DNDメディア局の出口です。一番気になるのは、トヨタのリコール問題です か、それとも小沢一郎幹事長の周辺にまつわる政治資金ですか。そのどちらを 選ぶか、メルマガのテーマに私の頭も揺れて、いまこのメルマガを書く寸前ま であれこれ悩んで決めかねております。が、混迷する政治、その間隙を突いて トヨタ問題が噴きだしたかのように見えます。しかし、これは偶然じゃないよ うです。我が国経済へのダメージは深刻です。
信頼が揺らぐ日米関係。その軋みにトヨタのリコールが微妙に関係している のだろうか。私にはよくその辺の事情がつかみきれません。さて、本日は節分、 そして明日はもう立春です。追い出すべきはどんなオニですか、そして迎える べき春は等しく誰にも訪れるといいのですが。
トヨタの大規模リコール(回収・無償修理)が世界に波及しています。グ ローバル企業の怖さをまざまざと見せつけているようです。累計でアクセルペ ダル部品が445万台、フロアマットが575万台に及び、そのうち米国が合計750 万台とその大半を占めています。続いて、ロシアを含む欧州が171万台、カナ ダ67万台、中国8万台という数にのぼっています。その費用は1000億円をくだ らないと試算されています。トヨタには米議会の公聴会での厳しい追及が待ち 受けています。その動向次第では、「トヨタの失墜」が懸念されるという。
新たにハイブリッド車「プリウス」でブレーキの苦情が米国で多発し、日本 でも数件確認されました。滑りやすい路面を低速で走っていると、1秒前後、 ブレーキが利かなくなるという。今朝の朝日が1面で報じ、昼のニュースでNHK が伝えていました。
日本企業の多くの経営のお手本とされてきたトヨタが、なぜ、こんな事態に 陥ったのか。その理由については、モノづくり企業の経営幹部はとくに肝に銘 じておくべきかも知れません。
週刊『東洋経済』(06年7月29日号)が、その特集「トヨタの異変−崩れた 品質神話、最強の現場は疲れている!」で詳細にデータ分析を加え、今日の史 上最悪の大規模リコールが起こることを見通して警告していました。その内容 を紹介する前に、まずトヨタの品質保証担当の佐々木真一副社長が2日、記者 会見して明らかにした1月のリコールの経緯を「朝日3日、経済面」から振り返 ってみます。
トヨタは、アクセルペダル部品の不具合の問題を07年、米国の苦情で把握し た。部品は別のものに切り替えたが、更新した部品でも、欧州で不具合が見つ かった。欧州では昨年8月、材質や形状を変えた部品に再更新した。一方、米 国では更新しないまま、対応を検討していた。その最中の昨年8月、米国でレ クサスの4人死亡事故が発生。アクセルペダルがフロアマットにひっかかって 事故が起きた可能性が浮上し、11月に対応を発表した。
だが、ベダル部品の問題は残されたまま。佐々木福社長は、「どちらもアク セルペダル周辺の問題。NHTSA(米高速道路交通安全局)から『お客様目線で 早く決断しては』と忠告された」と明かす。1月、生産中止まで伴う異例のリ コールを発表した―と。
記事は、トヨタがフロアマット問題では車の欠陥を認めず、厳しい批判にさ らされたと伝え、大規模リコールが連続した原因として、無理な急拡大路線が 品質の低下を招いたとする見方がある、と指摘していました。
このフロアマットの事故では昨年11月約426万台のマットの自主改修を発表 したのだが、その当時、トヨタ側が「車体の欠陥はない」という米当局の調査 結果を拝借した点について、米道路交通安全局が反発し「(トヨタの)発表は 不正確で誤解を招くもの」と警告していたという。(3日産経新聞、2面「トヨ タ不信が拡大」。
トヨタはリコールに伴い、対象8車種の販売を1月26日から中止し、2月1日か ら北米5工場での生産を一時停止させている。安全重視のこれら一連の措置が 裏目に。「これほどまで深刻なのか」という不信を増幅させる結果を招いてし まった。株価も敏感で本日も下落、これで9営業日連続の下落で、時価総額は2 兆円以上吹き飛んでしまった。弱り目に祟り目。ゼネラル・モーターズ(GM) などが、トヨタ車からの乗り換えに最大1000ドルを値引きするキャンペーンを 始めるなど、米国・カナダの約1200のトヨタ系ディーラーに動揺が走っている (毎日新聞2日付、経済面)という。
