◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2010/10/19 http://dndi.jp/

それぞれの元年2010

 ・「Web2.0 in My Pocket」
 ・iPhone、Galaxyの攻防
 ・電子書籍元年、3D元年、スマートグリッド元年
 ・「医療ツーリズム元年」と我が国の戦略
 ・独協医科大「国際観光医療学会」を設立
〜日光東照宮客殿で盛大に第1回学術集会〜
 【連載】
〜山城宗久氏「東大アントレ道場の最終審査」

DNDメディア局の出口です。「Web2.0 in Your Pocket」。ITジャーナリストの林信行さんが、よく使うこのフレーズが気にいって、iPhoneを毎日触っています。その習熟にはまず使いこなすしかない。習うより慣れろ、好きこそものの上手なれ、の喩の通りです。今年は、なんとか元年と、元年の冠が目白押しでした。まずは、「スマートフォン元年」から。


Apple社の7−9月の決算の数字が本日発表され、売上67%増の1兆6500億円、純利益が70%増の3500億円と過去最高という。この数字をもたらした要因が、7月に発売の新型iPhone4、この3ケ月で1410万台を販売した。私が手にしているのもその1台ということになる。凄いねぇ。空前の増収増益、CEOのスティーブ・ジョブズ氏は、年内にさらにサプライズがある、と期待を持たせたという。


このスマートフォンが2007年にAppleが発売してまだ数年なにの、携帯端末の市場を激変させました。Google系のAndroidは、シリコンバレーで活躍する外村仁氏によると、欧米でiPhoneを抜く勢いで爆発中という。auショップには「未来へ行くならアンドロイドを待て」のポスターがあった。docomo は、先日の新聞で新製品「Galaxy」の全面広告を打ち、「手のひらに明日をのせて」とAppleの追撃する構えのようだ。ちょっと、このキャッチは陳腐すぎませんか。追撃の手を緩めるな、世界征服への挑戦―はどうか。これも臭いですね。でも、後発のdocomoなのだから、挑む姿勢を出したら、いい。コンテンツも平凡で、サプライズがないのはどうしたことか。まあ、スマートフォン元年にふさわしい動きが始まっていることに気付かされます。


で、このスマートフォンで何をするか。まあ、この辺がポイントとなりますが、まずは手に持って下さい。GPS機能との連携による、「Memory Tree」や「Twitter Vison」という高度なレベルはまだ遥か先の未体験ゾーンなのです。私の場合、もっぱら初級コースを右往左往しています。


YouTubeで懐かしのメロディーを聴く。なあんだ、と思うかも知れませんが、これが私にとって得難い価値をもたらしてくれています。John Coltraneの「My Favorite Things」、Sam Sparacioの「NewYork NewYork」などの渋い曲は、心のひだに絡むように迫る。サンクトペテルブルグにあるマリーンスキー劇場で初めて聴いた交響楽「カバレリア・ルスティカーナ」の間奏曲も、ツルノリヒロさんの「Last Carnival」のバイオリンも、どれもこれもin My Pocketなのです。


◇絶賛!尾崎裕哉さんの「I love you」


尾崎豊さんの「I love you」は、歌う度に哀れに"撃沈"するのだが、最近のTVコマーシャルで、この歌が流れています。お聞きになったでしょう。尾崎の子息が歌っているらしいことへのコメントで、「尾崎が甦ったかと思って涙があふれてきた」などの書き込みが寄せられていた。尾崎裕哉さん、才能豊かなミュージシャンに立派に育っていたのですね。この事実ひとつで、目頭がうるんできそうです。ちらっと画面で見せた横顔が、若き日の尾崎さんとそっくりで私も驚きました。iPhoneの画面で映像を見ながら曲を聴いていると、この歳になっても心が激しく揺さぶられます。


浅草へ向かう帰りの都営バスの車中は、さだまさしさんの「北の国から」を聴く。「あーあぁ、あああああーあ…」という透明感のある、さださんのスキャットが流れると、このまま夜行バスで北の国へ連れて行ってくれそうな気がしてきた。さださんの曲をさらに連続して聴いていると、ある曲に遭遇して一瞬、脳がfreezeした。それは「天までとどけ」でした。


