◆ DND大学発ベンチャー支援情報 ◆ 2009/11/18 http://dndi.jp/

これでいいですか、事業仕分け?

 ・科学立国の要、スパコンを守れ!野依氏
 ・判定通りなら、日本はおかしい!上山氏
 ・地域活性化を先導した産学官連携の意義
 ・機内の新聞サービス廃止に異議あり
 ・黒川清氏の「環境技術」と『戦略シフト』
 ・橋本正洋氏の『AIC 2009 KAIST』
 ・山城宗久氏の『京都再び』

DNDメディア局の出口です。連日、テレビ画面に映し出される、事業仕分け のやり取りをどのようにご覧になっているでしょう。仕分け人の活躍ぶりは、 鬼退治に向かう桃太郎のようで勇ましい。舌鋒鋭く切り込んで、評決がどうで あろうと、判定の宣告は「政治判断」といえば思いのままなのですから、こん な気分のいい役回りはそんなにない。それも連日テレビに繰り返し映り、政権 発足時は、やや忘れ去られた人たちが、ここにきて一躍時の人なのです。


マイクを持ったら止まらない切り込み隊長の枝野幸男さん、白いスーツ姿で ひときわ輝いて見える蓮?さん、まるで水を得た魚のようにイキイキとしてい ます。蓮?さんは、上海で仕入れたおしゃれなスリッパまで週刊誌に激写され ていました。


そもそも、この事業仕分けって法的な強制力はなにもない。「廃止」、「削 減」、それに「見直し」の判定基準も見当たらない。パフォーマンスにしては、 その辺の危うさがやや気掛かりなところです。新聞は、この判定を最後通告の ように大きく掲載しています。が、「廃止」の事業が「廃止」でなくなる、そ ういう含みがあるわけですから、この次は、その逆転になった最終結果のプロ セスこそ、オープンでしかも分かりやすい説明が求められるのかも知れません。


さて、政府の行政刷新会議の事業仕分けは、5日間にわたった第1弾の作業を 17日に終え、来週24日から最終作業に入ります。今度は、経済産業省関係の事 業がターゲットになります。心情的には経済省側のスタンスなので、とても他 人事とは思えません。DNDが国からの助成金でまかなわれていたら今頃、ムダ 削減の嵐に、戦々恐々としていなければならなかった、と思います。


しかし、どうも考えてもこの"仕分けバトル"は、各省庁のお役人さんにとっ て形勢は不利です。焦点のずれた質問攻めに遭いながら、しかもそれに対する 満足な発言の時間を与えられず、うなだれた表情で席を立つ姿は哀れです。こ れでは両手を縛られてリングにあがるようなもので、まるでサンドバッグ状態 なのですから、これには同情を禁じません。


日本科学未来館の館長を務める毛利衛さんが、フリップを駆使して利用者が 年々増える努力をしていることを訴えていました。日本科学未来館は、自民党 政権下でも構想日本の事業仕分けのターゲットにさらされていました。その時 は、他にも未来館のような施設がある、必要はないのではないか、と詰問され ていました。今回のように一方的でした。将来の子供に宇宙飛行の夢をかき立 てる、そんな施設があってもいい。しかも、もう少し宇宙飛行士へのリスペク トがあってもいいと感じました。経費の見直しは言うまでもありません。お金 を出す側が、自分のお金でもないのに高飛車になる、残念ながらよくある風景 です。


またノーベル賞化学者で(独)理化学研究所理事長の野依良治さんも会場に 姿を見せていました。注目の次世代スーパーコンピューター事業がやり玉に挙 がり、計画の凍結、見直しが求められました。本当に心配です。


昨日17日の日経は、米国の大学などが発表した、世界のスーパーコンピュー ターの性能を図るスパコンの最新ランキングを一覧にしていました。トップ10 は、1位がオークリッジ国立研究所(提供:米クレイ社)、2位がロスアラモス 国立研究所(米IBM)、3位がテネシー大学(米クレイ社)で、その10位のうち、 5位に中国の国防科学技術大学がやっと入っているだけで、残りは全部米国と いう状況でした。記事に、中国、ロシア、インドの躍進が目立ち、日本のスパ コンはトップ30のランク外に転落というショッキングな内容でした。


そんな折に、計画の凍結という裁定は、重要な自国エレクトロニクス産業の 窮地に溺れる犬に石を投げることにならないか、将来のわが国の国益を損なう 懸念がある、とし、専門家は、世界最高速のスパコン開発を急いで、これまで 1000億円以上の予算を投じて施設を建設中です。いよいよ来年から計算機の製 造に入る大事なところだった、という。初の理工系内閣、これでは期待外れで す。これでいいのかなあ。


費用対効果が不透明!とか、世界一になる必要がなぜあるのか?と、蓮?さ んが質問していました。頭の悪い経営者は、これは蓮?さんがそうだというこ とではなく、無責任な経営者は、どこも同じで、これでいくら儲かるのか、と その収支のみを問う。事業の中味が理解できないのと、それでどのような波及 効果が生まれ、将来にどんな可能性を開いていくか、その先の見通しがイメー ジできないからです。こんな上司をもったら悲劇的です。それと同じことを我 が国の威信をかけて勝負しなくてはならない、科学技術の心臓部となる次世代 スパコンの現場で起きているのです。


