DNDメディア局の出口です。民主圧勝の衆院選から10日余り、政権移行への 流れは着実に進み、代表のクールな鳩山styleのパフォーマンスも徐々に浸透 し、忙中閑ありで、幸夫人を伴って人気アニメ映画の鑑賞にモスの店とは、な かなか趣味がいい。麻生さんの逆をやれば、ある意味、changeの印象が際立つ、 という戦略があるのでしょうか。この辺のやや芝居がかってみえるところが、 この人らしい。
また、政権交代の立役者の小沢一郎さんは、党務を仕切る幹事長に内定した ら、静かに舞台のそでから姿を消し、裏方に徹するのでしょうか。そのぶら下 がり記者会見で、来年の参院選挙の戦いを進める、と、鉄壁な鳩山政権の樹立 に向けた姿勢にいささかの迷いも感じさせませんでした。
自公を野に追いやって、ひと休みしているかと思えば、どんな場合でも常在 戦場の気構えなのだなあ、と感じ入りました。「政治は権力闘争」という小沢 さんの信条がにじみ出ているじゃありませんか。
さてこの16日、いよいよ新政権の誕生で、官僚政治主導の打破に切り込むこ とになります。何が、どう変わるのか‐。その先行きが不透明なこのドラステ ィックな政権交代が、未踏の"政治革命"だと理解すれば、合点がいくことが多 い。その見通しはどうあれ、強いリーダシップによって政治主導の改革が、ど んなシナリオで進んでいくか、期待と不安の船出というのが、偽らざる有権者 の心境ではないでしょうか。いくつかの課題を整理してみましょう。
不安材料のひとつは、やはり、財源問題。子ども手当の創設、高速道路無料 化、農家の個別所得補償…。2011年度からが本格化するとはいえ、ムダな歳出 削減で、果たして20兆円近くもの財源が湧いてくるものなのか。そもそも、ど こを削減するのか、そのしわ寄せへの対応は、うまくやれるのだろうかーとい う疑問は、誰もが思いつくところですね。
ざっと、これまで公表されている削減の対象は、八ツ場ダム(群馬)や川辺 川ダム(熊本)の建設中止し、メディア芸術センター(アニメの殿堂)の執行 停止、09年度の補正予算に盛り込んだ46基金事業の凍結、国家公務員の給料2 割カット、独立行政法人・公益法人の支出削減や不要な法人の廃止などで、各 省庁でも、新政権の動きを先読みして、予定していた入札を中止する動きも相 次いでいます。
まあ、ダムをめぐる議論は、もう要らないのではないか、という考えは世の 大勢を占めているのは事実です。が、昭和26年当時から政府の方針に翻弄され てきた、八ツ場ダム周辺の住民は、今度も政権交代による建設中止で困惑し、 一致結束して建設中止に反対運動を起こしていく構えです。訴訟騒ぎに発展す るのでしょうか。新政権の大胆な見直しや中止で、このような問題が噴出する 懸念があるのです。
また、予算を大胆にカットするのだから、行政組織の見直しや再編もでてく るでしょう。事業執行がなくなれば、人員も要らない。2010年度の予算案がま とまるのは、いつごろになるのか。従来の各省庁からの概算要求を改めたトッ プダウン方式で、どこまでやれるのか。財務省にどう指示するか、でしょうね。
もうひとつは、党内や連立与党との調整でしょうか。鳩山代表が先日の講演 で、日本の2020年までの温室効果ガスの削減目標について「1990年比25%削減 を目指す」と表明した内容は、衆院選での同党の政権公約通りだとしても、国 内外に大きなインパクトを与え、大きな反響を呼びました。強いリーダシップ とは、こういうことを言うのだなあ、と思いました。が、この公約には、経済 界から「省エネの進んだ日本には過大な負担。経済に悪影響を及ぼす」との反 発があり論議を呼びそうだ、と新聞は伝えていました。すると、間髪を入れず、 民主を支える連合傘下の電力総連から「実現の可能性には疑問」、自動車総連 からは、「雇用への影響や、国民負担の問題を含め、自動車労連の考え方に大 きな隔たりがある」と批判の声があがりました。ここは、内輪だけに踏ん張り どころですね。