◇40年前の追憶:さだまさし「天までとどけ」


≪18歳のころ、電車の向かいの席でした。出会いは偶然の風の中、きらめく君、ゆるやかに僕の前で立ち止まって座席に浅く腰を下ろしたのです。懐かしい風景に、再び巡り合えた‐そんな気がした。君のところに故郷の風が吹いているような気がした。ひとつの出会いが人生を変えていく。愛する街が、君の故郷と重なっていた。舞上がれ、風船の憧れのように、二人の明日、天までとどけ!≫


忘れかけていたあの時の記憶が鮮烈に浮かび上がってくる。その君は、健気にも、大切な父、母のそばに1分でも長くいてあげられるようにつとめています。もう40年前の、あの時のままの笑顔があれば、それで十分かもしれません。やさしさと微笑みが魅力なのですから。


iPhone、Android、そしてGalaxy…。携帯からスマートフォンへの転換は、単なる携帯の進化というより、生活styleを根本的に変える"魔法のランプ"のように思えます。先日、日光東照宮で流鏑馬を見学しました。その的の目の前で、疾駆する馬上から弓を射るシーンをビデオに撮った。この迫力ある映像をiPhoneから、facebookにアップしようと思う。家の近くの、稲刈りも録画した。ビデオジャーナルの一歩を踏み出した気分で、心地よい。


「スマートフォン元年」は、その端末の進化と大競争の中で、鮮やかな放物線を描いて急上昇しています。続いて、なんとか元年を拾うと、「電気自動車元年」ともいう。ここは以前、メルマガで触れた。


◇「電子書籍元年」で、浮足立つメディア


「電子書籍(出版)元年」は、多機能なWideviewのiPadをはじめ、いくつもの端末の開発競争で周辺が浮足立ってきました。タレントの高田純次さんのエッセー『適当日記』(ダイヤモンド社)の電子版の売上が、紙での部数の2倍を記録した、という。紙で1000円、2008年から3万5千部を売った。電子版はAppleの携帯端末向けに350円(10月に17日間の限定で115円)で計7万近くダウンロードした。シャープは、この分野で電子書籍の端末を開発して売り出すことを表明し、そこに日経や、毎日などのメディアがコンテンツを提供する、という。そして、大日本印刷と凸版印刷のライバル2社が中心となって「電子出版制作・流通協議会」を設立した。朝日夕刊の「メディア激変」に詳しい。が、「電子出版ビジネスでは印刷会社がキープレーヤーと言われる」との意味が、わかりにくい。端末ばっかし販売競争しても意味はない。新聞のコンテンツは、この多機能端末では、不要とは言わないが、それほどの価値はないことを知るべきですね。新聞や出版業界は、さて、従来型のコンテンツでどう生き残りをかける、というのか。新聞記事で、すでに世の中を捉えきれないという事実を厳粛に受け止めないといけない。時間軸と物理的な空間、このふたつをとっても、新聞は、読んでためになるし面白いが、その仕組みは明治以来変わらない。いわば、高速網の発達した車社会におけるリヤカーを引くようなものではないか。


「スマートグリッド元年」ともいう。このタイトルのイベントも開かれました。また家電業界では「3D元年」の旋風が巻き起こり、新型のテレビ開発にしのぎを削る。さて、2010年、なんというイノベーティブな年なのでしょうか。


◇「医療ツーリズム元年」と我が国の戦略
〜外国から患者を日本に呼び込む〜


もうひとつ、観光で呼び込みながら我が国の先端医療を受けさせる、という「医療ツーリズム」が動き出し、そこで「医療ツーリズム元年」というらしい。医療・介護関連の産業が新たな成長産業になる、との見通しから政府の新成長戦略の一環としてこの「医療ツーリズム」にスポットがあたっているのです。


経済産業省の商務情報政策局長の石黒憲彦さんがこの7月14日号の『志本主義のススメ』第145回「医療・介護関連産業は成長産業になるか?(その2)」で、「医療ツーリズム」の世界の動向と現状、わが国の可能性への期待と課題について詳細にかつ具体的に論を展開していました。


「外国患者を受け入れる、そして医療市場を広げる」という戦略です。大胆で構想が大きい。心臓移植などで海外に渡航する、先端医療を受けるため韓国に飛ぶ、というような話は聞くが、実は、わが国がその潜在的有力市場となりうる、と断じているのです。