子供に本代をせがまれて、なぜ本を読むのか。読んでどうなるの、何に役に 立つかなどと、普通、そんな罪つくりなことはいいませんね。スパコン計画凍 結の議論は、そんな感じに思えます。子供が刀を振り回して暴れているような 印象です。


今週の週刊新潮は、「渦中の人」の特集で、事業仕分けに激怒した野依さん のこんなコメントをきちんと紹介していました。


〜次世代のスパコンは資源の乏しい日本が、将来も科学立国としてやってい くための生命線なんです。これがないと、日本の科学技術の発展に支障をきた す基盤のようなもので、だからみんな国家の威信をかけて熾烈な競争をしてい るんですよ。道路やダムは凍結しても多少の不便は生じるが無駄にはなりませ ん。ところが、スパコン開発を凍結したら大変なことになります。
 一度、開発を止めたら、研究者も散り散りになり、もう二度と他国に追い付 けなくなってしまう。そうしたら、猛追している中国にも抜かれ、中国からス パコンを輸入するようなことにもなりかねない。だから常に世界一を守ってい なければならないんです。そういうものを他の事業と同列に費用対効果だけで 判断して良いのか。技術開発競争の実態を仕分けの方々が本当に理解していら っしゃるのか、はなはだ疑問です〜と憤慨されているのです。


新潮の記者でさえ、これを聞いて、「本気で日本の将来が心配になってき た」と感想を付け加えていました。


事業仕分け第1弾終了を受けて、朝日新聞は今朝の特集で、その課題を指摘 し、「今後、新しい政治意思決定システムとして定着するか、どうかは不透明 だ」と疑問視する。仕分け人の一人のコメントを引用し、「仕分けている人が 違えば違う結論が出る」という危うさも問題にしていました。


そして、「限られた時間で重箱の隅をつつくような質問を浴びせて官僚の答 弁を詰まらせることで、事業は『不要』との判断を生み出そうとするスタイル は、『公開処刑』との批判も受けた。『つるし上げ』にさらされた官僚たちの 不満は募っていることは間違いない」と厳しく指摘していました。


個人的な驚きは、次に、2002年以降、地方圏を含めた全国の大学が拠点とな って進めてきた産学官連携事業や、その後の地域イノベーション創出事業、知 的クラスター事業などが、軒並み「廃止」という断罪に処せられたことです。 地方分権の時代に、地方活性化のエンジンとなるベンチャーや新技術の連携は、 いまや不可欠な事業です。


私たちのDND事業には一切資金の流用がないことを敢えてお断りしておきま すが、疲弊する地域の期待は、数々の新たな先端技術の成果を生む大学の存在 です。大学は知の拠点であり、知的財産が詰まっています。弁護士や弁理士、 公認会計士、医者、コンサルタント、メディア、金融、証券、それにベンチ ャーキャピタルなど人材が多彩で豊富です。また、さまざまな地域を超えたネ ットワークが存在します。そこに地域の伝統産業や地場の企業が大学との接点 を作りました。新たな技術開発、事業化の推進、技術の特許化と技術移転の仕 組みが構築されました。多くのプロフェッションを誕生させました。また大学 発ベンチャーなどが1800社以上も勢いよく生まれ、そこから上場企業も30社余 りに増えました。


都道府県を始め、JST、NEDO、産総研、理化学研究所、中小企業振興機構な ども加わりその地域イノベーションの先導役を果たしてきました。さらにそこ に文部科学省、経済産業省、厚生労働省、内閣府などが省の壁を越えて横断的 に連携し、雇用や売上、起業という成果を生んできました。


それらを底辺から支えてきたのが産学官連携の予算なのです。見直しは、常 に必要です。どこでも同じようなセミナーやイベントは、削減の対象になるで しょう。が、これ本当に止めますか?


余談ですが、大学発ベンチャーは首都圏より地方圏により多く企業が誕生し ています。いま実態として、どの地域にどんなベンチャーが生まれ、それらが 都道府県に幾つあり、業種は、分野は、雇用は、売上規模は、上場の可能性は、 という定点観測を過去5年続けてきました。が、それも今年度で中止になりま した。


それで、今朝、小倉智明さんが司会のフジテレビを見ていたら、蓮?さんも スタジオ入りし、今回の事業仕分けを取り上げていました。その中で、とって も分かりやすく、今回の事業仕分けの課題と見通しを冷静に語ってくれたゲス トが、行政改革がご専門の慶応義塾大学総合政策学部教授で、自ら事業仕分け 人の一人として参画している上山信一さんでした。本日は、台本がしっかりで きていたようで、議論の進行にそれほどのブレはありませんでした。そこで、 上山さんがなんと言ったか。


