DNDメディア局の出口です。窓から雲がおおう冬の空が見えます。時間が止 まったように静寂なのに、心持ちせわしない師走です。その雲の白さに雪の匂 いを感じるのは、北国生まれだからでしょうか。ふるさとを離れてもう40年近 くになるというのに、いまだ未練を引きずっているらしい。
探し物しては師走の書を移す 松本旭
泣きふして声こそしのべ竹の雪 蕪村
あれもこれもと思うことが山積みで、どれもこれも一向にはかどらず消化不
良気味です。ご近所の不祝儀のお手伝いや病気の見舞い、家族の介護などに気
を削がれ、やるべきことが次第におろそかになってしまう。これも人生のひと
つの節目なのかもしれません。あせらずにひとつひとつ、やれるところからや
ればいい、と言いきかせています。
さて、この一年、皆様はどう総括されますか。
流行語大賞2009に、これら政治用語がふさわしいか、どうかは別にして、年 間大賞にやはり「政権交代」、鳩山首相はこの時ばかりは「しょっちゅうあっ ては困りますが…」と軽いジョークを飛ばす余裕も。一斉を風靡した感のある 「事業仕分け」がぎりぎりに滑り込んで、そしてマニフェストの重要なミッシ ョンである「脱官僚」など、新政権のキーワード3つがトップ10入りました。 よく今の世相を反映しているじゃありませんか。
時代の風を読む、それは決してメディアの専売特許じゃないわけで、灯台下 暗しの如く、あまりに取材対象に近いため、前のめりになってその本質を見失 ってしまうこともあります。ほどほどの距離感が大事ということです。
このところずっと感心して見ている新聞のコーナーがあります。朝、新聞配 達のバイクの音がブアーンって近づいて家の前で止まり、その間、ブブブブブ ブッというアイドリングの音が響いて、間もなく「カチッ」というクラッチを 踏む音とともに再び、ブアーンっというエンジン音をふかして去っていく〜。 毎朝早く、その新聞配達のバイク音を待って、バイクが去るや否や、新聞受け に新聞を取りにいくのです。そのお目当ての小さなコーナーは中面の「読者の ページ」にある、『かたえくぼ』という読者からの投稿欄のひとつです。それ は、朝日新聞です。
鳩山政権誕生から100日あまり、その歩みを中心にこの欄に目を向けて、そ の投稿から世相を読んでみましょう。いやあ、何が面白いか、といえば、わず か数行で時代の風を読み切ってしまう、ズバリ本質を突く極め技があり、ひと 言で済ませる省略の妙、そして、ニヤリとさせうるひねくりの切れ味というか、 トンチというか、だじゃれの極意というか、ともかく風刺が効いて面白い。
まず、その一発目!
『連立かき乱す亀井氏』
シズカにして!
―民主党(千曲・かじか):12月7日
秀逸ですね。政治主導というのは、民主主導ということじゃない。三党連立 は対等である!と、鼻息の荒い国民新党の亀井静香代表。菅直人副総理と激し いバトルが展開されたらしいが、「与党の一員として協力してもらいたい」と 諫めるのは、この閣僚の顔ぶれでは、菅さんしかいないのでしょう。勇気ある 発言だと思います。その一方で、鳩山首相は、「3党重視で…」というしかな いのだから、相変わらず煮え切らない。
ちょっと前になりますが、ふたつ続けてどうぞ。
『機密費』
あるのね―妻
言えない―夫
(狛江・セッポー):11月10日
『官房機密費』
こりゃこたえられない
―官房長官
(茅ヶ崎・マーちゃん):11月22日
う〜む。思わず、唸ってしまいますね。使い道を公開する、って言っていな
がら、政権取ったら掌を返したように、新政権ではや1億2千万円の官房機密費
をちゃっかり使っていました。使用目的を聞かれて、「答えられない」という
のと、領収書のいらない機密費、湯水の如く使えるというのは、「こたえられ
ないねぇ」と。こんな解説では、面白みが半減するどころか、しらけてしまい
そうで、野暮でした。
凄いのが、次の作品でした。
『教育費』
いつまでも掛かります
―鳩山首相の母
(昭島・トンガリ)
ふ〜む。鳩山家の月額1500万円に及ぶ総額9億円の子ども手当。弟の鳩山邦
夫元総務相は、贈与税を払うことを表明していましたが、いずれも偽装献金で
あり、政治とカネの問題の根の深さを露呈した感があります。笑っては済まさ
れないところかもしれません。でも、笑っちゃいました。
鳩山首相にからんでもう一つ。
『友愛外交』
ここに幸あり!
