◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2010/11/10 http://dndi.jp/

「尖閣ビデオ」と「知る権利」を読み解く

 ・ウェブがメディアになった記念日
 ・弾圧まがいの"ネットパージ"異聞
 ・新聞メディアの責任と功罪
 ・「知る権利」の誕生経過と世界平和
 ・聴け!千葉雄次郎氏の伝説の名著
【一押し情報】
 金沢工大の「夢考房」プロジェクト公開
 ※東京・虎ノ門で12日、フォーラム開催
〜連載〜
 ・張輝氏「感動を呼ぶ劉偉さん」
 ・渡部俊也氏「Great Wall IP Strategy」
 ・比嘉照夫氏「COP10を終えて」

DNDメディア局の出口です。園生らが、この畑でぶどうの葉の汚れを一枚一枚ふき清めるのよ―という麗しいエピソードを足利の里にある「こころみ学園」の池上知恵子さんからお聞きして、「我も…」と勇んで狭い庭に枝を広げる1本のぶどうの木と対峙してみました。


左手に、有用微生物群のEMのスプレー、右手に布きん。葉の表面をそれこそ園生に習ってふいていくと、さて、どうでしょ。その手元から青く甘いかすかな匂いが漂ってきました。足利の葡萄畑と同じだ。茶色い枯れ葉は、カサカサと鳴る。渡る風と緑の光、そこにピュアな命の輝きがしみこんで静かに時を刻んでいくのかもしれませんね。窓越しに、目をやると、ぶどうの葉が風に揺れて微笑む。夜空をごらんなさい。見上げると天に煌めく星、つい祈りたくなる気持ちがわかります。


晩秋のほんの少しの営みでさえ、自然はこんなに癒してくれるというのに、この娑婆の現実は、なぜこうも忌わしくやるせないのでしょうか。


いやぁ、驚いて、すっかり考え込んでしまった。尖閣諸島沖での中国漁船衝突映像の動画流出事件は、本日、第5管区海上保安本部(神戸市)43歳の職員が、「自分が流出させた」と上司に名乗り出て、いま警視庁の事情聴取を受けているという。今後は、その動機や入手経路が取り沙汰されるに違いない。新聞メディアにあぶりだされた格好です。


しかし、考えてみれば、隠されていたものが暴露されたのであり、人権侵害の懸念がある個人情報や、外交上国益を棄損する重要機密などはどこにもみあたりません。まず、そのことを確認しておく必要がある。政府がひた隠しにする情報をそれに接近して入手するのは、本来メディアが果たすべき役割をその職業倫理の一線を越えて動画サイトに投稿した、とみるべきではないか。国民の知る権利を土俵際で守ったウェブ民主主義のヒーローであり、逆に犠牲者なのかしれませんね。メディアは、その個人を追い回すのではなく、「知る権利」の盾になったものとして擁護しなければならない。


「映像はもともと国民が知るべきものだ。国民の倫理に反するならば、甘んじて罰を受ける」と言い放ったらしい。


鋼鉄がめぐらされた厳つい船首でアタックし、その船上で船長は上半身裸のまま平然とくわえ煙草をくゆらせていたし、訓練された海保の職員でさえ、危険極まりない状況だった‐この尖閣ビデオの流出で、こうしたことが初めて白日にさらされたのですから。これは、明らかに中国漁船の挑発的行為でした。わが国の領海内で問題を起こし、公然と「領土問題」にすり替える"罠"だったのではないだろうか、そんな漁船衝突事件当初の疑念を裏付けた形です。


それだから石垣島で漁を営む海人らが安心して漁ができないと嘆く事情がよく理解できた。また、中国人の悪態ぶりと確信的な領海侵犯の日常が、その映像からあからさまに浮かび上がったではありませんか。これが、果たして守秘義務違反の罪に問えるとは到底思えません。


それにしても新聞のここ数日の書きっぷりは、いかがなものか。


海上保安庁が内部調査に限界がある、として刑事告発し、東京地検が動きをみせた途端に、メディアは豹変し、紙面で連日、猟犬の如く犯人を追いつめていた。投稿者のハンドルネーム「sengoku38」を特定するなど、まるで凶悪犯捜査と同じ手法をとっていた。ウェブは、規模がグローバルに拡大したといっても、あくまで通信機能だから個人ベースのやり取りが基本です。それなにの動画投稿サイト「YouTube」を運営するGoogleから、容疑者を特定する発信記録捜査の参考となるIPアドレスの提供を求めて断られると、今度は、捜査令状をとって押さえにかかったらしい。


