◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/12/24 http://dndi.jp/

「一身独立し一国独立す」の明治の気概

 ・鳩山政権100日:真実味のない言葉
 ・黒川先生に仏政府から晴れの勲章授与
 ・大学発ベンチャー起業4割減:朝日調査
 ・橋本正洋氏「スペイン・アリカンテにて」。
 ・山城宗久氏「太陽光がいっぱい」
 ・比嘉照夫氏「EMで豊かな海に甦る三河湾」
 ・歌を読む車イスの父と介護の現実

DNDメディア局の出口です。どんな一年でしたでしょうか。気になるのは、 やはり100日目を迎えた鳩山政権の評価ですか、NHKの「坂の上の雲」の行方で すか。年の瀬が押し詰まって積み残した雑用が溢れ返って、ゆっくり考える時 間も、酒を飲む暇もない。先送り気味の年賀状は、年内完了を見込むが、出し 遅れは必至の状況です。


いやはや、あれほど鮮やかな政権交代劇を演出しながら、やや躓き気味の危 うさは、それほど驚くことじゃ無く「想定内のチェンジ」でしょうか。必死に なって各閣僚らが、なんとかいい方向へ持って行こうとしている懸命さは伝わ ってきます。が、知恵が見られずそれに勇気が乏しい。総括すれば、政治家の 言葉にさっぱり真実味が感じられないのが、一番良くなかったのではないか。


支持率急落の原因は、総理のリーダシップの欠如と指摘されると、取り巻き 連中が、「最後は総理のご決断でした」と俄かに、口々に、それもとってつけ たように言うから、白々しくなって逆効果なのですね。ますます政治家の発言 が信用されない。なんか安っぽい芝居を見せられているような嫌な空気が漂う じゃありませんか。


まあ、良くも悪くも政治への関心を大いに高めてくれた功績は、評価しなけ ればならないでしょう。政治とカネの問題は依然予断を許さない事態が尾を引 いていますが、国民からの命令書と大上段に構えたマニフェストの余波、う〜 む、この修正や見直しを「違反」と騒ぎ立ててウソつき呼ばわりするのもどん なものでしょう。このどん底の税収見込みでは、やむをえないケースが出てく るでしょう。


新聞は、ねぇ、新政権発足時は、あんなに持ち上げていた、ヨイショ!のA 紙やY紙も掌を返したような攻撃を始めています。マニフェスト通り、それで もやれ、というのでしょうか。まあ、風の流れは変わってきたことは間違いあ りません。しかし、説明責任は問われます。それを果たしていないのは、新聞 が指摘している通りです。


責任を問われたある副大臣は、前の政権のつけ回しじゃないですか、と追及 の矛先を変えこの機に及んでも責任転嫁に走るのは、本当に情けない、という か、見苦しい。やはり言葉に真実味がないのですね、それだから不信感が増幅 する。元気がいい小沢一郎幹事長とて、これまでジッと裏方に徹して黙認して きたが、やはり支持率低下に伴う、来年の参院選の影響を考えると、2800から の陳情を「国民の声」を称して、幹事長周辺の声を政治に反映させようという 意図は、当然といえば当然なことです。いつまでも黙っている人じゃないこと は、周知の事実でしょう。「小鳩内閣」と揶揄されています。政権を動かして いるのは誰ですか、そんなアンケートで7割が「小沢一郎」と答えているので すから、来春には内閣改造をやって「菅直人」か、ひょっとして「舛添要一」 というサプライズ総理誕生も、まんざら冗談をも思えませんね。それも次なる 布石であって、満を持して剛腕、小沢一郎氏の総理の座が見えてくるわけです。


いま鳩山総理の執務室から、ブンブンと木製のバットで素振りする音が響い てくるらしい。何に狙いを絞っていらっしゃるか。剛腕から振り下ろされる曲 球に向かっていっては、いけません。なんと言われようと、そんな悪球は、見 逃すに限りますーという天の声がする。