小倉さんが、今回の事業仕分けの結果は予算に反映されるのか、どうなので しょうか、上山さん、と話をふったのです。台本を見ながら…。


以下は、上山さんのズバリ本質を突いたコメントです。


〜これはまあ、仕分けというのは、目覚まし時計のようなものです。みんな 平和ボケといいますか、金余りの日本ということで右肩上がりの予算を前提に、 こっそり水面下で政治家と交渉し、族議員も一緒になって予算をつける、とい うやり方でやってきた。そこで目覚ましのベルが鳴り、(事業仕分けという手 法で)まったく逆の方向でやるんだ、という程度の話で、最終的には国会で予 算を決めなければならない。予算を出すのは内閣府ですね。
 ですから、事業仕分けの判定で一喜一憂するのは間違いです。やり過ぎたと 思うし、常識的に考えても、1時間程度で、港湾事業が1割削減、空港事業が1 割削減って判定したけど、なんの根拠があって、1割削減ですか。実は、根拠 はないですよ。ただなんとなく変だぞ、これは見直すべきだ、と、だから1割 という判断になる。ある意味、凄く乱暴な議論なのです。
 ただ、忘れちゃいけないのは、じゃ過去、丁寧な議論をしていたか、といえ ば、いい加減な議論をしていたわけですよ。水面下で、先生ひとつ、あれをよ ろしく、じゃあ300億つけっかぁ!みたいな。
 今回の仕分けがいい加減といえば、いい加減です。過去もいい加減だった。 が、作業の入口はこれくらい乱暴でいいと思います。後は、政府与党でちゃん と調整し、国会で議論をしていくなかで、今回の結論と違うことになることの 方がむしろ、健全だと思います。この通り、行っちゃったら、日本はおかしい、 ですよ〜。


 こういう沈着冷静な学者が、仕分け人にいる、というのは、大事なことです ね。上山さんのコメントを聞いて、納得した方が多かったのではないでしょう か。そばで、蓮?さんも静かに頷いていらっしゃいました。


政権交代のあの夏、本当に民主党の政権奪取を期待し、応援してきた知人が 周辺に数多くいます。その方たちがいま、行政刷新会議が進める仕分けの嵐を 前に、戸惑って落胆し、それが時間の経過と伴って失望に変わりつつあり、い ま沈黙しています。もうちょっと丁寧にやってくれないだろうか。補正予算の 見直しに続く、来年度予算の事業削減の影響は、実はお役所に及ぶのではなく、 現場の研究者や中小企業、派遣社員や創業まもないベンチャーを直撃している ことを忘れないでいただきたい。



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□機内の新聞サービスを廃止に異議あり

宮崎への行きはJAL機で飛んで、帰りはANA機で東京に戻りました。行きと帰 りの航空チケットをそれぞれ違えたのは、単に到着時間の都合で、それらを厳 密にチェックしよう、なんて意図したつもりはありません。


が、その経営観念の差は、素人の私にも歴然でした。ANA機は、高度を上げ てまもなくアナウンスが流れ、本日揺れが大きく機内のお飲物のサービスは控 えさせていただきます、と、このひと言で済ませました。わずか、1時間ちょ っと、機内の揺れに関係なくこのサービスは無用かもしれません。コーヒーが なくても不自由はしない。飲み物を提供しないから紙コップの回収も必要はな いわけです。機内は、客室の通路を行き来する客室乗務員の姿が少なく落ち着 いていました。


ところが、JAL機は、毛布や新聞をかざし、入れ替わり立ち替わり、座席の 脇を行き来する。機内のお土産の販売も、JALカード加入の案内も煩わしく感 じました。JALの客室乗務員の数が5−6人、ANAの3−4人より多いように思いま した。機内の仕事量に応じて、乗務員数が増えるのだろうか。


東京に帰って翌日ぐらいでしょうか、JALが機内から新聞の無料サービスを 廃止するというニュースに接しました。これは来年1月4日から国内線、国際線 のエコノミークラスでの新聞サービスの廃止を決めたANAに追随したものだと いう。


Pay for ValueというANAの新戦略は、お客に価値ある商品をお手頃の価格で 提供する、新有料サービスです。プレミアムクラスなどで提供していた朝食の 「鮭のおにぎりと味噌汁」もエコノミーの客にも有料で提供する、という。考 えたものですね。なんとなく有り難く感じてしまいますね。


いやあ、しかし、これはJAL、ANAの両社に言いたい。新聞を止めるのだった ら、その前に止めるべきものがあるのではないか。まず、備え付けの機内誌、 JALカード会員には、ご丁寧に郵送で毎月送られてきます。機内では読まない し、読んでいる客の姿も見かけません。その優先順位を客の要望を加味して考 え直して欲しい、と希望します。


さて、私のように新聞サービスを止めて「困る」と思う人は、どのくらいひ るのでしょうか。そう思ってネットで調べると、こんなアンケートが表示され ました。読者が投稿する形式で、こんな設問が用意されていました。


「新聞サービスの廃止」について、1:「そもそも飛行機を利用しないので関 係ない」(36.8%)、2:「新聞サービスは要らないのでOK」(31.6%)、3 :「それは困る」(31.6%)と「要らない」と「困る」が同数で拮抗してい ました。そんなものなのでしょうか。いやあ、この結果にも驚きました。


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