その勢いで読売は、10日付朝刊1面で≪神戸の漫画喫茶から投稿、尖閣映像 アドレスで判明≫とスクープした。Googleの日本法人から入手したIPアドレスを分析して判明した、とある。


この漫画喫茶に警視庁の捜査員が飛んで防犯カメラ映像や入店客の情報を押さえ、投稿者の特定を進める、とも書かれてあった。読売は、つい数日前、1面トップで≪流出は「証拠用」映像か、尖閣ビデオ、海保と地検保管、内部から漏えいの疑い≫と見出しを打ち、海上保安庁と検察当局が、本格捜査を始めたことを報じていた。その関連記事は1面以外に2・3・4・7・15・38・39の面に広げる大車輪の展開でした。他紙も追撃の手をゆるめません。まあ、押せとしてネットへの書き込みで、sengoku38へのエールを紹介した記事もなかったわけではない。


さて、犯人をどう、処罰するか。その程度いかんでは、ウェブの書き込み等から相当の非難の声があがることを覚悟すべきでしょう。ある種これは権力からネットへの圧力に思えてならない。忌わしい"ネットパージ"と言わせてもらいたい。


裏を返せば、インターネットの動画サイトがこの受難を機に市民レベルのメディアになった記念日ともいえるのではないか。そうなると、凋落の新聞やテレビはいったいどうなっていくのか。メディアが、ウェブへの捜査介入の時点でもっと政府の姿勢を質さなければいけなかったように思う。新聞メディアは、情報を隠す政府と対峙し、知らされるべき国民の権利を守る、推進する側に立つのが筋というものです。


新聞が、常々引気合いに出す「国民の知る権利」の主張は、いつの時代も政府は、各種情報を隠そうとする習性があるものという前提にたってのものです。


先の大戦後、「知る権利」(The Right to Know)がアメリカのジャーナリズムにおいて強く主張されるにいたった主な理由は、戦前・戦後の言論統制に対する批判としての、自由主義を回復しようとの動きであった‐と指摘するのは、千葉雄次郎氏の名著『知る権利』の≪新聞人の「知る権利」運動≫の一節でした。


続けて、なぜ、「知る権利」が要請されたのか、という問いに対して≪国際報道の面における国家統制が各国相互の理解促進を妨げたばかりか、統制されたマス・コミュニケーションによる国内的及び国際的宣伝が、各国民を真実から遠ざけ、各国間の憎悪と反目を激化したこともあまりにも明らかな事実であった。≫と述べ、≪人々がもしもお互いに相手国についての情報を知ることができ、真実に接することができるならば、国家間の反目をなくし、世界平和の促進に貢献しうるだろうとの認識は、ユネスコ憲章にも現れている≫と解説しています。


「知る権利」は、国際報道の自由運動として始まった。尖閣ビデオの公開は、その国際報道における各国民に真実を伝えるという意味からも必要でした。心ある中国人が、この映像を見て、何を感じられたか。その効果は計り知れない。


さて、この「知る権利」の言葉を最初に使ったのは、AP通信のケント・クーパーでした。彼は、≪ニュース・プロパガンダよりも悪いのは政府によるニュースの抑圧である。アメリカの新聞は、憲法上印刷の権利を有する。これはいわゆる新聞の自由であるが、もしも政府がニュースを抑圧したら、新聞は正当に国民にサービスすることはできない。≫と言い切る。


たとえば、原子爆弾についての論評は読むに値する。第1次世界大戦でドイツ軍が使った残忍な毒ガス兵器については、その後、激しい反対運動が巻き起こされたのに比べて、太平洋戦争で数十万人を殺傷し、その被害程度においては毒ガスの比じゃない原爆については、戦勝国民の間でそれほどの非難があがっていないのは、「戦勝国に好都合な武器だったがゆえに、国民は故意に真相を知らされていないからだ、と言ってもけっしていいすぎではないのである」と、国民の知る権利、メディアの国民に知らせる責任の重さを説く。


そして、国際政治の舞台でのメディアの役割は、「情報の自由交流を確保することが第一条件で、真実が知らされることによって、各国の相互理解が増進されることを目標としている」と喝破するのです。