さて、週刊『東洋経済』が06年に特集した「トヨタの異変」は、7つの異変 に言及します。その1:「リコールが過去最悪のペースで急増」。トヨタのリ コールが急増したのは、なぜか。浮かび上がってきたのが、「急成長のひず み」であり、「現場の疲労」というべき構造問題である、としてトヨタのリ コールは01年度から02年度にかけて急増、05年には史上最大規模に達した。ト ヨタで今、リコールが急増しているのは「過去」に問題がある。トヨタは目下、 生産を急拡大している最中。このまま品質問題に有効な手を打たなければ、 「08年から10年にトヨタのリコールは今の規模を上回り、史上最悪となる可能 性が高い」(モルガン・スタンレー証券アナリスト平井紀明氏)と推測してい ました。
生産現場に目を向けると、車種のラインナップが大幅に見直され、同時にプ ラットフォーム(車台)の統廃合が進展。部品の共通化も展開した。設計のデ ジタル化が大きく進み、これらによって開発期間は劇的に短くなった。00年か ら総原価30%削減を狙った大規模なコスト削減活動「CCC21」がグループ総が かりで始まったという。
まあ、コスト削減に努力するのは企業としては当然です。が、経験豊富なベ テランが徐々に現場を離れ、急ピッチなグローバル展開で慢性的な人手不足に 陥り、技術者養成には時間がかかるから人手はどんどん手薄になり、部品メー カーへの丸投げに頼らざるを得なくなった。
そこで『製造現場から見たリコールの内側』の著者、自動車メーカーのエン ジニアの五代領氏は、「自動車メーカーの人間には部品の事はわからない」と 指摘して、「エンジンは自分のところで図面を書いて組み立てているが、その 他の部品に関しては自動車メーカーにはほとんど情報がない。本質的に部品の 技術は部品メーカーが握っている」と自動車メーカーの現状を憂いているので す。
これらの指摘が事実なら、トヨタの品質への信頼は疑わしいものになります。 このような現場では決まって老練な職人気質のベテランがいなくなるのですね。
その他の異変は、次の通りです。その2;「欠陥放置で品質保証部長ら3人が 書類送検」その3:「米国ではクライスラーを上回るリコール発生」、その4: 「下請け部品メーカーの従業員に労災で訴えられる」、その5:「米国の品質 ランキングで現代自動車(韓国)に抜かれる」、その6:「レクサスの国内販 売は予想外の大苦戦」、そしてその7が「既存の労働組合とは別に第2労組が発 足へ」−となっていました。
ここで思い出すのは、一橋大学名誉教授の野中郁次郎氏が日経新聞の「経済 教室」に寄せた論文「米自動車危機の教訓と展望」(上)、09年5月20日付の ものです。
米国の代表的企業がなぜここまで衰退したのか、と自問し、端的に言えば、 価値の基盤となる「実践知」を活用できず、企業としてドラッガーの言う顧客 創造の役割を軽視した点にある、と説明していました。特にその中で注目した のが、「実践知」についてでした。
野中先生は、GMの衰退は二つの要因に帰着できるのではないか、として一つ は、企業としての社会的存在意義(共通善)の視点を喪失した近視眼的経営、 もう一つは、それに伴う価値創造力の低下により顧客の支持を喪失したことと、 二つの「喪失」である、と論じます。業績が低下し始めると、GMは人員削減や コスト削減によるリストラ戦略を最優先した。その結果、財務数値は短期的に 改善したが、「顧客のため」、「地域社会のため」といったより大きな関係性 の洞察が滑落していた、と述べています。
野中先生は続けて、アリストテレスの実践哲学に由来するフロネシス(賢慮 ないし実践的知恵という高質の暗黙知)を引用しながら、「いま・ここ」とい う特定の場の現実を、変わり続けるダイナミックな文脈の中でとらえ、「より よい」を求めその時その場で最善の判断と行動をタイムリーに選択する動態知 である、 と喝破されていました。
