード感といい、「TIME」の表紙を飾る栄誉といい、映画「ソーシャル・ネットワーク」の段取りといい、以下に見られるようにゴールデン・グローブ賞の作品賞など4冠といい、それがたまたま偶然に結びついた、と思いますか?


 う〜む。その幸せな結末の背後に、見えざる神の手が働いているのだろうか。幸運は、いつも団体列車でやってくるのかもしれません。


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 ニュースによると、米ロサンゼルスで第68回ゴールデン・グローブ賞授賞式が行われ、6部門でノミネートされていた映画『ソーシャル・ネットワーク』が最優秀映画作品賞(ドラマ部門)を受賞した。作品賞のほか、脚本賞、監督賞、作曲賞と合計4部門を受賞し今年のゴールデン・グローブ賞の最多受賞作品となった。同作は、デヴィッド・フィンチャー監督が描く世界最大のSNSサイトFacebook誕生の裏側に迫った物語で、これまでに全米映画批評家協会賞をはじめ多数の賞を受賞しており、 本賞でも大本命の作品でした。


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□塩沢文朗氏「何のために書いているのだろうか」


【連載】塩沢文朗氏の『原点回帰の旅』の第74回は「何のために書いているのだろうか」です。新年早々、こんな哲学的命題を見出しに据えるには、それ相当の覚悟があってのことかもしれません。いや、新年だからこそ、書くという行為自体を問い、それまでの歩みを振り返るのかもしれない。「原点回帰の旅」というその命題となるべき「原点」へのアプローチはまだされていない、という。


≪これまでこのコラムではいろいろと勝手気ままに書かせていただいていますが、実は、このコラムを書き始めるときに書いてみたいと思ったテーマについては、いまだに文章にできていません。このコラムを書いている間に、そんな「原点」について触れることができるのかどうかは、「何のために、人に読まれることを想定した文章を書くのか」についての答えを自分なりに出してからのことになるのでしょう≫。


この一節は重い。他人から気づかされて塩沢さんがそれを文章にする時、それはまたこの私にも重大な命題を突き付けることになるのですね。


そして、【与謝野馨さんの経済財政担当大臣への就任をどう評価すべきだろうか】、【中国のインフラ整備は、中国に何をもたらすのだろうか】、【こんなことも気になる・・・】は、NHKの「世界ふれあい街歩き」がお気に入りのようです。そういうこの私も家族で楽しんでいます。が、このように心に触れたテーマをアトランダムに記述しながら、きっと何か心の霧が晴れ渡ったのでしょうか。


今年は「何のために書いているのだろうか」について自問自答しながら、少しは皆さんのお役に立つことを書ければと思っています。今年もどうぞよろしくお願いします―と殊勲なあいさつで締めくくっておられた。いや、一本やられた。こちらこそ、よろしくお願いします。



□橋本正洋氏「健康イノベーション」


【連載】特許庁審査業務部長、橋本正洋氏の『イノベーション戦略と知財』は第35回「日本のイノベーション戦略−健康イノベーション」です。橋本さんも新年初原稿です。冒頭、2月5日に東大・本郷で開催の「知の構造化シンポ」のご案内があります。橋本さんご自身もご専門の「イノベーションの構造化」をテーマに講演に立ちます。すでにfacebookの仲間の間では、ひとしきり話題になっているところです。


さて、まず先に発表になった政府の「医療イノベーション推進室」設置に関しての所感を述べています。目を見張るのは、その人事です。


室長に東大医科研の中村祐輔教授、室長代行に東京女子医科大学の岡野光夫教授と、島津製作所フェローの田中耕一氏と、そうそうたる、かつ我々もお世話になっている先生方が名を連ね、事務局には、経済産業省のバイオ新規事業担当企画官だった八山幸司企画官が出向した、と説明し、「将来の成果を大いに期待しましょう」という。


さて、本題です。今世紀的にもっと重要なことは健康イノベーションだと述べ、「つまり、病気を治すという『医療』から病気を防ぐという『ヘルスケア』への発想の改革が重要」と断じています。そこで今回は、このテーマについて「イノベーション・クーリエ(社団法人民間活力開発機構 発行)」という冊子の最新号に筆者が寄稿したコラム「イノベーションなくして成長なし」から抜粋・加筆してDNDの読者にもご紹介したい、という。どうぞ、その課題解決型の国家戦略として位置付けられる「強い経済」を実現するイノベーションとは何か、その中味に言及されています。エネルギーと健康がキーワードです。どうぞ、本文をお読みください。また2月5日の講演と、イノベーション・クーリエをあわせ読むと、その全貌がくっきり見えてくるに違いありません。


■山城宗久氏「サイバーフィジカル情報革命」


【連載】東京大学産学連携本部副本部長、山城宗久氏の『一隅を照らすの記』は34回「サイバーフィジカルでスタート!」です。山城さんも新年第1弾の原稿となります。山城さんが籍を置く産学連携本部で開いた第20回科学技術交流フォーラムの内容です。これが面白い。


テーマが、「サイバーフィジカル情報革命」で、副題が「ホリスティクセンサーからの情報爆発を価値創造に結び付ける次世代ITインフラ」でした。これからの情報通信プラットフォームは、爆発的に増大するセンサー情報を、適切かつ即座に処理し、それを社会的価値に変換できなければならないという問題意識に立つ。ふ〜む、その通りですね。


そこで経済産業省の「情報大航海」、文部科学省の「情報爆発」といった先進的プロジェクトを推進し最先端研究開発支援プログラムの中心研究者でもある喜連川優(きつれがわ まさる)東京大学生産技術研究所教授が、実はその「サイバーフィジカル情報革命」の提唱者なのだそうだ。その喜連川教授の基調講演、それに資料から、興味深かった点を取り上げています。詳細は本文をお読みください。


ひとつ、そのさわりを紹介すると、人類の情報生成量はとどまるところを知らず、2004年当時は、WEBが主体に位置づけられていたが、今やその主役はセンサーになってきている、として、≪連続的に生成される膨大なセンサー情報を、サイバー空間上における計算資源を利用し、高度に解析すると共に、解析結果を元に、実世界の系に働きかけることにより、多大な効率化が実現できるような時代になった≫と主張されているという。分かるかな?

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