どこかの国が機嫌を損ねるからなどと勝手な憶測推量で、国民の多くに知らせるべき情報を隠ぺいするところに、相互の理解も信頼も生まれないーというのが、世界共通のメディアの認識なのです。


千葉雄次郎氏について新聞業界で知らない人は少ないと思う。1922年、東大法学部卒後、朝日新聞入社、ロンドン、ワシントン特派員、取締役、編集総長を歴任し、1950年に東大新聞研究所教授、同所長、東洋大学理事長、NHK 経営委員長、日本新聞学会会長の要職にありました。


千葉氏がご存命なら、尖閣ビデオの流出事件をどう論評しただろうか。新聞報道の在り方とあわせてそのご高説を賜りたかった。


◇      ◇      ◇


【一押し情報】金沢工業大学主催、経済産業省後援「産学連携フォーラム・夢考房プロジェクト発表会in東京」:http://dndi.jp/data/10110801.pdf


教育、研究で素晴らしい成果を築く金沢工業大学の目玉プロジェクトである「夢考房」プロジェクトから、その代表的な産学連携の、学生らの自主自立の、その際立った実践的事例を紹介します。東京の金沢工業大学虎ノ門キャンパスで、12日午後13時から。参加無料。問い合わせ・申し込みはウェブで、あるいは電話076−294−6749まで。


金沢工業大学は、その目指すべき綱領として、人間形成、技術革新、そして産学協同を大学設立時から掲げてきた。その成果が、いま産学連携時代を迎えて花開いた印象を持ちます。学生から学生へとつながってひと時代を築いた産学連携の新しい形「夢考房」プロジェクトの実践的紹介に注目ください。NHKロボコン2010の優勝や、フォーミュラカー製作の実際を紹介。オープンリサーチ事業のハイテク夢考房、産学協同を意図した民間企業向けの企業内大学における人材育成など、「これは!」と思わせる、知恵と技術と融合のモデルが満載です。乞うご期待。


なお、このセミナーの前座で、私が少々出張ります。どうぞ、お友達をお誘いの上、応援に駆けつけてください。こられたら、お声かけください。


テーマは、≪「課題日本」の新しい現実ー産学連携の視座から問う≫
【趣旨】日本を取り巻く環境が激変しています。日本が危ういーと言われます。その「日本の課題」はどこにあるのか、いままで経験したことのないその「新しい現実」を産学連携の視座から俯瞰し、これからの日本の、日本人のあるべき姿を捉えたい。いま必要なのは、リーダーの戦略と覚悟といわれます。
 そして次世代を担う「若者」の情熱と、「統合」という視点だと思います。この夢考房プロジェクト発表会を通じて、参加者の皆様とご一緒に「課題日本」の「解」を探るヒントになれば、と思っています。


産学連携のフィールドでご活躍の東大教授の渡部俊也さん、妹尾堅一郎さんら知財のエキスパート、シリコンバレーでご活躍の外村仁さん、最近、月刊誌「アエラ」に登場したり、「ネーチャー」に投稿したりで話題になっているアンジェスMG創業者、森下竜一さん、北海道大学発ベンチャー「イーベック」社長の土井尚人さん、若者をエンカレッジするイノベーション25戦略座長の黒川清さんら、大勢の方々のナイスはコメントや取組などをご紹介するつもりです。お楽しみに。


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【連載】張輝氏の『中国のイノベーション』は第39回「早く死ぬか、精彩に生きるか」〜感動を呼ぶ劉偉さん」です。これは、張さん渾身の一筆ですね。いつもは人柄そのものの実直でアカデミックな原稿をお寄せくださるのだが、今回は、冒頭からその意気込みが違っていました。


…このような時はいつも、書くか書かないかで迷ってしまう。
 しかし、今回、やはり下手でも書こうと思ったので、後で登場してもらう主役には失礼かもしれないが、読者の方々に少しでも何かを感じて頂き、何かを共感していただけばと願う次第である、と。


両腕のない青年が、足でピアノを弾く、という現実離れした実際の映像を紹介しながら、張さんの感動が綴られていました。以下のフレーズが泣かせます。


「早く死ぬか、精彩に生きるか」という名言とともに、劉さんは一夜にして話題の名人になった。劉さんは10歳のときに意外な事故でそれまで普通にある両腕がなくなってしまった。それからどのように生きていくのか、色々な苦痛や苦悩、またとても辛いことがあった。しかし、劉さんは同じく両手がなくなった方が、口で書道をやられることを聞き、その書道家先生に人生訓を聞いたり、また両腕の助力を持たずといういかに大変でも水泳に取り組み続けたりして、普通の人より何倍も、何十倍も、時には言葉で表現できない様々な苦闘を力一杯で臨み続けて、精彩に生きて来た〜。と。