これまでなら、経済界と調整し、補助金を餌にした「アメとムチ」対応で、 税金が使われるだけで実行が上がらない、という中途半端な施策に終始してい たのですから、増税で国民や経済界へのしわ寄せがあってもやむを得ない、と いう決断をしなければ、このような目標は表明できるものではありません。鳩 山新政権は、それをどこまで貫き通せるか、世界に通用するリーダーかどうか、 ここが試金石となるでしょう。しっかりウオッチしていかなければなりません。
それから、環境やバイオなどのグローバルな競争を勝ち抜く科学技術開発の 振興、経済の成長戦略やイノベーション戦略の実現、世界の市場に挑む特許な どの知財戦略、そして、大企業が儲からないからと触らないけれど、遺伝子治 療や再生医療、それに難病を克服する創薬の開発は、明日の社会を築く大事な テーマです。そのために大学や研究機関からの「知」の先端技術をベースにし たベンチャー企業の育成は、必要です。全国の大学から生まれた大学発ベンチ ャーは1800社を超え、上場企業が27社を数えています。が、その母体の大学と いえば、国からの交付金が毎年一律1%ずつ減額されて、その台所事情は苦し い状態を余儀なくされています。このままだと地方圏の国公立大学は財政難で まともな研究、教育ができなくなる恐れがある、と指摘されています。
余談ですが、タイミングが悪いことに、警視庁に摘発された独立行政法人 「理化学研究所」研究員による架空の物品購入の背任事件、千葉県で発覚した 総額30億円規模の巨額不正経理事件、農水省からの国庫補助金を扱う部署での 不正も指摘されました。理化学研究所は、理事長の野依良治さんが「痛恨の 極み」というお詫びコメントを出していました。ノーベル化学賞受賞者の沈痛 なメッセージでした。こういう事件は、氷山の一角を証明するように必ず連鎖 するものです。独立行政法人などの天下り根絶を急ぐ新政権にとっては、願っ てもない追い風になることでしょう。いずれにしても残念な不祥事です。
看板に掲げる天下りの根絶で、国家公務員の定年制の延長はどうなるのか、 定年後は、どうぞ、ご自身でお考えください、というわけにはいかない。高速 道路の無料化に伴う料金徴収などの従業員5000人は、解雇となるのか」どこか 配置転換がはかられるのか。
ダムだって、アニメの殿堂だって、その仕事をあてにしていた業者は気の毒 というか、今のところただ泣き寝入りするしかない。ふいに、こんな仕打ちを されたら、経営危機に追い込まれてしまう。地方からの出稼ぎの職人さんだっ ているし、物品を納入する業者とて、売上を見込んで銀行から借金していると ころもあるかもしれません。いやはや、このご時世に、なんの説明も斟酌も、 保証も、そして同情もされぬまま、即刻、契約が打ち切られる。"官製倒産"の 憂き目を見てしまいかねないのです。新政権下では、「無駄」のレッテルを貼 られたら、有無を言わさず切り捨て御免ということでしょうか、それはいくら なんでも納得がいかないでしょう。そんなことがないように、ちゃんとフォ ローをしてほしいものです。
なんでも壊して切り刻んで、ハイ、さようなら、という無慈悲な改革が横行 するのであれば、逆に長続きしないでしょう。この政権は"三日天下"で幕とな ることを危惧します。せめて、合法的な手続きを経た事業の扱いは、まずその 趣旨を尊重し、関係者に十分に説明を行うなどの細やかな対応をしなければな らない。公共事業に無駄が多いとはいえ、行政の継続が叶えられなければ、国 の事業なんか、やっていられない。地震や豪雨などの災害への対応を怠れば、 これも多くの犠牲を招く原因になってしまいます。新政権は、経済のフィール ドを下支えする建設や製造業をどう考えているのか、その辺もお聞きしたいも のです。