―首相
(前橋・少林寺):9月26日
なるほど、でしょう。首相夫人の語学に歌声、そしてなにより笑顔ですね。
友愛外交の内助の功です。これほど頼もしいものはありません、ね。
次は、前原国土交通大臣が頭を悩ませる課題のひとつ、JALの経営再建。
『企業年金減額』
鶴に恩返しか
―OB
(藤沢・かかし):11月26日
さて、公的資金注入の条件となる、企業年金減額は、どうなっていくのでし
ょう。OBの抵抗も激しさを増しているようです。JALのマークはその昔、ツル
の絵が描かれていました〜この説明もヤボというものでしょうか。
『聖域なき見直し』
マニフェストも対象に
―国民
(上尾・あの爺):11月20日
投稿の「あの爺」さんの指摘の通り、マニフェストも見直しが入っており、
中小企業の法人税減額が見送りの公算です。が、見直しするのは、「子ども手
当」だと思うのですが、どうでしょう。本日の新聞は、国債残高600兆円超
すーとあり、今年度の税収見通しだって、当初予算比9兆2000億円減の36兆900
0億円という厳しい状況。そこで国債発行額が53兆5000億円と税収を上回る事
態は、戦後以来63年ぶりだというのだから、こんな瀕死の財政事情をしり目に、
年間5兆円規模の「子ども手当」をやる、という料簡がわからない。いまこの
時期にですよ。円高とデフレに二番底の懸念が広がって来年度の景気や税収の
見込みも見えてこないわけですから、ここは無理しない方がいいのでは…。こ
もままでは、「日本が駄目になる」という悲鳴すら聞こえてくるようです。
こんなのも目に留まりました。
『年賀状』
この人は廃止
この人は継続…
―仕分け人
(流山・チバラキ):11月30日
署名のチバラキって、流山という場所が、千葉と茨城の両県に接している、
ということかしら。流山市は、千葉県です。が、近年、つくばエクスプレス
(TX)の開業で、都心にも筑波にもグーンと近くなった流山です。街は、建設
ラッシュで活況を呈していました。
『対等な日米関係』
タイトな関係では?
―オバマ大統領
(鹿嶋・葛)
普天間基地移転をめぐる政府の対応で、こちらは連立の社民党の揺さぶりで
混迷の度を深めております。福島党首の「重大な決意をしなくてはならない」
との発言は波紋を呼びました。では、どうする、具体的にどこへ、というのが
みえてこない。鳩山首相は、連立も大事、日米の公約も大事、沖縄県民の気持
ちも大事と、周辺にいいそぶりをみせてはいるが、もう限界です。岡田外相が
気の毒なくらい日増しに表情が険しくなってきています。手順を踏んで、納得
して進める慎重な岡田さんが、「日米関係は危険な状態」といい、ルース駐日
米国大使は「普天間がこのままなら、日米合意が壊れる」と表明したとされま
す。まさにタイトな関係です。いつまでも、八方美人ではだれも相手にしなく
なりはしませんか。
久々に自民党に触れて…。
『日歯、民主に急接近』
歯ぎしりしている
―自民党
(千曲・かじか):10月21日
「かじか」さんは、常連なのですね。それにしても、自民は、実力の議員を
使いこなせていないのではないか、と思いますね。石原伸晃氏や石破茂氏のほ
か、林芳正氏、茂木敏充氏、後藤田正純氏…。演説がうまい、清廉である。な
によりよく勉強されています。若手の論客をどうしてもっと前面に押し出さな
いのか、その理由が分かりません。テレビで渡りあうと、その辺の実力がよく
分かります。しかし、いまの体制じゃ、押しつぶされるのでしょうか。この国
難に力を温存しているのは、もったいない気がします。与野党超えて、知恵を
出してもらいたい。
さあて、「かたえくぼ」は、政治ネタばかりじゃありません。
『浮気発覚』
シッポをつかまれた!
―タイガー
(長野・野菊):12月6日
ふ〜む。
『天国』
シルクロード経由です
―平山郁夫
(北海道・あのね):12月5日
『失敗後に五輪行事』
あとの祭り
―東京都
(千曲・かじか):10月27日
やっぱ、常連なんですね。「かじか」さん。
『F1撤退』
リタイアです
―ブリジストン
(小田原・小判):11月11日
『我が世の春』
さくらが最多
―賞金女王
(町田・マグマ)
女子プロは最終戦までもつれました。最終6アンダーですでにホールアウト
していた横峯さくらさんは、念願の賞金女王。「最多」と「さいた」、わかっ
ているってさ。女王を目指す、との宣言通りの見事な勝利でした。
そして、本日12月9日の「かたえくぼ」は…。
『賞金王』
もはや王子ではない
―石川遼選手
(鹿嶋・葛)
男子プロも観客を沸かせてくれました。ひとり、遼君のお手柄です。観客動
員数もウナギ登りで50万人を超えたそうです。弱冠18歳、確かにすでに王者の
雰囲気です。それにしても、よく飛びますね。埼玉県出身で我が家と近い。勉
強は大丈夫なのかしら。こんな息子、娘が欲しいと、ギャラリーから声が飛ん
でいるようです。人生なんてゴルフと一緒で上がってナンボ、終わってみない
と分かりませんよ。ハイ!