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【連載】東大教授、渡部俊也氏の『新興国の知財戦略』の第2回「Great Wall IP Strategy(万里の長城知財戦略)」です。膨大なデータを解析しながら、中国特許、そのGreat Wall IP Strategyの核心に迫る野心的な論文です。気持ちよく読めるところが、渡部流の真骨頂でしょうか。


中国特許の出願の激増の背景と狙いは、いささか他の新興国と事情が違っているらしい。文中に出てくる、LTE(Long term Evolution)と呼ぶ携帯電話の主要特許でなんと華為(ファーウェイ)1社で10%のシェアを持つ可能性が指摘されている点に着目します。わが国は全社でやっと10%の域というから、その1社の独占的影響力は底知れない。


さて、そこで中国の知財は実際、どのように活用されているか、ライセンス契約の進ちょく状況はいかがなものか、などに解説を加える一方、振り返って2002年から始まった中国のライセンス契約登録制度の経緯に触れて、CD、DVDなどの技術に長けたフィリップスを例に、その登録件数、契約に含まれる特許件数、どこの省のどの企業にライセンスが行われたか―などを分析し、それらが世界にも稀な非独占契約である、という事実を浮かび上がらせることに成功しています。


いったい、どこからどれくらいの資料とデータを収集されたのか、渡部さんの原稿を読みながら、さらっと書いているもののその背景には、まさにGreat Wallのような資料が積み上がっているに違いない。Great Wall IPは次回も続きます。ご期待ください。


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【連載】名桜大学教授、比嘉照夫氏の『緊急提言、甦れ!食と健康と地球環境』の第34回「生物多様性を守るためには COP10を終えて」のシリーズその1です。付録に、COP10-EM実践事例集がリンクされています。私も愛用のEM 技術です。(http://dndi.jp/19-higa/images/10110901.pdf)。比嘉先生の原稿は、ほぼ一ケ月ぶり、その間、この名古屋で開催のCOP10(生物多様性条約第10回締約国際会議)の対応やらで、ご多忙だったかもしれません。世界中から引っ張りだこなのですから。


さて、本文は、COP10のスタートや経緯や趣旨に触れて、大事な要点が抜け落ちていることを鋭く喝破されています。つまり、「人口の増加と日常的に使われている化学合成物質による環境汚染や、その結果において、引き起こされる生態系の破壊や、他の生物種に依存しない問題の解決法について」であり、その視点が全く論議されていない、と指摘する。ふ〜む、一瞬、驚きを禁じ得ませんでした。人口の増加に伴う問題や環境汚染の影響が、どれほど重要か、素人の私でも分かります。


続けて本文を読むと、睨んだ通り、この一連のイベントでご講演やコメンテーターを務め、しっかりとEM技術のPRもされた模様です。


≪EMのPRは、NPO法人・地球環境・共生ネットワーク(略称u-ネット 1200余の団体で会員数25万余)のブースで行なった。ブースは平均の1,5倍の広さを取り、1週間で2000余人の来訪者があり、海外のマスコミ取材もあり盛況であった。特に、「EMで生態系がよみがえるReborn生態系 by EM」と題して出されたEM実践・事例集2010は、和・英併記のため、極めて好評であった≫という。そうか、冒頭の実践・事例集は、その時のものだったのですね。


名古屋の河川9ケ所の浄化運動には、河村・名物市長もご登場されたとか。沖縄EMフォーラム、四国のEMフェスタなどを回り大車輪の日々だったのですね。後半には、広島普及協会が全国のモデルであることを伝え、例えば「The power of the EM Balls」(EMだんごの力)と題した中学生の英語のスピーチが準優勝を飾り、全国の「豊かな海づくり大会作文コンクール」で、EM活用を事例にした「豊かな海をつくる」のタイトルで小学4年の村田洋輔君が農林水産大臣賞を受けるなど嬉しい話題があったことも紹介しています。


いやあ、どこかのフェスタに足を運ぶべきでした。来年は、是非、私にもご案内くださいませ。メルマガで紹介しましょう。


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※【連載】山城宗久氏の『一隅を照らすの記』は、次回にその紹介をいたしますことをお許しください。


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