DNDメディア局の出口です。ポンと膝を打って、にんまり、こちらの狙いが これほど見事にヒットすると、こきみいいというか、してやったりというか、 山の頂で、「ヤッホー」って叫んでみたくなる心境なのです。あまりに気分が いいので、どこかにつなぎ留めておかないと、ふわっと体が宙に浮いて、遠く へ飛んでいきそうです。
6月にDNDでスタートした経済産業省大学連携推進課長、谷明人さんの新連載 『列島巡礼、西へ東へ』。これをひねり出すのに呻吟し、あれこれ迷った末に、 やっと辿り着いた結果のタイトルでした。デザインは、お世話になっているデ ザイナーの杉山期さんに依頼したのですが、こちらも珍しく作業が遅れて、相 当苦しんでおられました。そこで、「例えば、東海道五三次のイメージで…」 というと、ピーンと何かが、杉山さんの脳裏にひらめいたのでしょうね、あっ という間に、こんな素敵な作品を完成させてくださったのです。
広重の浮世絵を数枚連ねて、初めはお江戸日本橋、次に遠江国の金谷宿…そ こは現在の静岡県島田市あたりで、その24番目の宿は大井川の右岸に位置し、 増水すると足止めを強いられる旅人らで結構、賑わうのだそうです。デザイン ひとつとっても、当時の暮らしぶりが感じられてとても興味深いものがありま す。http://dndi.jp/20-tani/tani_Top.php
『列島巡礼…』、とてもいいでしょう。火と土で器を作り出す無名の陶工の 巧な仕事ぶりのように、器ができたら、そこに何を活けるか。その中味、つま り次に、谷さんの筆に期待がかかるのです。谷さんの連載にあたって、その紹 介はこうでした。
大学連携推進課、いわば産業界をもっぱら守備範囲にしている経済産業省の 課長の肩書に、「大学」を冠に付けることで、もうそれだけ、産と学のシナ ジーが期待できるとう仕掛けでしょうか。そして、仕事柄、全国各地、津々 浦々を訪問し、その街で出会った方々や街の特徴、産学連携に取り組む事例な どを取り上げる企画です。地方圏の隅々にまで、谷さんのやさしい目線が行き 届くことでしょう。腰の低い谷さんが、さらに目線まで低くし、地に這いつく ばって「列島巡礼」の旅に回ります、と。
で、その記念の第1号が、6月15日アップの「近大マグロを食べて来た」でし た。それなりの反響があって、とくに経産省や文科省、それに大学関係者の間 で、話題になりました。「近大マグロ」というより、「あの谷さんが連載を始 めたんだね」っていう具合で、その持前のやわらかな文体は、ストレスがなく おおいに好感されたに違いありません。
ゴルフでいえば、グリーンエッジから、サクッと芝草の根元を削ぐように、 手首を使わずに軽く上げて転がす、というテクニックの冴えを感じさせている のです。こういうのは、やさしそうだが慣れないと、うまくは行かないものな のです。だから、谷さんの筆力は、その仕事ぶりもそうですが、その童顔とは うって変わって、実は、タダモノじゃない、のです。
それから、息を潜めて、じっと谷さんの次の原稿を待っている。今度は、ど こへ行脚されているか、その動きに注意を払いながら、楽しみにしてきたので す。基本的に、この編集子は、原稿の催促はしない主義です。
そうすると、第137回を誇る石黒憲彦さんの『志本主義のススメ』のように 隔週、それも必ず律儀に、期待して待つ読者のために投稿(以前は週1回でし た)してくださいます。第53回を数える『塩沢文朗の流儀、原点回帰の旅』と これまたしゃれたタイトルを独占している塩沢さんは、取り上げるテーマと対 象にこだわりを持っておられますから、そのアイディア段階から練られて熟成 した状態で原稿が届くので、読む側もそれなりの構えが必要になります。
特許弁護士の服部健一さんは、回数は47回ですが古株の一人で、ワシントン から『日米特許最前線』を発信されており、そのタイミングを捉えて、中には 絶妙な筆のタッチがスポーツジャーナリストを彷彿とさせてくれるEXTRの「ゴ ルフ観戦記」も評判なのです。
それで催促をしないから、「感心がないのかなあ」と誤解も受けることがあ りますが、不思議とテレパシーが通じて、そろそろさすがの出口さんも痺れを きらせているのではないか、と先方が心配してくださる。阿吽の呼吸というか、 どこかで意識が通じるのだと思います。そろそろ、というと、塩沢さんや服部 さん、それにNEDO企画調整部長の橋本正洋さん、かなあ、ピッピッピッ…とき ているのではないか、と。これは、新手の催促なんかじゃありません、エヘ ッ!(漫才コンビ、オードリーの春日風に)。
という具合で、下町の場末のスナックのマスターのように、ひたすら、なじ みの常連客を待つように、いつもにこやかに笑顔を絶やさず、その時を待って いるのです。The sun will shine on a voyager who waits−なのです。
すると、どうでしょう。このことわざ通り、待てば海路の日和あり、谷さん から、原稿がきっちり届いたのです。
「遅くなり恐縮です。小職の原稿をお送りさせていただきます」とのメール を見たあと、添付の枠が膨らんでいる。原稿がなんと全部で6本もあるじゃな いですか。