つまり、これは後段に説明されていることですが、「よい車」は、単なるベ ンチマークや市場リサーチによる分析では生まれない。開発者自身が、顧客の 立場で、商品を通じどんな感動的経験を与えうるか真剣に考え、アイディアの 飛躍を生むことが求められる。(中略)GMの経営者には、傍観者ではなくこう した全身で直観する現場性(アクチュアリティー)からの発想が欠けていた、 と断じていました。
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■小沢一郎幹事長が背負った「十字架」
ひょっとすると、これは政治事件簿を総括するエポックになるかも知れませ
ん。戦後からの悪しき利権誘導型の金権政治に大鉄槌を下して大物政治家を追
い落とすことになるのか、あるいはその返り血を浴びて正義の地検特捜がその
手法の躓きや見通しの甘さによって「巨悪を眠らせない」という金看板を降ろ
さざるを得なくなるのか。
「大物政治家VS地検特捜」は、応援を頼んで引いたり押したりの激烈な綱引 き状態です。朝日は、小沢氏の事件関与の証拠が不十分とする「不起訴検討」 という独自ダネを打ってきました。さて、この先どんな結末が待っているのか。 4億円という途方もない資金が飛び交う政治の裏舞台に疑念を感じながら、国 民の多くは息をひそめてこの捜査の行方、大物政治家の命運を見守っているに ちがいない。
小沢一郎・民主幹事長の資金管理団体「陸山会」の土地購入をめぐる事件は、 小沢氏が23日に続いて31日にも2回目の事情聴取されたことが明らかになりま した。捜査の焦点は、小沢さんご本人の刑事責任は問えるのか、の判断にあり、 またゼネコンからの裏献金の有無を立証できるか、どうか、その実態の解明次 第と指摘されています。
小沢さんの2回目の聴取という流れを見て捜査が核心に迫ってきたのではな いか、地検特捜が何か確かな手ごたえをつかんでいるのでは、と感じ取った方 も少なくないのではないか。任意とはいえ地検特捜からの聴取が1回で終わる のは不自然だよね、って検察捜査の手口をよく知る昔の記者仲間と話していた 矢先のことでしたから。が、そのベテラン記者は、どうも地検の捜査の危うさ を微妙に感じるらしく、その理由の一つは、政治家をやるのが地検の仕事だが、 政治資金規正法違反という形式犯でやるかねぇ、少なくてもこれまでは所得税 法違反(脱税)か、あわよくば贈収賄へと向かうのが本筋じゃないか、と思う。 現場の担当に聞いても、どうも「さんずい」(汚職事件)の臭いはないらしい、 という。
が、元地検特捜副部長で弁護士の若狭勝さんは、テレビ討論で政治資金規正 法違反(虚偽記載)が形式犯という事件を矮小化した主張に反論し、こんな解 釈を加えていました。
その若狭さんが登場したのは、「小沢幹事長VS検察、どうなる?!最終決 着」(29日深夜)の朝まで生テレビでした。ご存じ田原総一郎さんが司会で、 わっとそこにまあ、どちらかというと「小沢幹事長応援団」の弁護士、教授と いった論客が陣取って、その仕切り役の田原さんの誘導ぶりは露骨で、可笑し かった。用意された発言というのは、ここでこうふるのでこう述べてください、 と言う風なシナリオは、この手のインプロンプトの場面で奇妙に浮いちゃうの ですね。田原さんの質問も不自然で、答える方もぎこちなく映っちゃうものな のですね。
と、まあ、そんな状況の中で、小沢さん擁護の急先鋒で、元検事の郷原信郎 さんが、石川議員の直接の逮捕容疑は、政治資金規正法違反、虚偽記入ですよ ね、それは4億円を過少に記載したというだけです。この起訴は可能であって、 それが小沢さんとの共犯に持って行けるかどうか、だと思われているが、その 事実がゼネンからの裏献金が立証されて初めて本当に刑事事件として起訴でき るものだと思う。政治資金収支報告書に記載していませんでした、というだけ であれば、小沢さんからの借入4億円というのは1つは書いてありますから、実 態と何も変わらない、違わないということになるーとあくまで形式的な行為で 刑事事件扱いは不当だ、という主張でした。