その現実的課題を例に、例えば医療滞在ビザの発行などを手当する、という。このユニークな発想は、すでに韓国が先んじて実施にうつしました。また、石黒さんは、海外拠点やネットワークの整備の必要性を指摘し、外国人医師や介護師受け入れ問題と合わせて、「日本の医療のグローバル化は、さらに日本の医療水準を上げるいい機会」という。


なお、石黒さんの商務情報政策局では、医療介護関連サービスの実証実験やメディカルツーリズムに関する調査事業を実施するかたわら、これらの政策のビジョンと今後の施策の考え方を整理すべく昨年夏に立ちあげた医療産業研究会(座長 伊東元重東京大学経済学部長)が、さる6月30日に「医療生活産業」と定義した新たな政策提言を盛り込んだ報告書をとりまとめ公表していました。「医療ツーリズム」に関する問題や提言のほとんどを網羅しています。この辺は、以前のメルマガでも紹介しました。が、再掲します。


以下のURLからご覧ください。
http://www.meti.go.jp/press/20100630001/20100630001.html


◇韓国が国を挙げて観光医療を推進


先日のテレビ朝日の番組では、最近の動きを伝えていました。全国で、個別の対応が進んでいるのです。徳島空港に上海からのチャーター便が下りた。観光と医療の「医療ツーリズム」という。中国から観光にきたIT経営者ら4人が、糖尿病や心臓病の診断を受けたという。徳島県が、医療収入を期待して医療支援を海外に広げる、という戦略を練っているのです。まだ規模は小さいが、通訳は大学から集めて対応した、という。


番組は、その一方で、韓国の脊椎の専門病院の取り組みを紹介しました。ここでは、この1年間で世界64カ国から1200人の患者を受け入れた。病院食も患者の国に合わせてメニューをつくり、食材を用意した。保険適用外なのに患者が引きを切らない。日本人の患者もいました。韓国では、昨年5月に医療ビザの発給を決めていました。今後は、極東ロシアからの患者を狙う、という。


日本は、その成長戦略の中で方向性を打ち出してはいるが、まだ実施されていない。中国からの患者を期待するが、現在の観光ビザでは15日間しか滞在できない。まあ、外国からの患者を受け入れるのに課題は少なくない。


◇「医療ツーリズム」の実現のための課題


実現のための課題として、前出の石黒さんは、こう述べていました。


≪我が国には、メディカルツーリズムにとって最も重要な資源ともいうべき、内視鏡治療や重粒子線治療など様々な分野における優秀な医師と病院はあるのですが、それだけではメディカルツーリズムをシステマティックに実施することはできません。


患者の紹介、施術後のモニタリング、アフターサービスのための外国医療機関との連携や協力・斡旋体制をどう構築していくか、さらに一歩進んで診断を専門とする医療センターを拠点として海外に持つことも考える必要があるかも知れません。つまり受け入れるというインバウンドだけでなくアウトバウンドも併せて考えなければしっかりした受け入れ体制が整いません。


また、医療サービスの国際認証の取得、諸外国の規制へ対応できる水準を確保し、いざというときの訴訟リスクへの備えも怠るわけにいきません。加えて、患者が何度も母国と日本を行ったり来たりすることも考えると医療滞在ビザの発行も考える必要があります。


さらに、海外への広報・プロモーションを誰がどのように行うか、実際の受け入れの事前調整、受け入れ、通訳、宿泊、移動などの手配、離日後のフォローアップなどの一連のサービスを実施できる、コンシェルジュ、ファシリテーター機能を果たせるサービス事業者の育成と関連サービスの連携が不可欠です。旅行代理店にそれなりのノウハウはあると思いますが、大々的にやっていくとなると旅行代理店だけでもできず、ここでも医師、病院との連携のあり方を含めビジネスモデル、関連サービス、人材を一からつくっていかなくてはなりません。医療通訳などは一朝一夕には大量に育成できないでしょう。