そして、日本郵政の西川善文社長の解任問題が再燃しています。鳩山兄弟に、 狙い撃ちされた感じです。このたびの連立協議で、郵政の民営化見直しに着手 し、日本郵政とゆうちょ銀行、かんぽ生命保険の株式売却を凍結する法案とな どを早期に成立させる、ということで民主と社民、国民新が合意した、という。
やれやれ、ゆうちょ銀とかんぽ生命は来年度にも上場させたうえで、株式売 却をする計画だったのです。これまで、その上場の準備にどれだけの専門家が 関わって、どんな苦労をしてきたことでしょう。また、小泉元首相の郵政解散 や構造改革の路線は、無残にもひっくり返される、という事態なのです。揺れ る政治に何もかもが翻弄されることの"象徴的事件"のように感じられます。あ れほど、多くの時間と議論を費やして、わが国の経済再生を図った施策も理念 も、あっさりゴミ箱行きです。小泉さんや、慶応大学教授の竹中平蔵さんらの 心中を思うと、なんだか虚しい。本当にこれでいいのかなあ、私には分かりま せん、ね。権力闘争における敗れた者の悲哀ということでしょうか。
さて、もう一方の晒し首状態は、なんといっても霞が関の官僚です。彼らは、 この新政権の動向をどうみているのか。その感触をはかりかねて右往左往して いる、と言われ、巧妙に新政権への対応を画策する、などという指摘もありま す。「逆らったらクビだ」と恫喝されて、すっかり萎縮しているのではないか。 いやいや、隠忍自重の日々らしい。
文部科学省の事務次官が、補正予算の執行凍結の指示に対して、「どのよう な政策も、それなりの理由があり、関係者が努力を積み上げてきたもの。その 点をしっかり説明し、判断いただきたい」と、正論を説いて、新政権に説明す ることを明らかにしましたが、これが物議をかもしているというから、気の毒 です。あるメディアは、これを官僚の抵抗と決めつける。ややこれには誇張が あるのかもしれませんが、新政権が、そんなことも問題にし、クビを獲る、と いうことになるなら、これは生贄の血祭りに等しい。
鬼退治じゃあるまいし、うっかり説明もままならないというのは異常です。 やはりこれも俗に「革命前夜」だとしたら、その万事が頷けるのです。近代国 家での革命は、いわば市民革命であり、自由な発言は保証されねばならない。 「革命」という名の下で、気に食わぬ人間に難癖をつけて葬り去る。また、そ こを上手に情報の中を節操無く泳ぎまわる、悪しき輩も蠢くるから警戒しない といけません。
「官僚たちの夏」は、城山三郎氏の小説の題名です。TBSでドラマ化して人気 があります。が、今は、秋を通り越して「官僚たちの冷たい冬」の風情です。 ここで官僚の肩をもっても意味がないのだけれど、また保身に走る輩も知らな いわけでない。が、こんなに官僚批判が繰り返し喧伝され、自公からも新政権 からも目の敵にされるというのも異常です。今度は給料が2割カットで、人事権 もままならない事態になるという。組織から人事権と昇格を奪ったら、組織の 機能は停止してしまいます。
これまで職務に忠実な官僚は多いけれど、公然と政党に弓を引いたり、政権 の批判を口にしたりする、そういう行儀の悪い官僚を、私は知らない。関係す る経済産業省の多くの彼らは、志高く、わが国の将来を真剣に考えながら、休 みなく長時間働いている猛者が多い。狭く暑苦しい職場で、その待遇や条件は 劣悪なのですから、少しはわかってあげないと、不公平です。あまりに気の毒 じゃないですか。
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