■「一身独立し、一国独立す」の気概
 さて、次にNHKが30年越しのドラマ化が結実した「坂の上の雲」は、前評判 通りの出来栄えです。小説の中の、ほんの数行、いや、1行に満たない文字を ヒントに画面いっぱい巧な演出を見せてくれています。脚本担当の名前に、野 沢尚氏、その諮問委員会に宮尾登美子さんらの名前をみつけて納得がいきまし た。残された書簡を調べ時代考証と重ねて、リアルな映像を浮かび上がらせる のでしょうか。


いくつか感動の場面が脳裏に焼き付いています。秋山好古、真之兄弟の父親 の死去にまつわる場面でのことです。小説では、「八十九翁が、明治23年12月 19日、永眠した。この時期、好古はフランスにいる。真之は、その7月に兵学 校を卒業し、少尉候補生として「比叡」乗組になり、海上にあった。」とのみ 記されています。


が、実際の映像では、フランスの好古から、外洋中の真之に封書が届きます。 父の逝去の知らせです。翌年の明治24年の7月の事である、とナレーションは 告げていました。


その手紙には、兄から弟への労わりの言葉が散りばめられていました。「天 命は人力の及ばざるところ、いかんともするにあたわず」と。そして、同封の 仏文の手紙は親父の死亡通知状であり、欧州の風習で在欧の知人110余名に知 らしめたという。もう真之の脳裏に、父親との数々の回想シーンが巡ります。 それは兄の好古が10歳のころで、子供を前にこういうのです。


「よ〜く聞け!古今の英雄豪傑はみな貧乏の中から生まれた。つまり、あし に働きがないのは、いわば子のためにやっているのだ。信や、貧乏が嫌なら勉 強をおし、親が偉すぎると、子は偉くならん。食うだけは食わせる、それ以外 の事は自分でおし」と。いい教えじゃないですか。「一身独立し、一国独立 す」の学問のすすめの真髄がこんなところにも滲みでている気がしました。ま た、ケンカが絶えない真之に父親は、「肝心の戦いまで勝ちはとっておけ。短 気は損気、急がば回れ!」と繰り返し諭すのです。親と子の機微に触れる思い です。


その訃報で松山の実家に帰った真之が、まずめっきり細くなった母をいたわ りながら、仏壇に手を合わせた後に、こんな会話を交わすのです。役どころは、 真之に本木雅弘さん、母親に竹下景子さんです。そのやり取りが自然で、明治 人の慎ましやかな立ち居振る舞いが美しく描かれているところです。

 「母さん、これからどうするつもりじゃ」。
 「どうもせんよ。母さんは、秋山の家を守っていくけん、どうもせん」。
 「東京へおいでんか?母さん、ひとり置いとくのは心配じゃ。ワシがなんと かするけん」
 「無理せんでえぇ、あんた海軍で忙しいけん、お勤め第1でせんならん。父 さんだったら、そういうじゃろ」
 「じゃったら、兄さんと一緒にすめばえぇ」
 「だんだん、気持ちはようわかったけ、考えさせてもらうけんね」


俳優、渡辺謙さんの渋く響くナレーションに、作曲家、久石譲さんの懐かし い旋律がその情景にいっそうの温かみを与えます。いつの時代も変わらないの が親子の絆なのでしょうか。老いる父と母、一緒に住むことができれば、それ だけで幸せであるかのように思います。切実なテーマで決して他人ごととは思 えませんでした。


■「大学発ベンチャー」の起業が4割に急減:朝日新聞独自調査
 こんな見出しの記事が21日付の朝日新聞に掲載されました。朝日新聞が86の 国立大学に実施したアンケート調査の結果だという。それによると、起業数が 2005年度以降急減し、08年度はピーク時の4割弱に落ち込む一方、全体の約1割 が倒産・休止するか、存続不明になっていたとし、国は数千億円を投じて起業 を進めてきたが、ここ数年は予算を絞っており、淘汰が始まっている、と分析 していました。


国立大学に絞ったアンケートというのでは、これまでの公立、私立、工専な どを網羅したこれまでの調査との比較が難しいが、調査を実施したという努力 は評価したい。経済産業省が調査を中止しているので、その実態へのコミット ができないのは歯がゆい。しかも、経済産業省の大学発ベンチャーの関連予算 は、01年から08年度に少なくても2940億円、文部科学省の産学官連携の関連予 算も同時期、最低3118億円あった、と独自に試算していました。