「近大マグロ」に続く、その2が「京都と言ったら!」で、先月下旬に開催 の第8回産学官連携推進会議の、潜入ルポ。参加者はざっと4530人。ご自身、 第1回の参加から、今回まで間が抜けているので、7年ぶりの参加ということで した。過去連続参加の人をつかまえて、「しばらく中弛みだったけれど、今回 の盛り上がりは凄いですね」との印象を紹介していました。谷さんの目線は、 事務局関係者へ。いわば裏方の任に着く会場横のオペレーションルームに足を 運び、「過去の蓄積でしょうか、順調に議事が進行していました」と報告。そ してにぎわう展示ブースに出向いては、「のぼりを立てろ」と檄を飛ばす京都 大学の松本紘総長の陣頭指揮に、「大学も変わったなと、感慨深いものがあり ました」との感想を伝えていました。
次に、その3は「寒太郎の通り道」。その題名をみて、ありゃ、と首をかし げというか、うまい具合につい、ひき込まれてしまいそうです。寒太郎って 何?他でもなく、NHKのみんなのうたで人気の、「北風小僧の寒太郎〜」なの ですね。で、谷さんは、京都の次には、「第5回群馬産学連携推進会議」に出 向いているのでした。
自動車関連の多い群馬は、この危機を回避するため、「産学連携」への期待 がますます高まっているのです。そこで、1920年代の世界大恐慌の余波で、東 京工業大学発のTDKが誕生し、理研グループや大学、公的研究開発のベンチ ャーが操業を開始するなど、これらが世界企業に成長した、解説を加えていま した。そこで、群馬のユニークな産学連携の取り組みを紹介しています。
世界的なレベルの地場産業で、最低一人の博士を雇用する、という「一企業 一博士構想」、有数の畜産県のポテンシャルを生かした「家畜排泄物のエネル ギー転換」などのほか、近く実施段階に入る群馬大学医学部による、注目のが んの重粒子線治療も指摘していました。
なにせ、原稿が6本です。DNDサイトでは、このたび、その中から順番に2と3 をアップし、次回は4、5、6、7の同時に一挙掲載という前代未聞の豪華な4本 立てを挙行する、予定です。どうぞ、お楽しみに。以下は、その予告編という ことになります。
谷さんは、産学連携で伝統野菜の復元に挑戦する、石川県の能登半島は、金 沢大学法学部の大友信秀教授のゼミに顔を出します。輪島の「沢野ごぼう」、 白山市の「ヘイケカブラ」など生産復活とブランド確立の両方に取り組んでい る様子を現地ルポです。ゼミの学生さんらは、昨年11月に大学発ベンチャー 「きんぷる」を起業したそうです。大友先生は、凄いのですね。
金沢の次は、デザイン分野での産学官連携活動は、新潟の「新潟大学等ネッ トワーク協議会設立総会」で、そこで谷さんはご講演されたのでしょうか、多 様化する産学連携の一例として、オハイオ州立のシンシナティ大学での「LIVE WELL COLLABORATIVE」を説明しているのです。その概要もコラムで読むこと ができます。
そして、「連載のタイトルは巡礼です」との書き出しは、その6の「巡礼と いえば!」で、四国お遍路さん八十八ケ所巡り、と続けて、その第1番札所の 「徳島県」に飛ぶのです。つい最近まで産学連携学会の会長を務めた徳島大学 の看板教授で、地域共同研究センターの佐竹弘さんがチラッと登場します。数 日前に電話でお話したばかりでしたから、こちらも驚きました。礼儀の正しい 誠実な方です。大塚製薬、日亜化学工業、アスカ、ヨコタコーポレーション… 昔から大学との連携で、地元企業が育っているのですね。その事例を具体的に 解説されていました。
京都会議が終わったのが21日、群馬が22日、新潟が24日、徳島が26日…と文 字通り、「列島巡礼、西へ東へ」なのです。産学連携のいくつもの成功事例の 衣をまとって、さらに現場へ人の輪へ、大学と企業の連携のシナジーを自らが 触媒となって効果を出している。霞ヶ関に戻って、メモや記憶を整理し、写真 をデータに加え、地域の人々の顔を思い浮かべながら、現場を元気づけるコラ ムを綴る。きっとそこに確かな気付きがあって、学ぶことも多いのでしょう。 先日、お会いすると、ひと回りも大きくなった感じがします。凄いですね。
そして、今回送付いただいた、その7は、「山梨の燃料電池拠点」がテーマ でした。詳細は省きますが、狩人の「あずさ2号」の旅立ちの歌をモチーフに、 新宿から山梨大学のある甲府まで特急で約1時間半、その日も動いているので すね。ご一緒の文部科学省の技術移転室長の小谷和浩さんと、その夜、甲州ワ インで「産学連携の今後」を話し合ったという。せめて、そんな時ぐらいは、 「空気さなぎ」などぐらいに話題を持って行った方が、よろしいのではないか、 と思いました。谷さん、お疲れ様でした。次もお願いします。
思えば、ここ数年は、私も谷さんに負けず、列島縦断の取材行脚が続いてい ました。サクラと建築の弘前、人情とINSの盛岡、青葉輝く仙台、杉並木の日 光、峠の里の美しい街・松本、味覚と進取の鯖江、伝説と仁多牛の奥出雲、愛 おしい風の盆の八尾、盥うどんの徳島、豊穣の飯塚…その津々浦々、それぞれ 思い出が尽きない魅力にあふれた街なのです。そろそろ、私も行脚にでないと いけません、ね。