そこで、もう一人の元検事の高井康行弁護士は、郷原さんはおそらく政治資 金規正法違反の解釈を正確に理解していないのではないか、とけん制し、田原 さんが「(郷原さんは)起訴できないといっている」がと、水を向けると、そ こで若狭さんは、「私は100%起訴されると思う」と自信を見せていました。
そして…。
私は、小沢さんに対する刑事責任は慎重に証拠を見てやるべきで、小沢さん の問題は別にして、まずは石川容疑者に対しては間違いなく起訴される。今の 段階でも起訴されて100%有罪になる、と思う。
結局、政治資金規正法というのは、政治家が受け取る金をすべからく収支報 告というツールによって国民に情報公開するということです。それによって、 国民が監視をして政治家がよからぬ金、不正な金を受け取ることを防止しよう という趣旨の法律です。情報公開としての収支報告というのが極めて大事で、 そこに記載をきちんとしようというのは当然の帰結なのですね。
政治資金収支報告書にウソのことを行為的に書くということは、国民を裏切 ることであり、だます行為ということになります。そういう観点から申します と、石川容疑者は、4億円を記載しなかったということを認めているようです から、国民をだました、国民にウソをついたという裏切りになるので、これは 悪質なのです。そこに水谷建設からの裏金が入って、それを隠すために収支報 告書にウソのことを書いたという動機が加わると、さらに一層悪質になるとい うことであって、いまの段階で水谷建設からの金がどうのこうのと言う前に悪 質であることには変わりない、と一気にこう政治資金規正法違反の悪質性を論 じていました。語り口も切々として説得力がありました。
高井弁護士もその後、起訴価値について触れ、4億円という多額の金額を場 合によっては記載しなくてもいい、ということになると、それを悪用される危 険性が生まれるではないか。結局はそれを国民がどう考えるか、すべからく収 支報告書に記載することによって国民に監視してもらおう、ということですか ら、書かなくてもいいとなると、収支報告書は信用されなくなるーと指摘して いました。
議論は、時折、検察による捜査権の乱用ではないか、と繰り返し指摘されま した。どうも、田原さんの関係する討論は、執拗にそのことを突っ込んでいま す。そういう視点もある種ジャーナリズムの論点であることは否定はしません が、相手は大物政治家であることを忘れては困ります。
その点を一人果敢に発言していたのは、ジャーナリストの山際澄夫さんでし た。検察の仕事は悪い政治家を捕まえることだと思う、はっきりいって巨悪を 眠らせないという姿勢でなければならないし、小沢を最初から潰すというの は貴方の勝手な憶測でしょう。検察が政治家をつかまえなければ暗黒社会で すーと吠えていました。正論です。彼の発言のすべてに、何か、誰かの力にな ろうとか、という利害が一切感じられません。これぞ、ジャーナリストのある べき姿と思いました。
しかし、まあ、同じジャーナリストでも品のない元読売記者の迷妄ぶりは閉 口しました。山際氏の発言を手で制し、周辺の仲間とせせら笑う態度は、ゲス 以外のなにものでもありませんでした。
今後、どういう結末を迎えるか。元秘書3人を容疑者にしてしまった小沢さ
んの存在は、その灰色の疑惑を背負いながら大きい政治の舞台で大きな役割を
演じ続けなければなりません。いずれにしてもクロじゃないがシロでもない。
その十字架は、ご本人と民主のいずれの肩にも重くのしかかってしまったよう
です。
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【連載】は、山城宗久氏の『一隅を照らすの記』の第14回「ハンさんの餃子」
と比嘉照夫教授の『甦れ!食と健康と地球環境』の第20回「EMによる漁業振興
(2)」、黒川清先生の「学術の風」は、「ダボス会議報告」などが寄せられ
ています。解説は、次回にさせていただきます。サイトには本日3日アップし
ております。