へえ〜って、この金額を見せつけられて驚きを禁じ得ません。大学発ベンチ ャー調査の400万円すら、確保できないくらい困窮を極めている大学発ベンチ ャー予算です。ちゃんと精査する必要がありますね。大学発ベンチャーと名前 が付いているからといって、大学発ベンチャーに投じられるとは限りません。 DNDの独自試算では、その2−3%程度に過ぎません。大学発ベンチャー関連と 名前が付いているのだから、朝日が大学発ベンチャー関連予算と概算しても間 違いではないでしょう。ともかく、大学発ベンチャーを取り巻く環境は、厳し いことには変わりはありません。今年上場企業のうち163社が上場廃止となり リーマンショックで揺れた昨年より3社多く、この10年で上場廃止企業数が最 も多い。コンプライアンス等、上場費用の負担が大きく関連子会社を整理する 動きが活発だという。経営不振では破綻に追い込まれたのは23社と調査機関が まとめていました。

■【学術の風】黒川清氏の最新のコラムから、「オバマ大統領Nobel平和賞ス ピーチ、そして日本の懸念」です。このところ発信力が充実されている黒川先 生のコラムは、ジャーナリステックで鋭い指摘が目立ちます。
 関心は、オバマ大統領が世界注視の中でどんな演説をするのか、その直前に 米国はAfghanistanへ3万人の派兵も決めたばかり、という状況でしたが、「こ の難しいタイミングであればあるほど、よく考えられ、練られた原稿であっ た」と評価し、リーダーの言葉 はとても大事です、と力説されているのです。 次に、Washington Postの「すっかり忘れられた日本のことを忘れないで」と 書いてある記事がありました。「Does Japan still matter?」 というタイト ルで、その終わりの一節をこう紹介していました。
「So far, Japan's new government has not defined policies that could r estore economic growth and lift the country out of its funk. But Ameri ca should be hoping that it can. And if it wants to regain some confid ence, it makes sense to treat Japan as though it matters. Because it d oes.」と。同じ日のNew York Timesには、「Obama's Japan Headache」 。
ふ〜む。こめかみあたりがうずいてきそうですね。
 Topがなんだか、いつもふらふらしていて、情けない、というか心配です。 いつもながら内向きで、外へ発信する意気込みも、力もないし。とは言っても、 総理大臣、各大臣の発言は国内向けでも、すべて海外からも見られ、知られて いるのですけどね。外からは、なにを考えているのか、さっぱり見えないので す。リーダーの言葉はおろそかにできない、口から一度出た言葉は引っ込めら れない、と憂いているのです。

■黒川清先生にフランスのレジオン・ドヌール勲章授与
 さて、黒川先生といえば、この17日東京・港区のフランス大使公邸で、フィ リップ・フォール駐日大使からフランス国家功労勲章、レジオン・ドヌール勲 章が授与されました。学術関係から著名な研究者、学者らを始め、社会貢献さ れている企業経営者、大使、メディア関係などからもお祝いに駆けつけて、授 賞式を温かく見守っていました。
 フォール大使から、医学への貢献や学術会議会長で手腕を発揮した数々の改 革、イノベーションへの提言、科学技術分野への研究など黒川先生の業績を讃 えたあと、フランスとの交流では、NGO国境なき医師団創設者との長年の友情 をはぐくみ、医師で米国在住のお嬢様が最近その医師団に参加されてアフリカ で活躍されていることなどが紹介されました。
 大使が黒川先生の業績をまとめるのに、その一部始終がブログにアップされ ているため、その詳細をえることが容易だったこと、そして、なにより世界に 向けた発信力に感嘆し、敬意を称したいと述べておりました。よく調べている んですね。その他、フィガロの女性記者から溌剌とした70代と称されたこと、 エールフランス航空の深夜便をよく利用されることなどがエピソードとして伝 えられました。
 明朗で、闊達で、さわやかな黒川先生らしい授賞式であり、その後のパーテ ィーでした。