課題山積です。従って明日からすぐにメディカルツーリズムが実現するわけではありません。しかし、だからこそそこに裾野の広い将来の成長産業の芽と産業政策の必要性があるわけです。私の局では昨年から研究会を行ってきましたが、医療機関、旅行代理店、ホテル、通訳業など関連する事業者を糾合して、受け入れのための海外拠点、国内受け入れ組織、医療機関のネットワークを作るべく準備を進めています。≫


◇全国注目の「国際観光医療学会」が旗揚げ
〜独協医科大学の寺野学長が理事長に就任〜


さて、こうした医療ツーリズムの動きを捉えて発足した「国際観光医療学会」(理事長・寺野彰独協医科大学長)の第1回学術集会(大会会長・中元隆明獨協医科大学日光医療センター病院長)がこの10月9日、日光東照宮の客殿で、開催され、NHKや新聞で大きく取り上げられました。


この集会には、全国から260人を超える医療、旅行業界の関係者らが参加しました。現在、会員は約140人。私もその一人に加わりました。学術集会では、観光庁の柏木隆久・国際観光政策課長が、観光医療の取り組みや世界の動向について報告しました。中国・上海の同済大付属同済医院の王樂民院長が、高齢化しながら介護施設が不十分な上海の医療事情と今後の見通しについて日本語で講演しました。監事の稲葉久雄・東照宮宮司が、交流会で冒頭、「歴史的に見て海外からの観光客が多い日光エリアこそ、国際的な観光と医療が結びついた産業が根付く土壌があります。わが国の成長戦略はもちろんのこと、国際観光都市にふさわしい学会の誕生に期待するものです」と話していました。


独協医科大学では、日光市高徳にある日光医療センターの中元病院長を中心に2007年から、地元の鬼怒川温泉の温泉旅館と連携して「宿泊型人間ドッグ」を初めていました。温泉に入りながら人間ドッグを受診するという試みでした。そして今年の4月には、病院内に全国に先駆けて「観光医療科」を創設し、中国人の受け入れを意図して中国人看護師を常駐させています。この観光医療科で積み重ねた経験やノウハウ、あるいは課題や問題点を広く多くの人に公開し、情報交換しながら観光医療の発展に少しでも力になればと、この5月に学会を設立した、という経過がありました。


政府が成長戦略の一つとして位置付けているとはいえ、医療ツーリズムには政府の一元的な対応が望まれるところです。国際は外務省、観光は、観光庁(国土交通省)、医療は厚生労働省、経済の成長分野は経済省という具合で、これら各省庁の利害調整をどう取り仕切るか、が大事になってきています。


柏木課長は、医療ツーリズムは、やはり地域ごと分野ごと個別に知恵を出していくことが重要、と話していました。


◇           ◇         ◇


◇東京大学アントレ道場、最終審査


【連載】東京大学産学連携本部副本部長の山城宗久氏の『一隅を照らすの記』の第30回「楽しき休日出勤」。節目の30回ですね。山城節も板についてきた感じです。『大学発ベンチャーの底力』の執筆者、氏家豊氏は、前回の書き出しを、「山城さん風に」と山城タッチをまねて書いた、と述べていました。さて、今回は、このタイトルからはよくわからない。


が、本文を読み進めると、とても大切なコンペティションが開催されていたのでした。学生起業家育成教育プログラムという、東京大学の学生を対象にした「東京大学アントレプレナー道場」の最終審査でした。


≪この道場、今年で6期目。半年間の課程を経て、最後まで残った8チームが、それぞれのビジネスプランをプレゼンし、審査の結果、最優秀1チームと優秀2チームが決まる日です。私は、審査委員長を務める影山和郎産学連携本部長、山本貴史(株)東京大学TLO代表取締役社長、郷治友孝(株)東京大学エッジキャピタル代表取締役社長とともに、審査委員として臨みました≫。


出場の各チームにアドバイスする社会人のメンターがそれぞれついてくれる。その夜、近くの中華料理店で、学生諸君やメンターの方々との懇親会が開かれたそうです。この日までの、涙あり笑いありの裏話が次々と披露されとても思い出に残る時間だった、そうです。うらやましいことです。


しかし、北京大学の切符はどのチームの誰で、そのビジネスはどんな?いやあ、もったいないというか、いろいろ事情がおありなのかもしれませんが、この審査結果が編集者の意に反して、どこにも出ていない?!。次回は、私もオブザーバーでお誘いください。


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