「かたえくぼ」の投稿に、いったいどれくらの数が毎日届くのでしょうか。 朝日の知り合いに聞いて、調べてもらいました。それによると、日に数100を 超える投稿が寄せられている。その中から、ひとつ、朝日の「声」編集部の担 当者4−5人が合議で決めている、という。世の中のスピードが激しいので、ハ ガキを投函して届くまでにネタが古くなったり、事実がひっくり返ったり、と いうこともあるのでしょうか。
その「かたえくぼ」なる風刺のコーナーは、いつごろから始まったか、ご存 じですか。戦後まもなくのことで、作家の飯沢匡さんがその著作『異史明治天 皇伝』(新潮社)で、その辺の経緯に触れています。
「アサヒグラフ」の副編集長だった飯沢さんは、進駐軍の検閲の網の目を潜 って、そのグラフに「玉名集」という風刺文学の欄を見開きで作り、そこに詩 人や戯曲者、パロディストなどを集めて時局風刺を展開する一方、朝日新聞が ジョーク欄「かたえくぼ」を開設するにあたって、門田勲編集局長の命令で、 市川三郎氏を推薦した、と記述していました。
市川さんは、そのコーナーを開設して暫くニュースを題材にサンプルを続け、 読者が要領を覚えたら、一般募集に移すという考えでした。そのため、編集局 内に椅子と机を与えられて約3ケ月ほど、ジョーク作製に従事した、という。
「かたえくぼ」の命名は、市川さんで、その名を提案した場面に立ち会った 飯沢さんは、そこに門田氏、扇谷正造氏もいた、と綴っていました。どうも、 あと後になって、「命名したのは私」と名乗り出る人が複数いたというから、 おかしいですね。
この市川さんという人物、なぜ、この『異史明治天皇伝』に登場するのか、 といえば、この人が宮内庁儀典課とおおいに関係の深い「高田装束店」の総支 配人だったからです。高田装束店といえば、宮廷服の衣冠束帯、十二単などを 謹製する、いわば宮内庁御用達です。市川さんは、とっても不思議な人で、当 時から、時局風刺を投稿するマニアの中ではかなり知られており、「かたえく ぼ」の開設をまかされた後、「サンデー毎日」で「只今笑談中」という戯文を 10年以上連載していました。その語り口が江戸商人の粋人ぶりを思わせるよう な風情を醸し出していた、という。
実は、この『異史明治天皇伝』は、親しくさせていただいている「吉田茂国 際基金」の監事の北澤仁氏から送っていただきました。人に歴史あり、新聞の コラムとて、それを提案した人や育てた人の思いが詰まっているにちがいあり ません。この「かたえくぼ」の投稿から60年に及ぶ歴史の変遷を眺めみても、 面白いかもしれません。
考えてみれば、政権交代の前と後、その日を境にドラスチックな変化が起こ りました。わが国の政治が様変わりし始めています。旧政権下の"既得権益"に メスが入り、独法絡みの大半がその存在すら否定され、独法経由という理屈で 科学技術予算も産学連携事業もバッタバッタとなぎ倒されました。まるで天地 がひっくりかえるような騒ぎです。
いやあ、この仕分け作業を国民の7割近くが支持するのですから、テレビで 見た多くの人は、水戸黄門の印籠のように映ったに違いありません。事業仕分 け人が「廃止」と通告する度に溜飲をさげ、さぞ日頃のうっ憤を晴らしたこと でしょう。
政権交代の余波。期待と不安、そして絶頂とどん底などが激しく交錯し、そ の嵐が、新政権誕生から100日過ぎた今も列島に吹き荒れているように感じら れます。事務次官会議の廃止、続いて、事務次官の職制そのものにも牙を向け 始めています。鳩山さんがいみじくも、「無血の平成維新」であると表現され たように、ひょっとしてこれは明治維新に次ぐ「政治革命」であり、第2次世 界大戦後の激変に次ぐ、「第2の敗戦」と受け止めた方が正確かも知れません。