■【連載原稿】特許庁審査業務部長の橋本正洋氏『イノベーション戦略と知  財』の第11回「スペイン・アリカンテにて」。日米欧の商標三極会合が、地中 海を望むイベリア半島の中世の街、アリカンテで開催され、そこからの出張報 告です。テーマが商標です。その報告よりまず、写真に目を奪われてしまいま した。夕闇迫るヨットハーバー、石積みの中世の街並み、地中海遠望…。
 が、知財の世界では「三極会合」が重要な意味を持っていると前置きし、 「商標は特許等と異なり、市場での識別性がもっとも重要なため、各国市場に 合わせて商標を付与する商品・役務表示の審査が行われているなど、各国・地 域それぞれ独自の運用をしています」とその現状に触れ、続いてその一方で 「市場のグローバル化に対応して、企業の用いる商標も国際的に用いられるよ うになっています。食品・飲料や家電製品、自動車などの商標を思い浮かべて いただければすぐにご理解いただけると思います。こうしたことから、商標の 世界でも国際整合化が重要な課題になっているのです」というのは頷けます。 商標はブランドですものね。そこでの主要課題が、「国際ハーモナイゼーショ ンへの協力」と説明しています。どうぞ、本文をお読みください。
 なお、橋本さんから、お知らせがあります。
※「日本知財学会2010年度知財学会学術発表会のお知らせ」
日本知財学会2010年度知財学会学術発表会の日程は、2010年6月19日(土)、
20日(日)、東京工科大学蒲田キャンパスでの開催が決定したそうです。

【連載原稿】東京大学産学連携本部副本部長の山城宗久氏『一隅を照らすの 記』は第12回「太陽光がいっぱい」の巻。
 ご所属の東大に産学連携協議会という民間企業との連携機関(参加無料)が あり、その組織の案内と活動を紹介しています。先日開催の第17回フォーラム は「太陽光エネルギー利用の未来」〜大規模太陽光発電システムに向けた技術 開発の現状と展望〜がテーマでした。
 報告では、CIS系薄膜太陽電池、集光型太陽電池、量子ドット太陽電池と進 んで、後半は蓄電池を中心にしたエネルギー・ハーベスティングのための蓄電 池開発、大型蓄電池のための材料開発、そして、システム全体の話となって、 システムインテグレーターの役割と戦略、グリッド連系と太陽光発電システム 及びスマートグリッド…と文字通り、「太陽光がいっぱい」。交流会では、山 城さんが挨拶し、そこで、「太陽光がいっぱい」に続いて、「いつも心に太陽 光を」で新年を迎えて欲しいと、結んでいたという。いい挨拶ですね。本当に 暗い世相を吹き飛ばしてほしい、「空に太陽光がある限り」ですね。

【連載原稿】比嘉照夫氏の『甦れ!食と健康と地球環境』。第18回は「EMでき れいで豊かな海に甦った三河湾」。全国的なうねりをみせるEMによる河川の浄 化は、愛知県の三河湾の実績が背景をなっています。平成17年の愛知万博で詳 細に発表されたその活動が「市民塾の報告@A」としてアップされています。
 周囲が閉鎖的で汚染度が高かった三河湾、EMの活性液の放流などやがて、す っかり姿を消したスナメリが群れをなし、驚いたことにアユが遡上してきまし た。それにアサリの漁獲が1万3000トンを超え大きな成果となって漁業組合の 関係者らを喜ばせることになりました。これを仮に公共工事で実施すると、10 00億円規模の投資をおこなってもこのような浄化の事例はえられないのではな いか。ボランティアによる社会貢献として、安全で安心のEM技術の利用が今後 さらに期待される、と比嘉先生は指摘しています。

■歌を読む車イスの父と介護
 私事ですが、孤独に生きる父が、股関節の病気と医者からの強いすすめでこ の10月から同居を始めました。歩行が困難で車イス生活を余儀なくされての結 果です。
 思えば、重篤の肺炎で危ぶまれ、PET診断で大腿骨のがんがステージ4と診断 されたのは昨年の初夏でした。痛みが走る偽痛風、呼吸が乱れる不整脈、それ に高熱を発するリンパ管炎、それ以降、病院への入退院をひんぱんに繰り返し、 その都度、救急車で運ばれていました。ここ数年、どんな思いで毎日を過ごし たことか。一緒に暮らしてはどうか、と誘っても決して首を縦に振りません。 なんなのでしょうね。
 これが最後かもしれないから、精一杯の孝行をしよう、と覚悟を決めて病身 の父を説得し栃木の里山から愛犬と一緒に埼玉の狭い我が家へ連れてきたこと がありました。初夏の光がまぶしい5月下旬のことでした。医科大学病院で診 てもらう、という理由をつけて連れてきました。その30日、父と過ごした日々 は、その思いもよらぬことの連続でした。しかし、次第にふさぎこんで正直、 うつ病を心配したほどでした。また突発的な高熱や痛みで緊急入院というリス クを承知で、再び、里の家へ帰っていきました。すると、声は、いつになく元 気で、これでよかったのかもしれない、と言いきかせていました。が、案の定、 その数日後、救急車で運ばれて入院、数週間後に退院、そして…。家人と毎週、 車で2時間以上高速を走らせました。で、今年5度目くらいの入院で、ついに観 念したのは、大腿骨頭の壊死という診断がくだり、ひとりでの生活が困難にな ったからです。
 それから3ケ月、家をバリアフリーに改造し、介護の入浴サービスを週2回、 リハビリを週2回など生活にリズムがでてきたようです。まあ、ここまでの各 種変更届や申請、介護サービス会社や病院、施設の選定は、家人にとって妥協 を許さない厳しい作業だったようです。いまは、落ち着いてきました。小春日 のやわらかな日差しを浴びながら、毛筆で和室の障子に詩を詠んでいます。

 ゆずの香に介護の人の想いあり  

 冬至の数日前、浴槽を運ぶ介護のスタッフが、ゆずを持参してくれたことが とてもうれしかったらしい。介護の方たちから、ぜひ、それを色紙にしてほし い、と所望されて喜んでいました。用意した色紙に俳句を作って、贈呈したよ うです。障子が創作のキャンバスになって次々と俳句が生まれています。よう やく自分らしさを見つけて気力を戻し始めました。すると、この調子なら、来 年の春には帰れる、と勝手な事を口にし始めています。
 さて、進学のために上京してかれこれ38年、地方出身の同じ世代の今の共通 の心配は、その両親の病気にまつわる一人暮らしの解消や介護の事かもしれま せん。もう80歳を過ぎると何があってもおかしくない年齢です。結婚すれば両 親は4人。夫に先立たれた母親がひとり郷里に住んでいる、という知人も少な くありません。長年住み慣れて茶飲み友達のいる街が、どれほど居心地がいい かしれない。息子夫婦に迷惑はかけられないという気兼ねがあるのかもしれな いが、その心情を察してはみても台風や地震、その時などはやはり気が気じゃ ない。いずれにしても避けては通れない現実があるわけです。
 もういい加減ひとり暮らしは寂しいものだから一緒に住んだ方が何かと安心 だし、誰だってそれを望まない年寄りはいない、というささやきが親戚周辺か ら耳に入ってきていました。一緒に暮らせばいい、と、多くの人は言う。それ ぞれに事情があって、そう物事は簡単じゃないが、父を見ていて多少不自由が あってもひとりで暮らす、というのがよほどいいのも確かです。
 しかし、ねぇ、本人がそれでいいというのだからそれ以上こちらから強く言 えるものでもないし、なんだか厄介者扱いしている風にとらえられては心外だ が、同居の家族を離れて寂しい思いをするのは、出ていった者より家に残され た者なのかもしれない、ですね。父の老後と向き合いながら、それがやがて自 身に関わる、現実がもうすぐそこまできていることを意識しないわけにはいき ません。神経が擦り切れるほど、生理的に嫌なことに数々ぶちあたります。そ れをどう超えるか、そして、いつも変わらぬ対応をしてくれる家人にどんな感 謝の言葉を伝えるか、その辺が私の課題です。
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